『つかさってば、みゆきさんのこと好きでしょ』
こなちゃんにそう言われたのは、お姉ちゃんとこなちゃんが付き合っていることを私達に告白してくれた日の夜。
晩御飯を食べ終えてから間もなく、お姉ちゃんはこなちゃんと電話でお話をしていたら、急に顔を真っ赤にして
恥ずかしそうで、でもかなり嬉しそうに、電話を終えると自分の部屋に、浮き足立った様子で戻ってったんだ。
私の携帯にこなちゃんから連絡がきたのはそれからすぐ。
話してみたら、お姉ちゃんはひとりでこなちゃんのおうちでお泊まりするみたい。
最初はお姉ちゃんだけっていうのに違和感を覚えたんだけど、こなちゃんいわく恋人同士ってそんなものなんだって。
ちょっと寂しいな~……なんてことをこなちゃんに漏らしたら、こなちゃんは受話器の向こうでふっふっふっと笑って
『じゃあさ、つかさも泊まりに来てもらえばいいんじゃん』
「ふぇ? 誰に?」
『決まってるじゃん。みゆきさんだヨ』
「ゆきちゃん? それはいい考えだね~♪ でも大丈夫かな? ゆきちゃん忙しくないかな?」
『大丈夫だヨ~、だってみゆきさ……っと。みゆきさんが泊まればつかさだって寂しくないし、それにね』
「なあに?」
――――好きでしょ、なんて言われると思ってなかった。自分では、その想いをずっと隠してたつもりだったから。
もしかしてみんなに気付かれてた? それともこなちゃんだけ? 驚いた私がこなちゃんに訊ねると、
『かがみは鈍感だし、みゆきさんは気付きそうであれでなかなか……というか向こうが……いや、なんでも』
とりあえず、気付いていたのはこなちゃんだけらしくて。私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。
私がいつもちらちらと、ゆきちゃんを見ていたのがバレてたのかな?
だってゆきちゃん、私と違って頭も良くてなんでも知っていて、大人っぽくて余裕があって、優しくて、綺麗で、
運動もできて、体付きもすごくて、でもちょっとぼけぼけとしたところが私に似て親近感も覚えて、その……。
好きなところはまだまだあったはずなんだけど、私の言葉だけじゃ表せきれないくらい、魅力的な女の子。
四人で食事をするときも、私はなるべくゆきちゃんに向かって笑いかけるようになっていた。
なにか賛同を求めたり、反応を伺ったりするときは、ゆきちゃんの表情から読み取るようにしていた。
少しでも多くゆきちゃんを見つめていたかったから。きっとゆきちゃんなら、私が満足する表情を見せてくれる。
今日だってこなちゃんから打ち明けられたとき、ゆきちゃんにパスを回したのは、私にそんな気持ちがあったから?
私がそんなことを考えるのは、自分にないものをたくさん持っているゆきちゃんへの強い憧れだと思っていた。
それは恋愛だってこなちゃんに指摘されても、なぜか自分で考えても否定しちゃいたくなることだったし……。
『いつもは四人でお泊まりだし、泊まるとしても私の部屋かかがみの部屋だからね~。色気のないものだヨ。
それはそれで嫌いじゃないんだけどさ、今度は二人きりでじっくり愛を語らうのもいいじゃん』
「あ、愛って……」
そんなこと言われても、私にはよくわからなかった。そもそも、ゆきちゃんと二人でそういう話をするってことを
想像するだけでも恥ずかしいのに……こなちゃんは『告白!告白!』と私の後押しを連呼していた。
たしかに、ゆきちゃんのことを考えると、胸がズキズキ痛いし。今だってこうして……。
少女漫画とかだとそういうのは恋愛感情だっていうけど、後押しされても私には、不安なことが多すぎて……。
「……こなちゃんは、私のこと応援してくれるの?」
『当たり前じゃん。つかさやみゆきさんだって、私達のこと応援してくれてるんでしょ?
みゆきさんは女の子同士とか気にしないみたいだし、私もつかさと同じで、大好きな二人が好き合えば嬉しいヨ。
それはきっとかがみも同じだからさー。まあかがみはつかさのこんな気持ちに気付いてないみたいだケド』
「ありがとう……でも、ゆきちゃんはお姉ちゃん達を認めたけど、自分がそういうことになるのは嫌な人だったら……。
それで友情とか壊れちゃって、今の関係が台無しになっちゃったりしちゃったらって考えたら、
それに告白とか私にはよくわかんないし、もしかしたら私の気持ちが恋人同士の好きとかじゃないかもしれないし、
だから、今のままでもいいのかなって思っちゃうんだ。ゆきちゃんに迷惑かけたくないし、嫌われたくないから……」
こなちゃんは小声で『あー……それはないかナ……?』なんて呟いてた。それがどんな意味なのかはわからなかった。
なんだか話しているうちに、涙が出てきそうになってた。私、こんなこと誰かに話したくなかったのかな。
それとも、誰かに聞いてもらいたかったのかな? 胸の中にモヤモヤはなくても、なんだか切ない痛みがあって。
『つかさは、みゆきさんが恋人だったらって思って、イヤだななんて思わないでしょ?』
「わかんない。でも……」
私は頭の中をぐるぐる巡らせた。恋人同士だったらってどういうコト? 今と何が変わってくるんだろう?
より強く仲がよくなるなら、たとえば手を繋いだり、キスをしたり、その……。
「……思わない、かも」
『あのねー、つかさ。私とかがみのことなんだけどさ。実は告白したのは私のほうからなんだよネ』
「え? こなちゃんから?」
『ツンデレのかがみが自分から告白するように見える?』
それはよくわかんないけど……お姉ちゃんはそういうのすごく恥ずかしがりそうだから、そうなのかも。
反面こなちゃんはすごく大胆で、押せ押せって感じだから、時々羨ましくなっちゃうんだ。
『私はずっとかがみのことが好きだったし、かがみも私のことが好きなのかもしれないってことは薄々感づいていた。
ギャルゲーのしすぎで他人の恋愛感情に敏感になっちゃったのかな……ってことはないだろうけど、それはともかく。
両想いだってわかっていても、私は自分の気持ちを打ち明けるのにかなり勇気が必要だった。一生一度くらいの気持ちでね。
それこそ、さっきのつかさみたいなことも考えた。両想いなんて勘違いかもって思ったし、友情が壊れるかもってね。
二度とかがみと話も出来ないなんてことになったら、とても生きていける気持ちじゃなかったよ。
実際告白してOKをもらってみれば、かがみも私と同じことを考えてたみたいだけどネ。さすが私の嫁だヨ』
お姉ちゃんって、そんなことをずっと考えてたんだ? いつも一緒にいたのに、全然気付いてあげられなかった。
自分の鈍感さが恨めしい。もっと早く気付けば、優しい言葉をかけて安心させてあげたかったのに……。
『二人の気持ちが同じだってわかれば、あとはみんなから理解を得るだけだった。まずは親友の二人にはね。
あの場でこそ私は軽いノリで言ってはいたんだけど、実際は心臓ドキドキでねー。かがみ以上に不安だったかも。
まあ二人から拒絶されるなんて考えなかったけど、万が一されても私はかがみを守り通すつもりでいたよ。
だからつかさとみゆきさんから応援の言葉をかけられたとき、嬉しさと一緒にもうひとつやることができたんだ』
「私の、こと……?」
『そ。こんなに応援してくれるのに、私達だけ幸せなのはあまりにも不公平だからね。つかさの気持ちはわかってたわけだし。
他人の恋愛感情にいやに鋭い人間になって、よかったと思った瞬間でもあったよー。ギャルゲーさまさまだネ。
仮にみゆきさんにつかさの想いが届かなかったからって、友情は壊れたりしないよ。私達がフォローするから。
つかさがみゆきさんに想いを告げるのに、私やかがみが抱いていたような恐怖や不安を抱かないようにしてあげたいからさ。
だって二人は私達を理解して、応援してくれた大事な親友だもん。幸せになってほしいからネ』
こなちゃんが優しい響きでそう口にした途端、私の気持ちが激しく揺さぶられて……。
「……うー」
『ど、どうしたのさつかさ!?』
ついに我慢できなくなって、私は涙をぽろぽろとこぼし始めた。ここが自分の部屋で本当に良かったと思う。
こなちゃんとお姉ちゃんの抱いていた不安が私の今の不安と同じで、それを理解してくれる人がいたこと。
そして優しい言葉をかけて、応援してくれる人がいること。お姉ちゃんやこなちゃんもきっと一緒だったんだ。
最初はきちんと恋と自覚はしていなかったけど、こなちゃんと話していてようやくわかった。
このままでもいいかななんて、私はきっと本当は考えてない。友情が壊れるのはたしかにイヤだった。でも。
ゆきちゃんを思うたびに感じるこの胸の痛みを、気付かないフリで早く解き放たれたかったのかも……。
お姉ちゃんとこなちゃんが幸せになってくれてよかった。自分の恋まで幸せになった気持ちがするから。
「こなちゃあん……ひっ、ひっ……ありがどう……ぐすっ」
『こっちこそありがとうだよつかさ。私とかがみだって、つかさとみゆきさんの言葉に救われたんだから。
かがみもきっと、私と同じことを言ってくれるから。つかさの恋はいわば、私達の恋だよ。なんてネ』
「今夜、ゆきちゃんを誘ってみる。こなちゃん、お姉ちゃんをお願いね?」
『任せといてヨ~、せっかく誘ったんだし。むっふっふ……いや、かがみを誘ったのはあくまでつかさのためで、
そんないやらしいことを考えたわけじゃあありませんヨ? かがみの中ではわかんないけどねー』
もしかしてこなちゃんは、最初からこうなることを狙ってたのかな? 私にはわかんないけど……。
こなちゃんとの電話のあと、私は涙を拭いて深呼吸をすると携帯のアドレス帳からゆきちゃん家の番号を表示した。
ゆきちゃんからOKをもらうと、私はベッドの上のぬいぐるみを抱き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。
「ゆきちゃん……」
丸っこくて柔らかいぬいぐるみ。私はこれをデパートで見つけたとき、ゆきちゃんの姿を思い浮かべた。
こんなこと知られたらゆきちゃんに怒られるかも。嫌われるかも。がっかりさせられるかも。
抱き締めたときの柔らかさ、暖かさ、どれも私はゆきちゃんから欲しかったものだったかもしれない。
このぬいぐるみを抱いて寝るとき、ゆきちゃんに抱き締められているところを考える。
いやらしい子だって思われるかもしれなかったし、自分でもどうかなって思ったけど、それは幸せな時間だった。
ゆきちゃんの名前を唱えながら、私はぬいぐるみを抱いたままベッドに転がった。
眠りにつく前に、ぬいぐるみにキスをして勇気をもらうことにした。こなちゃんの想いに、応えるため。
こなちゃんにそう言われたのは、お姉ちゃんとこなちゃんが付き合っていることを私達に告白してくれた日の夜。
晩御飯を食べ終えてから間もなく、お姉ちゃんはこなちゃんと電話でお話をしていたら、急に顔を真っ赤にして
恥ずかしそうで、でもかなり嬉しそうに、電話を終えると自分の部屋に、浮き足立った様子で戻ってったんだ。
私の携帯にこなちゃんから連絡がきたのはそれからすぐ。
話してみたら、お姉ちゃんはひとりでこなちゃんのおうちでお泊まりするみたい。
最初はお姉ちゃんだけっていうのに違和感を覚えたんだけど、こなちゃんいわく恋人同士ってそんなものなんだって。
ちょっと寂しいな~……なんてことをこなちゃんに漏らしたら、こなちゃんは受話器の向こうでふっふっふっと笑って
『じゃあさ、つかさも泊まりに来てもらえばいいんじゃん』
「ふぇ? 誰に?」
『決まってるじゃん。みゆきさんだヨ』
「ゆきちゃん? それはいい考えだね~♪ でも大丈夫かな? ゆきちゃん忙しくないかな?」
『大丈夫だヨ~、だってみゆきさ……っと。みゆきさんが泊まればつかさだって寂しくないし、それにね』
「なあに?」
――――好きでしょ、なんて言われると思ってなかった。自分では、その想いをずっと隠してたつもりだったから。
もしかしてみんなに気付かれてた? それともこなちゃんだけ? 驚いた私がこなちゃんに訊ねると、
『かがみは鈍感だし、みゆきさんは気付きそうであれでなかなか……というか向こうが……いや、なんでも』
とりあえず、気付いていたのはこなちゃんだけらしくて。私は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。
私がいつもちらちらと、ゆきちゃんを見ていたのがバレてたのかな?
だってゆきちゃん、私と違って頭も良くてなんでも知っていて、大人っぽくて余裕があって、優しくて、綺麗で、
運動もできて、体付きもすごくて、でもちょっとぼけぼけとしたところが私に似て親近感も覚えて、その……。
好きなところはまだまだあったはずなんだけど、私の言葉だけじゃ表せきれないくらい、魅力的な女の子。
四人で食事をするときも、私はなるべくゆきちゃんに向かって笑いかけるようになっていた。
なにか賛同を求めたり、反応を伺ったりするときは、ゆきちゃんの表情から読み取るようにしていた。
少しでも多くゆきちゃんを見つめていたかったから。きっとゆきちゃんなら、私が満足する表情を見せてくれる。
今日だってこなちゃんから打ち明けられたとき、ゆきちゃんにパスを回したのは、私にそんな気持ちがあったから?
私がそんなことを考えるのは、自分にないものをたくさん持っているゆきちゃんへの強い憧れだと思っていた。
それは恋愛だってこなちゃんに指摘されても、なぜか自分で考えても否定しちゃいたくなることだったし……。
『いつもは四人でお泊まりだし、泊まるとしても私の部屋かかがみの部屋だからね~。色気のないものだヨ。
それはそれで嫌いじゃないんだけどさ、今度は二人きりでじっくり愛を語らうのもいいじゃん』
「あ、愛って……」
そんなこと言われても、私にはよくわからなかった。そもそも、ゆきちゃんと二人でそういう話をするってことを
想像するだけでも恥ずかしいのに……こなちゃんは『告白!告白!』と私の後押しを連呼していた。
たしかに、ゆきちゃんのことを考えると、胸がズキズキ痛いし。今だってこうして……。
少女漫画とかだとそういうのは恋愛感情だっていうけど、後押しされても私には、不安なことが多すぎて……。
「……こなちゃんは、私のこと応援してくれるの?」
『当たり前じゃん。つかさやみゆきさんだって、私達のこと応援してくれてるんでしょ?
みゆきさんは女の子同士とか気にしないみたいだし、私もつかさと同じで、大好きな二人が好き合えば嬉しいヨ。
それはきっとかがみも同じだからさー。まあかがみはつかさのこんな気持ちに気付いてないみたいだケド』
「ありがとう……でも、ゆきちゃんはお姉ちゃん達を認めたけど、自分がそういうことになるのは嫌な人だったら……。
それで友情とか壊れちゃって、今の関係が台無しになっちゃったりしちゃったらって考えたら、
それに告白とか私にはよくわかんないし、もしかしたら私の気持ちが恋人同士の好きとかじゃないかもしれないし、
だから、今のままでもいいのかなって思っちゃうんだ。ゆきちゃんに迷惑かけたくないし、嫌われたくないから……」
こなちゃんは小声で『あー……それはないかナ……?』なんて呟いてた。それがどんな意味なのかはわからなかった。
なんだか話しているうちに、涙が出てきそうになってた。私、こんなこと誰かに話したくなかったのかな。
それとも、誰かに聞いてもらいたかったのかな? 胸の中にモヤモヤはなくても、なんだか切ない痛みがあって。
『つかさは、みゆきさんが恋人だったらって思って、イヤだななんて思わないでしょ?』
「わかんない。でも……」
私は頭の中をぐるぐる巡らせた。恋人同士だったらってどういうコト? 今と何が変わってくるんだろう?
より強く仲がよくなるなら、たとえば手を繋いだり、キスをしたり、その……。
「……思わない、かも」
『あのねー、つかさ。私とかがみのことなんだけどさ。実は告白したのは私のほうからなんだよネ』
「え? こなちゃんから?」
『ツンデレのかがみが自分から告白するように見える?』
それはよくわかんないけど……お姉ちゃんはそういうのすごく恥ずかしがりそうだから、そうなのかも。
反面こなちゃんはすごく大胆で、押せ押せって感じだから、時々羨ましくなっちゃうんだ。
『私はずっとかがみのことが好きだったし、かがみも私のことが好きなのかもしれないってことは薄々感づいていた。
ギャルゲーのしすぎで他人の恋愛感情に敏感になっちゃったのかな……ってことはないだろうけど、それはともかく。
両想いだってわかっていても、私は自分の気持ちを打ち明けるのにかなり勇気が必要だった。一生一度くらいの気持ちでね。
それこそ、さっきのつかさみたいなことも考えた。両想いなんて勘違いかもって思ったし、友情が壊れるかもってね。
二度とかがみと話も出来ないなんてことになったら、とても生きていける気持ちじゃなかったよ。
実際告白してOKをもらってみれば、かがみも私と同じことを考えてたみたいだけどネ。さすが私の嫁だヨ』
お姉ちゃんって、そんなことをずっと考えてたんだ? いつも一緒にいたのに、全然気付いてあげられなかった。
自分の鈍感さが恨めしい。もっと早く気付けば、優しい言葉をかけて安心させてあげたかったのに……。
『二人の気持ちが同じだってわかれば、あとはみんなから理解を得るだけだった。まずは親友の二人にはね。
あの場でこそ私は軽いノリで言ってはいたんだけど、実際は心臓ドキドキでねー。かがみ以上に不安だったかも。
まあ二人から拒絶されるなんて考えなかったけど、万が一されても私はかがみを守り通すつもりでいたよ。
だからつかさとみゆきさんから応援の言葉をかけられたとき、嬉しさと一緒にもうひとつやることができたんだ』
「私の、こと……?」
『そ。こんなに応援してくれるのに、私達だけ幸せなのはあまりにも不公平だからね。つかさの気持ちはわかってたわけだし。
他人の恋愛感情にいやに鋭い人間になって、よかったと思った瞬間でもあったよー。ギャルゲーさまさまだネ。
仮にみゆきさんにつかさの想いが届かなかったからって、友情は壊れたりしないよ。私達がフォローするから。
つかさがみゆきさんに想いを告げるのに、私やかがみが抱いていたような恐怖や不安を抱かないようにしてあげたいからさ。
だって二人は私達を理解して、応援してくれた大事な親友だもん。幸せになってほしいからネ』
こなちゃんが優しい響きでそう口にした途端、私の気持ちが激しく揺さぶられて……。
「……うー」
『ど、どうしたのさつかさ!?』
ついに我慢できなくなって、私は涙をぽろぽろとこぼし始めた。ここが自分の部屋で本当に良かったと思う。
こなちゃんとお姉ちゃんの抱いていた不安が私の今の不安と同じで、それを理解してくれる人がいたこと。
そして優しい言葉をかけて、応援してくれる人がいること。お姉ちゃんやこなちゃんもきっと一緒だったんだ。
最初はきちんと恋と自覚はしていなかったけど、こなちゃんと話していてようやくわかった。
このままでもいいかななんて、私はきっと本当は考えてない。友情が壊れるのはたしかにイヤだった。でも。
ゆきちゃんを思うたびに感じるこの胸の痛みを、気付かないフリで早く解き放たれたかったのかも……。
お姉ちゃんとこなちゃんが幸せになってくれてよかった。自分の恋まで幸せになった気持ちがするから。
「こなちゃあん……ひっ、ひっ……ありがどう……ぐすっ」
『こっちこそありがとうだよつかさ。私とかがみだって、つかさとみゆきさんの言葉に救われたんだから。
かがみもきっと、私と同じことを言ってくれるから。つかさの恋はいわば、私達の恋だよ。なんてネ』
「今夜、ゆきちゃんを誘ってみる。こなちゃん、お姉ちゃんをお願いね?」
『任せといてヨ~、せっかく誘ったんだし。むっふっふ……いや、かがみを誘ったのはあくまでつかさのためで、
そんないやらしいことを考えたわけじゃあありませんヨ? かがみの中ではわかんないけどねー』
もしかしてこなちゃんは、最初からこうなることを狙ってたのかな? 私にはわかんないけど……。
こなちゃんとの電話のあと、私は涙を拭いて深呼吸をすると携帯のアドレス帳からゆきちゃん家の番号を表示した。
ゆきちゃんからOKをもらうと、私はベッドの上のぬいぐるみを抱き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。
「ゆきちゃん……」
丸っこくて柔らかいぬいぐるみ。私はこれをデパートで見つけたとき、ゆきちゃんの姿を思い浮かべた。
こんなこと知られたらゆきちゃんに怒られるかも。嫌われるかも。がっかりさせられるかも。
抱き締めたときの柔らかさ、暖かさ、どれも私はゆきちゃんから欲しかったものだったかもしれない。
このぬいぐるみを抱いて寝るとき、ゆきちゃんに抱き締められているところを考える。
いやらしい子だって思われるかもしれなかったし、自分でもどうかなって思ったけど、それは幸せな時間だった。
ゆきちゃんの名前を唱えながら、私はぬいぐるみを抱いたままベッドに転がった。
眠りにつく前に、ぬいぐるみにキスをして勇気をもらうことにした。こなちゃんの想いに、応えるため。
*
「いらっしゃい、ゆきちゃん! あがってあがってー♪」
やっぱり初めてひとりでお泊まりってことで緊張してたのかな?
ゆきちゃんは私の家にあがると家の中を舐め回すように見てた。初めてきたわけじゃないのに。
緊張してるなら私だって一緒で……今日はできるだけゆきちゃんに楽しんでもらいたかったし、それに夜には……。
今日は私が晩御飯を作ることにした。ゆきちゃんに喜んでもらうべく、覚えたばかりのグラタンを振舞うつもり。
喜んでくれたら嬉しいな。そんな気持ちを抑えきれず、手伝いを申し出たゆきちゃんを自分のお部屋に閉じ込めた。
でもグラタンを作っている間、ゆきちゃんは手持ち無沙汰になっちゃってるかもという不安も出てきた。
私の部屋には、ゆきちゃんの喜びそうなものはひとつもない。ゆきちゃんはケロロ軍曹なんて読まないだろうし、
リビングでテレビでも見てもらったほうがよかったのかも……。
急いでグラタンを作りあげると、私はゆきちゃんを呼ぶべく自分の部屋へと向かった。
「ゆきちゃーん」
「は、はい!」
「ご飯できたよー。みんなで食べよ?」
「あ、はい。そうですね! ではいただきますね」
ゆきちゃんはこっちを振り向かずに答えた。部屋の真中に立っていたゆきちゃんの腕には、ぬいぐるみが抱かれていた。
ゆきちゃんがゆきちゃんを抱いてる……あのぬいぐるみ、気に入ったのかな? デパートにまだ同じのあったっけ。
ゆきちゃんもぬいぐるみを抱き締めることなんてあるんだと思うと、意外でちょっと微笑ましかった。
でもそのぬいぐるみ、私がいつも抱き締めているんだよ? できればいつか、私のことも抱き締めて欲しいな。
なんてことを考えると、私は自分の顔が熱くなるのを感じた。ゆきちゃんが私を見てなくて、本当に良かった。
ゆきちゃんは本当に美味しそうにグラタンを食べてくれた。フォークまで食べているように見えていたくらい。
こんなに喜んでもらえるなら毎日作ってあげても……あ、そういうことをするのが恋人っていうの、かな?
やっぱり初めてひとりでお泊まりってことで緊張してたのかな?
ゆきちゃんは私の家にあがると家の中を舐め回すように見てた。初めてきたわけじゃないのに。
緊張してるなら私だって一緒で……今日はできるだけゆきちゃんに楽しんでもらいたかったし、それに夜には……。
今日は私が晩御飯を作ることにした。ゆきちゃんに喜んでもらうべく、覚えたばかりのグラタンを振舞うつもり。
喜んでくれたら嬉しいな。そんな気持ちを抑えきれず、手伝いを申し出たゆきちゃんを自分のお部屋に閉じ込めた。
でもグラタンを作っている間、ゆきちゃんは手持ち無沙汰になっちゃってるかもという不安も出てきた。
私の部屋には、ゆきちゃんの喜びそうなものはひとつもない。ゆきちゃんはケロロ軍曹なんて読まないだろうし、
リビングでテレビでも見てもらったほうがよかったのかも……。
急いでグラタンを作りあげると、私はゆきちゃんを呼ぶべく自分の部屋へと向かった。
「ゆきちゃーん」
「は、はい!」
「ご飯できたよー。みんなで食べよ?」
「あ、はい。そうですね! ではいただきますね」
ゆきちゃんはこっちを振り向かずに答えた。部屋の真中に立っていたゆきちゃんの腕には、ぬいぐるみが抱かれていた。
ゆきちゃんがゆきちゃんを抱いてる……あのぬいぐるみ、気に入ったのかな? デパートにまだ同じのあったっけ。
ゆきちゃんもぬいぐるみを抱き締めることなんてあるんだと思うと、意外でちょっと微笑ましかった。
でもそのぬいぐるみ、私がいつも抱き締めているんだよ? できればいつか、私のことも抱き締めて欲しいな。
なんてことを考えると、私は自分の顔が熱くなるのを感じた。ゆきちゃんが私を見てなくて、本当に良かった。
ゆきちゃんは本当に美味しそうにグラタンを食べてくれた。フォークまで食べているように見えていたくらい。
こんなに喜んでもらえるなら毎日作ってあげても……あ、そういうことをするのが恋人っていうの、かな?
*
お風呂が沸いた。お父さんもお母さんも、いのりお姉ちゃんもまつりお姉ちゃんも入って、私は新しいお湯を張る。
「ゆきちゃん、お風呂できたよ」
「あ、私はあとでかまいません。お先に入っていただいても……」
「そう? じゃあ私、先にいただいちゃうね」
「はい、ごゆっくり」
下着とパジャマを抱えてお風呂場に向かうと、私は脱いだ衣類を洗濯機に押し込んだ。
ふと、脱衣所に備え付けられている姿見に映る自分の姿をじっと見てみる。
お世辞にも発育がいいとは呼べない私の身体……いやでもゆきちゃんと比べちゃうんだよね。
ゆきちゃんはあのスタイルを指摘されるのを恥ずかしがるけど、羨ましさもあって私はどうしても気にしてしまう。
男の人はそういうのが好きなんだよね、きっと。ゆきちゃんはどういう身体が好き? 私はゆきちゃんのなんにも知らない。
湯船に身体を沈めて、ゆきちゃん好みの身体になりたいと思った。初めて自分のためじゃなく、誰かのために。
お風呂からあがるとき、自分の浸かったお湯にゆきちゃんが入るのが気恥ずかしくなって、私はまた新しいお湯を張る。
綺麗なゆきちゃんには綺麗なお湯に入ってもらいたい。私なんかが入ったお湯に入ってもらいたくないし……。
「あ、お湯は変えておいたから安心してね」
と言うと、ゆきちゃんの表情に少し陰りのようなものが見えたような気がした。
余分に水道代を使わせたと思わせたのかも。ゆきちゃんは優しいから。悪い事しちゃったかな……。
お風呂場へと向かうゆきちゃん。私はその間に、飲み物でも用意しておく事にしたんだけど、
ゆきちゃんが座っていた場所に、一冊の小さなメモ帳を見つけて足を止めてしまった。
「これ、なんだろ。ゆきちゃんが忘れちゃったのかな……」
もしかしたら大事な事が書いてるのかも。勝手に覗くわけにもいかないよねと思って私はそれを拾った。
でも、そのメモ帳の表紙を見て、私はどうしてもその中身を覗きたい欲求に襲われちゃったんだ。
「……『つかささん情報』?」
私の情報? タイトルからするとそういうことだよね。これをゆきちゃんが持ってたの?
色々考えると、私はちょっと面白いと思っちゃった。ゆきちゃんが何でも調べるのが大好きなのは知ってる。
もしかしたら友達の事まで、忘れずにしっかり覚えておこうと思って、こういうメモ帳を作ってるのかも。
友達思いと知りたがりがあいまった、ゆきちゃんらしいことだと思う。私はこんなに几帳面になれないし。
今日はお泊まりにきたから、予備知識をつけて私に対して粗相がないようにしたのかな?
「ゆきちゃん、お風呂できたよ」
「あ、私はあとでかまいません。お先に入っていただいても……」
「そう? じゃあ私、先にいただいちゃうね」
「はい、ごゆっくり」
下着とパジャマを抱えてお風呂場に向かうと、私は脱いだ衣類を洗濯機に押し込んだ。
ふと、脱衣所に備え付けられている姿見に映る自分の姿をじっと見てみる。
お世辞にも発育がいいとは呼べない私の身体……いやでもゆきちゃんと比べちゃうんだよね。
ゆきちゃんはあのスタイルを指摘されるのを恥ずかしがるけど、羨ましさもあって私はどうしても気にしてしまう。
男の人はそういうのが好きなんだよね、きっと。ゆきちゃんはどういう身体が好き? 私はゆきちゃんのなんにも知らない。
湯船に身体を沈めて、ゆきちゃん好みの身体になりたいと思った。初めて自分のためじゃなく、誰かのために。
お風呂からあがるとき、自分の浸かったお湯にゆきちゃんが入るのが気恥ずかしくなって、私はまた新しいお湯を張る。
綺麗なゆきちゃんには綺麗なお湯に入ってもらいたい。私なんかが入ったお湯に入ってもらいたくないし……。
「あ、お湯は変えておいたから安心してね」
と言うと、ゆきちゃんの表情に少し陰りのようなものが見えたような気がした。
余分に水道代を使わせたと思わせたのかも。ゆきちゃんは優しいから。悪い事しちゃったかな……。
お風呂場へと向かうゆきちゃん。私はその間に、飲み物でも用意しておく事にしたんだけど、
ゆきちゃんが座っていた場所に、一冊の小さなメモ帳を見つけて足を止めてしまった。
「これ、なんだろ。ゆきちゃんが忘れちゃったのかな……」
もしかしたら大事な事が書いてるのかも。勝手に覗くわけにもいかないよねと思って私はそれを拾った。
でも、そのメモ帳の表紙を見て、私はどうしてもその中身を覗きたい欲求に襲われちゃったんだ。
「……『つかささん情報』?」
私の情報? タイトルからするとそういうことだよね。これをゆきちゃんが持ってたの?
色々考えると、私はちょっと面白いと思っちゃった。ゆきちゃんが何でも調べるのが大好きなのは知ってる。
もしかしたら友達の事まで、忘れずにしっかり覚えておこうと思って、こういうメモ帳を作ってるのかも。
友達思いと知りたがりがあいまった、ゆきちゃんらしいことだと思う。私はこんなに几帳面になれないし。
今日はお泊まりにきたから、予備知識をつけて私に対して粗相がないようにしたのかな?
それに……ゆきちゃんが私のことを色々知っているっていうのはちょっと恥ずかしいケド、反面結構嬉しかったり。
もしかしたら『かがみさん情報』や『泉さん情報』なんていうものも持ってるのかもしれなかったんだけどね。
案の定、私はその中身を覗きたい欲求と対決する事になった。私の事とはいえ、勝手に読まれて気持ち良くはないはず。
「う……でもぉ……」
『つかささん情報』を持つ指がぷるぷる震えて、心の中の天使と悪魔が露骨に戦っちゃってる。
「わ、私のことだし、ちょっとだけならいいよね……?」
私は必死に言い訳を作り出して、それでもずいぶん苦しかったケド……。
『ゆきちゃん、ごめん!』と心の中で必死に謝ると、私はそのメモ帳のページを開いた。
1ページ目にはまず、プロフィール。名前、年齢、誕生日、血液型、身長に体重、住所に電話番号、趣味から利き手まで。
その他基本的な私の情報が書かれていた。やっぱりゆきちゃんはすごい。字もすごく綺麗だし。
私は自分の顔がニヤけていることに気付いた。そんなにわかりやすく喜ばなくても……顔の筋肉を引き締める。
『情報23 つかささんはチョココロネを虫に例えるとき、細いほうを頭だと考えるみたいです』
『情報38 つかささんの好きな調味料はバルサミコ酢のようです。意外です』
『情報54 つかささんはハードルを飛び越えるのが苦手のようです。何度も転んでいました』
さすがにそれは恥ずかしかった。でも、
「すごい……こんなに細かいところまでわかっちゃってたなんて……えへへ」
普通の人だったらちょっとは嫌悪感を持つところなのかも、私はむしろ嬉しくてたまらなかった。
ゆきちゃんがそんなに私のことを見てくれていたなんて。自意識過剰なのかもしれないケド……。
『情報89 つかささんの携帯は二代目になりました。一代目は洗ってしまわれたそうです』
ページをめくる手が止まらなかった。私のことをどこまで知ってるんだろう? どこまで知ってくれてるんだろう?
いつのまに私のことをそんなに見てくれていたんだろう? 私以外の誰かにも、そんな視線を送っているのかな?
『情報586 つかささんは後輩のひよりさんのためにネタを考えてくれているそうですが、
ひよりさんからの評価はあまり芳しくないみたいです。つかささん、ファイトです』
そうだったんだ……私は軽いショックを受けながらページをめくる。
情報は3476まで来て、ストップしていた。最後の情報は私の家のテレビのインチの数だった。
ふと、最後のページのほうに起伏を感じた。最後のページのほうにも、なにか書いてある?
私はそっと開けて読むことにした。ここまで読んだら同じだという気持ちがあったのかも。
『私、高良みゆきが世界で一番愛――――』
そこで、廊下のほうから足音が聞こえて、私は心臓が飛び出しそうなほど驚いちゃって、
あわあわとメモ帳を手のひらに踊らせると、急いでパジャマのポケットに突っ込んでいた。
「お風呂いただきましたー」
ノックの後に部屋のドアが開くと、パジャマ姿で顔を上気させているゆきちゃんが現れた。お風呂上りってなんだか色っぽい。
「あっ、ゆ、ゆきちゃんもうあがっちゃったんだ? は、早いねー」
私はできるだけ自然な笑顔で答えたつもりだったけど、不器用だからゆきちゃんには見抜かれていたかもしれない。
気がつけばポケットのメモ帳を返すタイミングを完全に失っちゃってて……そのまま夜は更けていって……。
もしかしたら『かがみさん情報』や『泉さん情報』なんていうものも持ってるのかもしれなかったんだけどね。
案の定、私はその中身を覗きたい欲求と対決する事になった。私の事とはいえ、勝手に読まれて気持ち良くはないはず。
「う……でもぉ……」
『つかささん情報』を持つ指がぷるぷる震えて、心の中の天使と悪魔が露骨に戦っちゃってる。
「わ、私のことだし、ちょっとだけならいいよね……?」
私は必死に言い訳を作り出して、それでもずいぶん苦しかったケド……。
『ゆきちゃん、ごめん!』と心の中で必死に謝ると、私はそのメモ帳のページを開いた。
1ページ目にはまず、プロフィール。名前、年齢、誕生日、血液型、身長に体重、住所に電話番号、趣味から利き手まで。
その他基本的な私の情報が書かれていた。やっぱりゆきちゃんはすごい。字もすごく綺麗だし。
私は自分の顔がニヤけていることに気付いた。そんなにわかりやすく喜ばなくても……顔の筋肉を引き締める。
『情報23 つかささんはチョココロネを虫に例えるとき、細いほうを頭だと考えるみたいです』
『情報38 つかささんの好きな調味料はバルサミコ酢のようです。意外です』
『情報54 つかささんはハードルを飛び越えるのが苦手のようです。何度も転んでいました』
さすがにそれは恥ずかしかった。でも、
「すごい……こんなに細かいところまでわかっちゃってたなんて……えへへ」
普通の人だったらちょっとは嫌悪感を持つところなのかも、私はむしろ嬉しくてたまらなかった。
ゆきちゃんがそんなに私のことを見てくれていたなんて。自意識過剰なのかもしれないケド……。
『情報89 つかささんの携帯は二代目になりました。一代目は洗ってしまわれたそうです』
ページをめくる手が止まらなかった。私のことをどこまで知ってるんだろう? どこまで知ってくれてるんだろう?
いつのまに私のことをそんなに見てくれていたんだろう? 私以外の誰かにも、そんな視線を送っているのかな?
『情報586 つかささんは後輩のひよりさんのためにネタを考えてくれているそうですが、
ひよりさんからの評価はあまり芳しくないみたいです。つかささん、ファイトです』
そうだったんだ……私は軽いショックを受けながらページをめくる。
情報は3476まで来て、ストップしていた。最後の情報は私の家のテレビのインチの数だった。
ふと、最後のページのほうに起伏を感じた。最後のページのほうにも、なにか書いてある?
私はそっと開けて読むことにした。ここまで読んだら同じだという気持ちがあったのかも。
『私、高良みゆきが世界で一番愛――――』
そこで、廊下のほうから足音が聞こえて、私は心臓が飛び出しそうなほど驚いちゃって、
あわあわとメモ帳を手のひらに踊らせると、急いでパジャマのポケットに突っ込んでいた。
「お風呂いただきましたー」
ノックの後に部屋のドアが開くと、パジャマ姿で顔を上気させているゆきちゃんが現れた。お風呂上りってなんだか色っぽい。
「あっ、ゆ、ゆきちゃんもうあがっちゃったんだ? は、早いねー」
私はできるだけ自然な笑顔で答えたつもりだったけど、不器用だからゆきちゃんには見抜かれていたかもしれない。
気がつけばポケットのメモ帳を返すタイミングを完全に失っちゃってて……そのまま夜は更けていって……。
*
それから私達はとりとめのない話をたくさんした。その会話の節々で、私はゆきちゃんの頭の良さを感じることになった。
私の知らない沢山の知識、綺麗な言葉遣い、安心を運んでくれる柔らかい声、ぷるぷるの唇、艶やかな瞳……。
……途中からはともかく、私は自分にはないゆきちゃんのそういった魅力に、ぐっと惹き込まれていて、
ゆきちゃんが何を話していたかわからなくなるくらいに、うっとりとした気持ちになって……それはとても幸せな気分で、
そういうことが人を好きになるっていうことなのかなって考えると、ちょっと恥ずかしいケド全然イヤじゃなくて、
多分そういったこともゆきちゃんは私より詳しいんだろうね……そう思ったら、私の胸に小さな不安が生まれてきた。
ゆきちゃんは好きな人はいるの……? 女の子同士だし、二人きりだから聞きやすい質問のはずなのに、
いつまでも聞いていたいくらい大好きなその声で、その答えを聞くことが怖くて、私は結局聞けなかった。
でも、これだけは聞いておきたかった。ゆきちゃんの中にはどれだけ、私のことが存在しているの……。
「じゃあ、私については……?」
私についてどこまで知ってるの? あのメモ帳の中身の分だけ? こんな気持ちを持ってることは知らないよね?
あのメモ帳は他の人にも作っているの? 私だけじゃダメなの? 私の全部を知っていてほしいんだよ?
「つ、つかささんについてですか……?」
ちょっと慌てていたみたいだけど、ゆきちゃんの口からは私の基本的な情報しか出て来なかった。
恋をすると胸の奥が苦しいって言うけど、本当だった。もっとゆきちゃんの口から、私のことを話してほしいんだ。
誕生日や血液型なんかじゃ足りない。もっと私の名前を呼んでほしいよ。「つかささん」っていつものように。
知りたいことならなんでも教えてあげるから、今の私の顔を、身体を、声を、心を全部……わかってほしい。
「ありがとう、ゆきちゃん。変な事聞いちゃってごめんね」
私は笑顔でそう返した。本当はまだまだ物足りないケド、ゆきちゃんもなんだか困ってたみたいだし。
満たされてないけど、今はそれでよかった。ゆきちゃんの中にはまだまだ私の知識があることを知っているから。
ゆきちゃん、ワガママでごめんね……それと、私ももっとゆきちゃんのことを知りたいんだ。
「私もね、ゆきちゃんのこと色々知りたいな」
「私のこと、ですか……?」
「うん、さすがに誕生日とかそういうのは知ってるケド、もっと色々な事知ってたら今よりずっと仲良く……」
「い、今よりずっと仲良く……! ……ですか」
ゆきちゃんはお顔を真っ赤にして、微笑んでいた。たしかに『もっとあなたのことを知りたい』なんて言われたら照れるよね。
「それは……自分の口からはどう伝えればいいのかはわかりませんけれど」
「うん……確かに難しいかも~」
「ただ、私とつかささんはお友達です。まだまだたくさん時間はあります。これからもお互いに色々なことを知っていきますよ」
『お友達』の言葉に、また胸が痛んだ。今日はずっと、心がチクチクしてる。
「そっか……そうだよね。これからもよろしくね、ゆきちゃん!」
「はい、よろしくお願いします。ふふふ、何だか変な感じですね」
「あはは、そうだね。きっと、お姉ちゃんやこなちゃんもこんな風に仲良くなっていってるんだろうね」
ゆきちゃんは『ずっと仲良く』『これからもよろしく』と何度も呟いていた。喜んでもらえて嬉しいよ。
でも私のほうが、ずっときっと喜んでいる。本当にずっと仲良しでいられる? 私の気持ちを知っても?
せっかくこなちゃんが応援してくれているのに、私の心は不安でいっぱいになっていた。
「ねぇ、ゆきちゃん」
「はい、何ですか?」
「……ううん、なんでもない」
「ふふ、変なつかささんですね。そこが可愛……くふっ」
私の知らない沢山の知識、綺麗な言葉遣い、安心を運んでくれる柔らかい声、ぷるぷるの唇、艶やかな瞳……。
……途中からはともかく、私は自分にはないゆきちゃんのそういった魅力に、ぐっと惹き込まれていて、
ゆきちゃんが何を話していたかわからなくなるくらいに、うっとりとした気持ちになって……それはとても幸せな気分で、
そういうことが人を好きになるっていうことなのかなって考えると、ちょっと恥ずかしいケド全然イヤじゃなくて、
多分そういったこともゆきちゃんは私より詳しいんだろうね……そう思ったら、私の胸に小さな不安が生まれてきた。
ゆきちゃんは好きな人はいるの……? 女の子同士だし、二人きりだから聞きやすい質問のはずなのに、
いつまでも聞いていたいくらい大好きなその声で、その答えを聞くことが怖くて、私は結局聞けなかった。
でも、これだけは聞いておきたかった。ゆきちゃんの中にはどれだけ、私のことが存在しているの……。
「じゃあ、私については……?」
私についてどこまで知ってるの? あのメモ帳の中身の分だけ? こんな気持ちを持ってることは知らないよね?
あのメモ帳は他の人にも作っているの? 私だけじゃダメなの? 私の全部を知っていてほしいんだよ?
「つ、つかささんについてですか……?」
ちょっと慌てていたみたいだけど、ゆきちゃんの口からは私の基本的な情報しか出て来なかった。
恋をすると胸の奥が苦しいって言うけど、本当だった。もっとゆきちゃんの口から、私のことを話してほしいんだ。
誕生日や血液型なんかじゃ足りない。もっと私の名前を呼んでほしいよ。「つかささん」っていつものように。
知りたいことならなんでも教えてあげるから、今の私の顔を、身体を、声を、心を全部……わかってほしい。
「ありがとう、ゆきちゃん。変な事聞いちゃってごめんね」
私は笑顔でそう返した。本当はまだまだ物足りないケド、ゆきちゃんもなんだか困ってたみたいだし。
満たされてないけど、今はそれでよかった。ゆきちゃんの中にはまだまだ私の知識があることを知っているから。
ゆきちゃん、ワガママでごめんね……それと、私ももっとゆきちゃんのことを知りたいんだ。
「私もね、ゆきちゃんのこと色々知りたいな」
「私のこと、ですか……?」
「うん、さすがに誕生日とかそういうのは知ってるケド、もっと色々な事知ってたら今よりずっと仲良く……」
「い、今よりずっと仲良く……! ……ですか」
ゆきちゃんはお顔を真っ赤にして、微笑んでいた。たしかに『もっとあなたのことを知りたい』なんて言われたら照れるよね。
「それは……自分の口からはどう伝えればいいのかはわかりませんけれど」
「うん……確かに難しいかも~」
「ただ、私とつかささんはお友達です。まだまだたくさん時間はあります。これからもお互いに色々なことを知っていきますよ」
『お友達』の言葉に、また胸が痛んだ。今日はずっと、心がチクチクしてる。
「そっか……そうだよね。これからもよろしくね、ゆきちゃん!」
「はい、よろしくお願いします。ふふふ、何だか変な感じですね」
「あはは、そうだね。きっと、お姉ちゃんやこなちゃんもこんな風に仲良くなっていってるんだろうね」
ゆきちゃんは『ずっと仲良く』『これからもよろしく』と何度も呟いていた。喜んでもらえて嬉しいよ。
でも私のほうが、ずっときっと喜んでいる。本当にずっと仲良しでいられる? 私の気持ちを知っても?
せっかくこなちゃんが応援してくれているのに、私の心は不安でいっぱいになっていた。
「ねぇ、ゆきちゃん」
「はい、何ですか?」
「……ううん、なんでもない」
「ふふ、変なつかささんですね。そこが可愛……くふっ」
*
夜11時。ベッドの横にゆきちゃん用の布団をひく。私の部屋に布団を敷いたのは何年振りなのかな?
寂しくなって誰かと一緒に寝たいときは、いつもお姉ちゃんのお部屋に行って、一緒のベッドで寝ていた。
シングルベッドだけど、私には大きな寝具だと思う。シーツの生地の私の体温が残らない部分、そこが時折怖くなる。
本当はゆきちゃんにそばにいてほしい。そんなことをいつも思っていたし、今日だって思っていた。
こんな私はきっと、ふしだらな女の子なんだよね。だからせめてそんな私を、ゆきちゃんにだけは悟られたくなかった。
「それではつかささん、おやすみなさい」
「うん、おやすみゆきちゃん」
……とは言ったものの、ゆきちゃんが横にいると思うと全然眠れない。それだけじゃない不思議もあった。
今、私の部屋にいるのは私だけじゃないはずなのに、どうしてこんなに寂しいんだろう?
大好きなゆきちゃんがそばにいるのに、どうしてこんなに寂しいんだろう?
ベッドの高さと、布団がしかれた床までの距離、私とゆきちゃんが離れている距離、1メートルほどしかないはずなのに、
私にとっては何十メートルにも思えるほど遠かった。昔から寂しがり屋とからかわれてたけど、今日は何故か特に寂しかった。
(ゆきちゃん……寝ちゃった?)
話しかけて確認するのもよかったけど、もしゆきちゃんが眠りかけていたら迷惑になると思って、私は口を噤んだ。
私にはわからない。大好きな人がこんなに近くにいて、どうしてこんなに孤独な気持ちにならないといけないのかな?
ぬいぐるみを抱き寄せ、ギュッと強く、できるだけ強く抱き締めた。私がゆきちゃんだと思っているぬいぐるみ。
(ゆきちゃんのお布団に入ったら、怒られるかな? ゆきちゃんはきっと笑ってくれると思うけど、迷惑かな?
寂しがり屋だって思われるかもしれないし、もう思われてるんだろうけど……やっぱりゆきちゃんって温かいのかな?)
たまらなく寂しい夜、私はお姉ちゃんのベッドで寝る。ゆきちゃんの事を思って寂しい夜も、お姉ちゃんと一緒に寝る。
お姉ちゃんにゆきちゃんの代わりをさせているようで、いつも悪いと思っていた。だから私はぬいぐるみを買った。
できるだけゆきちゃんの胸の中で寝ている気分を味わえるように、柔らかくて弾力のあるぬいぐるみを……。
おかげでお姉ちゃんのベッドで寝ることは少なくなった。それでもやっぱり、我慢ができない時がある。
(ゆきちゃん……寂しいよ、ゆきちゃん……)
気がつくと私は、抱き枕ほどのサイズもあるそのぬいぐるみに……大事な部分を擦りつけていた。
その度に、ぞくぞくっとした感覚が身体に走る。
私が『それ』を覚えたのは、寂しくてたまらなかったある夜。ぬいぐるみだけじゃ孤独が収まらなくて、お姉ちゃんの部屋に行く事にした。
お姉ちゃんはその日、夜遅くまで勉強していて……邪魔しちゃいけないと思った私は部屋に戻った。
でもやっぱり寂しくて、私はゆきちゃんの代わり身をゆきちゃんだと思うようにして、身体を押しつけるように抱き締めた。
そのときたまたま私の大事な部分にぬいぐるみが擦れて……気がつけば私はそれの虜になってたんだ。
「……ふっ……んっ……」
思わず声を漏らしてしまって、ゆきちゃんにバレてないか不安になった。でも私は我慢できなくて、
『それ』を覚えてから、私の中のゆきちゃんに対する寂しさはエッチな気持ちみたいになっちゃって、
どうしようもなく寂しいときは、ゆきちゃんを想ってぬいぐるみを抱き締めて『それ』をしていた。
ゆきちゃんのことを思ったときだけ私はそういう気持ちになって、強く想えば想うほど気持ち良くて、
ゆきちゃんに悪いって思いながら、自分のことを嫌いになりながら、それでも私は『それ』が止められなくて……。
(ゆきちゃんがいるのに……! そばにいるのに……! こんなことしちゃダメだよ……!)
心はずっと闘っていた。ゆきちゃんにこんな私を知られたくなかった。それなのに私は腰の動きを早めていく。
押し殺したくて堪らないのに、すごく恥ずかしいのに、私は漏れる声を抑えきれなかった。
「ああっ、あっ、あっ、ふぅ……んん……」
声は次第に大きくなって、私はショーツに熱いものが染みていくのを感じていた。
身体中が熱くなる。甘い痺れが頭の上からつま先まで走って、私はさらに強くぬいぐるみを抱き締める。
(やだやだやだ! ゆきちゃんに聞こえちゃうよ! お願い、もう止まってよ!)
頭の中ではそう思っているのに、身体がいうことを聞かなかった。いつもの『それ』よりもずっと気持ちいい。
ショーツだけじゃなくて、パジャマのズボンまで汚れちゃうくらい、私はもう溢れかえっていた。
自分でも気付いていたんだ。ゆきちゃんがそばにいるから、こんなに感じちゃってるんだって……。
「あっ、いいよぅ……んみゅ……あっ、ふぁ……!」
こんなところゆきちゃんに知られたら、絶対に嫌われる。それなのに私は、ゆきちゃんに抱き締められるところを想って……。
(ごめんね、ゆきちゃん……ごめん、ごめんね……!)
ゆきちゃんに髪を撫でられて、ゆきちゃんに頬に触れられて、ゆきちゃんに抱き締めてもらって、ゆきちゃんに……。
「すきっ、あっ、あっ、ひぁぁ……」
『すき』と言葉に出すだけで、下腹部がキュンと熱くなる。ずっと言いたくてたまらなかった言葉。
ゆきちゃんの笑顔を、声を、身体を思い出すだけで、爆発しそうになる気持ち。
(ゆきちゃん……抱き締めてほしいよ……私のこと、触ってほしいよ……!)
汗が止まらかった。ゆきちゃんも私と同じで、好きな人のことを想って気持ち良くなるのかな?
私のことを想って気持ち良くなる日が、いつか来てくれるのかな?
波のように押し寄せる気持ち良さが、次第に早く大きくなって、私は身体が浮きそうになった。そろそろあれがくる。
「ゆきちゃんっ、すきっ、あっ、ひあぁっ……!!」
大好きな人の名前を呼んで、私はその大きな波を受け入れる。身体がどこまでも浮かんでいきそうなこの感じ。
「あっ、あっ……はぁ、ふあ……」
(ゆきちゃん……大好きだよ……)
私は荒い息を吐いて、身体中の脱力感を感じながらも、ぼんやりとする頭の中でゆきちゃんを想っていた。
ふわふわしている私は、そのまま気持ち良さに抱かれて、ゆきちゃんを想ったまま、眠ることにする。
まぶたが重くなって……ぴたりと閉じて、意識が遠くなって、何も聞こえなくなってきて……。
―――何かが私の髪を、軽く撫でたのを感じたんだ。
意識が急に引き戻された私は、驚いたけれど急に飛び起きたり、目を開けたりはしなかった。
なんとか狸寝入りは続けていて……耳はさっきより敏感に音を感じるようになっていて、
私は……横の布団に何かが入る音を聞いていた。それからしばらくしてはっきりと……ゆきちゃんの寝息を聞いちゃって。
(うそ……ゆきちゃん、起きてたの? 私のさっきの……ずっとゆきちゃんに聞かれて……)
ふと、崖の上から突き落とされたような気分になった。恥ずかしさもあるけど、それよりももっと重要なこと。
ゆきちゃんの名前を呼んだ事も、好きって言ったことも、ゆきちゃんを想ってしていたことも全て知られて……。
私はゆきちゃんのほうを向くことができなくて、ぬいぐるみを強く抱き締めると、溢れる涙を染み込ませた。
もうこれ以上、ゆきちゃんに迷惑はかけたくないから、泣き声だけは必死に押し殺しながら。
寂しくなって誰かと一緒に寝たいときは、いつもお姉ちゃんのお部屋に行って、一緒のベッドで寝ていた。
シングルベッドだけど、私には大きな寝具だと思う。シーツの生地の私の体温が残らない部分、そこが時折怖くなる。
本当はゆきちゃんにそばにいてほしい。そんなことをいつも思っていたし、今日だって思っていた。
こんな私はきっと、ふしだらな女の子なんだよね。だからせめてそんな私を、ゆきちゃんにだけは悟られたくなかった。
「それではつかささん、おやすみなさい」
「うん、おやすみゆきちゃん」
……とは言ったものの、ゆきちゃんが横にいると思うと全然眠れない。それだけじゃない不思議もあった。
今、私の部屋にいるのは私だけじゃないはずなのに、どうしてこんなに寂しいんだろう?
大好きなゆきちゃんがそばにいるのに、どうしてこんなに寂しいんだろう?
ベッドの高さと、布団がしかれた床までの距離、私とゆきちゃんが離れている距離、1メートルほどしかないはずなのに、
私にとっては何十メートルにも思えるほど遠かった。昔から寂しがり屋とからかわれてたけど、今日は何故か特に寂しかった。
(ゆきちゃん……寝ちゃった?)
話しかけて確認するのもよかったけど、もしゆきちゃんが眠りかけていたら迷惑になると思って、私は口を噤んだ。
私にはわからない。大好きな人がこんなに近くにいて、どうしてこんなに孤独な気持ちにならないといけないのかな?
ぬいぐるみを抱き寄せ、ギュッと強く、できるだけ強く抱き締めた。私がゆきちゃんだと思っているぬいぐるみ。
(ゆきちゃんのお布団に入ったら、怒られるかな? ゆきちゃんはきっと笑ってくれると思うけど、迷惑かな?
寂しがり屋だって思われるかもしれないし、もう思われてるんだろうけど……やっぱりゆきちゃんって温かいのかな?)
たまらなく寂しい夜、私はお姉ちゃんのベッドで寝る。ゆきちゃんの事を思って寂しい夜も、お姉ちゃんと一緒に寝る。
お姉ちゃんにゆきちゃんの代わりをさせているようで、いつも悪いと思っていた。だから私はぬいぐるみを買った。
できるだけゆきちゃんの胸の中で寝ている気分を味わえるように、柔らかくて弾力のあるぬいぐるみを……。
おかげでお姉ちゃんのベッドで寝ることは少なくなった。それでもやっぱり、我慢ができない時がある。
(ゆきちゃん……寂しいよ、ゆきちゃん……)
気がつくと私は、抱き枕ほどのサイズもあるそのぬいぐるみに……大事な部分を擦りつけていた。
その度に、ぞくぞくっとした感覚が身体に走る。
私が『それ』を覚えたのは、寂しくてたまらなかったある夜。ぬいぐるみだけじゃ孤独が収まらなくて、お姉ちゃんの部屋に行く事にした。
お姉ちゃんはその日、夜遅くまで勉強していて……邪魔しちゃいけないと思った私は部屋に戻った。
でもやっぱり寂しくて、私はゆきちゃんの代わり身をゆきちゃんだと思うようにして、身体を押しつけるように抱き締めた。
そのときたまたま私の大事な部分にぬいぐるみが擦れて……気がつけば私はそれの虜になってたんだ。
「……ふっ……んっ……」
思わず声を漏らしてしまって、ゆきちゃんにバレてないか不安になった。でも私は我慢できなくて、
『それ』を覚えてから、私の中のゆきちゃんに対する寂しさはエッチな気持ちみたいになっちゃって、
どうしようもなく寂しいときは、ゆきちゃんを想ってぬいぐるみを抱き締めて『それ』をしていた。
ゆきちゃんのことを思ったときだけ私はそういう気持ちになって、強く想えば想うほど気持ち良くて、
ゆきちゃんに悪いって思いながら、自分のことを嫌いになりながら、それでも私は『それ』が止められなくて……。
(ゆきちゃんがいるのに……! そばにいるのに……! こんなことしちゃダメだよ……!)
心はずっと闘っていた。ゆきちゃんにこんな私を知られたくなかった。それなのに私は腰の動きを早めていく。
押し殺したくて堪らないのに、すごく恥ずかしいのに、私は漏れる声を抑えきれなかった。
「ああっ、あっ、あっ、ふぅ……んん……」
声は次第に大きくなって、私はショーツに熱いものが染みていくのを感じていた。
身体中が熱くなる。甘い痺れが頭の上からつま先まで走って、私はさらに強くぬいぐるみを抱き締める。
(やだやだやだ! ゆきちゃんに聞こえちゃうよ! お願い、もう止まってよ!)
頭の中ではそう思っているのに、身体がいうことを聞かなかった。いつもの『それ』よりもずっと気持ちいい。
ショーツだけじゃなくて、パジャマのズボンまで汚れちゃうくらい、私はもう溢れかえっていた。
自分でも気付いていたんだ。ゆきちゃんがそばにいるから、こんなに感じちゃってるんだって……。
「あっ、いいよぅ……んみゅ……あっ、ふぁ……!」
こんなところゆきちゃんに知られたら、絶対に嫌われる。それなのに私は、ゆきちゃんに抱き締められるところを想って……。
(ごめんね、ゆきちゃん……ごめん、ごめんね……!)
ゆきちゃんに髪を撫でられて、ゆきちゃんに頬に触れられて、ゆきちゃんに抱き締めてもらって、ゆきちゃんに……。
「すきっ、あっ、あっ、ひぁぁ……」
『すき』と言葉に出すだけで、下腹部がキュンと熱くなる。ずっと言いたくてたまらなかった言葉。
ゆきちゃんの笑顔を、声を、身体を思い出すだけで、爆発しそうになる気持ち。
(ゆきちゃん……抱き締めてほしいよ……私のこと、触ってほしいよ……!)
汗が止まらかった。ゆきちゃんも私と同じで、好きな人のことを想って気持ち良くなるのかな?
私のことを想って気持ち良くなる日が、いつか来てくれるのかな?
波のように押し寄せる気持ち良さが、次第に早く大きくなって、私は身体が浮きそうになった。そろそろあれがくる。
「ゆきちゃんっ、すきっ、あっ、ひあぁっ……!!」
大好きな人の名前を呼んで、私はその大きな波を受け入れる。身体がどこまでも浮かんでいきそうなこの感じ。
「あっ、あっ……はぁ、ふあ……」
(ゆきちゃん……大好きだよ……)
私は荒い息を吐いて、身体中の脱力感を感じながらも、ぼんやりとする頭の中でゆきちゃんを想っていた。
ふわふわしている私は、そのまま気持ち良さに抱かれて、ゆきちゃんを想ったまま、眠ることにする。
まぶたが重くなって……ぴたりと閉じて、意識が遠くなって、何も聞こえなくなってきて……。
―――何かが私の髪を、軽く撫でたのを感じたんだ。
意識が急に引き戻された私は、驚いたけれど急に飛び起きたり、目を開けたりはしなかった。
なんとか狸寝入りは続けていて……耳はさっきより敏感に音を感じるようになっていて、
私は……横の布団に何かが入る音を聞いていた。それからしばらくしてはっきりと……ゆきちゃんの寝息を聞いちゃって。
(うそ……ゆきちゃん、起きてたの? 私のさっきの……ずっとゆきちゃんに聞かれて……)
ふと、崖の上から突き落とされたような気分になった。恥ずかしさもあるけど、それよりももっと重要なこと。
ゆきちゃんの名前を呼んだ事も、好きって言ったことも、ゆきちゃんを想ってしていたことも全て知られて……。
私はゆきちゃんのほうを向くことができなくて、ぬいぐるみを強く抱き締めると、溢れる涙を染み込ませた。
もうこれ以上、ゆきちゃんに迷惑はかけたくないから、泣き声だけは必死に押し殺しながら。
みゆき×つかさ・後編に続く
コメントフォーム
- この作者さんの作品は、凄く心理描写
が繊細で感情移入しやすい!名作だと
思います、とても面白いです! -- チャムチロ (2012-09-17 20:30:16)