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Escape 第10話

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 10. (ゆたか視点)


 こなたお姉ちゃんが、崩れるように倒れてから私の記憶はひどく曖昧になっている。
 気がついたら、私はかがみ先輩、つかさ先輩、高良先輩、そして、
みなみちゃんと一緒のテーブルを囲んでいた。
 こなたお姉ちゃんは隣の部屋のベッドで寝息をたてている。

「そろそろ、いいかな? ゆたかちゃん」
 私の身体が小さく震える。
「はい」
 動揺を悟られないようにゆっくりと顔をあげる。
「こなちゃんが眠っている間に、ゆたかちゃんとお話をしたいの」
 『眠っている』と言った時に、かがみ先輩は小さく声をあげたけれど、
つかさ先輩は気にすることなく話を続けていく。

「私は、こなちゃんとゆたかちゃんが、今の状態を続けてはいけないと、以前は思っていたの」
 つかさ先輩は、表面上は虫も殺さないような笑顔を浮かべているが、
私は、喉がカラカラになるほど緊張している。

「はい…… 」
 なるべく感情を表に出さないよう、わざと曖昧な表情をつくり、小さく頷くだけにとどめる。

「でもね。二人をこれ以上追い詰めるのは、良くないことだと考え直したんだ」
「つかさ! 」
 つかさ先輩の隣に座っていた、かがみ先輩があからさまに不満を表に出した。
「お姉ちゃん。こなちゃん達をいくら追いかけても、所詮、無駄なことだよ」
「それはそうだけど…… 」
 かがみ先輩は、何か言おうとして、何もいえずに不満げな表情なまま押し黙った。

私は…… ゆたかから離れたくないんです」
 一方、みなみちゃんは、膝の上に置いた掌を握りしめながら、声を絞り出した。
 つかさ先輩は、みなみちゃんの顔を一瞥してから、軽く微笑みながら言葉を返す。

「みなみちゃんにとっても辛いと思うけれど、そろそろ現実を受け入れなければならないと思うの」
「はい」
 つかさ先輩の、見えないプレッシャーを受けて、あの強情なみなみちゃんが、あっさりと頷いてしまう。

「それでね。ゆたかちゃん」
 つかさ先輩は、私の方に向きなおって言った。
「ゆたかちゃんに、提案があるんだ」
「提案…… ですか? 」
「そう。ゆたかちゃんにとっては悪くない話だよ」
 生命保険の外交員のような笑顔をみせて、言葉を続ける。
「私は、こなちゃんとゆたかちゃんに埼玉に戻ってと言うつもりはないの」
「えっ! 」
 叫び声をあげたのは、私ではない。
 つかさ先輩の隣に座っている、かがみ先輩とみなみちゃんだ。

「無益な追いかけっこはもうしないよ。だから…… 」
 つかさ先輩は息を大きく吸ってから、はっきりとした口調で言った。

「ゆたかちゃんには、戦闘状態を解いてほしいの」


「どういうことですか? 先輩? 」
 私は慎重に返した。言葉の意味があまりにも抽象的すぎる。
「少し言い方がわるかったかな。つまり、去年から続いている不幸な関係を終わらせたいと思っているの」
「…… 」
「えっと。簡単に言うとね。こなちゃんとゆたかちゃんとは普通の友達に戻りたいんだ」
 つかさ先輩は、瞼を微かに潤ませながら、少しだけ哀しそうな表情を浮かべて、小さく首を傾けた。
 今の仕草を異性が見たら、転ばぬ者はいないだろう。

「ダメ…… かな? 」

 つかさ先輩は哀しそうな顔を向けてくる。他の3人は固唾をのんで見守っている。
 私は、激しく荒れ狂う内宇宙の感情を抑えて、ペルソナを必死でつける。
 そして、仮面にずれが無いことを確かめてから、ゆっくりと口を開いた。
「私とこなたお姉ちゃんを、引き離そうとしないならば、それで構いません」

「ありがとう。ゆたかちゃん」
 つかさ先輩は、真夏の向日葵のような笑顔を浮かべながら立ち上がった。
 私の席にまで歩み寄ってきて抱きついてくる。
「とっても嬉しいよ」
 つかさ先輩の柔らかい身体が押し付けられて、私はくらりと来た。
 ずいぶん遠い出来事のことに思えてしまうが、つかさ先輩とは昨日、えっちをしたばかりだ。
 彼女の身体から放たれる甘い匂いは、濃厚に記憶に残っている。

「これで安心して家に帰れるね。お姉ちゃん、ゆきちゃん、みなみちゃん」
 つかさ先輩はバーゲンセールのように、周囲のメンバーに笑顔を振りまいている。
 かがみ先輩は、苦虫を百匹程噛み潰したような表情を浮かべたまま、何も言わない。
 高良先輩も不安げな表情を浮かべて、無言で私を見続けている。
 みなみちゃんは整った顔をあげて、私に向かって尋ねた。

「ゆたか…… 私のことを許してくれるの? 」
 救いを求めるような眼差しに激しい疲労を感じながら、私は口を開いた。


「みなみちゃんを許すなんて、そんな大それた事を言える立場にないよ」
 既に嘘という底なし沼に落ちている私の中では、比較的、正直な言葉だと思う。
 人が人を許すなんて、傲慢にも程があるから。

「だから…… もう気にしないでよ」
「うん」
 みなみちゃんは立ち上がり、先程のつかさ先輩と同じように、私を抱きしめる。
「良かった。私…… 」
 みなみちゃんは、全ての苦悩から解放されて安心しきった顔つきに変わっている。
 双眸からは、涙がとめどもなく流れ落ちて、頬を濡らしている。
 心底みなみちゃんが羨ましい。私は、たぶん救われることはない。

 これまで黙って私をずっと見つめていた、みゆき先輩がようやく口を開いた。
「小早川さん…… 本当に良いのですか? 」
 流石に高良先輩は、私の殊勝な態度に不審を抱いているようだ。
「つかさ先輩の提案を断る理由はありませんから」
「そうですか…… 」
 高良先輩は無理矢理、自分自身を納得させるように頷いた。

 純粋な利害関係を考えれば、つかさ先輩の提案は、少なくとも私にとってはほとんど不利にならない。
 彼女達が、はるばる埼玉からやってくる時に会ってあげればよいのだから。

 その後、私とつかさ先輩で細部の詰めを行い、協定のようなものが結ぶことにした。
 内容は以下の通りとなる。

 私とこなたお姉ちゃんは、そのまま愛知県に住む。
 かがみ先輩達が来るときは、普通の友人として接する。
 つまり、学校等の所用がある場合は会うことができないが、暇な時間ができた時は拒絶をしない。

 最後に、当事者の一人であるこなたお姉ちゃんの同意を得られてから効力が生まれる。
 この点は、かがみ先輩が不安がっていたけれど、私は心配していなかった。
 こなたお姉ちゃんは、私にとって唯一の味方なのだから。

 翌朝、ようやく目を覚ましたこなたお姉ちゃんと一緒に下に降りると、
既に朝食の準備が整っており、私達を除く全員が着席していた。
 つかさ先輩が、こなたお姉ちゃんに「協定」の話をして同意を求めると、
予想通り、お姉ちゃんは私が賛成していることを確認してからあっさりと頷いた。

 皆で静かな朝食をとったあと、高良先輩が操る船に乗り、島を後にする。
 波も穏やかで、船は梅雨入り前の眩い日差しを浴びながら快調に進む。
 私は、こなたお姉ちゃんが眠っていることを確認してから、つかさ先輩に小声で話しかけた。


「つかさ先輩」
「なあに? ゆたかちゃん」
「教えていただきたいことがあるんです」
「いいよ」
 つかさ先輩は、デフォルトとなっている笑顔のまま頷いた。

「どうして中途半端な事ばかりするのですか? 」
「どういうこと? 」
「私に、クロロホルムを嗅がせて、眠らせた上で拉致をしたり、見込みのない脱走をするように煽ったり、
挙句の果てには大した条件も付けずにあっさりと解放したり、つかさ先輩の行動には一貫性が無さすぎです」
 一気に私がまくし立てると、つかさ先輩は何度も瞼を瞬かせてから小さく笑った。

「ゆたかちゃんって頭がいいんだね」
「からかわないでください」
 私がカッとなって睨みつける。
「ごめんごめん」
 つかさ先輩は軽く謝った後、私の耳元で囁く様に言った。
「私は、誰の味方でもないよ」
「え!? 」
 私は戸惑った声をあげた。
 今までずっとつかさ先輩は、かがみ先輩サイドの人間だと思っていた。
「強いて言えば、私は、私自身の味方でしかないの。だから、私は自分の思ったことをするよ」
「つまり、私を攫ったり、解放したりですか? 」
「そう」
 つかさ先輩はあっさりと頷いた。
「ゆたかちゃんを捕まえたのも、解き放つのも私の意志であって誰の意向でもないの」
 そして、つかさ先輩の判断は、気分次第で変わってしまう……

 私は、小さな身体を震わせることしかできなかった。
 つかさ先輩は、自分自身が楽しむためだけに動いている。
 彼女の行動には善悪という基準はない。面白いかつまらないかがあるだけだ。

 だから、行動に一貫性がない。
 私を捕まえるのが面白いと思えば平然と拉致するし、解放する方が面白いと考えれば、
せっかく捕まえた籠の鳥をあっさりと放ってしまう。

 私は救いようのない程、愚かだ。
 真の敵の存在に、最後の最後、わざわざ相手から教えてもらうまで気がつかなかったのだから。


 河和という名の港で船から降りてから、私鉄で北上する。
 名古屋駅で、先輩達とみなみちゃんとは、一旦、別れることになる。
 JR名古屋駅の中央改札口で、無邪気に手を振っていたつかさ先輩の姿が消えたことを確認すると、
私はこなたお姉ちゃんの手を引いて歩きだした。
「ゆ、ゆーちゃん? 」
 私は、無言で、こなたお姉ちゃんの手を握ったまま足を左右に動かす。
 電車に乗っている時も、家に向かって歩いている時も何も言わなかった。
 アパートに入って入口の鍵を閉めた時、何かが切れた私は泣きながら、
こなたお姉ちゃんの身体にむしゃぶりついた。

「ゆ、ゆーちゃ、んぐっ」
 こなたお姉ちゃんの柔らかい唇をふさぎながら、本能の赴くまま、
こなたお姉ちゃんの衣服をはぎ取っていく。
 もちろん、私自身を包む邪魔な布地はさっさと取り払ってしまう。

 お姉ちゃん! こなたお姉ちゃん!
 私は心の中で何度も愛する人の名を叫びながら、舌を伸ばして荒々しく貪る。
 左手をせわしなく動かして、お姉ちゃんのまだ満足に生え揃っていないアソコに手をのばして、
右手を使って膨らみかけの小さな乳房を愛撫する。

「んっ、んくっ、くう」
 私の乱暴な愛撫に、こなたお姉ちゃんは眉をしかめながらも、次第に声が艶めいてくる。
「こなたお姉ちゃん、私、私! 」
 お姉ちゃんの大切なところが十分に濡れたことを確認してから、
自分のアソコを太腿の間にもぐりこませる。

「ゆ、ゆーちゃん!? 」
 こなたお姉ちゃんの顔が真っ赤になっている。
 貝合わせは、お互いのアソコを押し付け合っているところが、
はっきりと見えてしまうとても卑猥な体位だ。

「こなたお姉ちゃん…… 」
 うわ言のように大好きな人の名前を何度も連呼しながら、私はひたすらアソコをすりつける。
「ん、んひゃ、あぅ…… 」
 じんわりとした快感では満足できずに、腰の動きを速めていく。
「あぅ、ゆーちゃん、激しすぎっ」
 ぐちゃ、ぐちゃっと少女の濡れたアソコが擦りあう卑猥な音が、アパートの一室に響き渡る。
「もう、んあっ、だめ、だめだよっ」
 感情が高ぶってきたこなたお姉ちゃんが、長い髪を振り乱しながらよがっている。
「わたしも…… いきそう」
 快感が少しずつ高まり、着実に頂きが近づいてくる。
「お姉ちゃんっ、お姉ちゃんっ」
「んああっ、ゆーちゃん! ゆーちゃん! 」
 私と、こなたお姉ちゃんは快楽の階段を駆け上がり、瞬く間に絶頂に達した。


「はぁ…… はぁ」
 私と、こなたお姉ちゃんは荒い息をつきながら、お互いの身体を抱きしめる。
 しかし、1回達しただけでは到底、満足できるはずもなく、まるでサカリのついた動物のように、
私はこなたお姉ちゃんを求め、お姉ちゃんも発情期に入った従姉妹を受け入れた。

 貪るだけ貪りつくすと、私たちはのろのろと立ち上がって、
愛液と汗まみれの身体を洗いあってベッドに倒れこんだ。

 ベッドで仰向けになって暫く経つと、激しい性交で一旦は抑え込んでいた恐怖が再度、蘇ってきてしまう。
「私、わたし…… 」
 激しい悪寒に奥歯をガチガチと震わせながら、私はこなたお姉ちゃんにしがみついた。
「お姉ちゃん。私、怖いの」
「怖い? 」
 こなたお姉ちゃんは、私の乾き切っていない髪をやさしく撫でてくれる。
「私、消えたい、もう、誰もいないところに逃げたいの! 」
「ゆ、ゆーちゃん!? 」

 こなたお姉ちゃんはとても困っているだろう。
 しかし、精神的に脆い私は、お姉ちゃんに生の感情をぶつけることしかできない。
「先輩が怖いの」
「かがみが怖い? 」

「違う。違うの。つかさ先輩が怖いの! 」
 私はイヤイヤと首を振りながら叫んだ。
「どういう事か、話してくれるかな」
 私は泣きじゃくりながら、帰りの船の中での、つかさ先輩との会話の一部始終を伝えた。
「そんな…… 」
 こなたお姉ちゃんの顔色は蒼白になっている。

 つかさ先輩は、気が変わればあんな適当に作った「協約」なんてたちどころに破ってしまうだろう。
 彼女は天使のような笑顔で、平然と他人を陥れるのだ。
 しかも、どんなに警戒していても、何かの宗教にはまった人のように、
つかさ先輩の言葉どおりの行動をとってしまう。
 もしかしたら、巫女として特別な力を持っているのかもしれない。


「でも、これ以上、こなたお姉ちゃんに迷惑をかけられないっ 」
 私は、こなたお姉ちゃんから身体を離した。
「ゆ、ゆーちゃん? 」
「ごめんなさい。こなたお姉ちゃん。私、ここを出るから」
「ダメだよ! ゆーちゃん! 」
 こなたお姉ちゃんが叫ぶ。
「もう、私、絶対に、つかさ先輩の顔を見ることができないの。怖くてできないよ」
「ゆーちゃん。ここを出てどこにいくのさ! 」
 こなたお姉ちゃんは明らかに狼狽しながら、私を逃がさないように強く抱きしめる。
「誰もいないところに行きたいの! 私を干渉する全てのものから逃れたいの! 」
「絶対に駄目だよ。そんなことしたら行き着く先は決まっている! 」

 こなたお姉ちゃんが涙ながらに叫んだ。
 お姉ちゃんには、とても申し訳ないと思うけれど、
既に私はどうしようもないところまで追い詰められている。
「もう駄目だよ。私、もう頑張れないよ…… 」
 私はおねえちゃんから離れようともがくけれど、お姉ちゃんは私を抱きしめたまま離してくれない。

「わかった」
 涙で顔を赤く腫らしながら、こなたお姉ちゃんは頷いた。
「ゆーちゃん。私も一緒に付き合うよ」
「だめ、だめ、お姉ちゃん! 」
 私はかぶりを振った。
 私の愚行に、こなたお姉ちゃんをこれ以上付き合わせてはいけない。
 こなたお姉ちゃんはもっと光溢れる道を歩くべき人だ。
 決して、私と一緒に奈落の底に落ちてはいけない。

「ううん。ゆーちゃんがいなければ、私が生きる意味がないから。
私にとってゆーちゃんが何よりも、誰よりも大切な存在だから」

 こなたお姉ちゃんも私と同じか――
 私は、深いため息をついた。

 私とこなたお姉ちゃんは共依存だ。

 私たちは、お互いの手をきつく縛ったまま、世界の全てに背を向けてひたすら逃げ続ける。
 行き着く先はおそらく見えているけど、まだ、そこに至るまでに紆余曲折はあるだろう。
 もしかしたら、どこかで救いの手が差し伸べられるかもしれない。
 もっとも、愚かな私達はせっかく出された手を邪険に振り払うことになるだろうけど。

「こなたお姉ちゃんとは、どこでも一緒だよ」
「ありがと。ゆーちゃんさえいれば、他に何もいらないよ」
 今日初めての笑顔を浮かべてから、触れるだけのキスをする。
 こなたお姉ちゃんの唇は誰よりも柔らかくて心地よい。
 壊れた心が一時的に修復されるまで口づけを交わした後、
私達は、現実世界の全ての苦痛から逃れるために、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 (了)


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朝焼けの女神へ続く
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コメント:
  • つかさ! -- 名無しさん (2010-04-05 04:21:37)
  • ゆたかが耐えられなり更に逃げる可能性がある事を承知で
    わざわざ自分の真意を話したつかさ。
    もしかして二人が更に逃避行に走る事さえもつかさの手の内なのかも……
    オソロシヤ… -- 名無しさん (2008-07-15 18:11:37)
  • つかさの怖さは他人を介して初めて感じるものだった… -- 名無しさん (2008-07-13 23:22:00)
  • 最後の最後までEscapeの意味を誤解していた…
    かがみからではなく、つかさから、という事だったとは…。
    誰も死なない、傷をつけない、最後までは狂わない、とスレで言われていたが、
    だからこそ余計に誰も救われない感が際立った、そんな話でした。
    スレで書き込もうとしたが規制で書けなかったのでこちらで感想を…とにかくお疲れ様でした。 -- 名無しさん (2008-07-13 23:13:35)
  • とりあえずお疲れさまでした。ゆたかが現実をだんだん恐れて
    逃げてしまう様など人間の心理描写がうまいですね。新作に
    期待しております。 -- 泉こなた(九重龍太) (2008-07-13 20:48:00)
  • Elopeの続編があるのか……
    全裸待機して待ってるぜ -- 名無しさん (2008-07-13 13:45:54)

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