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みゆつかの夏休み

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だれでも歓迎! 編集
 夏の日差しは衰えることなく煌いています。
 「今年の夏も真夏日が続くでしょう」という気象予報士の言葉にご多分なく、毎日毎日暑い日が続いています。
 去年から使われ始めた猛暑日は、もうすっかり定着した感があるほどに、東京では35度を超える日がしょっちゅうです。
 夏休みも中ごろに差し掛かり、かがみさん達に送った暑中見舞いも、改めて私は残暑見舞いとして、送らせていただきました。
 泉さんからは手紙の返事がありませんでしたが、何か事故でもあったのかと思うと、少し心配です。
 どうか夏ばてになどになっていらっしゃりませんように。

 夕方ごろになるとひぐらしのカナカナカナと甲高い鳴き声が、私にも聞こえてきます。

 目覚ましのなるちょっと前の時間に目が覚めました。うだるような日中の日照りと比べますと、朝は清清しい気温です。
 学校もありませんし、私はしばらく就寝するまで読み続けた本を、勉強机から取り出し、壁によりかかるようにして開きました。
 本は、すてきです。
 文字だけの世界――それなのに、ふと目を閉じますと、そこには生き生きとした情緒ある風景が投影されます。
 テレビも見ないとはいいませんが、本というものは、きれいだと思います。音がないのに、音に満ち溢れた世界。
 真っ白なキャンパスを想像という色のない絵の具で埋めていく喜び。静かな世界です。

 本を途中で見差して、時計を見上げました。
 ……ちょうど、朝食時の時間に差し当たっていました。あとちょっとで読み終えるんですが、仕方ありませんね。
 私は名残惜しくも栞を挟み、丁寧にたたんだ後、本棚に戻しました。
「少しの間、お待ちくださいね」
 なんて吟じながら。

「みゆき、今日も歯の検診でしょう?」
 朝食時、お母さんは私に言いました。
 こんがりと黄金色のパンにいちごジャム。ちょっと甘めのコーヒーが、素敵な香りを立てています。
 私は、お母さんの意図するところをつかみかね、不思議な顔をします。
「……え、そうでしたっけ」
「何言っているのよ、歯は早く治療しないとだめよ
「でも、先日もいきましたが…」
「先生がね、『できるだけ次回の検診は早く来てください』って言うもんだから、私は『あら~みゆきはいつでも大丈夫ですわ』っていったら、なりゆきで、明日になったのよ」
「……」
 私の意見は、、このさいなかったことになるんですか?
「それと明日は一日中でかけているけど、戸締りはきちんと頼むわね」

 そうして私は今日も歯科医に診てもらうことになりました。
 くすん。


「あれ、ゆきちゃんだー、奇遇だねえ」

 熱中症避けのつばの丸い帽子をかぶり、私は定期に乗ってかかりつけの病院にいきました。
 熱中症は軽く見られがちですが、死にも至る病気です。似たようなものに熱射病というものがありますが、こちらは熱中症の症状の一部です。熱失神、 熱疲労、熱痙攣、熱射病が主な分類です。熱射病は体温が40度近くまで上昇し、生命の危険にさらされるそうです。

 めいいっぱいあの、きゅい~~~~んと高速回転するドリルにおびえて、痛さのあまり右手を上げました。「は~い、痛いですね~、頑張ってください~」といわれ、結局やめてもらえませんでした。
 歯医者さんには二度と行きたくないです、と私は辟易します。でも人間は難儀なものでして、いかないことには直りません。ええ、相克です。
 くすんくすん。

 その帰り道、つかささんと会いました。
 つかささんは「暑いね~」といいながら、服の裾を持ち上げてパタパタしています。
 額からは汗がだらだらと、流れていました。

「ええ、本当に奇遇ですね。今日はどうしたんですか?」
「ううん、なんとなく、遊びにきただけ。ゆきちゃんは?」
「私は歯医者の通院です……」
「そっかあ……ゆきちゃん、歯医者嫌いだもんね」
「ええ、本当に、もう、あの匂いから空気まで」

 そういったつかささんは、どこか意気消沈しているようでした。いつもの明るさが、ほんの少し影を潜めているように思います。 
 私に笑いかける所作は、やはりいつもと違っています。
 その笑顔も、どこか私には寂しげに感じました。
 私には違和感が感じられたのです。

 その違和感はすぐに気づきました。

「今日はかがみさんと一緒でいらっしゃらないんですね」
「え!? う、うん…」

 図星、なのかもしれません。これがつかささんを悩ましている原因なのでしょうか?
 つかささんと目が合いました。つかささんはあいまいに笑い、えへへといいます。
 やはり、はにかんだ唇からは、暗く濁った寂しさがもれていました。

「かがみさんと何かあったんですか?」
「ううん、何にも…」
 かがみさんの名前を出すとつかささんは明らかに声のトーンが下がります。
「つかささん、私でよければ相談に乗りますよ。一人で悩まないでください。私達、友達ですから」

―――つかささんは泣いていました。激しいかんしゃくではありません。思い出すかのように目を閉じ、回想。それから「ごめんね…ゆきちゃん」と呟きました。それでも、つかささんは泣いていました。


 感情の爆発が収まるのをまちました。いつまでも。今は、私は一緒にいることが一番だと思います。
 喫茶店に移動し、私はコーヒーを頼みました。つかささんにはメロンソーダと、ケーキをオーダーしました。
 室内は冷房が良く通っていて快適です。私は帽子を脱ぎ、静かに見守っていました。

「あのね、ゆきちゃん」
「ええ、何でしょうか」
「お姉ちゃんが、最近冷たいの」
「かがみさんが、ですが?――正直、想像できませんが」
 やはりでてきた名前はかがみさんでした。かがみさんは、つかささんの双子の姉です。
 かがみさんとは一年生のとき学級委員会でご一緒でした。つかささんとお話しするようになり、自然とかがみさんとも会話する機会が増えました。_
 お二人は本当に仲がよく、私も姉か妹がいたら、あんな風に慣れるのでしょうかと羨ましがったりしたものです。
「うーん、ちょっと言い方が変かな? ごめんね、私、うまくしゃべるのへたくそで」
 私は全然気にしないでいいですよと、答えました。
 つかささんは運ばれてきたメロンソーダをストローを通し一気飲みしようとし、咽せた後言いました。
「最近、お姉ちゃん、どこかよそよそしいというか、一人で出かけたりしてるんだ」
「かがみさんにも、私的な用があるとは思いますが」
「ううん 違うの!――ごめん、ゆきちゃん」
「いえ、気になさらいでください」
「ありがとう、ゆきちゃん。
 最近お姉ちゃんね、朝からでかけて夜まで帰らないことあるんだ…私に何も言わないで…
 宿題を見せてと頼むとやっぱりお姉ちゃんは見せてくれるけど、それに対しておねえちゃんは何も言わなかった。
 どこかいくの、と聞いてみたら「うん、ちょっとね」といって何にも教えてくれなかった!
 今日も、今日もお姉ちゃんは私が寝ている間に一人ででかけてた!

――前はそんなことなかったのに。いつもお姉ちゃんは、私のことを心配してくれたのに。
 ねえゆきちゃん。
 私、お姉ちゃんに嫌われちゃったかなあ?
 ……私がどじで、いつも迷惑をかけているから。お姉ちゃん、愛想をつかしちゃったのかなあ?

 お姉ちゃんに嫌われるの――うう、嫌だよお、お姉ちゃん――私、嫌だよ……っ!」

 私はどうしていいのか、黙り込んでしまいました。
 何か言わないといけません。どんな言葉でもいいから、つかささんを安心させないといけません。
 それなのに言葉が出てきませんでした。

 でも、私には確信していることがあります。
 何を根拠にその結論を導いたかはわかりません。それでも、間違ってはいない、それだけは自信がありました。
 ふっと、微笑みをもらしてしまいます。

「大丈夫ですよ、つかささん」
「え…?」
「かがみさんが、つかささんを嫌う理由なんてありません」
 そう、これは事実。疑いようのない事実だと、私は思います。
「でも、でも」
「かがみさん、いつもいってらっしゃいましたよ。『つかさ、どうしているのかなあ』とか『つかさならきっとこうなるわよね』とか『つかさと今日は一緒に帰れないか…』って。かがみさんは、いつもつかささんのことを心配、いえ大切に思っています。
 そんなかがみさんが、つかささんを嫌っているなんてありえません」
「お姉ちゃんが?」
「ええ、ここ最近かがみさんと電話したときも、つかささんの話題がでなかったことはありませんよ」
「そうだったら、嬉しいな」

 つかささんは私は出したハンカチで涙を拭いていました。まだ目は赤く純血していましたが、落ち着きを取り戻していました。
 えへへ、とはにかみながらつかささんは私に笑いかけました。

――あれ。
 ど、どうしたことでしょう? な、なんだかつかささんがとても可愛らしく思えてしまいます。いえ、失言でした。つかささんが可愛らしいことには異論ありません。
 小さな唇や、半袖のために外気にさらされている細い腕。私から見れば羨ましい、控えめな胸。そして今私に見せている笑顔。
 ああ、なんてかわいいのでしょう。

「ゆきちゃん、ありがとう。私すっごく安心したよ。やっぱりゆきちゃんって物知りだね」
「…え? い、いえ、そんなことありませんよ。私の知識なんて、本当に役に立ちませんし」
 ああ、こうした不遜な感情を悟られないようにしませんと。
「ううん、私、ゆきちゃんが親友でよかったよ。こういう話題はこなちゃんには相談できないし、きっと私、ひとりで悩んでいたんだと思う。
 それにこの年にもなってお姉ちゃんのことで泣いたなんて、私って、やっぱり子供だね」
「誰かのために泣くことができるのは、素敵なことです」
「そうかな?」
「ええ」
「やっぱりゆきちゃんは優しいな。 私、ゆきちゃんのこと、大好き

 ああ、もう、我慢できません――。

「つかささん、すみません!」
「え?」

 私はテーブルに手をつけて、前のめりになります。つかささんの顔が目の前にありました。その顔は驚きと、少しの期待が見え隠れしていた――というのは、私のうぬぼれでしょうか。どうであれ、我慢はできそうにありませんでした。

 いいよ、ゆきちゃん。

 空耳だと思います。でも確かにこんな言葉を聴いた気がしました。
 つかささんのかわいらしい瞳は、すでに閉じられていました。

「ん…あ、くふぅ」
 喘ぎ声にも似たため息がつかささんから漏れました。普段のつかささんからは想像できないような甘美で、艶のある声。
 唇と唇が交わります。私はその瞬間に目を閉じました。
 情報が遮断された空間の中で、私とつかさんがひとつになりました。温かくて、優しくて、甘い甘い、キスの味がしました。


 え、えーと。
 これからどうすればいいのでしょう。
 私とつかささんはキスをしています。人がまばらの時間帯ですし、従業員さんもこちらのほうには来ていませんから、気づかれてはいないと思います。
 問題があるとすれば、女の子通しであること。


 それと、これは一番問題にすべきことですが、もう3分くらいはたっていること、です。

 ど、どうすればいいんでしょう?
 前かがみ気味になっている体勢は体に良くはありません。

――つかささんと目があいました。
 異常に長いキス。その原因は単純です。いつ離せばいいのかお互いにわからない。きっとそれだけなんだと思います。
 目と目で、会話をしました。
(すみません、つかささん…その、変なことをしてしまって)
(ううん、嬉しかったよ、でも…)
(でも…)
(ど、どうしようっか?)(どうしましょう?)

 本当にそんな会話をしたかは、私もわかりませんが、つかささんもこの状況に対する具体的な解決案をだせないでいるのは確かのようです。
 結局私は意を決して、つかささんと離れました。

 唇がクーラーで冷やされた外気に晒されます。
 名残惜しいような不思議な感覚が、確かにそこにありました。


「え、えっと、その、申し訳ありません! 本当に申し訳ありません! その、魔がさしたというか衝動にかられたというか――」」
「気にしないで、ゆきちゃん」
 それからぎくしゃくと二人は会話をしていました。
 運ばれたケーキをつかささんが食べ終えた後、私は耐え切れずさっきのことを話題にしてひたすら平謝りをしました。
「いえ、私ったらなんてことを…熱射病で気が狂っていたんでしょうか?」
 熱射病対策は万全です。そんなことありえませんと、私の内なる人が否定していました。ああ、否定も許されませんか…

「もう、ゆきちゃん、私気にしていないから、ね」
「いえいえ、その…」
 呟きかけた言葉は、つかささんの唇によって封印されてしまいました。
 甘くて、ふんわりした、きすの味。初体験から二度目は、もっと糖分が増しているように思いました。
 ……これで歯医者に行くことになる羽目には、なりませんよね?
 こんな甘いチョコレートでしたら、私は我慢なんてできません。

「これで、おあいこだよね? 私も、謝らないといけないかな」
「いえ、そんなことは、決してありません」
 つかささんのご好意。私は謹んでその助け舟に乗らせていただきました。なにより、幸せなキスをもう一度味わえたんですから。

「私、嬉しかったんだ。お姉ちゃんのことで、悲しくて悲しくて――どうしたらいいか、わからなかった。
 そんなときにゆきちゃんと出会って、相談に乗ってもらって。
 ちょっとびっくりしたけど、ゆきちゃんとのキ、キ、キキースね、とっても嬉しかった」

 そういうつかささんはニコニコとした屈託のない笑顔でした。
 私は、つかささんのことが好きになってしまったのかもしれません。

「つかささん」
「なに、ゆきちゃん?」
「今日、私の部屋にいきませんか?」
「うん、いいよ」
 即答。
 もうひとつ、私は聞いてみます。

「私と、友達以上の関係として、付き合い始めてみませんか?」
「――うん、よろしくね、ゆきちゃん」
 くすんくすんくすん。
――つかささんは泣いていました。でもきっと、悲しみの涙ではないのだと、私は思うのです。


 残暑が厳しい夏。
 受験生として、一番大切な時期。
 暑さの為した技なのか、さまざまな偶然が重なり合った結果なのか。

 母のいない家に、自室につかささんを連れ込んだとき。つかささんが曖昧に微笑み、息を呑んだとき。
 その一抹の不安と、ためらい、そして控えめな笑いを表情に見せるつかささんと、唇を重ねたとき。
 私はもう戻れない階段を上っていることに気づいた。
 クーラーが作動し、無神経な風音が嫌に響いた。風速は、強なのだろうか。

「ゆきちゃん……私は、大丈夫だからね。ゆきちゃんとなら、怖くないもん」
「ええ、つかささん。一緒に楽しみましょうね――」

 本で読んだだけの知識。想像するだけだった知識。
 ベッドにつかささんを寝かし、慣れない手つきで、つかささんのあそこに触れながら、胸をもみほぐした。
 私の無駄に大きすぎる胸が、つかささんにあたりぷにゅっとへこむ。

―――愛撫する指に、背徳と興奮を感じながら、私は部屋の電気を落とした。
 つかささんの喘ぎ声が、暗室に響きわたった。















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  • みゆき可愛いですね! -- チャムチロ (2012-10-14 21:46:10)
  • 二人とも可愛いいい!!つかみゆ最高だ -- 名無し (2010-04-16 10:33:58)
  • つかみゆは正義!! -- 名無しさん (2008-10-28 18:51:22)
  • かわいいかわいいかわいいい!!!!二人ともかわゆすぎる!!wwwwwつかみゆって実はものすごくいいカップルだと再確認したっ! -- 名無しさん (2008-10-23 08:56:41)
  • 続編希望 -- 名無しさん (2008-04-21 10:14:09)

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