眩しくて、手を伸ばせなかった。今も、まだ――。
『太陽のフーガ』
「にしても……、本当に日下部と写ってる写真が多いわね」
半ば呆れながら、もう半分は感心したように彼女は言葉を漏らす。
「うん。……まあ、それだけ一緒にいる時間が多かったってことだけど」
自分の子どもの頃のアルバムを興味深そうに見ている柊かがみに、この部屋の主――峰岸あやのはやや恥ずかしそうにしながら言葉を返した。
すっかり早くなった夕暮れの光が窓から部屋の中へと差し込んでいる。
半ば呆れながら、もう半分は感心したように彼女は言葉を漏らす。
「うん。……まあ、それだけ一緒にいる時間が多かったってことだけど」
自分の子どもの頃のアルバムを興味深そうに見ている柊かがみに、この部屋の主――峰岸あやのはやや恥ずかしそうにしながら言葉を返した。
すっかり早くなった夕暮れの光が窓から部屋の中へと差し込んでいる。
もうすぐ冬至――、一年でもっとも太陽が出ている時間が短い日に程近い、12月の半ばほど。
ずっと同じクラスで、親友とも言える少女があやのの家までやってきていた。
勉強の休憩の合間に、ふと話題にあがった昔のアルバムを彼女は物珍しげに眺めていた。
「でも……、私も似たようなもんか」
何か思い当たる事でもあったのか、ポツリとかがみは言葉を漏らす。
ずっと同じクラスで、親友とも言える少女があやのの家までやってきていた。
勉強の休憩の合間に、ふと話題にあがった昔のアルバムを彼女は物珍しげに眺めていた。
「でも……、私も似たようなもんか」
何か思い当たる事でもあったのか、ポツリとかがみは言葉を漏らす。
「峰岸たちも……、ずっと一緒だったわけね」
「うん……。家も近かったし、学校も一緒だったし。それに……」
そこで、あやのは口をつぐんだ。
「……最近ね、時々思うの」
そう切り出して、隣に腰を落としたあやのを、かがみは見つめる。
「私にとって……、みさちゃんって何なんだろうって……」
小さく呟いて、あやのはそっと言葉を吐き出した。
「うん……。家も近かったし、学校も一緒だったし。それに……」
そこで、あやのは口をつぐんだ。
「……最近ね、時々思うの」
そう切り出して、隣に腰を落としたあやのを、かがみは見つめる。
「私にとって……、みさちゃんって何なんだろうって……」
小さく呟いて、あやのはそっと言葉を吐き出した。
「気付いたときにはもう、私とみさちゃんは仲良しだった。いつ知り合ったのかも覚えてないくらい……気付いたら一緒にいるのが自然になってた」
「………」
「うん、そう……。ずっと……一緒だった。昔から私は……」
「………」
「うん、そう……。ずっと……一緒だった。昔から私は……」
♪
――なんだか急に、遠くの存在になってしまったような気がした。
夕暮れに染まる教室。
まだ馴れていない、新しい中学校の校舎。
そして、窓から見えるグラウンド。
そこには部活に励む生徒達が見えていた。
その中に混じっている、見知った顔。
校庭の中を真剣な表情で走る姿は、小学校の運動会のときのものとダブって見えた。
まだ馴れていない、新しい中学校の校舎。
そして、窓から見えるグラウンド。
そこには部活に励む生徒達が見えていた。
その中に混じっている、見知った顔。
校庭の中を真剣な表情で走る姿は、小学校の運動会のときのものとダブって見えた。
放課後の教室に一人残っていたあやのは、窓際で、自分の知らない子と楽しそうに話しているみさおの姿を見つめていた。
ついこの間までは、自分の隣には必ず彼女がいたのに、今はこんなにも距離が開いてしまっている。
「あやのちゃん、いっしょに帰らない?」
声をかけられ振り返ると、同じ小学校だった少女達がいた。
「うん、今行くね」
そう返事をして、あやのは少女達のほうへと足を向けた。
一度だけ校庭のほうへ振り返って、あの子の姿を見つけて――胸のあたりが妙な感覚に包まれた。
まだ子どもだった自分にはその感情はわからなくて、それを振り切るようにして少女達の元へと向かった。
ついこの間までは、自分の隣には必ず彼女がいたのに、今はこんなにも距離が開いてしまっている。
「あやのちゃん、いっしょに帰らない?」
声をかけられ振り返ると、同じ小学校だった少女達がいた。
「うん、今行くね」
そう返事をして、あやのは少女達のほうへと足を向けた。
一度だけ校庭のほうへ振り返って、あの子の姿を見つけて――胸のあたりが妙な感覚に包まれた。
まだ子どもだった自分にはその感情はわからなくて、それを振り切るようにして少女達の元へと向かった。
それから2年ほど経って、
「なあ、あやのはどこの高校に行くんだ?」
昼休みに、お弁当を食べていたあやのにみさおがそんなことを聞いてきた。
「えっと……、なんで?」
「いいから、いいから」
遠慮せずに教えてくれ、とみさおは言う。
「その……、私立の陵桜学園、ってところだけど」
気圧されながらおずおずと、つい最近になって目標に決めた学校の名を口にした。
「陵桜……。……なあ、そこって私でも入れるか?」
「……へ?」
思わず口から変な声が漏れる。
「みさちゃん……、この前のテスト、合計何点だった?」
「ん? ああ、確か……」
と言ってみさおは点数を口にする。
昼休みに、お弁当を食べていたあやのにみさおがそんなことを聞いてきた。
「えっと……、なんで?」
「いいから、いいから」
遠慮せずに教えてくれ、とみさおは言う。
「その……、私立の陵桜学園、ってところだけど」
気圧されながらおずおずと、つい最近になって目標に決めた学校の名を口にした。
「陵桜……。……なあ、そこって私でも入れるか?」
「……へ?」
思わず口から変な声が漏れる。
「みさちゃん……、この前のテスト、合計何点だった?」
「ん? ああ、確か……」
と言ってみさおは点数を口にする。
「……………」
「……えっと、あやの?」
……ただ、目を逸らすことしかできなかった。
もし今は妹のところに行ってるだろう友達のかがみがいたら、きちんと「絶対無理だ」と言ってくれたかもしれない。
「んー……、そうか……」
みさおは箸を持ったまま腕組みをして、真剣な顔で何かを考え始めた、……と思った瞬間には、
「よし、決めた!」
「速っ」っと、思わずかがみのような突っ込みをいれそうになった。
「な、なにを……?」
なんとなくイヤな予感がしつつも聞いてみる。
「私もそこに入ることに決めたから!」
「…………………………」
「……えっと、あやの?」
……ただ、目を逸らすことしかできなかった。
もし今は妹のところに行ってるだろう友達のかがみがいたら、きちんと「絶対無理だ」と言ってくれたかもしれない。
「んー……、そうか……」
みさおは箸を持ったまま腕組みをして、真剣な顔で何かを考え始めた、……と思った瞬間には、
「よし、決めた!」
「速っ」っと、思わずかがみのような突っ込みをいれそうになった。
「な、なにを……?」
なんとなくイヤな予感がしつつも聞いてみる。
「私もそこに入ることに決めたから!」
「…………………………」
――そこから地獄のような勉強の日々が始まった。
そして二人は無事に進学し、
1年ほど経った春、
1年ほど経った春、
「やっぱりみさちゃんには、ちゃんと話しておこうって思って……」
いつものようにみさおの家に来ていたあやのは、緊張気味に言葉を発した。
さすがに普段と違う雰囲気であるのを感じたのか、みさおも真面目な目つきであやのの顔を見返す。
いつものようにみさおの家に来ていたあやのは、緊張気味に言葉を発した。
さすがに普段と違う雰囲気であるのを感じたのか、みさおも真面目な目つきであやのの顔を見返す。
「――そっか」
そのことを伝えたときの彼女の感想は、それだけだった。
「んー……まあ、そんな気はしてたから」
驚かないの? と聞いたあやのに、彼女はそう答えた。
「昔から、あやのが兄貴のこと―好きだっていうのはなんとなく判ってたし、兄貴もあやののことを大事に思ってるのは、見てればバレバレだったしさ」
だから驚いたって言うよりも、ようやくかって感じのほうが大きくて、と彼女は言う。
「私みたいに少しグータラなところもあるけど、兄貴はなんだかんだでしっかりしてるから、あやののことを大事にしてくれると思うよ」
「んー……まあ、そんな気はしてたから」
驚かないの? と聞いたあやのに、彼女はそう答えた。
「昔から、あやのが兄貴のこと―好きだっていうのはなんとなく判ってたし、兄貴もあやののことを大事に思ってるのは、見てればバレバレだったしさ」
だから驚いたって言うよりも、ようやくかって感じのほうが大きくて、と彼女は言う。
「私みたいに少しグータラなところもあるけど、兄貴はなんだかんだでしっかりしてるから、あやののことを大事にしてくれると思うよ」
そんなふうに言って笑みを浮かべた彼女の姿が、なぜか心に残って消えなかった。
それからまた1年と、少し経って、
「あー……、クリスマスは二人で楽しみなよ」
また今年も一緒に遊びにでも行かない? と、聞いたあやのにみさおはそう答えた。
「私は、まあ、用事あるし」
高校生活最後のクリスマスなんだからさっ、とあやのの肩を叩く。
「本当に……?」
なぜか、そんな言葉を口にしていた。
「うんうん。……ここだけの話、兄貴の空気読めって視線が痛くてさぁ」
今年は邪魔者は退散させていただきます、と相変わらずのテンションでそう答えた。
「うん……それじゃあ、そうするね。……ありがと」
自分は何を、期待していたのだろうか。
何を言って欲しくて、あんなことを言ったのか。
ただみさおは「二人っきりでしか出来ない事をすればいいじゃない」と、楽しそうに笑っていた。
また今年も一緒に遊びにでも行かない? と、聞いたあやのにみさおはそう答えた。
「私は、まあ、用事あるし」
高校生活最後のクリスマスなんだからさっ、とあやのの肩を叩く。
「本当に……?」
なぜか、そんな言葉を口にしていた。
「うんうん。……ここだけの話、兄貴の空気読めって視線が痛くてさぁ」
今年は邪魔者は退散させていただきます、と相変わらずのテンションでそう答えた。
「うん……それじゃあ、そうするね。……ありがと」
自分は何を、期待していたのだろうか。
何を言って欲しくて、あんなことを言ったのか。
ただみさおは「二人っきりでしか出来ない事をすればいいじゃない」と、楽しそうに笑っていた。
それからも、いままでも、思っている。
♪
一緒にいるのが、当たり前だった。
どうしてこんなに仲がいいんだろうとか、どうして気付けばすぐ隣にいるんだろうとか、考えた事もなかった。
まるで家族みたいに、自然な関係だった。
だから、思う。
どうなってしまうんだろうって。
小学校の前から今までずっと同じ学校だったのに、来年からは別々の道に進むことになったら……、この関係は変わってしまうんじゃないかと。
今までも、そんなときはあったけど、今日まではどうにかその関係は崩れないですんできた。
だから、不安になる。
いつか失ってしまうんじゃないのかと――。
どうしてこんなに仲がいいんだろうとか、どうして気付けばすぐ隣にいるんだろうとか、考えた事もなかった。
まるで家族みたいに、自然な関係だった。
だから、思う。
どうなってしまうんだろうって。
小学校の前から今までずっと同じ学校だったのに、来年からは別々の道に進むことになったら……、この関係は変わってしまうんじゃないかと。
今までも、そんなときはあったけど、今日まではどうにかその関係は崩れないですんできた。
だから、不安になる。
いつか失ってしまうんじゃないのかと――。
「……思い出してみても、みさちゃんがいなかった日って、思いつかないの」
今まで誰にも話せなかったことのせいか、自分の想いが止まることなく溢れ出ていた。
すっかり日が落ちてしまった部屋の中で、かがみは何も言わずに、何も言わないで、ただ黙って自分の話を聞いてくれていた。
「幼馴染で、子どもの頃からずっと一緒にいて、親友で、それ以上な気もするし、妹のような、世話を焼いてあげたくなるような、それとも私を引っぱってくれるようなお姉さんみたいな……」
「………」
「それに……好きな人の家族で……」
どれも本当のことで、どれもそれにぴったりと当てはまるようなものとも思えない。
ただ、自分の心の中にいつもいる。
自分の生活の中に、思い出の中に存在している。
「……私にはわからないけど。ただ峰岸が、一番大切だって思ったものだけは……、大事にした方がいいと思う」
私はそうだったから、とかがみは言う。
一番大切なもの。
それは、なんだろうか。
あのコへの思い?
いま私を悩ませているこの感情?
それとも……、すっと昔から積み重ねてきた記憶のことだろうか。
やっぱりどれも正解のようで、違うような気もする。
「ありがとう、柊ちゃん。……変な話聞いてもらっちゃって」
ううん、と彼女は言ってくれた。
すっかり日が落ちてしまった部屋の中で、かがみは何も言わずに、何も言わないで、ただ黙って自分の話を聞いてくれていた。
「幼馴染で、子どもの頃からずっと一緒にいて、親友で、それ以上な気もするし、妹のような、世話を焼いてあげたくなるような、それとも私を引っぱってくれるようなお姉さんみたいな……」
「………」
「それに……好きな人の家族で……」
どれも本当のことで、どれもそれにぴったりと当てはまるようなものとも思えない。
ただ、自分の心の中にいつもいる。
自分の生活の中に、思い出の中に存在している。
「……私にはわからないけど。ただ峰岸が、一番大切だって思ったものだけは……、大事にした方がいいと思う」
私はそうだったから、とかがみは言う。
一番大切なもの。
それは、なんだろうか。
あのコへの思い?
いま私を悩ませているこの感情?
それとも……、すっと昔から積み重ねてきた記憶のことだろうか。
やっぱりどれも正解のようで、違うような気もする。
「ありがとう、柊ちゃん。……変な話聞いてもらっちゃって」
ううん、と彼女は言ってくれた。
そのまま決められず、考え続けて、
――24日が来て、
――24日が来て、
「――あやの」
玄関先で、呼び止められた。
振り返った視線の先の彼は、複雑な表情で自分のことを見つめていた。
その顔を見て、胸がきしむ。
でもそれは、確かにこの人が好きだということの証。
「少しだけ……、待っててくれませんか?」
彼は何も言わなかった。
ただ一言だけ声をかけ、そのまま私を送り出してくれた。
玄関先で、呼び止められた。
振り返った視線の先の彼は、複雑な表情で自分のことを見つめていた。
その顔を見て、胸がきしむ。
でもそれは、確かにこの人が好きだということの証。
「少しだけ……、待っててくれませんか?」
彼は何も言わなかった。
ただ一言だけ声をかけ、そのまま私を送り出してくれた。
外に出て、見上げて見えた昼過ぎの空には、あまり雲が浮かんでいなかった。
もちろんこっちじゃ、雪なんて期待できないのはわかっている。
降ったとしてもどうせ雨だろうし、ならば晴れていたほうがいいだろう。
それに今夜は、満月だという。
これならきっと、夜には綺麗な夜空が広がっていると思う。
だっていうのに、見上げた空はよく晴れているのに、なぜか酷く……灰色に見えた。
もちろんこっちじゃ、雪なんて期待できないのはわかっている。
降ったとしてもどうせ雨だろうし、ならば晴れていたほうがいいだろう。
それに今夜は、満月だという。
これならきっと、夜には綺麗な夜空が広がっていると思う。
だっていうのに、見上げた空はよく晴れているのに、なぜか酷く……灰色に見えた。
こぼれた息が寒さに凍えて、白くにごって空気に消えた。
stray birds - fin.