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晴朗なれども波高し

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 つかさの様子がおかしい。
 そのことに気付いたのは、ここ一週間の間のことだった。どうも、桜藤祭の準備が本格化してから、様子がおかしい。
 一旦は、持ち直したみたいだけど、今日の夕方に、またぶり返したように様子が急変した。
 私は、今日の帰り、委員会担当の羽生先生に頼まれて、明日の集会の資料を運んでいた。そして、それをつかさたちに告げていなかったので、つかさは、私を捜したらしい。
 でも、私が用事を終えて、教室へ行くと、そこにはこなただけ。こなたと二人でつかさを捜したけど、どこにもいない。そして、家に電話すると、もう帰ってる、とお母さんに言われたのだった。
 一体、どうしたというの? 私にも言えないことなのかしら。当のつかさは、自分の部屋でぐっすりと眠っている。
「こういうときは、誰かに相談してみるべきよね・・・」
 善は急げ、という言葉通りに、私はみゆきにメールで相談することにした。別に、こなたでもいいんだけど、こなたは観察眼が鋭い代わりに、こういう問題への対応力が乏しい。
 それに、異性からの意見というのも、同性には気付けないところを見抜いてたりして、案外新鮮だったりすることがある。
『つかさの様子がおかしくなったんだけど、何か聞いてない?』
 という、単刀直入、かつ簡潔な一文だけのメールを送り、私は、居間へと向かう。もうすぐで、食事時だ。
 食事の間は、つかさは元気そうに振舞っていたけど、絶対、空元気だ。
 これは長年、双子の姉妹として培われた勘だ。言葉では説明できない能力だけど、この勘はまず間違いない。何故なら、十六年間も私たちは一緒だったのだ。お互いのことなんて、すぐ分かる。それ以上は何もつかめなかったけども。
 そして、私が部屋に戻ると、みゆきからの返信が来ていた。
『つかささんの様子がおかしい、ですか。確かに、最近、どことなく気持ちの浮き沈みが激しいようですね。
 何か、あったことは確かでしょう。問題は、その何かが、何なのかということですが。
 僕は、何らかの懸案事項を抱えて悩んでいるのではないか、と思うのですが、あくまで推測の域を出ません。
 一まずは、原因を探るべきですが、まずは、つかささんと話し合ってみることが、一番なのではないかと思います。
 色々と様子を探ってみましょう。何かヒント・・・或いはSOSのサインを出すかもしれません。一挙手一投足に目を光らせてください』
「SOS、か・・・」
 何なんだろう、つかさは一体、何で悩んでいるのだろう。今日の帰りに何かあったことは確かだ。
 その何かが何であるかは、分からない。そして、その何かは、以前に様子がおかしかったときと同じなのだろうか。
 つかさ・・・。教えてよ。



―――


 時刻は七時四十五分。私はまた悩んでいた。
 私には恋愛というものがよく分からない。いっそのこと、だめもとで高良君に告白してみる?
 ・・・いや。だめ。私には、そんなことできない。そんな勇気がない。私は、いつも臆病だもの。もし、失敗したら、いつもの日常は戻ってこなくなるに違いない。それは絶対、嫌・・・。
「つかさ?」
「ひゃうっ・・・」
 お姉ちゃんだ。振り返ると、いつの間にか、ドアの前に立っていた。
「つかさ。一体、あんた、どうしたの? 最近のあんた・・・変よ」
 お姉ちゃんの言うことはその通りだった。でも、このことは言えない。特に、お姉ちゃんには、絶対知られたくなかった。
「何でもないよ? だから、別に心配しなくても・・・」
「そんなことない! 私には分かる!
 一体、どうしたの? 何があったの? 私たちは姉妹じゃない! つかさが苦しんでいるのを見たくないのよ!」
 その気持ちは痛いほどに良く分かる。事実、お姉ちゃんの言葉は、私の心に突き刺さるようだった。でも、言えない、言えないんだよ・・・。
「・・・ごめん。お姉ちゃん」
 私は、そう言って頭を下げる。すると、お姉ちゃんは目を剥いて、
「つかさ!」
「・・・時間を、下さい。気持ちの整理をつけたいの」
 私にはそういうほかなかった。この状態を何とかしたかった。でも、それには一人の時間が欲しかった。
「つかさ・・・」
 お姉ちゃんは、ひどくしょげたように、目を細めた。そして、
「・・・分かったわ。でも、ちゃんと言いなさいよ。困ったときはお互い様なんだから」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
 それが心の底からの本音だった。今は、こう言うしかなかった。いつか、お姉ちゃんに真実を伝えられる日は来るのかなあ・・・。
 その日が来たら、本当にいいと思う。



―――


 翌日。私の心は、晴れやかだった。一晩寝てしまえば、嫌なことはすぐ忘れられる。青空を見ていれば、どんなときも頑張れる気がする。
 それが、私の長所だった・・・はずだったけど。
「やっぱり、少し気が重いなあ・・・」
 晴れやかだった私の心は、一日が始まったという実感が湧くにつれて、曇りだす。そんな時、私の頭に思い浮かんだのは、笑ってる高良君の顔だった。
 そういえば、昨日も高良君からメールが来たっけ。でも、あんなことの後だったから、返す気にはなれなかった。
「・・・怒ってるかな。今度こそ、嫌われたかな」
 また、迷惑をかけた。でも、高良君が怒る姿なんて想像できないし、見たくない。
 私、こんなに男の人のことを考えたことないよ。こんなに、こんなに、高良君のことが好きだったんだ。でも・・・もう遅いのかな。いや、まだ決まったわけじゃないよね。
「・・・ともかく笑おう。精一杯笑おう。笑えば、元気が出るもの」
 私はそう決意し、それから、朝食も、通学も、授業も何一つ変わりないように振舞った。
 高良君は、授業中とかに、たまにこちらを見て、困惑した顔をしていたけど、彼はいつも友人に囲まれていたから、彼に話しかけられる心配もなかった。
 そうしているうちに、また、岐路が私に近づいていたことを、そのとき、私は知る由もなかった。



―――



「えー、今日は、ダンスの予定でしたが、ラジカセが壊れたので、ドッジボールを行います。
 えー、それでは、クラス別に整列して、クラス対抗で試合してください」
 五時間目は体育。ちなみに隣のクラスと合同。そして、先生が言ったとおり、今日はドッジボールだ。ドッジボールかぁ・・・。私、苦手なんだよね・・・。
「あー、そうだよねー。絶えず、球から逃げ回らなきゃいけないんだからさー。球技はもっとエレガントに行かないとね!」
 私が隣のこなちゃんに苦手なことを話すと、こなちゃんも頷いて賛同してくれた。良かった、仲間がいてくれた。
 私は、全体的に運動が苦手なんだよね。どうしよう、体育祭があと一ヶ月に迫っているのに・・・。どんな種目に出るんだろう。ああ、不安だよぉ・・・。
「では、試合開始!」
 先生の号令で、試合が始まった。大丈夫かなあ、不安だなあ・・・。
 私は、さっきも言ったとおり、運動が苦手だから、逃げ専門だ。昔から逃げてばっかりだから、球を避けるのだけはうまいんだよね。
 球を避けつつ、戦況を確認してみる。味方チームのエースは、こなちゃんだ。さっきは嫌そうなことを言っていたけど、やっぱり運動神経はいいから、自動的にそうなるみたい。あ、今、こなちゃんが敵を一人、やっつけた。
 そして、敵チームのエースは、日下部さん・・・かな。さっきから、投げる球の球威がすごい。その割には、コントロールがうまくいってないから、うまく当たらないみたいだけど。
 でも、外野の人とパスをつなげて、こちらに主導権を与えないつもりらしい。こなちゃんが相手を一人やっつけてから、こちら側に一度もボールが回ってこない。
「むう。こちらに隙を与えないつもりか。こりゃ、参ったね」
 私の横にいるこなちゃんが、そんな事を呟いているのが聞こえる。
 そして、こなちゃんが前面に移動した時、外野から再び日下部さんにボールが渡った。日下部さんはそのボールを思いっきり投げる。
 そのボールはこちらの方へ・・・って・・・え・・・?
 我に返ったとき、私はボールを頭に受け、気を失っていた。



―――



「日が傾いてきましたね・・・。不安です」
「本当に大丈夫かしら。昨日から、様子もおかしいし、本当に不安だわ。・・・全く、日下部にも困ったもんだわ」
 意識が戻ったとき、私の耳にはそんな会話が聞こえてきた。
 目をつぶっている。そして、身体の感触からして、多分、保健室のベッドの上で横になっているみたいだった。
 そうか、私は、ボールが顔に当たっちゃって・・・気絶しちゃったんだ。どうして、こんなことばかりに遭うんだろう。う~、私の馬鹿、馬鹿。
「お姉ちゃん・・・こなちゃん・・・高良君・・・」
 気がつけば、そんな事を口走りながら、目を開けていた。
「つかさ!」
「つかささん!」
 私が目を覚ましたのがわかると、お姉ちゃんと高良君が座っていた椅子から立ち上がって、私の顔を覗き込んだ。
 その顔は、とても愁いを帯びている。心配かけちゃったみたい。ああ、どうしよう。
「あんた・・・大丈夫?」
 まず、口を開いたのは、お姉ちゃんだった。
「う、うん。何とか。あの、その、ごめん」
「何、謝っているのよ。謝る必要はないじゃない。それにしても、本当に無事でよかったわ」
「全くもって同感です。つかささんが、目を覚まさなかったらどうしようと不安で、不安で・・・。
 生徒全員の安全を担保するはずの学級委員長として、あるまじき失態といいましょうか」
 高良君は、本当に落ち込んでいるみたいで、前髪で両目を伏せていた。・・・本当に私は、悪いことばかりしている。ごめんね、ごめんね。
「自分を責める必要はないわよ。今回のことを予見できたわけでもなし、みゆきに責任はないわ。
 全ては、日下部の責任よ」
 お姉ちゃんは高良君の肩に手をかけて励ます。・・・見てられない。
「ええ、すみません。でも、それだけ不安だったんですよ?」
 高良君はそう言って、私に向かって微笑みかけた。
 でも、それは、私の不安を完全にぬぐうものではない。私は、さっきから様子を見ていて、心がずきっと痛んだ。
 やっぱり、お姉ちゃんと高良君は仲が良い。傍目から見たら、どう映るんだろう。ただの親友? それとも・・・。
「つかさ、どうかしたの? やっぱり、もう少し寝てる?」
 お姉ちゃんが不安げな顔で聞いた。いつの間にか、二人とも椅子に座りなおしている。
「う、ううん。大丈夫、もう起きれるよ・・・。あ、そだ、こなちゃんは?」
「泉さんは、つい今しがた、トイレに行くとおっしゃって、出て行かれました」
「そ、そう」
「さて、それでは帰り支度をしましょうか。かがみさん、一旦、外に出ましょう。
 つかささんも、帰り支度をお早くお願いします」
「あ、うん」
 私がそう返事すると、二人とも椅子から立ち上がろうとする。
 そのときだった。
「あっ」
 そんな声と一緒に、お姉ちゃんが何かにつまずいたのか、立ち上がった瞬間に、前に転ぶ。
 そして、その転んだ先には、今まさに立ち上がろうとしていた高良君がいた。必然と、お姉ちゃんは高良君の胸の中へと飛び込む格好となる。
 それは・・・高良君とお姉ちゃんが抱き合っているようにしか見えなかった。
 それを見た瞬間、私の頭の中で何かがはじけた。
「つ、つかささん?」
 私の様子がおかしくなったことに、高良君はすぐ気付いたらしい。優しすぎる、優しすぎるよ。でも、今は、その優しさこそ、私を苦しめている。
「私、先に帰るね」
「ちょっ、待ちなさい、つかさ!」
 お姉ちゃんの制止も聞かず、私はそばにあったかばんを引っつかみ、大急ぎでベッドから降りて、保健室を出る。
 保健室にいた天原先生や、トイレから戻ってくる途中だったこなちゃんは、どちらも、呆気に取られていて、私に何の声もかけなかった。
 まもなく、私は涙を流しながら、走っていることに気付いた。昨日にもう気付いていたはずなのに。成功するわけないのに。私は、実現するはずもない一抹の期待をかけて、そして、あえなく玉砕した。ああ、本当に、私の馬鹿、馬鹿、馬鹿・・・。



―――



「ぼ、僕、急いで止めてきます!」
 つかさが保健室から出て行った後、しばし呆然としていた私たちの沈黙を破ったのは、みゆきだった。
 彼は、つかさを追うというと、急いで、保健室を出て行った。私も追うべきなのだろうけど、何となく追う気になれなかった。
「つかささん、一体、どうしたのでしょうねえ」
 天原先生が独り言のように言った。
「私には・・・分かりません」
 自然と私の口から出たそれは、嘘だった。私には、つかさの様子がおかしい理由が分かったような気がしたのだ。
 思えば、文化祭準備の頃から、つかさはおかしかったような気がする。そして、その時期に、つかさとみゆきが深く知り合ったのは、こなたとみゆきから聞いていた。そして、そのことをつかさ本人からは聞いていない。
 更に、メールを待ち望んで、何度も携帯を開け閉めしていたし、何より、昨日の夕方、何か普段と違ったことは一つしかなかった。私とみゆきが一緒にいたことだ。
 委員会活動などで、私とみゆきは何かと一緒になることが多かった。クラスメイトにも「柊ちゃんって、高良さんと仲がいいんだね。お似合いだよ」といわれたことがある。その言葉を私がうれしく思っていいのかは分からない。でも、そう見られているということは自認していた。
 ならば、つかさは私とみゆきの姿を見て、そういう関係を想像したのだろうか。そして、想像したならば、それで何故、様子がおかしくなったのか?
 導き出される結論はただ一つ。しかし、そうだとすれば、私は、どうすればいいのだろう?














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  • 迷う必要はないです、かがみは
    こなたがいるので!みゆきは、
    つかさに譲りましょう(笑) -- チャムチロ (2012-09-24 20:53:03)
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