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みなゆたのふれあい

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だれでも歓迎! 編集
私達は午後六時、急に降りだした夕立から逃げるように、私とみなみちゃんは公園のベンチへと駆け込んだ。
ここはベンチに屋根があって、空き缶やガムの包みといった小さなゴミがまばらに落ちている。
「ひゃー」
「ゆたか……大丈夫?」
「うん……さっきまですごくお天気よかったのに、急にくるんだもん」
「ちょっと、濡れちゃったね」
私とみなみちゃんは頭を肩を濡らしてしまっていた。予期せぬ事態。晴天かと思っていたら急に雨雲が浮かび始めて、
私達は何の準備をする間も与えられないうちに、この大降りの雨に見舞われちゃって、ちょっとばかりテンパって、
とりあえずこの公園へと駆け出してきたんだ。屋根のあるベンチだけど、雨粒は地面を跳ねて小さな飛沫になっている。
肩を濡らした事と、もう陽が傾きかけた事、加えて11月ということで、私は少し肌寒さを感じていた。
「ゆたか、寒いの?」
「うん、ちょっとね。みなみちゃんは寒くないの?」
心配そうな顔で、私を見つめるみなみちゃん。水に濡れた黄緑の髪が、濁った光の雫を垂らしていた。
「私は平気……でもゆたかは」
「もうちょっとでみなみちゃんのおうちだったのにね~。ちょっとでも止んでくれたら、すぐに帰れるのに」
私はみなみちゃんの言葉を遮るように喋った。もとい、遮った。私の身体の事もあって、みなみちゃんは必要以上に
私の事を心配してくれる。それは嬉しいんだけど、すごく申し訳無かった。雨に濡れただけじゃ私は大事はないから
気遣いの空気を作らせない事で、自分は大丈夫だとみなみちゃんに思わせたかった。
「私が本屋で雑誌選びに時間かけちゃったから、ごめんね」
「それは……関係ない。降られるのは運の問題だから。……そうだ、雑誌は濡れなかった?」
「え、うーん……大丈夫……じゃ、なさそう」
私は困ったような笑みを浮かべた。雑誌をいれた紙袋は半分以上湿っていた。
みなみちゃんはポケットからハンカチを取り出すと、私の髪から落ちて頬に垂れた雨粒を、そっと拭ってくれた。
その行動に、私の胸は強く高鳴った。ただしそれに、身体が弱い私にダメージを与えるような痛みは無かった。
(まただ――何度みなみちゃんに優しくされても、ドキドキが止まらない……)
きっと私の頬は、ぽっと染まっているに違いない。みなみちゃんは何も言わないけれど、柔らかな微笑みで返してくれる。
この日学校を終えた私達はすぐに校門で待ち合わせをして、商店街へ短いデートをしていた。
今日はいつもとは違い、みなみちゃんの家の近くの商店街で買い物をすることにした。いつもは私の家の近くだった。
そこでアクセサリーショップに寄ったり、本屋に寄ったり、帰りはみなみちゃんの家の近くの駅で別れる……予定で。
何の前置きも無しにデートって言っちゃったけど、その通り私とみなみちゃんは……恋人同士になっていた。
(私、みなみちゃんのことが好きなの――)
それは三ヶ月前のこと、夏の終わりが近付く頃に自分の想いを半泣きでみなみちゃんに伝えた私。
いつものみなみちゃんからはちょっと想像できない驚いた顔を見せて、それから私と同じく赤面をすると、
返事の代わりにそっと抱き締めてくれたみなみちゃん。私は喜びと切なさで胸が疼き、倒れそうになった。
(私がゆたかをずっと守るから)
二人の想いが通じ合ったその帰り道、私の手を優しく握って歩くみなみちゃんがそう言った。
私は嬉しくもあり、悔しくもあり。私はみなみちゃんにこれまででも守ってもらってばかりだったから。
恋人同士になったとはいえ、私達の間ではそれほど大きな変化は起きなかった。一緒に遊びに行くのを「デート」と呼んだり、
前よりも連絡をする事が多くなったり、一緒にプリクラを撮るときにちょっとばかり身体の触れる面積が多くなったり、
……週に一度のデートでは、最後に必ずキスをするようになったり。
(ゆたか……いい?)
自分の部屋で初めてのキスを思い出すと、今でもどうしようもないくらいもやもやした気持ちになって、私は布団に潜り込む。
小鳥が啄ばむような、唇と唇がそっと触れるだけの優しいキス。私達はそれだけで、お互いにゆでだこみたいになる。
それから何度か唇を重ねてきたけど、いつも腫れ物に触るかのような優しいキス。私は十分満足だった。
それは数え切れないほどってわけじゃないけど、キスなんて一度や二度じゃないのに、何度やっても恥ずかしい。
みなみちゃんも同じみたいで、私達は赤面して、ドキドキして、キスして、離れて、ドキドキして、赤面して、の繰り返し。
それからちょっとの間をおいて、みなみちゃんは照れが混じった柔らかな笑顔で私に
(ゆたか……好き)
と言ってくれる。ただそれだけが何よりも心地良くて、みなみちゃんの恋人でいられる喜びを一番に感じる瞬間だった。
(私も、好きだよ。みなみちゃん)
私達はデートの途中、何度か手を繋ぐ。繋ぎっぱなしじゃないのは周囲の視線を気にしているからなんだけど、
(みなみちゃん、みんなが見て……)
(いいから)
私が少しみなみちゃんに追いつけなかったり、疲れが出たりしたときには、私をリードするようにしっかり握ってくれる。
そのときのみなみちゃんの握った手の強さは、周囲の視線なんか全く気にしてくれない強さと頼り甲斐があった。
それが私には……少しばかり悲しかった。それは、恋人同士の手の繋ぎ方じゃない。守る人と守られる人の繋ぎ方。
つまり、私はみなみちゃんに世話をかけているだけ。それを自分で感じるたびに少し辛くなって、でも安心する自分がいて。
私達は恋人同士だけど、友達の間で聞くような、ラブラブだとかイチャイチャだとか、そんな感じじゃない。
みなみちゃんがそんな感じだったらそれはそれで不自然だけど、もしかしたら女の子同士だからかなって穿ったりもして。
結局恋人同士になってもキスをするようになった以外は、前と何も変わらなくて。大きな変化を望んでいるわけじゃないけど、
それはつまり、友達同士のときにもあった私が一方的に守られる立場であることを継続していくということでもあった。
もっときちんと触れ合うなら、恋人同士のように触れ合いたい。みなみちゃんの手に、私からも愛情を込めて触れたい。
今なら触れられるかもしれない。大降りの雨を眺めるみなみちゃんの横顔から、その白くて細い指先に視線を移す。
(よかった。私の手、冷たくなってなくて……)
自分からみなみちゃんの手に触れるなら、暖かな手で愛を示したい。私の手は、それをするに小さくて物足りないけど……。
私の左手がそっと少しづつ、震えながらみなみちゃんの右手に近付く。少しづつ距離が縮まる事に、私の気持ちが昂ぶる。
保健室に向かうとき、デートの途中、人ごみの中、みなみちゃんから手を繋ぐときは安心して触れられるのに、
自分からとなっただけで、どうしてこんなに緊張するんだろう。それでも私はみなみちゃんに触れたくてたまらなかった。
やがて私の指先がみなみちゃんの指先にぴっと触れると、みなみちゃんはピクンとわずかに横顔を動かした。
みなみちゃんの手は冬服の袖に半分だけ隠されていて、私は袖から出ている指に探るように、すりすりと指を擦りつける。
横目でちらりと見たみなみちゃんの頬はピンク色に染まって……私はそんなみなみちゃんにさらに触れたくなった。
「……!」
私の指が、みなみちゃんの冬服の袖に侵入する。そのまま指先をみなみちゃんの手の甲で、文字を書くように動かせる。
そんなことを言葉もなく、雨の音を聞きながら続けていた。みなみちゃんは目を閉じて、その温もりを感じているみたい。
触れている面積は本当に少しだけの小さな世界なのに、しかもいやらしいところに触れているわけじゃないのに、
私達はそれだけで気恥ずかしさともどかしさ、少しの心地良さに昂ぶっていることを、お互いに感じ取っていた。
ここが私の触れたい限界点、もとい触れられる限界点なのかもしれない。物足りなさは適度なスパイスだった。
でも、みなみちゃんはどうなんだろう? もっと私に触れたい? 指先だけで足りているかな?
やがて、私の指からみなみちゃんの感触が消え――なかった。一瞬離れたその手はまた、包み込むように私の手を握った。
みなみちゃんと別々の空間にいても、目を閉じるだけで思い出せる、いつもの温もりだった。
でもやっぱり、みなみちゃんは足りてないのかも。いつまでもこの手と唇だけの関係じゃ、いけないのかもしれない。


雨はさらに大降りになって、単なる天気雨かどうか判断する事はできなくなった。
「雨……止まないね」
「あ」
「どうしたの?」
みなみちゃんは携帯電話を取り出すと、慣れた様子でどこかに電話をかける。
どうして早めに気付かなかったんだろう。数分後には高良先輩のお母さんが、車で迎えに来てくれた。
この公園はみなみちゃん家の近くにあるんだから、当然だった。その近くには高良家があったから。
みなみちゃんによると、この日みなみちゃんの家にはみなみちゃん以外誰もいないらしくて。
そこで、近くの高良家に電話をして、迎えに来てもらったらしく。どのみち今夜はみなみちゃん、高良家に泊まる予定だったみたい。。
私とみなみちゃんは少しだけ雨の中を走って、車へと乗り込んだ。
(あ!)
このまま高良家に行けば、みなみちゃんを降ろしたあとで私はそのまま駅まで送ってもらえる。
でもそれは、今日はもうみなみちゃんとお別れになる、ということだった。まだ大事なことを済ませていない。
(キス……しておけばよかった)
車の後部座席に座っていた私は、そっと自分の唇に触れた。改めて自分が、あのキスの虜になっていると気付いた。
それにあの指の触れ合いの後だから、尚更おさまりがつかない。みなみちゃんはどう思ってるんだろう。
「それにしてもすごい降っちゃったわね~、洗濯物取り込むの大変だったのよう」
「帰ったら……手伝います」
「たぶんおおかたのことは今ごろ、もうみゆきがやってくれてると思うのね。今日はつかさちゃんが遊びにきてねえ」
「つかさ先輩がですか?」
私がたずねた。
「そうなのよう。こないだみゆきがつかさちゃん家に泊まりに行ってからすごく仲がよくて、まるで恋人みたい。
今日はつかさちゃんがお泊りの予定だったんだけど、そういえばみなみちゃんに伝えるの忘れてたわ。ごめんねえ」
「いえ……じゃあ今は高良先輩と柊先輩の二人きり……」
「そうなのよう。二人で一緒にお夕飯を作るんだって、みゆきってば柄にもなく張りきっちゃってね」
かがみ先輩やおねえちゃんが一緒ならともかく、つかさ先輩がひとりでお泊りなんて、珍しかった。
いや、高良家のお泊り事情はよく把握してなかったんだけど、おねえちゃん達のいつもを見れば……。
「今日はいつもより盛りあがっちゃうかもねえ。よかったらゆたかちゃんも泊まっていったら~?」
「えっ、あの……私」
「ゆたかは、その……」
「私は全然いいわよう。みゆきやつかさちゃんも喜んでくれるかもねえ。ていうか泊まっていって~」
イエス以外の返事はなさそうだった。私をみなみちゃんはお互いの顔を見合うと、クスッと笑い合った。
よく考えたら、高良家に泊まるのは初めてで……あとでおうちに電話をいれなきゃ。
それに、まだしてなかったキスができるかもしれないし……。
「そういえばみなみちゃんもゆたかちゃんもビショビショねえ」
「あ……ゆたか、お風呂借りてく?」
「うん、ありがとう」
「二人とも身体冷えちゃったしねえ。そういえばみゆきとつかさちゃん、シチューを作るそうよ」
「みゆきお姉さんのシチューは……美味しいです」
「時間も時間だし、私もお腹ペコペコ~。あ、そうだわ。二人とも一緒にお風呂はいっちゃいなさい。その方が早いし」
……。
「「えっ?」」
私達を乗せた車はちょうどいいタイミングで、みなみちゃん家に到着した。


私達は返す言葉が見つからないまま、高良家の玄関を潜った。そこには、エプロン姿の高良先輩とつかさ先輩。
「いらっしゃい、みなみさん。あ、小早川さんも一緒だったんですね」
「みなみちゃん、おじゃましてるね。こんばんは、ゆたかちゃん」
みなみちゃんはおじゃまします、と呟く。私もおじゃまします、と頭を下げた。すでにシチューのいい匂いが……。
「今日はゆたかちゃんも泊まっていくのよう。思いがけず、賑やかになったわねえ」
どうやら私はもうお泊まり確定になっていたらしい。高良先輩やつかさ先輩もにこやかに迎え入れてくれた。
「じゃあ、二人とも早いうちにシャワー浴びちゃいなさい。そのままじゃ風邪をひくわよう」
「そうですね。では私は着替えを用意しておきますね」
「ゆたかちゃんには、みゆきの小さい頃のものを用意しておいたほうがいいわねえ」
きた……私とみなみちゃんは、顔を合わせることができなければ、お互いに言葉をかける事もできない。
「みゆきとつかさちゃんはお風呂まだだったわねえ」
「はい、後で一緒に……けふんけふん。私達は後ほどいただきます」
私がみなみちゃんの後を追うようにして、二人は脱衣所へと向かった。少しの距離と、緊迫した空気。
どうしよう……それって、みなみちゃんに私の、裸……を見せるってことだよね?
友達同士ならそんなに珍しくないことなんだろうケド……相手はみなみちゃんだし。好きな人だし。恋人だし。
お友達とお風呂に入った事が無いなんてことはなかった。そのときだって別に恥ずかしいとも思わなかった。
でも今は事態が違う。みなみちゃんだってきっと平気じゃない。さっきからずっと重々しい雰囲気を出してる。
タオルを巻いておけばいいよね? 私の貧弱な身体なんか、みなみちゃんは喜ばないだろうし。
……って、喜ぶとかどうかの話じゃないし、みなみちゃんはそんな女の子なんかじゃないし。
(べ、別にそんなエッチなことなんかじゃないよね。女の子同士ならフツー、フツー……)
みなみちゃんがまだ『友達』だったころなら大丈夫だったかと言われたら、それはないんだろうケド……。
「ゆたか……」
「な、なに?」
「制服……洗うから、そのまま洗濯機に入れて」
「う、うん……」
重い足取りでついに脱衣所にたどり着いた。私が先に服を脱いで、お風呂場に入る事になった。
脱衣所の扉の向こうには、みなみちゃんが立っている。タオルを着れば、そんなに恥ずかしいこともないかも。
衣服を洗濯機に放り込むと、私は身体にバスタオルを巻いた。私の身体にはちょっと大きいタオルだった。
起伏のない緩やかな曲線――そんなことを考えても仕方ないから、私はみなみちゃんに声をかけるとお風呂場に入った。
「わ、広……」
やっぱりお金持ちのおうちのお風呂は一味違う。実家のお風呂と比べても三倍も四倍も大きい。
あえておねえちゃん家のお風呂と比較しなかったのは察してほしいところ。
湯船からお湯を救って頭から浴びると、冷えた身体に熱が伝わって、心なしか緊張も解れてくる。
「ゆたか、入るね」
そういうとカラカラとお風呂場の扉が開いて、身体にタオルを巻いたみなみちゃんが入ってきた。
湯気でかすかにしか見えなかったけれど、少し伏目がちに恥ずかしがっているのがわかった。私以上に緊張してるのかも。
「私、友達とお風呂に入るの初めてだから……」
「そうなんだ? じゃあ私が初めてだね」
「うん……修学旅行とかで、クラスメートとは入った事はあるけど……」
「じゃあちょっと緊張しちゃうかもね。それに」
「それに?」
「私、友達じゃなくて……その……恋人だから」
そういうと、お風呂場に沈黙が走る。どうして自分から気まずくなるような事を言っちゃったんだろう。
「あ、頭洗っちゃおうかな」
「あ。シャンプーハット、ここにある……」
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
「そう、じゃあ」
みなみちゃんは近くにあったポンプを一、二回押すと、自分の手の平にシャンプーを出した。
「私、洗ってあげる」
「えっ……う、うん。ありがとう」
みなみちゃんの手が私の髪に触れて、それを動かすたびにツインテールを解いた髪に泡が立っていく。
まさか洗ってもらえるとは思わなかった。みなみちゃんはまた、私のことを思ってここまで?
撫でるような優しいタッチで頭を洗われていく。少しこそばゆかった。私は泡が入らないようきゅっと目を瞑る。
「あとでみなみちゃんも洗ってあげるね」
「うん……これ、みゆきお姉さんのお気に入りのシャンプーなんだ」
「そういえばすごくいい匂いがするね。どんなシャンプーなの?」
「海外から取り寄せた、ココナッツ成分の……トリートメントも同じ種類で、髪がサラサラになる」
「高良先輩、髪長いのにすごく綺麗だからね~みなみちゃんも結構サラサラしてるし」
「ゆたかの髪も……柔らかい。触ってて、気持ちいい」
「わ、私も気持ちいいよ……」
また気まずくなってしまった。みなみちゃんはシャンプーを洗い流すと、今度はトリートメントをとり、同じように洗った。
「ありがとう。すごく気持ちよかった」
「そう、じゃあ今度は」
「私が洗ってあげるね」と口にしようとしたときだった。
「背中、流してあげる」
「えっ! だ、大丈夫だよみなみちゃん」
「任せて」
いくら背中とはいえ、これ以上みなみちゃんに肌を見せるのは恥ずかしかった。水着とかで見られてる部分のはずなのに。
私はもう反論せず、座ったまま身体に巻いたタオルを軽く解くと、無防備な背中をみなみちゃんに晒した。
きっと背中まで真っ赤になってると思ったんだけれど……。
「ゆたかの背中……白くて綺麗」
ボディソープの泡が付着したタオル越しに、みなみちゃんの感触が伝わる。
「ふあ……」
「……! ごめん、ゆたか。痛かった?」
そうじゃない。恥ずかしさで敏感になったのかもしれなかった。みなみちゃんの手が這うように動くたび、妙な心地良さ。
私が首を横に振ると、みなみちゃんはさっきよりも優しい動きで背中を洗ってゆく。
私の背中とみなみちゃんの手の間にある境界線のタオルの感触が消えたような気分。直接触れられてるような……。
「ふぅ……んっ……」
「ゆたか、大丈夫?」
「なんでもないよ……ちょっとくすぐったいかな?」
きっとこのボディーソープも良い物に違いなかったけれど、それを話題にする余裕はなかった。
ただ恥ずかしく、ただ気持ち良い。好きな人にされているからか、久しぶりに誰かにされたからかはわからなかった。
ふと考えた。みなみちゃんは背中まで流してくれた。優しさから? もしかして私にもっと触れてみたかった?
髪が柔らかいって言われたときは嬉しかった。頭を洗われたときも、そして今も、確かに気持ちが良い。
私も、みなみちゃんに触れてほしがってる……? 背中だけじゃなく、この気持ち良さがもし全身にきたら……?
(そんないやらしいこと考えちゃダメ……みなみちゃんがせっかく、優しくしてくれているのに)
公園でみなみちゃんの手に触れたときは、たしかにあれで満足したような気分だった。本当はそうじゃないとしたら。
あのときと今とでは状況が違う。そのせいで私はずいぶん欲張りになったのかな?
今は身体がたくさん触れるだけのきっかけがたくさんある。みなみちゃんが触れさせてくれるかは別として。
そもそもまだ私は、本当にみなみちゃんに触れてほしいのかわからない。みなみちゃんが触れたいのか、もだけど。
背中にかけ湯をして、泡が洗い流された。今度こそは私が、みなみちゃんを洗ってあげる番だった。
「みなみちゃんの髪、本当にサラサラだね。毎日しっかり梳いてるんだね」
「髪が短いから……手間がかからない。ゆたかみたいに可愛い髪形はできないし」
「みなみちゃんの髪型、好きだよ。かっこいいし……って、女の子にこんな褒め方しちゃったら」
「ううん。嬉しい。ゆたかが喜んでくれるなら、私はこのままでいる」
「昔からこの髪型なの?」
「うん。なんとなく、飾ったりいじったりは向いてないと思って」
「私は髪型が子供っぽさに拍車をかけてるみたいで、変えちゃおうとしても全然似合わなくて」
「私と同じ……ゆたかも、今のままで良い」
「うん!」
ようやく、普通と呼べる会話ができる。シャンプーもトリートメントも洗い流して、ついに背中になった。
「じゃ、じゃあみなみちゃん……背中……」
「あ、うん」
みなみちゃんのタオルが解かれて、真珠のような白さを持った背中が露わになった。水に濡れて光沢が増している。
「綺麗……」
「ゆたか、恥ずかしい……」
「で、でもみなみちゃんも同じ事いったんだからね!」
「……ふふっ。そうだった」
タオルにボディーソープを染み込ませて泡立てると、私はゆっくりとみなみちゃんの背中を洗い始めた。
タオル越しでもわかる。シルクのようになめらかな肌触り。予想通り、みなみちゃんの身体は綺麗だった。
「こうしてたまに一緒にお風呂に入るのも楽しいかもしれないね」
「うん……できればまた入りたい」
「そうだね」
「ゆたかは……私と入ってイヤじゃない?」
「全然イヤじゃないよ。だってお風呂にはいるだけだもん。最初はすっごく緊張してたけどね。でも女の子同士だし。
恋人同士って考えてたら、ちょっと恥ずかしくなっちゃうかもだけど、みなみちゃんはいつも通り優しくしてくれるし」
「!」
「こんな風に背中を流しあいっこするのも、すごく楽しいし。たまにおねえちゃんとしてるんだけどね」」
「ゆたか、ごめんね」
「えっ」
突然のみなみちゃんの謝罪に、私はタオルの動きを止めた。ごめんね?
「私、優しくなんかない……いけないことずっと考えてた。もっとゆたかに触れたいと思ってた」
「みなみちゃん……?」
みなみちゃんの右手は、タオルの裾を強く握って震えていた。暴力的な衝動を抑えているみたいに。
「みなみちゃん……でも私達、もう何度も触れ合ってるし、今だってこうやって」
「違うの……だから私は、これ以上制限できなさそうな自分がイヤで」
その声は震えていて、僅かに怒気がこもっていた。でもその怒りは、私に向けられてはいないってすぐにわかった。
みなみちゃんの言葉は口数が少ない分、時折しっかりとした力が込められている。私はそれに何度も助けられた。
「制限できないって……その……」
「さっきだって、ゆたかの髪を洗っているうちに肩に触れたくて、背中にも触れたくて、あまりにも綺麗だったから」
「う……」
「こんなに可愛くて、大好きで綺麗なゆたかの身体に、もっとたくさん触れたいって思ってた。必要以上にでも。
今の私の汚い手で綺麗なゆたかに触って、汚しちゃうかもしれないのに。でもゆたかに触れて、ゆたかに触れられて、
もっと触れられるかもとか考えてしまって、でも調子に乗りすぎて、ゆたかに拒絶されたらどうしようって思って」
拒絶? 私が? みなみちゃんは私にもっと触れたいって。
みなみちゃんの手が汚い? こんなに綺麗で、いつも私の事を気遣って優しく触れてくれる、私の大好きなこの手が?
「ゆたかに公園で手に触れられたとき、すごく嬉しかった。ゆたかも触れたがってるって思って、その気持ちが嬉しくて。
でもきっと、ゆたかの気持ちは私の気持ちとは違うから。好きな人に触れたいって気持ちでも、別のものだから」
そうだったんだ……私は少し、安心したような、どこか恥ずかしくも、嬉しい気持ちが込み上げるのに気付いた。
みなみちゃんも同じだったんだ。触れたいとか、触れてほしいとか、そういうことをずっと考えていたんだ。
……さっきまでの私と同じように。たぶん大きさや方向は違うんだろうけど、お互いにもっと相手を求めていたんだ。
それは普段、言葉数が少ないみなみちゃんが、ここまで自分の本心を話してくれちゃうくらい。
「ゆたか、ごめんね」
「みなみちゃん……」
みなみちゃんが苦しんでいる。自分だけ、邪な事を考えていたんだって自分を責めている。
私の事を心配してくれるその分、自分のことが許せなくなっているんだ。私はイヤだなんて少しも思わないのに。
だったら、その必要は無いんだよ? 私は心の中なら一瞬だって、みなみちゃんを拒絶する気なんてなかった。
私がみなみちゃんを助けてあげなきゃ。元々、私も正直になりきれなかったこともいけなかったんだから。
最初は、本当に私はもっとみなみちゃんに触れたいのかわからなかった。でも今なら、はっきりとよくわかる。
(みなみちゃんに触れてほしい……手のひらだけじゃなくて、唇だけじゃなくて……)
相手に触れたいって思う事がいやらしいことかな? 私達はお互いに触れ合いたいって思っているのに。
確かに私の身体は、触れるには小さくてつまらない身体だけど。こんなに触れたいって言ってくれる人がいるし。
私はその人に一番に触れてほしいって思っているのに……だからみなみちゃんは、自分を責める理由は何もない。
「みなみちゃん“も”、私に触れたいの?」
「うん……えっ?」
「だったら、同じだよ」
私は再び、みなみちゃんの背中を洗う事を再開した。大好きなものに触れてるんだから、できるだけ優しく。
「ゆ、ゆたか」
「その……身体が触れるだけっていうなら、私だってみなみちゃんに触れたいし、触れてほしい。できれば全身。
でも私、こんな小さくて、身体も弱いし、触れるのが躊躇われるような女の子だから。すぐに心配かけちゃうし。
だからみなみちゃんが触れてくれるのが嬉しくて。手を繋いでくれるのが嬉しくて、わざわざ悲観的に見てたけど……。
でも当然だよね。手を繋いでるのが嬉しいときから当たり前だった。好きな人に触れたいって思うのは当たり前。
みなみちゃんが私の事好きだって思ってるなら……私に触れたいと思うし、私も、そう思ってほしい……かな」
自分で言っててとても恥ずかしい。私は俯いたまま両指を絡めて、みなみちゃんの言葉を待った。
「ゆたか、本当に……」
「わ、私ってば、いやらしいかな?」
「……ううん」
顔は見てないけれどわかる。みなみちゃんはきっと微笑んでいる。いつもみたいに、私だけに向けてくれる笑顔で。
それがわかると、私も同じように微笑んだ。それはみなみちゃんも気付いているに違いなくて、それが嬉しくて。
「でも、実際に触れ合うって、ど、どうすれば……」
「う……ゆ、ゆたか」
「なあに?」
「抱き締めて……いい?」
「……うん」


みなみちゃんの背中を洗い終えると、私達は向かいあって立っていた。
まだタオルを巻いていたとはいえ、改めて身体を見られるとすごく恥ずかしい。でもそれはおあいこだった。
抱き締め合ったりするだけなら、私達は今までに何度だってやっていた。私が想いを伝えたその日だって。
でも今は服を来ていない。直接密着する場所も、状況の恥ずかしさも段違いにエッチなものになっている。
みなみちゃんは両手を私に伸ばすけれど、どんな風に抱き締めればいいかわからないらしい。手は空中を泳いでいる。
いつもみたいにすっと優しく私を引き寄せて、包み込むように抱き締めるということが、しにくくなっているみたい。
「あ……待って、みなみちゃん」
「うん」
「これ……脱ぐから」
私の全身が真っ赤なのは、きっとのぼせたせいじゃない。震える手でそっと身体に巻いたタオルを外してゆく。
みなみちゃんは恥ずかしくて私を直視できないらしく、斜めに視線を落としてタイルの濡れた床を見つめていた。
「これならいっぱい触れられるから、みなみちゃんも脱いで?」
「う、うん……」
みなみちゃんは恐る恐る自分のタオルに手をかける。そのとき、視線がそっと私の身体へと向かった。
恥ずかしい……羞恥で涙がこぼれそうになる。みなみちゃんの目の前で生まれたままの姿になった私。
でも私はその半面、みなみちゃんに全てを見てほしくて、どこも隠さずに震えながら俯いたままだった。
みなみちゃんも脱ぎ終わったみたいだけれど、私はその身体を見つめることができなかった。自分だけで精一杯だった。
少しだけ涙を浮かべて、私はきゅっと目を閉じていた。生まれてから今までで一番恥ずかしかった。
「ゆたか……かわいい」
「や、やっぱり子供っぽいよね……」
「ううん、そういうことじゃない」
「ごめんね、抱き心地の悪そうな身体で……私」
言葉の途中で、私の身体はすっと抱き寄せられる。途端、少しの冷たさのあとにゆっくりと伝わってくる体温。
私達はなにも遮るものがない身体同士で、二つでひとつだったかのように、全身ぴったりと触れ合っていた。
身体が溶け合っていきそう。このまま二人で液体になって、交わりあっていきそうな気分だった。
みなみちゃんの心臓が高鳴っているのを感じる。私もそれは同じで、二つの鼓動は同調するように動いている。
「み、みなみちゃん」
「ゆたか……温かい」
「そうだよ、だってお風呂入ってたんだもん」
ロマンの欠片もない正論に、私達はくすっと笑いあった。それで結構余裕ができたのかもしれない。
身長差がだいぶあるから、みなみちゃんの胸に顔をつける形になった。みなみちゃんの両手は私の頭に回されている。
時折、私の髪に撫でるように触れてきて……私はみなみちゃんの背中に回した手にぎゅっと力を込めた。
身体に残る水滴と、少しづつ滲み出てきた汗はさらに、私達をくっつけてゆく。胸とお腹が、足と足が触れ合って……。
みなみちゃんの身体は思っていたよりも細くて……私達はお互いに全身を調べ尽くそうとしているかのようだった。
触れ合うって、こんなに素敵な事だったんだ。ただ肌と肌が寄り添うだけで、愛情をダイレクトに感じる。
私達はしばらく何も言わずに抱き合ったままで、恥ずかしさよりも今は喜びで満ち溢れていた。
「ゆたか」
「ん……」
「気持ち良いよ」
「私も。でもどうしよう……」
「なに?」
「くせになっちゃうかも」
ただ抱き合うだけがこんなに気持ちよかったなんて。それは、相手がみなみちゃんだからなんだろうケド。
「何度もしちゃったら……私」
「みなみちゃん?」
「いつかは、もう二度と離したくなくなる」
ようやく今の私達がお互いに満足のいくふれあいにたどり着けたみたいだった。二人とも、幸せな顔してるだろうから。
たぶん、もっと触れ合うこともいつかはあるんだろうけれど……今はこのままで、時間が止まってほしいくらい。
そういえば、今日はまだやっていない事があることを思い出した。
「ねえ、みなみちゃん」
「なに、ゆたか」
「キス……して」


高良先輩とつかさ先輩の作ったシチューは格別だった。特に高良先輩のお母さんはすごく美味しそうに食べていた。
「おかわりはありますから、たくさん食べてくださいね」
「こんなときにお父さんってば、残業だなんて大変ねえ。今日は女の子だらけで盛りあがりましょうね」
私とみなみちゃんは、微笑み合ってシチューに口をつけた。シチューの温かさが尚更頬を緩ませる。
「そうしていると二人とも、まるで姉妹みたいに仲良しねえ」
「そうですか? えへへ、照れちゃいますね」
私は頬を染めて頭を触る。本当は恋人同士です、なんていうことはまだ口にできないけれど……。
それに、実の事を言うと二人の関係はまだ誰にも話していなくて、私達だけのトップシークレットだった。
「だって車の窓から見てたんだけど、二人ともベンチで手を繋いだりしてて……可愛かったわよう」
「えっ……!」
私とみなみちゃんの身体がピシッと石化する。高良先輩とつかさ先輩も、スプーンを止めていた。
見られてた? 結構、恥ずかしいところなんですケド……でも、恋人同士だとは思われてないみたい。
高良先輩はつかさ先輩に何かを耳打ちしてる。つかさ先輩はうんうんと頷いていた。
「だから二人でお風呂に入ってもらえば、もっと仲良くなれると思って~。お風呂は楽しかった?」
「「は、はい……!」」
今度は二人揃って背筋をピンと立てる。高良先輩の二度目の耳打ち、つかさ先輩の二度目の頷き。
「じゃあ今度はみんなでお風呂に入りましょうねえ」
「わあ、楽しそうですね~」
と、答えてはみたんだけど……内心は焦っていた。一緒にお風呂がイヤなんじゃなくて……ね?
高良先輩とつかさ先輩は、ふたりそろってニコニコと、私とみなみちゃんに微笑んでいる。な、何だろう?
「ゆたかちゃんのお父さん……じゃなくておじさんには連絡を入れておいたから、今夜は遊びましょう~」
それから高良先輩とつかさ先輩のお風呂を待って、トランプ的な物で一通り盛りあがって……気付けばもうおやすみの時間。
高良先輩とつかさ先輩は一緒のお部屋で寝るみたい。手まで繋いで、すごく仲良し……うらやましい、かな?
お客様用の部屋で二人きりになると、急にお風呂場のことが思い出されてどうしようもない気持ちになった。
どうして今になって、こんなに恥ずかしく……私の身体、みなみちゃんに全部見られ……。
顔を合わせる事ができない。私は枕を掴むと、顔をぎゅっと押しつけた。みなみちゃんが不思議そうに見ている。
そういえばみなみちゃんの身体を見る事ができなかった。全身で感じてはいたけれど、ちょっと悔しい……。
「ゆたか……」
「なあに? みなみちゃん」
「明日の朝……また、お風呂に入ろう」
「うん!」
でも、世界一お風呂を好きになりそうな予感。


(あら、四人は別々の部屋で眠るのねえ。みゆきもつかさちゃんも、みなみちゃんもゆたかちゃんも、
お互い仲良しでお母さん、ちょっと寂しいわね……お父さん遅いし、私は今夜もひとりで寝るのかしら。
でも、四人とも声には気をつけてねえ。一応防音処理はしてあるんだけど、やっぱり心配だし~。
みなみちゃんとゆたかちゃんは奥手そうだから、一緒にお風呂なんて雰囲気づくり協力しちゃったけど、
みゆきとつかさちゃんはともかく、みなみちゃんとゆたかちゃんはいつ本当のことを話してくれるのかしらね。
いつでもいいから待ってるわね~お母さん応援しちゃうから。まだまだ先にはなると思うけど~。
私もひさしぶりに、お父さんとお風呂入っちゃおうかしら。でも……あの人遅いし、待ってたら……寝ちゃい……)






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  • みな×ゆた・を、ゆかりさんの存在感
    が上回りましたね!心眼ッスね? -- チャムチロ (2012-09-18 12:18:44)
  • ぐはぁっ………バタッ

    萌え死ぬ………ゆかりさんGj! -- 名無し (2010-03-09 07:39:51)
  • ゆたか可愛い -- 名無しさん (2009-04-25 08:09:41)
  • ある一線の上を寸分違わず、越えずに、しかも完全に一線に乗せる描写が見事すぐます。 -- 名無しさん (2009-01-18 22:15:21)
  • 此のみなゆた 純情過ぎてかなり萌える

    -- ラグ (2009-01-18 12:35:43)
  • いろんな意味ですごすぎる。みなゆた描写が今まで見たなかで一番うまい。ファンになりました! -- 名無しさん (2008-08-31 15:27:30)
  • 破壊力が抜群すぎる -- 名無しさん (2008-02-22 12:35:18)
  • 純情奥手なみなゆた萌えwww -- SKK (2008-01-16 20:43:33)

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