「耳そうじして」
休日のかがみの部屋。遊びに来ていたこなたが、いきなりそんなことを言い出した。
「藪から棒に何?」
「いやぁ、最近耳そうじしてなかったからさ。たまたまここに耳かきがあったもんだから」
「じゃあそれ貸して上げるから自分でやりなさいよ」
「かがみがして。もち膝枕オンリーで」
ズイと身を乗り出し、こなたは耳かきをかがみに差し出す。テコでも動かぬというのはこういう状態を言うのだろうか。
かがみは深々とため息をつき、耳かきを手に取り、適当にティッシュを用意して、正座する。
「それでは失礼」
ご機嫌そうに笑いながら、こなたはかがみの膝に頭を乗せた。
「んー、かがみんのふとももあったかい」
「こら動くな」
「はいはい……」
大人しくじっとしているこなたの耳の穴に、耳かきの先を入れる。
「……く……ふふ」
「動くなってば。危ないから」
「だってくすぐったいもん」
「だったら自分で――」
「すみません大人しくしてます続けて下さい」
くすぐったくても動かないよう、体をピシリと緊張させるこなた。妙に子供っぽい仕草に、かがみは思わず笑みを零した。
黙々と耳そうじをする間、こなたは時折くすぐったそうに震えるぐらいで、大人しくじっとしていた。
「それにしても、急に何で耳そうじなわけ?」
「膝枕で耳そうじといえばラブラブイベントの定番だからね。一度体験してみたかったんだよ」
「誰がラブラブだ、誰が」
「つかさには耳そうじしてあげたことあるの?」
「少しはね」
「されたことは?」
「つかさには無い。小さい頃、お母さんにしてもらったことはあるけど」
「そっか……やっぱりそうだよね」
「……こなた?」
急にしんみりと呟いたこなたの顔を、かがみが訝しげに覗き込む。
「どうかした?」
しばらく黙っていたこなただが、やがてポツポツと口を開く。
「……この前お父さんがさ、自分で耳そうじしながらお母さんのこと話してたんだ」
「かなたさん、だっけ」
「うん」
泉かなた。こなたの小さい頃に亡くなったお母さん。
「昔さ、私がお腹に出来る前ぐらいまでは、よくお母さんがお父さんの耳そうじしてくれたんだって……ちょっと寂しそうにさ、そんなこと言ってたの」
「そう……」
またしばらく沈黙。静かな部屋の中で、かがみの手だけが動いている。
「はい、左終わったよ」
「ん……」
こなたは体をよじって、右耳を上にする。
「娘なんだから、こなたが代わりにしてあげたら? お父さんに、耳そうじ」
「うん。そう思ったんだけどさ――」
「けど、何?」
「私、人に耳そうじしてあげたことも、されたことも無いんだよね」
「……ひょっとして、それで?」
かがみの膝の上で、こなたが小さく頷く。
「こんな感じでやればいいんだね」
「そうよ。……そういうことなら、ちゃんと言ってくれればいいのに」
「でも、それだけじゃないよ」
「え?」
「かがみにして欲しかったから」
「んなっ……」
こなたがどこまでも真剣な口調だったから、かがみは思わず赤面する。
「私、お母さんにこういうことしてもらえなかったから。かがみにして貰えて凄く嬉しいよ」
「わ、私なんかを代わりにしたら、こなたのお母さんに失礼でしょ」
「そんなことないよ。きっとお母さんも、かがみみたいに優しくしてくれたと思う」
「う……」
恥ずかしさに顔を俯かせて、でも手元にだけは注意して、かがみはこなたの耳そうじを続ける。
「はい終わり!」
照れ隠しだろう。耳そうじが終わった途端、かがみは膝の上のこなたを早々と追い払おうとする。
「早くどいてよ。足が痺れるから」
「そんなに急かさなくてもいいじゃん……」
ぶつくさ言いながらこなたは身を起こす。
「お~、結構取れたね」
ティッシュに付いている自分の耳垢を見て、こなたは感嘆の声を上げる。
「何見てんの。捨てるわよ」
「ああっ、何となくもったいない」
普段通りに戻ったこなたに呆れながら、かがみはティッシュを丸めてゴミ箱へ捨てた。
休日のかがみの部屋。遊びに来ていたこなたが、いきなりそんなことを言い出した。
「藪から棒に何?」
「いやぁ、最近耳そうじしてなかったからさ。たまたまここに耳かきがあったもんだから」
「じゃあそれ貸して上げるから自分でやりなさいよ」
「かがみがして。もち膝枕オンリーで」
ズイと身を乗り出し、こなたは耳かきをかがみに差し出す。テコでも動かぬというのはこういう状態を言うのだろうか。
かがみは深々とため息をつき、耳かきを手に取り、適当にティッシュを用意して、正座する。
「それでは失礼」
ご機嫌そうに笑いながら、こなたはかがみの膝に頭を乗せた。
「んー、かがみんのふとももあったかい」
「こら動くな」
「はいはい……」
大人しくじっとしているこなたの耳の穴に、耳かきの先を入れる。
「……く……ふふ」
「動くなってば。危ないから」
「だってくすぐったいもん」
「だったら自分で――」
「すみません大人しくしてます続けて下さい」
くすぐったくても動かないよう、体をピシリと緊張させるこなた。妙に子供っぽい仕草に、かがみは思わず笑みを零した。
黙々と耳そうじをする間、こなたは時折くすぐったそうに震えるぐらいで、大人しくじっとしていた。
「それにしても、急に何で耳そうじなわけ?」
「膝枕で耳そうじといえばラブラブイベントの定番だからね。一度体験してみたかったんだよ」
「誰がラブラブだ、誰が」
「つかさには耳そうじしてあげたことあるの?」
「少しはね」
「されたことは?」
「つかさには無い。小さい頃、お母さんにしてもらったことはあるけど」
「そっか……やっぱりそうだよね」
「……こなた?」
急にしんみりと呟いたこなたの顔を、かがみが訝しげに覗き込む。
「どうかした?」
しばらく黙っていたこなただが、やがてポツポツと口を開く。
「……この前お父さんがさ、自分で耳そうじしながらお母さんのこと話してたんだ」
「かなたさん、だっけ」
「うん」
泉かなた。こなたの小さい頃に亡くなったお母さん。
「昔さ、私がお腹に出来る前ぐらいまでは、よくお母さんがお父さんの耳そうじしてくれたんだって……ちょっと寂しそうにさ、そんなこと言ってたの」
「そう……」
またしばらく沈黙。静かな部屋の中で、かがみの手だけが動いている。
「はい、左終わったよ」
「ん……」
こなたは体をよじって、右耳を上にする。
「娘なんだから、こなたが代わりにしてあげたら? お父さんに、耳そうじ」
「うん。そう思ったんだけどさ――」
「けど、何?」
「私、人に耳そうじしてあげたことも、されたことも無いんだよね」
「……ひょっとして、それで?」
かがみの膝の上で、こなたが小さく頷く。
「こんな感じでやればいいんだね」
「そうよ。……そういうことなら、ちゃんと言ってくれればいいのに」
「でも、それだけじゃないよ」
「え?」
「かがみにして欲しかったから」
「んなっ……」
こなたがどこまでも真剣な口調だったから、かがみは思わず赤面する。
「私、お母さんにこういうことしてもらえなかったから。かがみにして貰えて凄く嬉しいよ」
「わ、私なんかを代わりにしたら、こなたのお母さんに失礼でしょ」
「そんなことないよ。きっとお母さんも、かがみみたいに優しくしてくれたと思う」
「う……」
恥ずかしさに顔を俯かせて、でも手元にだけは注意して、かがみはこなたの耳そうじを続ける。
「はい終わり!」
照れ隠しだろう。耳そうじが終わった途端、かがみは膝の上のこなたを早々と追い払おうとする。
「早くどいてよ。足が痺れるから」
「そんなに急かさなくてもいいじゃん……」
ぶつくさ言いながらこなたは身を起こす。
「お~、結構取れたね」
ティッシュに付いている自分の耳垢を見て、こなたは感嘆の声を上げる。
「何見てんの。捨てるわよ」
「ああっ、何となくもったいない」
普段通りに戻ったこなたに呆れながら、かがみはティッシュを丸めてゴミ箱へ捨てた。
「かがみ」
「何?」
「ありがとう」
「どういたしまして。……で、帰ったら早速お父さんの耳そうじしてあげるの?」
「んー……それもいいけどさ。その前に……」
こなたはテーブルに置かれていた耳かきを手に取る。それから正座して膝の上を軽く払い、
「まずお返しに、かがみにしてあげるね」
手招きするこなたに、かがみは再び顔を真っ赤にした。
「なっ……わ、私はいいわよ。自分でできるから――」
「遠慮しないでさ、ほら」
断ろうとするかがみを強引に引っ張るこなた。とうとう膝枕にされ、かがみは観念してため息をついた。
「しょうがないわね……あんた、初めてなんでしょ? 大丈夫?」
「大丈夫! ……多分」
「すげー怖いんだけど……」
「まあまあ、任せたまへ」
「本当に頼むわよ……」
くすぐったくても動かないよう、体をじっと固定する。目を閉じると、こなたのふとももの暖かい感触が自分の頬に当たっているのが分かった。何となく良い匂いもする。
(……って、何考えてんのよ私は)
胸中で自分に突っ込みを入れて、かがみはまたため息をついた。
初めてという割に、こなたの耳そうじは存外上手だった。
何となく、かがみは昔、母親に耳そうじしてもらった時のことを思い出していた。
「何?」
「ありがとう」
「どういたしまして。……で、帰ったら早速お父さんの耳そうじしてあげるの?」
「んー……それもいいけどさ。その前に……」
こなたはテーブルに置かれていた耳かきを手に取る。それから正座して膝の上を軽く払い、
「まずお返しに、かがみにしてあげるね」
手招きするこなたに、かがみは再び顔を真っ赤にした。
「なっ……わ、私はいいわよ。自分でできるから――」
「遠慮しないでさ、ほら」
断ろうとするかがみを強引に引っ張るこなた。とうとう膝枕にされ、かがみは観念してため息をついた。
「しょうがないわね……あんた、初めてなんでしょ? 大丈夫?」
「大丈夫! ……多分」
「すげー怖いんだけど……」
「まあまあ、任せたまへ」
「本当に頼むわよ……」
くすぐったくても動かないよう、体をじっと固定する。目を閉じると、こなたのふとももの暖かい感触が自分の頬に当たっているのが分かった。何となく良い匂いもする。
(……って、何考えてんのよ私は)
胸中で自分に突っ込みを入れて、かがみはまたため息をついた。
初めてという割に、こなたの耳そうじは存外上手だった。
何となく、かがみは昔、母親に耳そうじしてもらった時のことを思い出していた。
おわり
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- 俺も、耳かきされたい! -- 名無しさん (2010-01-12 17:04:18)