Escape 第1話に戻る
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2. (ゆたか視点)
5月下旬の夕方、私とこなたお姉ちゃんは同じ時間にバイト先を後にした。
土曜日の今日は、お昼のシフトだったので、外はまだ十分に明るい。
「ゆーちゃん、お仕事お疲れ様」
「こなたお姉ちゃんも、お疲れ様でした」
私は笑顔で頷いて、お姉ちゃんの顔を見上げながら腕によりかかった。
「ゆーちゃんの甘えんぼ」
「だって、温かくて柔らかいから」
苦笑するお姉ちゃんに向けて、少しだけ頬を膨らませてから笑ってみせる。
土曜日の今日は、お昼のシフトだったので、外はまだ十分に明るい。
「ゆーちゃん、お仕事お疲れ様」
「こなたお姉ちゃんも、お疲れ様でした」
私は笑顔で頷いて、お姉ちゃんの顔を見上げながら腕によりかかった。
「ゆーちゃんの甘えんぼ」
「だって、温かくて柔らかいから」
苦笑するお姉ちゃんに向けて、少しだけ頬を膨らませてから笑ってみせる。
休日ということもあって、大須のアーケード街にはたくさんの人が繰り出している。
至るところから楽しそうな喧騒が聞こえてきて、行き交う人々の表情も明るい。
至るところから楽しそうな喧騒が聞こえてきて、行き交う人々の表情も明るい。
大道芸をしている男性の傍を通った時に、こなたお姉ちゃんが口を開いた。
「夕食は外で食べたいな」
「そうだね。おねえちゃん」
家に帰ってから、改めて食事をつくるというのはなかなか大変だ。
「夕食は外で食べたいな」
「そうだね。おねえちゃん」
家に帰ってから、改めて食事をつくるというのはなかなか大変だ。
「今日は、久しぶりにラーメンな気分だけど」
「いいよ。こなたお姉ちゃん」
「ありがと」
直後にお姉ちゃんのお腹が鳴って、思わず笑ってしまった。
「いいよ。こなたお姉ちゃん」
「ありがと」
直後にお姉ちゃんのお腹が鳴って、思わず笑ってしまった。
赤門の近くにあるラーメン屋さんで、野菜ラーメンとクリームぜんざいを注文する。
食券を挟んだ、番号が書かれたタグを渡され、3分程待っただけで、
「5番のお客様どうぞ」と声がかかった。
私達は、カウンターで、ラーメンとデザートを載せたトレイを受取った。
食券を挟んだ、番号が書かれたタグを渡され、3分程待っただけで、
「5番のお客様どうぞ」と声がかかった。
私達は、カウンターで、ラーメンとデザートを載せたトレイを受取った。
ほんのりと甘くてコクのある白いスープを啜っていると、
お姉ちゃんが私をみつめていることに気づく。
「顔に、何かついているの? 」
私は、あたふたしながら、ハンカチを取り出そうとポケットに手をのばした。
しかし、こなたおねえちゃんは、
「ううん。そうじゃないよ」
と言ったきり、ニヤニヤとしたままだ。
お姉ちゃんが私をみつめていることに気づく。
「顔に、何かついているの? 」
私は、あたふたしながら、ハンカチを取り出そうとポケットに手をのばした。
しかし、こなたおねえちゃんは、
「ううん。そうじゃないよ」
と言ったきり、ニヤニヤとしたままだ。
「お姉ちゃん、なあに? 」
「やっぱり、ゆーちゃんは可愛いなあって」
「えっと」
真正面から言われると照れてしまう。
どういう返事をすれば良いのか未だに良く分からない。
「やっぱり、ゆーちゃんは可愛いなあって」
「えっと」
真正面から言われると照れてしまう。
どういう返事をすれば良いのか未だに良く分からない。
「ふふ。バイト先でも、ゆーちゃんは凄く良い評判なのだよ」
お姉ちゃんが店長さんから聞いた話によると、私がバイトを始めてから、
来客数と売上高が急激に増えたらしい。
もっとも、私自身は、ミスばかりしている記憶しかないのだけど。
お姉ちゃんが店長さんから聞いた話によると、私がバイトを始めてから、
来客数と売上高が急激に増えたらしい。
もっとも、私自身は、ミスばかりしている記憶しかないのだけど。
「ゆーちゃんの良いところは、自分自身の魅力に気づいていないところかな」
私の『魅力』って何だろう。
正直言ってあまり思い浮かばない。
身体が弱くて、いつもこなたお姉ちゃんに、心配ばかりかけてしまっている。
その癖、とても強情で、駆け落ちを強引に実行してしまい、こなたお姉ちゃんに
大きな迷惑をかけてしまった。
私の『魅力』って何だろう。
正直言ってあまり思い浮かばない。
身体が弱くて、いつもこなたお姉ちゃんに、心配ばかりかけてしまっている。
その癖、とても強情で、駆け落ちを強引に実行してしまい、こなたお姉ちゃんに
大きな迷惑をかけてしまった。
「ゆーちゃんは欠点すら萌え要素に変えてしまうから」
お姉ちゃんは、限りない愛情を私に注いでくれている。
普通の恋人は…… とはいってもTVを見たり、雑誌を読んだりして耳にした
知識に過ぎないけれど、相手の振る舞いによって好感を抱いたり、
逆に不満をもったりする。
でも、こなたお姉ちゃんは、私の欠点を見つけたとしても萌え要素という、
肯定的な言葉に置き換えてしまう。
お姉ちゃんは、私に対して減点評価をしないのだ。
お姉ちゃんは、限りない愛情を私に注いでくれている。
普通の恋人は…… とはいってもTVを見たり、雑誌を読んだりして耳にした
知識に過ぎないけれど、相手の振る舞いによって好感を抱いたり、
逆に不満をもったりする。
でも、こなたお姉ちゃんは、私の欠点を見つけたとしても萌え要素という、
肯定的な言葉に置き換えてしまう。
お姉ちゃんは、私に対して減点評価をしないのだ。
それでも、時々、心配になってしまう。
「お姉ちゃん。あのね…… 」
クリームを美味しそうに食べていた、お姉ちゃんは顔をあげる。
「何かな? ゆーちゃん」
「私の事で不満があったら言ってね。なおすように努力するから」
しかし、こなたお姉ちゃんは、深いため息をついてしまっていた。
「お姉ちゃん。あのね…… 」
クリームを美味しそうに食べていた、お姉ちゃんは顔をあげる。
「何かな? ゆーちゃん」
「私の事で不満があったら言ってね。なおすように努力するから」
しかし、こなたお姉ちゃんは、深いため息をついてしまっていた。
「ゆーちゃん」
お姉ちゃんの顔つきは、急に真剣なものに変わっている。
「な、なに? 」
「そんなに私に気を遣わなくてもいいよ」
「で、でも、わ、わたし」
私は動揺して、しどろもどろになってしまう。
「ゆーちゃんは、ありのままが一番好きだから」
お姉ちゃんの顔つきは、急に真剣なものに変わっている。
「な、なに? 」
「そんなに私に気を遣わなくてもいいよ」
「で、でも、わ、わたし」
私は動揺して、しどろもどろになってしまう。
「ゆーちゃんは、ありのままが一番好きだから」
ありのままの私?
心の中で問いかけてみるが、容易に答えの出せる問題ではない。
心の中で問いかけてみるが、容易に答えの出せる問題ではない。
「ゆーちゃんが、自分で嫌と思うところも、私にとっては大切な部分なんだ。
少し、分かりにくいかもしれないけれど、ゆーちゃんが頑張って自分の欠点を直そうとすると、
ゆーちゃんの長所も消えてしまうことがあるから」
「良いところも? 」
「そう、長所と短所は別々にあるのではなくて、連動しているものだから」
少し、分かりにくいかもしれないけれど、ゆーちゃんが頑張って自分の欠点を直そうとすると、
ゆーちゃんの長所も消えてしまうことがあるから」
「良いところも? 」
「そう、長所と短所は別々にあるのではなくて、連動しているものだから」
私が無理をして、欠点を直そうとすると、同時に長所も失ってしまう。
私は、お姉ちゃんの助言に頷かない訳にはいかなかった。
私は、お姉ちゃんの助言に頷かない訳にはいかなかった。
「ありがとう。こなたお姉ちゃん」
「素直なところは大好きだよ」
こなたお姉ちゃんは、元の霞みがかった笑顔に戻って片目を瞑ってみせる。
春の日差しのようにぬくもりのある微笑みに、心がときめく。
「素直なところは大好きだよ」
こなたお姉ちゃんは、元の霞みがかった笑顔に戻って片目を瞑ってみせる。
春の日差しのようにぬくもりのある微笑みに、心がときめく。
「こなたお姉ちゃんのこと…… 好き」
私は、こなたお姉ちゃんを真っ直ぐに見据えて言った。
私は、こなたお姉ちゃんを真っ直ぐに見据えて言った。
「日の沈まないうちから、真正面から言われると照れるね」
顔を少しだけ赤らめながら、頭をぽりぽりとかきながら苦笑いするお姉ちゃんに、
クスリと笑いかけて――
顔を少しだけ赤らめながら、頭をぽりぽりとかきながら苦笑いするお姉ちゃんに、
クスリと笑いかけて――
私は、凍りついた。
「どしたん? 」
あからさまに顔が強張った私の顔を、お姉ちゃんは心配そうに覗き込んでくる。
動悸を必死に抑えながら、耳元で囁く。
「かがみ先輩が歩いているのを…… 見たよ」
お姉ちゃんの表情もあからさまに変わった。
あからさまに顔が強張った私の顔を、お姉ちゃんは心配そうに覗き込んでくる。
動悸を必死に抑えながら、耳元で囁く。
「かがみ先輩が歩いているのを…… 見たよ」
お姉ちゃんの表情もあからさまに変わった。
私達は、外から死角になる位置を見つけて座りなおす。
「ゆーちゃん。確かにかがみだったの? 」
お姉ちゃんは青ざめながら低い声で囁いた。
「一瞬だったから断言はできないけれど、かがみ先輩だと思う」
「そっか…… 」
こなたお姉ちゃんは呟いたきり、深刻な面持ちで考え込む。
沈黙しているお姉ちゃんを見ているうちに、私の不安は急速に膨らんでいく。
「ゆーちゃん。確かにかがみだったの? 」
お姉ちゃんは青ざめながら低い声で囁いた。
「一瞬だったから断言はできないけれど、かがみ先輩だと思う」
「そっか…… 」
こなたお姉ちゃんは呟いたきり、深刻な面持ちで考え込む。
沈黙しているお姉ちゃんを見ているうちに、私の不安は急速に膨らんでいく。
どうして、今更、かがみ先輩がここに来るの?
まだこなたお姉ちゃんをあきらめていなかったの?
私達をどうするつもりなの?
まだこなたお姉ちゃんをあきらめていなかったの?
私達をどうするつもりなの?
心の中に湧き上がる不安に耐え切れずに、お姉ちゃんの腕にしがみつく。
歯の奥が酷く震えて、ガチガチと鳴ってしまう。
かがみ先輩は、私のこなたお姉ちゃんを奪い取るつもりだ。
だから、何百キロも離れた街まで追いかけてきたんだ。
私は、かがみ先輩の執念深さに、身震いをするしかなかった。
歯の奥が酷く震えて、ガチガチと鳴ってしまう。
かがみ先輩は、私のこなたお姉ちゃんを奪い取るつもりだ。
だから、何百キロも離れた街まで追いかけてきたんだ。
私は、かがみ先輩の執念深さに、身震いをするしかなかった。
「こ、怖いよ、お姉ちゃん」
「ゆーちゃん。落ち着いて」
こなたお姉ちゃんは、私の背中を撫でてくれるけど、お姉ちゃんの手のひらも細かく震えている。
「ゆーちゃん。あと二つ程、聞きたいことがあるんだけど」
それでも、情報を得ようとするお姉ちゃんは、冷静さを保っていた。
「何? 」
「ゆーちゃんが見たのは、かがみだけだった? 」
私も心を懸命に落ち着けながら、慎重に考えた末に答える。
「かがみ先輩だけだったけれど、他の人もいるかも」
「そっか…… そう考えるべきだろうね」
こなたお姉ちゃんは、顎に手をあてながら静かに頷いた。
多分、つかさ先輩や、高良先輩、そしてみなみちゃんも一緒に来ているだろう。
彼女達が襲いかかって来たら、逃げ切れる自信なんて…… 全くない。
「ゆーちゃん。落ち着いて」
こなたお姉ちゃんは、私の背中を撫でてくれるけど、お姉ちゃんの手のひらも細かく震えている。
「ゆーちゃん。あと二つ程、聞きたいことがあるんだけど」
それでも、情報を得ようとするお姉ちゃんは、冷静さを保っていた。
「何? 」
「ゆーちゃんが見たのは、かがみだけだった? 」
私も心を懸命に落ち着けながら、慎重に考えた末に答える。
「かがみ先輩だけだったけれど、他の人もいるかも」
「そっか…… そう考えるべきだろうね」
こなたお姉ちゃんは、顎に手をあてながら静かに頷いた。
多分、つかさ先輩や、高良先輩、そしてみなみちゃんも一緒に来ているだろう。
彼女達が襲いかかって来たら、逃げ切れる自信なんて…… 全くない。
「どうして…… 私達の場所、分かったのかな? 」
私は、半ば独り言のように呟いた。
「うかつだったよ。あの番組の取材のせいだね…… 」
こなたお姉ちゃんは嘆息してから天を仰いだ。
「ごめん。ゆーちゃん。てっきり地元局限定のメイドカフェ特集だと思い込んでいたよ」
「ううん。私もそう思ったから」
正直、お姉ちゃんも私も、油断があったのだと思う。
もちろん、TV局は私達ではなくてお店の取材に来たわけだし、
従業員がリポーターの取材を断る訳にはいかない。
しかし、取材の日時は数日前から分かっていたし、その時間帯にシフトを外すことも可能だった。
私は、半ば独り言のように呟いた。
「うかつだったよ。あの番組の取材のせいだね…… 」
こなたお姉ちゃんは嘆息してから天を仰いだ。
「ごめん。ゆーちゃん。てっきり地元局限定のメイドカフェ特集だと思い込んでいたよ」
「ううん。私もそう思ったから」
正直、お姉ちゃんも私も、油断があったのだと思う。
もちろん、TV局は私達ではなくてお店の取材に来たわけだし、
従業員がリポーターの取材を断る訳にはいかない。
しかし、取材の日時は数日前から分かっていたし、その時間帯にシフトを外すことも可能だった。
それでも、はるばる埼玉から名古屋まで想い人を追ってくるという行為自体に、
狂気を感じてしまう。
2度目となると最早、恐怖でしかない。
そして、去年の12月は、かがみ先輩の顎から辛うじて逃れることができたけれど、
今回も幸運が訪れるとはとても思えない。
狂気を感じてしまう。
2度目となると最早、恐怖でしかない。
そして、去年の12月は、かがみ先輩の顎から辛うじて逃れることができたけれど、
今回も幸運が訪れるとはとても思えない。
「お姉ちゃん。どうしよう」
ひたすら唇を動かしていないと、心が折れてしまいそうだ。
しかし、お姉ちゃんは私の質問に直接答えることはせずに……
「もう一つの質問だけど、かがみはどちらの方向に歩いていったかな? 」
と尋ねてくる。
ひたすら唇を動かしていないと、心が折れてしまいそうだ。
しかし、お姉ちゃんは私の質問に直接答えることはせずに……
「もう一つの質問だけど、かがみはどちらの方向に歩いていったかな? 」
と尋ねてくる。
「えっと…… 」
私は、少しだけ考えてから答えた。
「かがみ先輩は…… 大津通りの方から来て、バイト先の方に向かったよ」
「ありがと」
こなたお姉ちゃんは小さく頷いてから立ち上がった。
「ゆーちゃん。店を出よう。ここにいるのは危険だ」
「うん」
私達は立ち上がる。
既に料金は払っているので、そのまま店を出て、大津通りに向かう。
赤門をくぐり右に折れて、万松寺の駐車場の脇を通り抜ける。
つい先程までの楽しい気分は、完全に吹き飛んでしまい、私は、何度も後ろを振り返りながら、
こなたお姉ちゃんに寄り添うようにして歩く。
私は、少しだけ考えてから答えた。
「かがみ先輩は…… 大津通りの方から来て、バイト先の方に向かったよ」
「ありがと」
こなたお姉ちゃんは小さく頷いてから立ち上がった。
「ゆーちゃん。店を出よう。ここにいるのは危険だ」
「うん」
私達は立ち上がる。
既に料金は払っているので、そのまま店を出て、大津通りに向かう。
赤門をくぐり右に折れて、万松寺の駐車場の脇を通り抜ける。
つい先程までの楽しい気分は、完全に吹き飛んでしまい、私は、何度も後ろを振り返りながら、
こなたお姉ちゃんに寄り添うようにして歩く。
不安は膨らむばかりだったけれど、自分ががんばらなきゃと思いなおす。
こなたお姉ちゃんに頼ってばかりでは駄目だ。
私が、お姉ちゃんを助けるくらいにならないといけない。
こなたお姉ちゃんに頼ってばかりでは駄目だ。
私が、お姉ちゃんを助けるくらいにならないといけない。
「ゆーちゃん。地下に入るよ」
「うん。私、大丈夫だから」
私は、精一杯力強く頷いてから、こなたお姉ちゃんに微笑んでみせる。
「ありがと、ゆーちゃん」
お姉ちゃんは微かに頬を緩めてから、私の掌を強く握り返した。
「うん。私、大丈夫だから」
私は、精一杯力強く頷いてから、こなたお姉ちゃんに微笑んでみせる。
「ありがと、ゆーちゃん」
お姉ちゃんは微かに頬を緩めてから、私の掌を強く握り返した。
私達は、地下鉄上前津駅に向かう階段を降りていった。
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Escape 第3話へ続く
Escape 第3話へ続く
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- さあどうなるか……ヤッパリぶつかるか!? -- 名無しさん (2008-05-08 22:27:32)
- エロープシリーズかなり続きますねぇ。かがみがどうでるか期待 -- 九重龍太§ (2008-04-30 07:44:17)
- しょっちゅう行ってる場所なので、鮮明に情景が思い浮かんだw
-- みみなし (2008-04-27 01:48:08) - 地元民としてかなりのめり込みました!GJです!続き楽しみに待ってます! -- 名無しさん (2008-04-26 22:42:41)
- 相変わらずGJ!
今回はニアミスだったが、バイト先をおさえられてるから激突は必須か… -- 名無しさん (2008-04-26 22:18:51)