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得恋

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だれでも歓迎! 編集
 走った。ともかく無我夢中で走った。通行人の人たちは、泣きながら走る私の姿に、怪訝そうな顔を浮かべている。
 暫く走ってから、駅までかなりの距離があることに気付いて、走るのをやめて、歩くことにした。
 止まれと思っても、涙は止まることを知らずに、溢れ続ける。私は今、本当に何もかもが嫌になっていた。
 恋人直前と思える二人も嫌だったし、そんな高良君に少しでも期待をかけた自分自身への自己嫌悪、それらが全てごちゃ混ぜになって、頭の中が埋め尽くされていた。
 もう、どうすればいいんだろう。いくらなんでも、理由も告げずに飛び出したのはまずかったかな…。でも、あの時は、感情が制御できなかった。
 私は、早く帰って、寝てしまいたかった。気がつけば、既に日は暮れ始めている。
「大通りは避けよう…」
 何となく、人目を避けたかった私は、大通りを離れ、人気のない道へと入っていく。怖かったけど、それ以上に、誰にも見つかりたくなかった。糟日部駅へ行くのもやめて、西の方向へ進んでいく。こっちの方は、田んぼばっかりだ。
 そして、暫くとぼとぼと歩いていると、徐々にバイクの音が近づいているのが分かった。まあ、良くあることだよね…。私は、邪魔にならないように、端へ寄った。でも、いつまでも、バイクは私を追い越そうとしない。
 まもなく、一台のバイクが、私に横付けするような格好で止まった。…何なんだろう。怖いよ…。乗っている人たちは、明らかに悪そうな格好の男の人たち、二人だった。
 語彙が乏しい私には、こんな曖昧な表現しか出来ない。でも、それはともかく、怖かった。逃げ出したかったけど、体が思うように動かない…!
「なあ、お姉さ~ん。俺たちとツーリングしな~い?」
「さっすが、兄貴! 女子高生をナンパなんてすごいっす!」
 前で運転している人の方が、初めに話しかけてきて、後ろに乗っている人が、相槌を打った。
「え、あ、あの…」
「ねえ、いいじゃ~ん。付き合ってよ~」
 片方の男の人が私の腕をつかんできた。
「は、放してくださいっ!」
 何とか腕をばたばたさせるけど、男の人の力は強くて、全く放せない。
「ダメだぜ。兄貴は、狙った獲物は放さないからな。あ~はっはっ!」
 もう一人の方が、ウインクしながらそう言った。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。周りは田んぼばっかりで、助けを呼べるような状況じゃない。一人で何とかしないと…。でも、一体、どうするの…?
 助けて、お姉ちゃん…こなちゃん…高良君…。私は、無意識に目を瞑った。もう、終わりだ。ゲームオーバーだよ…。
「そこの人を離しなさいっ!」
 そのときだった。後ろから、聞き覚えのある声がしたのは。私は、我に帰り、振り返る。男の人たちも、声のしたほうを見た。
 そこにいたのは、口を真一文字に結んで立っていた高良君だった。
「た、高良君…」
 来てくれたんだね、と続けて言おうとするけど、声が出ない。でも、私はとてつもなくうれしかった。
「何だ、お前は?」
「名乗る必要はありません。ともかく、そこの人を放しなさい。嫌がっているではありませんか。強要罪ですよ」
「うるせえなあ…。しゃあねえ、お前を黙らすしかねえな。おい、やれ!」
 私の腕をつかんでいる男の人が、もう一人の人に目で指示を送り、もう一人の人が高良君の前に立ちはだかった。
 ああ、どうしよう…! 高良君が来てくれたのは良いけど、このままじゃ、私のせいで高良君に危害が及ぶよ!
 ああ、本当に最悪だよ…。どうしよう、どうしよう…!
「ふん、高校生のガキなんぞ、さっさと片付けてやらあ!」
「それはどうでしょうか」
 やたらと威勢のいい声に対し、高良君は冷静にそう言った。そして、そういうが否や、男の人へ駆け寄り、背負い投げをする。
 それは、見るも鮮やかだった。あっという間に、男の人は高良君に投げ飛ばされてしまい、私も、私をつかんでいる人も、息をのんだ。
 そして、高良君は、ポケットからスタンガンを取り出し、倒れている人の胸に、それをあてがった。
「あ、あぎゃあああああ!!!」
 電流を流される間、男の人は、奇声を発していた。それが終わると、ふらふらになりながら、バイクに抱きつく。
 そして、高良君はというと、鬼気迫るオーラを放っていた。今までに見たこともない表情で立っていて、本当に怖かった。
「あ、あぐ…」
 いつの間にか、私の腕は放されていた。そして、つかんでいた人は、歯をカタカタと鳴らしながら、高良君を見ていた。
 高良君は、スタンガンを、こちらに向けて、
「次はあなたです。お覚悟はよろしいですね…」
 それは、誰もがぞっとする光景だったに違いない。私も、男の人も、顔が真っ青になった。
「…に、逃げるぞ!」
 男の人はそういうと、バイクのエンジンをふかして、もう一人の人に合図を送った。もう一人の人は、へとへとになりながら、バイクに乗る。
 そして、二人は、あっという間に私の視界から、姿を消した。
「こ、怖かったぁ…」
 二人が消えたのを確認すると、思わずその場にへたり込んだ。だって、怖かったんだもん。本当に怖かった。今でも、何が起こったのか頭の整理がつかない。高良君が来てくれなかったら、私、私…。
つかささん」
 その声に、思わず見上げると、いつの間にか、高良君がいた。さっきのような鬼気迫る感じは全く無く、穏やかな笑みをこちらに向けていた。
「高良君、高良君…!」
 私は、涙を流しながら、高良君に抱きついた。
「怖かったんですね。でも…もう大丈夫ですよ」
 高良君の胸に埋まって泣きじゃくる私に、高良君は、片手で私を抱きながら、もう片方の手で私の頭をずっと撫でてくれる。
 本当に優しい。優しすぎるよ。でも、これも、委員長として当然のことなんだよね。高良君は、どんな人の役にも立ちたい、それだけなんだよね?
 そう思うと、切なくて、切なくて…胸が張り裂けそうになった。
「も、もういいよ」
「えっ?」
 身体を離す私に、高良君は、きょとんとした表情を向けて、間の抜けた声を出した。
「どうしてですか、つかささん…」
 その声は、悲しみにくれていた。でも、私は、話さなきゃいけない。このことに、私なりの決着をつけないと。
 そうでもしないと、いつまでも尾を引いてしまいかねない。
 私は息を吸ってから、
「だ、だって、委員長は、その、人の役に立ちたいだけだよね?
 だ、だからね、その、それを分かっていて、委員長に優しくされると、辛いのっ!
 委員長にしてみれば、これだって、人の役に立とう、それだけの思いでしょ?
 だからね、委員長に優しくされると、胸が苦しくなるの! 委員長が、委員長が好きだからっ!」
 私は、それだけ言うと、高良君に背を向けて、走った。こんなことになるなら、いっそのこと、出会わなければ良かった…。
 と、そんな事を思ったとき、がしっと肩をつかまれた。恐る恐る振り返ると、切迫した表情の高良君がいた。
「は、放して」
 嘘だった。本当は追いかけてほしかった。でも、こんな嘘をついてしまう私が情けない。
「…いいえ、放しません。つかささんは、誤解をしておられる。僕は、釈明しなくてはいけない。そうでしょう?」
「う、嘘だよっ! だって、だって、そうでしょ?
 委員長は、他人の役に立ちたいだけだよ! そして、委員長にとって、私はクラスメイトの以上でも、以下でもない!
 それに…それに…」
 私は、高良君に向き直って言う。
「それに、何ですか?」
 それを口に出すのは、とてもとても、勇気がいることだった。でも、この際だから言わなきゃいけないよね。
 感情の昂ぶりのせいで、思いも寄らずに、私の想いはさっき、高良君にわかってしまったはず。だったら、今更、聞くのをはばかる必要は無いことだった。
「お姉ちゃんと…付き合ってるんでしょ?」
 それを言うと、高良君は、呆然とした表情になった。大驚失色とは、このことを言うのかもしれない。私、何か変なことを言ったかな?
「それは…とんだ誤解ですよ」
「う、嘘」
「確かに、かがみさんのことは好きです。ですが、それは友人としてであって、僕にとっては、頼れる友人でしかありません。
 僕には、それ以上の関係になりたい人がいます。そして、その人は、目の前にいます」
 高良君は、ゆっくりと、一語一語を丁寧に、言った。そして、それを言い終わると、高良君は、私の両肩をがしっとつかんだ。
 う、嘘だよ。嘘だよね…? 私は、今、起こっていることが信じられなかった。でも、この世界は現実だ。
「高良みゆきは、柊つかさのことを、世界で一番愛しているんです。
 あなたは、闇を照らす灯台のようなお人です。あなたがいなければ、僕は、永遠に迷子になってしまいます」
「う、うぅ…」
 私は、何かこみ上げてくるものを感じた。
「つかささん?」
「う、うわああああん!」
 泣きながら、また、高良君に抱きついて、胸に顔をうずめる。さっきと同じ体勢になるけど、そんなのどうでも良かった。
 私は、本当に馬鹿だった。高良君やお姉ちゃんは何も悪くないのに、勝手に誤解して、勝手に拒絶して…。
「ごめんね、ごめんね、本当にごめんね…! 高良君に迷惑ばかりかけて…。本当に、私が馬鹿なせいで…!
 でも、でも、本当に、私は、高良君が好きだから、好きだから・・・!
 う、うわあああん!!」
 泣きじゃくりながら、必死になって言葉をつむぎだす。
「いいんです、いいんです。僕は、誤解が解ければ、それでいいんです」
 高良君はそう言って、私を抱きしめる力を強くした。高良君の身体は柔らかく、そして温かかった。
 私は、泣くのをやめたかった。でも、想いが通じ合えたのがうれしくてうれしくて。それを思うと、涙はいつまでも止まらなかった。
「ごめんね、ごめんね。本当に、本当に…」
「つかささん」
「ん…」
 涙を手でふき取りながら、顔を上げる。そこには、温かさに満ちた高良君の顔があった。
「その…目を閉じていただけますか?」
「ふ、ふえぇ?」
 目を閉じる…。こんなときにそんな事を言うなんて、そ、それって、あ、あれしかないよね? ないよね?
 私は、何だか頭が沸騰しそうになった。きっと、顔もかなり赤くなっている。
「あ、お、お嫌なら結構なのですが」
「う、ううん! い、いいよ。高良君なら…」
 こんなときに、高良君を裏切りたくない。それに、据え膳食わぬは何とやら、っていうし。…あれ? それって、逆の意味だっけ?
 う、ううん。そんなことどうでもいいよね。今は、目の前の状況に集中…しないと…。
 気付けば、高良君の顔は目の前に迫っていた。私は、静かに目を瞑り、そのときを待った。
「では…参ります」
 高良君の言葉の後、程なくして、口に柔らかい感触が広がった。
 キスってこんな感じなんだ。生まれてはじめての感覚に、私は、しばし、酔いしれた。
 暫くして、身体が離された。目を開けると、真っ赤になった高良君がいた。私も、自分の顔が紅潮しているのが分かった。
「これで、恋人同士になれましたね」
「…うん。大好きだよ、高良君」
 高良君の問いかけに対し、私は、ギュッと高良君に抱きついた。何となく、そうしたかった。
 本当に、高良君の身体は温かい。男の人の胸って、こんなに頼もしかったのかな。
「私もです、つかささん。でも、こんなときで悪いんですが、お願いがあるんです」
「何?」
 上目遣いで、高良君を見つめる。少しおろおろする高良君が、かわいらしい。
「その、僕のことを、名前で、呼んでいただけますか?」
 そういわれて、今までずっと名字で呼んでいたことにようやく気付いた。言われるまで、気付けなかった私は、本当に馬鹿らしい。
 でも、高良君、いや、みゆき君は、そんな私を受け入れてくれた。
 信頼できる恋人がいるということの、幸せ、温かさ、それらを今、体感している。今、私は、本当に幸せなんだろうと思う。
 そして、そんな幸せがずっと続くことを祈りながら、私は、口を開いた。
「…うん、みゆき君」
 自分が、好きな人と、一緒にいます。そんな秋の日のこと。柊つかさ。





(おまけ)


「全く。つかさも、みゆきも、一体全体、どこに行ったというのかしら」
 ここは、陵桜学園近くの田んぼ地帯。私、柊かがみは、消えた妹と、それを追った親友の行方を捜していた。
「ん~。そもそも、方角はこっちで合ってるの~?」
 そう言って、隣できょろきょろしているのは、私の友人、泉こなた。紹介は割愛する。
「それは間違いないわ。陸上部のやつが、西のほうに行った、って言ってたから」
「いや~。でも、西の方、って言っても、漠然としすぎじゃない?」
「しょうがないでしょ! 携帯に連絡しても、誰も出ないし…」
 そう、私は、二人の携帯にそれぞれ二回ずつ、電話をかけた。でも、マナーモードで気付かないのか、どっちも出なかった。
「まあ、しょうがないか。それに、こんな秋の夜長に、かがみんと歩くのもまたおつなもんだしね~」
 うるさいので、グーで殴る。
「あたっ! んもう、かがみん、何すんのさー!」
「あんたこそ、何言ってんのよ! こんなときに!」
「ごめん、ごめん。真面目に探すよ」
 全く…。この、こなたの言動や行動には、時折、ついていけないものがある。
 それでいて、いざというときには凄まじい行動力を発揮するのだから、頼もしいのやら、頼もしくないのやら。良く分からないやつだ。
 …って、そんなことより、あの二人を捜さないと。本当に、どこにいるのかしら。あてもなく、田んぼの中を歩く私たち。
「おっ! 隊長、見つけましたよー!」
「誰が隊長だ」
 そんなつっこみもそこそこに、私はこなたの方を向く。
 こなたは、双眼鏡で北の方を見ていた。
「…そんなもん、どこに隠し持ってたのよ」
「まあ、いいからいいから。ほら、あっちのほうを見てみなよ」
 そう言って、こなたは双眼鏡を私に渡す。
 そして、言われるがままに、こなたの指差す北の方を見る。
 すると、そこには…。
「…ちょっ、ま、待ってよ!」
「んあ?」
 こなたは、間の抜けた声を出したけど、そんなのどうでもいい。
 私が見た光景…あ、あれは、どう見てもつかさとみゆきが抱き合って…。そ、それって、やっぱり…って、ええええ!?
「いや~。フラグが立っているのは分かっていたけど、まさか、本当に、ああなるとはね~。
 さっきの一件でゲームオーバーかと思ったけど、まあ、さながら、つかさにコンティニューだ、ってとこかな」
 後半の部分が、少々意味不明だけど、今は、それどころじゃない。
「ちょっ、こなた。知ってたの!?」
「ん…ああ、そうだよ。文化祭準備のときに、もう、つかさは惚れていたと思ってたよ。
 かがみん、知らなかったのー?」
「何で、私に教えてくれなかったのよ!」
「何で教える必要があるの?」
「んぐっ…だ、だって、つかさが、元気なかったときに、あんたが早く言ってくれれば、打開策がもう少し…」
「だって、あの時、かがみん、私に相談しなかったじゃーん」
「ぐっ…。その通り、ね」
 全く、こなたの言うとおりだった。全くもって、私の失策だ。…まあ、もう終わったことだし、いいか。
「あれ~? それより、かがみん、何か、寂しそうじゃな~い? もしかして、みゆきさんのこと…」
「だーっ! うるさいうるさいうるさい!」
 うるさいので、もう一発殴る。
 殴った後、溜息をついてから、私は、今日の事を振り返る。こなたが、何だか喚いているけど、気にしない。
 ふと空を見上げれば、もう、日は暮れて、月が顔をのぞかせていた。
 願わくは、二人に幸せな日常を。私に言えることは、ただそれだけだ。
「ねえねえ、かがみん」
「何よ」
「つかさも、みゆきさんと結ばれたことだし、仲間はずれ同士、私とかがみんで愛の誓いを」
 もう一発殴った。











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  • かがみとこなたの愛の誓いに、
    強く強く大賛成します! -- チャムチロ (2012-09-24 21:07:31)
  • とても心に残るいい話でした!

    作者様に敬礼! -- 名無しさん (2008-09-18 00:32:52)
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