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優しい世界

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だれでも歓迎! 編集
春の事だった。
街には木々の緑が目立ち始め、
辺りを走る風は、頬を撫でればほのかに暖かい香りがして、
学校の桜の木は、春の到来をまだかまだかと言わんばかりに、
その桜前線の足踏みを小さなつぼみに見せ始めていた。

突然ですが、私、柊つかさは恋する女子高生である。
自分で恋するだなんて、なんだか漫画みたいな言い回しだけど、
きっと今の私は、周りからは少し浮いていそうな、丁度漫画の主人公のような、
きっとそんな感じなのだと思う。

私が恋をする相手は、同じクラスの泉こなた。
こなちゃんがどんな子か、私がそれを短く説明するには、器用さがちょっと足りない。

初めて会話した時の印象は…変な子、かな。
きっかけは忘れてしまったけど、初めはこなちゃんが私に話しかけてくれて、
でも私は話の内容がよくわからなくて、相槌しか打てずに困っている私を見て、
共通の話題を頑張って探してくれたのを覚えている。
あの時、人見知りをしてしまって上手く喋れなかった自分がちょっと悔しいけど、
そういう優しいところとかに弱い私は、その日のうちにコロッと仲良くなってしまった。

次の日からは、ゆきちゃんやお姉ちゃんも加えて四人グループがすんなり出来上がっていた。
こなちゃんとお姉ちゃんは話が合うみたいで、アニメやゲームの事ですぐ仲良しになった。
ゆきちゃんも凄く物知りで、二人の会話にしっかりついていく。
やっぱり話が合いにくい私は、やっぱり相槌を打つくらいしか出来なくて、
それに、あんまり目立ちたいとか、そういう事は考えてなかったから、
話がよくわからなくても、このグループの一人でいられるだけでとても幸せだった。

みんなといる時は、こなちゃんもお姉ちゃんと仲良くしたり、からかいあってたり、
そんな、横にいるだけで笑ってしまいそうなやりとりが続いたけど、
私と二人きりになると、こなちゃんはあの時みたいに、話を合わせてくれた。
いつも合わせてもらうばかりじゃ悪いと思って、私も日頃の面白そうな話とか、
お姉ちゃんが聞いたら、呆れて笑い出しちゃうような、そんな話をしてみた。
私達はちゃんとコミュニケーションが取れていたと思う。
こなちゃんは私が知っているような、当たり障りのない話題を、
私は日常の面白い一コマとか、よくある話とか、それくらいしか話題の提供は出来なかったけど、
でも、不器用なやりとりだとしても、私達は立派に友達をしていて、
それは立派に自慢出来るものなんだと、そう思った。

それでも、時折自信がなくなって。
こんなにも話が合わない私達は、本当に友達なのだろうか。
そんなふうに不安になる時もあった。
けど、話が合わないのに笑い合える私達は、きっと友達なのだろうと、
そう思い返した。
そう思えてしまう程、こなちゃんとの時間は楽しくて、
こなちゃんの好意が、とても心地よかった。
きっと、この頃から少しずつ、好きになっていたのだと思う。

自分の気持ちに気付き始めた去年の夏。
甘えんぼで、我が儘な私は、この頃から少しずつ調子に乗り始めて、
手を繋いでみたり、腕に絡んでみたり、頭を撫でてみたり、
そんな事をして、一人勝手にドキドキしてみたり。
こなちゃんに話を振られたり、ふと目が合ったり、たったそれだけで胸がきゅってなってしまうのに、
よくこんなに積極的になれたな、と、我ながらちょっと意外だった。

こなちゃんは、私に触れられても動揺の一つもしないで。
なんだかそういうスキンシップが当たり前みたいで。
私がこんなにドキドキしたり、溜息が出る程嬉しかったり、おなかの奥まできゅぅってなるくらい緊張してても、
こなちゃんの反応があまりにも普通だったのには、ちょっと悲しかった。

それから先は、実はあんまり進展なし。
私の中の気持ちはどんどん成長していったけど、二人の距離感はどれだけ高く見積もっても親友止まりだと思う。
夏が終わって、秋が過ぎて、私は季節ごとに移り変わるこなちゃん達の話題についていくのが精一杯で。
だから私も勇気を出して、二人だけで遊びに行ったり、色々してみた。
でも、やっぱり同性同士だからなのか、意識するのは私だけで、こなちゃんはいつもと同じ。
私もお姉ちゃんの影響で、こなちゃんが好きな話題にも少しずつついていけるようになってたけど、
やっぱり、話が合うお姉ちゃんやゆきちゃんと一緒の方が楽しいんだろうなって思ってしまったり。
それでも、私の誘いをいつも受けてくれて、優先してくれて、仲良くしてくれて、
こなちゃんからも誘われる事が多くなって、もしかしたら少しは意識してくれてるのかな、なんて…。
そんな不安と安堵に揉まれるだけの高校二年が過ぎていく。

独り相撲の冬が過ぎて、気付けば三年目の春が見え隠れしていた。


「しっかし珍しいわねぇ、つかさが時間通りに起きるとか」
朝の、同じ学生服がぽつりぽつりとまばらに並ぶ通学路を歩いていた。
時刻は8時15分。
『もう少しで遅刻だけど、つかさにしては上出来。』
そう横に並んで歩くお姉ちゃんが、嬉しそうに語る。
「そんな事ないもん~、私だって時間通りに起きれるよぉ」
少し恥ずかしくなって、照れ隠しをするような慌てた口調で返してしまう私。
「はいはい、じゃ次は早く、そして転ばずに歩け」
お姉ちゃんはそう言うと同時に、頭からにょきっと生えたツインテールを翻して、
私を急かさんとばかりに数歩前に飛び出した。

さっきの、早起きの話。
あれは嘘。
早起きが出来るようになったのではなく、
本当は、あまり眠れないだけ。
数時間寝て、数時間起きて、それの繰り返しをひたすら部屋の中で繰り返す。
でも不思議と寝不足にはならなくて、家を出る頃にはすっきりとした目覚めを迎えられた。
もしかしたら、普段は寝過ぎてる所為で余計に眠気が残っているのかも知れない。
でも、熟睡できないのはやっぱり身体によくない、明日はちゃんと寝なきゃ。
そんな、いつも通りに、どうでもいい事を考えながら、私達は歩き慣れた通学路を往く。

寝付きが悪い理由は、勿論こなちゃんだ。
私がいくら思わせぶりな態度を取っても、といっても周りに気付かれないようにだけど。
それでもこなちゃんは、まるで無関心って思えちゃうくらい反応がなくて…。
そんなやりとりが、もう何ヶ月も続いてて、
ホコリをかぶって動けなくなった扇風機みたいに、ギシギシと音を立てて空回りを続けるような、
そんな感じが私の中を渦巻いて。
暇な時に、ふと考え込んでしまうのだ。

伝えたい。
伝えて、楽になりたい。
それが今の正直な気持ちだと思う。
勿論、伝えた先の事もたくさんたくさん考えてる。
今以上に傍にいたいし、今以上に触れ合いたい。
友達同士では出来ないような、そんな事もしてみたいし、して欲しい。
もう、半年も前から願い続けてる事…。
でも私は、その半年の間、一度も伝えようとは思わなかった。
だって伝えてしまえば、その先の保証なんてどこにもなかったから。
そんな、定番的な不安や恐れが、まるで脅迫的なくらい私の想いを抑えつけて。
こなちゃんは、そんなの意識しないで、例え上手くいかなくても、いつもみたいに接してくれるって、
ちゃんとわかってるし、信じてるのに…。
そんな大切な事も考えられなくなってしまう程、追いつめられていて、それが自分でも嫌ってくらいによくわかって。
気付けば、私には恋愛に対する焦りと恐れを抱く事が多くなって。
それは嫉妬や怒りに変わって、いつもみたいに笑えない時間が増えてきて。

いつの間にか、私はお姉ちゃんに嫉妬するようになっていた。
私達の中でも特別こなちゃんと話が合うお姉ちゃんは、
いつどんな時でも、こなちゃんを独り占め出来て、こなちゃんが喜ぶ話が出来て、
その時のこなちゃんの笑顔は私に向かって見せた事がないもので、
その笑顔を作れるのは私ではなくてお姉ちゃんで。
そしてその時のこなちゃんを、私は何よりも愛らしく思っていた。


こなちゃんの事は好きだ。
でも、誰かを嫌いになって、得られる愛なんて、私は欲しくない。
私が好きなこなちゃんは、私達4人の中で笑ってるこなちゃんだから。
私達はきっと誰が欠けても駄目なんだ。

だったら、私の気持ちは尚更告白すべきではないのかも知れない。
でも、それとこれとは別の問題にしたかった。
自分でも我が儘だと思う。
それでも私はこなちゃんの事がどうしようもなく好きで、
私一人で、こなちゃんにもっともっと笑顔をあげられたらと、強く強く願っていた。
それに、嫉妬心や、不安や、焦りや、そういうものも苦しいくらい胸に溜まって、
正直なところ、もうあんまり我慢していられる自信もなくて。
酷く自分勝手だけど、そういう面でも決断を迫られていたのだろう。

その日。
私は、やっと、告白の決心をした。


約束をした。
次の日曜日に、二人で会う約束。
無計画で突発的に思いついた告白の舞台は、本当にどこまでも無計画で、着飾りのない無粋なものになってしまった。
場所は駅、夜にバイト帰りのこなちゃんと落ち合う。
本当にそれだけ。他に用意は何もなし。
でも、告白するならなるべく早く、そして次の日曜日しかないんだ、と。
これだけは、行き当たりばったりだけど、私が絶対に譲れない事。
私がこの告白の為に用意した舞台だ。

生まれて初めての告白、そもそも人を好きになる事自体が初めての私は、
どうしたらいいかとか、どうあるべきなのかとか、そんな物は漫画や雑誌の受け入れ程度しか持ち合わせてなくて。
本当に、ただ自分の気持ちに素直に、こなちゃんに向かって走っていた。
上手くいかなかった時の事を考えていないと言えば嘘になる。
けど、そうやってふさぎ込んで、暗い自分になってしまうのはもっと嫌だった。
それに、こなちゃんの前では、あるがままの自分で笑っていたかった。

時間はあっという間に過ぎた。
桜のつぼみは少しずつ大きくなって、街を行く人々の服装も少しずつ薄着に替わっていって、
受験をひかえる私達は、その独特の緊張感を抱くようになって。
この日曜日までの数日間で、世界が春への衣替えをしているみたいに、季節は目まぐるしく変化していた。
天気予報も、季節の移り変わりに振り回されて、そのお天気マークをコロコロと入れ替えていた。
日曜日の横には、幸運にもお天道様が自慢げに飾られていた。



日曜日、私は早起きをした。
というより、結局ほとんど眠れなかった。
今日の事を考えているうちに夜は更けて、意識が途切れたのは時計の針が知らせる深夜1時30分の後だった。
私らしいといえば私らしい、きっとこなちゃんに話せば寝坊や夜更かしの話題が暫く尽きない事だろう。
でも、朝はちゃんと早起き。
7時ぴったりに目を開けて、本当は二度寝したい身体を従わせて、すごく頑張って起きた。
ちょっと感動。
早起き出来たという事より、今日の為にここまで頑張れた自分が凄く嬉しかった。

ピピッピピッ。

先ほどから睨めっこしていたキッチンタイマーがけたたましい声をあげた。
私はそれをOFFにして、オーブンを覗き込む。
早起きの理由の一つが丁度焼き上がったところのようだ。
オーブンを開けると、もふぅっと暖かくて甘い香りが鼻をくすぐる。

「うん、綺麗に出来てるね」
取り出したクッキーを確認。
形も良いし、色も良いし、香りも小麦粉っぽさが消えてていい感じ。
「よぉし、味も見ておこう」
いつかこなちゃんが言っていた台詞の真似をして、あまり出来の良くないものを一つ囓ってみる。
途端に甘みとほんのり香ばしさが口いっぱいに広が──
ぷにぃ。
ぷにぃ?
「つかさ、頼むからあんたまであの馬鹿みたいな事言わないで、せめて普通の変な事を言え」
いつからいたのか、お姉ちゃんが私のほっぺをむにむに引っ張っていた。
地味に痛い。
「お姉ふゃんおあよ~~」
「おはよーって、もうお昼過ぎだけどね。しかし気合い入ってんなぁ、なにこの数」
そう言うと、ほっぺから手を離して、呆れたような表情で机に並べられたクッキーの群を見る。
「えへへ、味見する~?」
私は群の中から少し形が崩れてるのをいくつか選んで、ひょいとお姉ちゃんの方に寄せて置いた。
「……や、んー…んん、んー…」
そのクッキーを見て、何故かうんうんと唸り出すお姉ちゃん。
またやってるんだ…ダイエット。
「おなかいっぱいだったら、無理に食べなくてもいいよ~」
「いや、食べる」
ぱく。
言い終わると同時に、お姉ちゃんは比較的小さめのクッキーをはむはむと口の中に入れた。
「ありゃー…お砂糖たっぷり」
「ごふっ!!」
「わわわっ、お姉ちゃんだいじょぶ?」
”お砂糖”の一言に見事に反応したのか、お姉ちゃんはけふんけふんとわざとらしくむせて見せた。
「あんたね……まあいいわ、これくらいなら許容範囲だし」
「ふえ、なんでー?ダイエットしてないの?」
「えっ!?や、えー、んと、いや、してない、けど…てか、あたしダイエットしてるなんて言ったっけぇ?」
言われなくても誰でもわかると思うよ…?
と、言いたい気持ちを抑えて、
「ううん~、それで、味はどうかな」
それとなく話を戻す。
「いいと思うわよ、ちゃんといつも通りの味だったわ」
お姉ちゃんは、自分の頬を指先でぽりぽりとかきながらそう言った。
「えへへ、よかった~」
両手で小さくガッツポーズを取る。
こういうお菓子は一番の得意分野で、もう慣れてしまったものだけど、
でもやっぱり、いつもと同じ味だって言われると、何度でも嬉しくなってしまう。
嬉しくなって、つい両手を小さくふりふりして小躍りしていると、
「それに、つかさ今日」
と、お姉ちゃんが途中まで言いかけて、
「あ、いやいいやなんでもないっ!じゃねーっ!」
わざとらしく慌てた素振りを見せて台所から退場していった。

「…くすっ」
どんな時でもお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。
たった数分の、漫画にすればほんの数コマのやりとりだけど、
ずっと張りつめていた緊張が随分と解けた気がした。
「私の事、見ててくれたんだ…」
いつも傍にいてくれたお姉ちゃん。
高校に入ってからは少しずつ距離が出来て、もう朝と宿題とテストくらいしか心配はかけてないって思ってたけど、
それは口に出さないだけで、ここ最近の私の事も、きっと心配しててくれたんだよね…。
「ありがと、お姉ちゃん…頑張るね」
どこまで知っているのかわからない、もしかしたら相手がこなちゃんである事も知られているのかも知れない。
少し気まずさと罪悪感が渦巻いたけど、私はその不器用で何よりも心強い優しさに心から感謝した。



約束の時間まではまだまだ長かった。
こなちゃんは、多分、今日もちょっとした用事か何かだと思っているんだろう。
何せ約束を取り付けるのも本当に無計画で突発的で…。

「え、えっと、こなちゃん、あのね」
「うー?何つかさー」
「ええっえええと…っ、その、よよよかっちゃわありゃありゃああ」
「あー落ち着け、深呼吸だ、CQCの基本を思い出して!」
「うん…すー、すー、すー…っ」
「あのーとても典型的なボケをされてませんかな?」
「あうう…え、えっとね、良かったら、次の日曜日に会いたいなって…」
「んー?バイトの帰りならいいよー、どこで待つ~?」
「え、…駅でっ」

恥ずかしい…。
思い返すだけで全身から火がガスバーナーみたいにぶわって出そうなくらい恥ずかしい。
どうして、もっと考えてから話さないのかな…。それに噛み噛みだし。
告白なんだから、見晴らしがいいところにするとか、色々出来たはずなのに……。
私のこの性格は今に始まった事ではないし、考えたところでどうにかなるものでもないから、
もう半ば諦めている事だけど。
でもせめて、大切な話がある、とか…。
そんな思わせぶりな一言くらいはしておきたかった。
そしたら、こなちゃんも…少しは意識してくれるかな、なんて…。
なんて…。
私、弱いな…。



「……?」
辺りは暗かった。
窓から漏れる光はなくて、そして春とは思えない程の寒さを感じる。
寝起きで頭が働かない。
寝起き…?
そうだ。私は寝てたんだ。
家は静まりかえっている。
そっか、お姉ちゃん達、今日はいないんだ…。
今は朝?
ううん、暗いからきっと夜。
あ、時計を見れば…。
私はむくっと顔を上げて、居間の壁にかけられた時計を見る。
短い針が8と9の間をのっそりのっそりと動いている最中だった。

……何かとても大切な事を忘れているような気がした。
おなかの奥がきゅぅぅって締め付けられて、全身の感覚が麻痺しそうなくらいの恐怖感と共に、
私は大切な約束の事を思い出し、そしてそれが7時に駅で待ち合わせという事を理解した。
「わ…わわわわわわわっ!!なんで寝ちゃうの~~~~っっ!」
短針が8と9の間だから、今は8時30分くらいのはず。
もう1時間30分の遅刻…。
身体が震えて、今にも泣きそうになる自分をぐぅっと抑えて、急いで支度をする。
最近はお昼寝もしてなかったのに、どうしてよりによって今日…。
考えられる最悪な展開が私の頭を支配する。
そんな事より、今は急がなきゃ…。
私は余計な思考を振り払って、家の中を駆け回る。
服を着替える。荷物を確認。ああああ携帯忘れてるっ。
最低限の支度をして家を飛び出す。
「こなちゃ…っ……こな…ちゃ…」
心の中で何度も何度も謝る。
住宅街を駆け抜けて、大通りを曲がって、商店街が見えてくる。
辺りはすっかり暗くなっている。
走るのに必死で気付かなかったけど、信じられない事に季節はずれの雪が降っていた。
どうりで寒いわけだ。
商店街の人混みをかき分けて走る。駅が…見えた!
私は飛び込むように駅の中に入り、そこで初めて足を止めた。

「はぁ……はぁぁ…ん、ぁ…はぁ…っ」
苦しい、こんなに長い間走り続けた事なんて一度もなかったから、
こんなにも胸が苦しくて、気持ち悪くなるとは思わなかった。
苦しいというより、肺が痛い。
そうだ、深呼吸…。
いつもこなちゃんに言われる、”つかさ、深呼吸してっ”という台詞を思い出し、
私は呼吸を整えて、ゆっくりと深呼吸をする。
すぅー、はぁー。
すぅー、はぁー。
痛みはなかなか治らないけど、少し気持ち悪いのはなくなったみたいだ。

私は辺りを見回す。
走ってくる時には、こなちゃんを発見する事は出来なかった。
そんなに広い駅でもないし、人を探すのに歩き回る必要もない。
「……こなちゃん」
何度見渡しても、こなちゃんは見つからなかった。
やっぱり…帰っちゃうよね…。
時計を見ればもう9時を回ろうとしていた。
2時間の遅刻。
それにこの雪。
商店街に入った頃よりは、雪の勢いが増している気がする。
そういえば人も多い。
普段、この時間の駅はこんなに人はいないはず。
みんな傘を忘れたのかなと思ったけど、そういうわけでもなさそうだった。
バス乗り場やタクシー乗り場にも列が出来ている。
そしてそれは鳴り響いた。

『只今××線上下共に雪のため運転を見合わせております。只今──』

え…
今、なんて聞こえたの?
嫌な汗がどっと溢れるのがわかる。
こんなに寒いのに、肌寒いのに、すごく暑い。
”雪のため運転を見合わせております。”
そう、聞こえた気がする。
運転を見合わせるって事は、電車はこの雪で止まってるんだ。
こなちゃんは、電車が止まって帰れないの?
それとも、やっぱりもう帰っちゃった…?

足下でボタッと何かが落ちる事がした。
見ると、私の手からバックが抜け落ちていた。
それを拾う。
キリリと、肺が痛む。
「………もう、やだ」
泣きたかった。
子供みたいに声をあげて泣きたかった。
バックを抱えてしゃがみ込む。
抱えたバックから、携帯にくっついたケロロのストラップがキラキラと…。
けい…たい……?
あは、あはは…そうだよ、携帯ってすっごく便利なんだよ。
目尻に溜まった涙を拭いて、携帯を取り出す。
どうして気付かないんだろ…。私って馬鹿だ…困っちゃったね。
連絡が取れるという事がこんなにも救われるなんて、携帯電話を発明した人に毎日お礼を言いに通い詰めたい気分だった。
携帯を開くと、新着メールが7通。
どれもこなちゃんのものだった。
私は再び溢れ出る涙をこらえて、メールを開く。
いつの間にか、焦燥感で壊れそうだった心は落ち着きを取り戻していて、
メールを一つ一つ開くたびに、目に飛び込んでくるこなちゃんの文章が、私を勇気づけてくれた。

『東京は猛吹雪だよぉーなんとか途中の○○駅まで来たんだけどさ、今日はもう帰れないかもー…』
メールにはそう書いてあった。
とりあえず、こなちゃんを2時間も待たせてなかったという事実には素直に喜びたい。
でも電車が動いてくれないと、私達は会えないんだ…。
それは喜べない…。
そうだ、とりあえず電話しよう。
メールじゃ時間かかるし、電話でこれからどうするか決めよう。
そう決めると、私は携帯のアドレス帳からこなちゃんを呼び出して通話ボタンを押す…。
ピー、ピー、ピー。
……?
ピー、ピー、ピー。
電話の呼び出し音は、とぅるるる、だよね。
ピー、ピー、ピー。
これは、違うよね…。
携帯を耳から離すと、画面には”充電切れ”と大きく書かれた文字が点滅していた。
「…どんだけ」

でも、私は怯まない。
だって電話が出来ても出来なくても、もうやる事は決まっていたから。
どうしても…どうしても、この日曜日に告白しなきゃいけない…。
この日曜日しか、私にはないんだ。
電車は動かない。でもこなちゃんは○○駅まで来てる。
○○駅はここの4駅先。
なら、私に出来る事は──

「つかさ!」
「えっ」
振り向くとお姉ちゃんがいた。
傘を持たずに、雪でびっしょりに濡れて、そこに立っていた。
「ど、どうしたの、お姉ちゃん…風邪引いちゃう」
「そんな事はどうでもいいのよ。電車止まってんでしょ、ちょっと待ってて」
「う、うん…あれ、どこ行くのっ?」
私の言葉を無視して、お姉ちゃんはぐっしょりと水分を吸った靴を引きずるようにして改札口に向かった。
そして駅員さんと少し話して、戻ってくる。
私は迎えるように駆け寄った。
「電車、明日にならないと無理そうだって」
「うん…」
「つかさ、私止めないから。行くんでしょ?」
ぎゅっと手を握られる。
冷たい。
きっと、用事が終わって、そのまま駅まで来たんだ…。私を心配して…。
雪が降ってるのに、傘も差さずに。
私はその手を温めるように握り返す。
「つーか行け、○○駅にいるってさっきメールあったわよ。あいつに連絡はした?」
言葉の強さを伝えるように、お姉ちゃんも言葉を発するたびに手の力が強くなる。
「携帯、充電切れちゃって…」
「じゃ私から伝えとくから、絶対そこを動くんじゃないって。だから行け。
 今日じゃないと駄目なんでしょ?」
お姉ちゃんの目は真っ直ぐ私を見ていた。
やっぱり、お姉ちゃんは今も私の事を見てくれていたんだ。
「ほら!雪そんなに降ってないし、早くしないと間に合わないわよ」
そう言って、お姉ちゃんは私の背中をドンッと押した。
ああ、私はきっとこれからもお姉ちゃんに心配かけて、助けられてしまうんだ…。
私は何度もありがとう、ありがとう、と涙声で伝えると、駅を出て線路沿いに走り出した。

「がんばれ、つかさ」


途中のコンビニでビニール傘を買って、私はペースを落として走り出す。
私だってそこまで馬鹿じゃない、全力で走ってしまえば5分ももたないし、
雪でぐしょぐしょになった道路をがむしゃらに走っても危険なだけ。
コンビニを出たのは午後9時31分。
こなちゃんがいる○○駅はここから4駅隣だ。
日曜日が終わるまであと2時間29分。
大丈夫、走れば間に合う!
絶対に、絶対にこの日曜日に言わなくちゃ、告白しなきゃ。
今日は私の最高の日なんだから…。
傘を差して、なるべく体力を使わないように、体育のマラソンの授業の事を思い出しながら、
呼吸を整えて、一歩一歩しっかりと、走る。

少し駅から離れるだけで、通行人はまばらになっていく。
辺りが住宅街になる頃には街頭の数も減っていって、少し心細くなった。
それでも、私は走る。
今出来る事は走る事だけ。
目印の線路を辿って、ただただ走る。

こなちゃん、こなちゃん、こなちゃん…!
疲れ始めた両足の事なんか気付かない振りをして、私はこなちゃんの元へ。
雪はどんどん強くなる。風も吹き始めて、私の疲れた身体を乱暴に振り回す。
それでも、私は何も考えずに走っていた。


「っ…!」
3駅目を迎えたところで、世界が回った。

こなちゃんの事を考えると不思議と苦痛を無視出来て、
本当はこんなにも苦しくて、足は疲れ果てて。
なのに、気持ちは全然衰えなくて、
まだ行ける、まだ行ける、って、
歯止めを失って動き続ける玩具みたいに、残酷なくらい私をはやし立てた。
2駅目を過ぎた時には、もうとっくに限界だった。
フラフラとおぼつかない足取りは、倒れる事など、もう当然の事だと訴えかけていた。
休み休みでも、私は走った。
3駅目の◇◇駅が見えた時、
足も、手も、顔も、感覚がなくて。
寒い。そう、凄く寒くて。
コートを着てくれば良かったなと、ふと、そう思った時。
視界がぐらりと揺れて、気付けば倒れていた。

目を開ける。
そこには白い地面がどこまでも続いていた。
冷たい。
そうだ。私は転んだんだ。

時計を見る。
11時5分前。
あは…、私って、本当に馬鹿だ。
これじゃ、歩いてるのと変わらないよ…。
ついでに足までひねるというおまけ付き。

痛む足を我慢して、立ち上がる。
さすがにもう走ろうだなんて思わない。
私は、丁度目の前にあった◇◇駅のベンチまで行き、腰をおろした。
駅の中から暖房の風が流れ、冷えた身体を暖めた。
「……」
服に付いた雪をはらう。
吐く息は白かった。

◇◇駅はお世辞にも大きな駅とは言えず、正直に言えば駅としては小さいものだった。
周りの街並みも駅の大きなに比例していて、背の高いビルや駅前のスーパーなどは何もない。
電車から見た時の風景は、少し駅から外れれば緑が目立ち始めるような、
そんな場所だった。
駅の中には、私と同じ、この雪の被害者と思われる人がぽつりぽつりといるだけで、
私達の最寄り駅のような人集りはどこにもなかった。

再度時計を見る。
11時7分。
この先が普通の道のりだったら、きっとこの足でも間に合ったと思う。
◇◇駅と○○駅の間には美舟川(みふねがわ)という大きな川がある。
そして川を渡るには、一度この先にある大通りに出て、その先にある橋まで行かないといけない。
線路沿いでは渡れない。
それじゃ、間に合わない…。
遠回りをしていては、間に合わない。


「……うそつき」
自然と言葉がこぼれた。
日曜日なんて、嘘だ。
雪が降って、電車が止まって、雪が強くなって、走る事も難しいくらい吹雪いて。
寒い。
服もびしょ濡れで……、これじゃ、風邪ひいちゃうよ。
足だってひねっちゃって、もう走れない。

……。
思った。
これは罰なんだ。
決めたのに、告白するって決めたのに。
自分で決心して、決めた事なのに。
なのに、自信がなくて…あんなのに頼って、楽しようなんて……。
そんなの、こなちゃんに失礼なんだ…。
きっと、お姉ちゃんに言われて、こなちゃんは寒い中待ってるんだ…。
お父さんに迎えに来てもらえるのに、私の所為で待たせちゃってるんだ。
ごめんなさい、ごめんなさい……。
また、みんなの事振り回して、迷惑かけちゃったよ……。

気付けば涙が溢れていた。
かじかんだ頬は、涙で濡らされるとヒリヒリと少し痛んだ。
その涙は、まるで自分の許しを請おうとしているようで、
痛みを感じるたびに、情けなさが胸いっぱいに広がった。
「ぜんぶ…私の、所為、なのに…」
なのに、悲しい…苦しい……。
涙が止まらない。
私の自業自得なのに、自分で頑張らなきゃいけないのに、
こんなところで立ち止まってる…。
早く、立ち上がって。
例え今日が終わっても、待っているかも知れないこなちゃんの為に、行かなきゃいけないのに。
きっと、お姉ちゃんもこなちゃんも心配してる…。
大丈夫だよって、伝えなきゃいけないのに……。
しっかりしなきゃいけないのに…。頑張らなきゃいけないのに…。
もう、足が震えて、立てないよ…。

「お姉ちゃん、なら……もっと頑張れる…のに」







「そんなの、つかさらしくないよ」

えっ。

涙をぬぐう手をどけると、そこには人の足が見えた。
私の目の前に立った足は、細くて、華奢で、子供みたいで。
そして、私が普段からよく見慣れた靴をはいていて。
「こなちゃっ…」
私が顔を上げようとすると、それを遮るように、ぎゅっと抱きしめられた。
「やっと会えたね…つかさ」
ぎゅっと。強く、強く。
その体温全てを共用し合うように、抱きしめられた。
「こな、ちゃん……っ」
涙で、うまく声が出ない…。
柔らかい香水の香りがした。
いつもこなちゃんがつけている香水。
いつか、私と二人で選んだ香水。
声も、香りも、温もりも、全部昨日ぶりなのに。
なのに、とても懐かしい。酷く遠回りをしてきた気がした。
「二人とも遅刻だねぇ、待ち合わせ場所も間違えてるし」
「でも…会、え…たよ」
「うん…」

抱き合って、何度も声を掛け合って、お互いを確認し合った。
信じられないけど、私はここでこなちゃんと出会えた。
こなちゃんはもう一つ先の駅にいるはずなのに、会えた。
なんだか、奇跡みたい……。
「こーゆのさ、奇跡って呼んでもいいのかな、それっぽいよね」
えへ、考えてる事一緒だ。
私も、同じ事考えてたって答えたいけど、癇癪起こしたみたいに、うまく喋れない。
だから、こなちゃんの、私よりも一回り小さい体を、いっぱいいっぱい強く抱きしめる。
こんなに小さいのに、私にとっては何よりも大きい存在だ。
全身に伝わる優しさが、嬉しくて、愛しくて、ちょっと痛くて。
私は、また涙が止まらなかった。
こなちゃんは、よしよし、泣いていいんだよ、って撫でてくれる。
「ぁ、ぁ……うぁぁぁぁぁ…っ」
子供みたいに声を出して、私は泣いた。
甘えるように、何度も。


私が落ち着くと、こなちゃんは横に座って、私がこうしてる間に何があったのかを教えてくれた。

私がお姉ちゃんと別れてから、雪が強くなって。
心配になったお姉ちゃんは、こなちゃんに何度も何度も連絡をした。
ついに雪も吹雪いてきて、一向に現れず、連絡も取れない私に、
こなちゃんとお姉ちゃんは、私と合流しようと考えた。
そして、私達はここで出会えた。

「かがみなら大丈夫、電車もう動いてるからそれで帰ったよ。雪ももう平気」
「あ…ほんとだ」
辺りを見ると、雪は既に弱いものになっていた。
空を覆っていた厚い雲は薄い雲になって、月明かりでほんのりと照らし出されている。
「良かった…ほんとに……」
私達も会えて、お姉ちゃんも無事で…。
こなちゃんは、ほら、とお姉ちゃんが『もうすぐ家に着くぞー』って書いたメールを見せてくれた。
もう、私…迷惑かけてばっかりだ。
馬鹿で、ドジで、無計画で…。
「ま、それが取り柄とはいえ、今回ばっかしは反省するのだぞ、つかさ」
「心の中読まないでよぉ」
「んふふふ」
ああ、これだ…。
こなちゃんの暖かさ。
いつの間にか、私が求めていたもの。憧れていたもの。


「んで、つかさ…言いたい事あるんでしょ?」
そうだ。
私は、今日、この日曜日に伝えようとしたんだ。
この半年間、ずっとずっと悩み続けて、やっと出した答え。
そしてやっと決心した気持ち。
こんな事になってでも伝えようとした事。

「ほら、早くしないと日曜終わっちゃうよ。
 かがみから聞いた。今日じゃなきゃダメなんでしょ?」
ぎゅっと手を握られる。
こなちゃんの華奢な手が、私の手を包んでいる。
頑張れって、伝わってくる。
もう片方の手には、お姉ちゃんも繋がっている。
ここにはいないけど、支えられてる。
頑張れ頑張れって、背中を押されてる。
みんなと繋がってる。私は一人じゃないんだ。
もう迷わない。もう恐れない。
私はここまで走って来たんだ。
馬鹿で、無計画で、格好悪いけど。
それでも私は来たんだ。
こなちゃんに会う為に、告白する為に。
二人に支えられながら、今日という日に、私は走ってきたんだ。
伝えよう。
今日、こんなになってまで私を助けてくれた二人の為にも、伝えよう。
伝えよう…。

一つのベンチに向かい合って座る。
こなちゃんが私の事をじっと見つめていた。
今、私はどんな顔をしているのだろう。
涙でくしゃくしゃになってるのかな…。
そんな事を考えていたら、繋がった手にきゅっと力が込められた。
こなちゃんが私の手をさっきよりも強く握っていた。
そして、柔らかく微笑むと、何度か小さく頷いて。


「こ、こな、ちゃ……わたし…ず、ずっつふりゅふぅぅ」

どんなに不格好でも。どんなに要領が悪くても。

「つかさ、深呼吸して」

私達でやっとたどり着いたこの場所で。

「私…ずっと、前から、えと、去年の…夏、くらいから…」
「うん」

伝えるんだ。

「こな、ちゃ…の事…ぐすっ…ぅ…」

自分の為に。
助けてくれたお姉ちゃんの為に。
こんなになっても付き合ってくれたこなちゃんの為に。
そして、これからの為に。

「つかさ…」

大きく、息を吸う。
次、息を吐いて、”好き”の二文字を伝えてしまえば、
今まで、ずっと、胸の奥で育ててきた、この悩みともお別れ。
ううん、お別れじゃない。
私は全部背負っていくんだ。

こなちゃんと友達になれた春も。
少しちょっかいが過ぎて呆れられちゃった夏も。
二人で過ごす時間が多くなってお姉ちゃんにからかわれた秋も。
しんしんと降り積もる雪のように、想いを重ねていった冬も。

嫌なこともたくさんあった。恥ずかしいことも、苦い事も、たくさんあった。
どれも、私達の大切な思い出。
全部、全部持っていくんだ。
何も失わない。私達には、失うものなんて何もなかったんだ。
それ以上に、私達は繋がっているから。
だから、もう何も怖くないんだ…!

「…好き……です…。」

言えた……。





「……ありがと。こんなに私の事想ってくれて」
「あぅ……ぅぅ、ごめんね…ごめんね…っ、迷惑かけてっ…」
また、泣きじゃくってしまう私の頬に、そっとこなちゃんの手が触れる。
「謝らないでよ、私嬉しいんだから」
その手はスッと、涙をぬぐってくれた。
「つかさ、こっち向いて」
私は誘われるまま、顔を上げてこなちゃんを見つめる。
こなちゃんも泣いていた。
目が合うと、頬に触れていた手は、私の頭の後ろに回されて。

「……」
「っ…」
キスをした。
そっと、触れ合うような、お互いを確認し合うような、長くて、柔らかくて、優しい。
そんなキスだった。
「これが答え、って…ダメかな」
顔を離すと、こなちゃんは頬をほんのり赤く染めて、上目遣いで、そう私に訊いた。
潤んだ瞳と大人らしいその表情は、普段の幼い顔つきなんて、フッと忘れてしまうそうな程、綺麗で、素敵だった。
「それって、好きって事…?」
ちょっといじわるしてみる。
「そ、そそ…そうだよ……私も、つかさが……好き」
「ふふ、こなちゃん可愛い」
今度は私が撫でてあげる。
髪を整えるように、そっとそっと。
「こ、こんな…一直線に愛されたら……好きになっちゃうヨ」
そう言うと、こなちゃんは私の胸元にきゅっと顔を寄せて抱きついた。
私も抱きしめる。
さっきのお返し。その小さな身体を全身で包むように、ぎゅっと、抱きしめる。
「伝えてよかった…」
「ありがと…つかさ」

雲を割って、月明かりが辺りを照らした。
その中をゆらゆらと舞う雪はとても綺麗で、二人を祝福しているように見えた。
半年間も遠回りして、最後の最後まで遠回りして。
そうして得られたものは、かけがえのないものだった。
後悔もたくさんした。でもそれがあったからこそ、私は今ここにいられる。
雪の中を走って、転んで。
お姉ちゃんに迷惑かけて、こなちゃんを巻き込んで、大変な事をしてしまったけど。
でも、後悔はしてなかった。
どんな苦労も、今なら…こなちゃんと一緒なら、きっと幸せになってしまうんだ。

やっぱり、日曜日は、私にとって最高の日だった…。

私達は、いつまでもいつまでも、離れずにいた。
そしてこれからも、ずっと、一緒でいられるように、尽くしていこう。
二人で…。


「あ、そうだ」
「ん?なになに?」
「んとね、お菓子焼いてきたの、えーっと」
「おっ、いいね~私おなかすいちゃってさぁ」
「……あれっ!あ、あーっ!わわわわわっ!わたしっ!」
「…まさか、あれですか!いつもお決まりの!」
「ごごごごめんねっ、その…っ…お家に、あるみたい…」
「この天然めぇぇぇっ」




次の日、私達三人は見事に風邪を引いた。
三人とも一緒に風邪を引いて、一緒にお休みして、そしてその翌日にはケロっと治って、
いつもと同じ日常が始まるんだ。

お姉ちゃんにたくさん怒られて、ゆきちゃんにもたくさん怒られて、こなちゃんにもたくさん怒られた。
お父さんお母さんも、上のお姉ちゃんも、みんなみんな怒ってくれた。
みんな心配してくれた。みんな私の味方だった。
当たり前の事なのに、すごく嬉しかった。
長い長い遠回りだったけど、馬鹿でドジな私だけど、前よりほんの少し…素敵になれた気がした。
みんな、心配かけてごめんなさい。ありがとう…。


結局、私が一人で悩んでいた恋煩いは、初めからお姉ちゃんにもゆきちゃんにもばれていて。
こなちゃんも実は薄々気付いていて、でも同性だからそういうものなのかなって、少し戸惑っていたそうだ。
つまり、私の片思いは何一つ隠せてなくて、むしろ見たら誰でもわかってしまうくらいわかりやすくて(お姉ちゃん談)、
私は、影からみんなに応援されていたんだ。
えへへ、私ってやっぱりダメな子だ。
ダメだけど、凄く嬉しい…。


「てかさ、かがみのケータイ渡せば良かったんじゃないの?」
「う、うっさいわね!気付かなかったのよ!」

「そういえば、最近は携帯電話を充電する色々な商品があるみたいですね。
 コンビニ等では使い捨てのバッテリーも売られていますし。」
「あ、私も見た事ある~。なんか、友達が繰り返し使う方法があるって言ってたよ~」

「…いやいやつかささんや、知ってるならそれ買って連絡してくださいよ」
「いや待て、その前に、どうしてつかさは日曜にこだわってたのよ」
「あ、それ私も気になってた」

「え、えっとぉ…ね。その、本に…」
「本に?」
「…本に、日曜日が絶好調って占いが……」

「…………こ…この…馬鹿妹がああああ!!!」
「ふええ~~~~んっ!!」


おわり
















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  • なんだかほんわかした。
    そして、かがみが良い姉だ。
    優しいお話ですね。


    -- 名無しさん (2010-08-13 12:58:02)
  • かがみ…なんてイィお姉ちゃんなんだ!! -- 名無しさん (2009-12-06 09:49:57)
  • すごくいい話でした!” -- 名無しさん (2008-09-24 08:43:51)
  • GJ!というかこういうのは久しぶりに読んだかも。 -- ウルトラマンジャスティス (2008-09-24 00:56:33)
  • GJです!
    ドジだけど必死にがんばるつかさが可愛いかったです -- 名無しさん (2008-07-02 03:53:13)
  • 忘れてたんでしょ -- 名無しさん (2008-06-30 22:33:30)
  • 一つだけ気になったのが……こなたはかがみを紹介されるより前に、外人からつかさを助けてるんですよね。
    多分、この一件が二人が友達になったきっかけのはず。

    本編の設定に拘る必要ないけど、こなたに惚れるには充分なエピソードなので使わないの勿体なかったかな、なんて。
    いい話なだけに。 -- 名無しさん (2008-06-30 17:17:17)

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