アットウィキロゴ
kairakunoza @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

kairakunoza @ ウィキ

美女と野獣

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 つかさが真剣な顔で、ほうれん草のソテーからコーンをそっと箸で摘んだ。
 ふるふる震える箸先のコーンを口元に運び急いで咀嚼すると、すぐに次のコーンを睨みつけ弁当箱上の悪戦苦闘を再開する。私の好きなつかさの仕草、その1。
 中間試験と共に春の陽気は何処へか去り、天気予報の彼方から一年ぶりの汗ばむ季節が舞い戻ってきていた。
 翻るベージュのカーテンの向こうでは羊そっくりの高積雲が地上約6000メートルの高みで群れをなしている。
 私立陵桜学園3年B組の教室での12時37分、私、柊かがみはつかさ謹製の豆腐ハンバーグ――「好物は最後に食べる理論」の犠牲者の解体作業に勤しみながら、双子の妹の食事風景を眺めていた。

 つかさはいつも一生懸命食べる。
 気をつけて見てないとご飯を頬いっぱいにしてしまうし、かぼちゃのコロッケをもりもりと咀嚼する。ちょっと苦手なアスパラガスもベーコンに包んで「う~」と唸りながら頭から齧る。そんな愛しい妹の百面相を頬杖ついて眺めるのが、おいしいお弁当にも勝る私のささやかな日々の糧なのだ。
 もっともつかさは、しっかり者の姉である私が「にへら」とだらしなく緩みがちな頬を、ありとあらゆる表情筋を駆使した必死の努力で引き締めているとは夢にも思わないだろうケド。
 あ、ほら。

「つかさほっぺついてるわよ」
「あ……えへへ。お姉ちゃんありがとう」

 頬についた米粒を指先で取ってあげるとつかさは照れくさそうに頭を掻いた。
 私はといえば指先を擽ったつかさのショートヘアの感触に内心どぎまぎしながら「もう子どもじゃないんだから、もっと落ち着いて食べなさいよ。お昼休みはまだあるわよ」なんて言い繕うのだ。
 ちらりと横目につかさの方を伺う。私の心中に気づいた様子……大丈夫全くなし。この何もわかってなさそうな笑顔で玉子焼きを突付いている鈍感な妹に、この密かな恋慕を悟られるわけにはいかないのだ。
 ああ、私ってなんて幸せなんだろ。愛しい妹の横顔を存分に堪能しながら、胸にじんわりと染み込むこの気持ちを享受する。
 短い昼休み、毎日他クラスから遠征し、隣の白石君の座席を強奪した甲斐があったと心底思う。
 そのやりとりに、チョココロネの効率的な食事法を黙々と研究していたこなた(仲良し四人組が集るささやかな集会場、皆が囲むこの机の提供者)が面を上げて尋ねてきた。

「かがみとつかさってさ、本当に仲いいよね?」
「えへへ、そうかな」「でも双子なんだしこれくらい普通なんじゃない?」
「ん~、でも兄弟姉妹だからこそ、普通学校みたいな場所では別々に人間関係を築いて互いに干渉しないものなのじゃないかな?」
「まぁそういう姉妹もいるかもしれないけど、私達はそうじゃないってだけでしょ」

 私はつかさなしの高校生活なんて想像できないし、したくもないけどね。

「それをわざわざ隣のクラスから一緒に昼ごはん食べに来て、しかもお揃いのお弁当。これはもうフラグ立ってるとしか!」
「結局それが言いたかっただけかい!」

 照れなし、どもりなし――いつも通り、即座のツッコミが出来たと思う。
 逆向きにした椅子の背もたれに抱きつきガタピシと前後に揺すりながら、オタク特有のオーバーアクションで捲くし立てる。

「いやぁ昨日ゲーマーズで『百合姫S』の創刊号を買っちゃってさ~♪ 椿あすの表紙とポイントに惹かれて思わず衝動買いしちゃったんだけどね。
本誌の方は前から読んでたんだけど、『マリみて』以来の百合ジャンルの興隆はめざましいものがあるよネ~」
「ああ、はいはい」
「ましてさっきの仕草なんてねぇ……ぬふふ」
「なによ?」
「かがみんとつかさ、まるで新婚さんみたいだったヨ♪」

 ぽてっと箸の隙間からしゅうまいが弁当箱に落下した。落ち着いた動作でそれを拾いなおし、口元に運ぶ。
 見れば、得意気になったこなたは頬からご飯粒をとってあげるジェスチャーを再演してみせ、赤面するつかさを困らせている。
 アホらし。要するにこいつは面白半分に私を囃しているだけなのだ。
 私は溜息をつくと、冷静沈着に購買のビニール袋から豆乳の200ミリリットルパックを取り出し、ストローを刺そうとするも手元を滑らせまくって己の右手にプスプスと突き立てた。視線を落とすと、緊張した両腕がカタカタと震えている。
 あー……まずい。なんか面白いくらいに動揺してるよ、私!
 高鳴る動悸を無理やり抑え、とにかく回答を捻り出す。

「なななななななにをおっしゃっているのかしらこなたさん新婚さんだなんてそんな。ね、ねぇみゆき?」

 うん、大丈夫大丈夫。たぶんなんとか自然な言動の範疇!

「確かに凛々しいかがみさんと家庭的なつかささんが並ぶと鴛夫婦に見えるかもしれませんね。私は一人っ子ですからおふたりは仲が良くて羨ましいです」
「うんうん、つかさは本当にお嫁さんってカンジだよね。料理うまいし尽くすタイプっぽいし。対してかがみは野獣?」
「ううぅぅうっさいわねっ!」

 ……とりあえず落ち着こう。
 おどけるこなたにヤケクソ気味の怒りを散々ぶつけ尽くした私は、東京砂漠と化した喉の渇きを退治すべく豆乳を吸い上げた。心中では明鏡止水と三度念じる。
 一息ついた私に、それまで「あはは」と困ったような笑みでこなたとの掛け合いを眺めていたつかさが、無邪気に話しかけてくる。

「でも小さい頃のおままごとでもいつも私がお母さん役で、お姉ちゃんがお父さん役だったよね。私ね、よく幼稚園の友達に羨ましがられてたんだよ」
「そうなの? なんでよ」
「だって旦那さん役のお姉ちゃん、近所の男の子の誰よりもカッコよかったもん。みんな『まるでディズニーアニメに出てくる王子様みたい』って……えへへ。お姉ちゃん素敵だったなぁ」
「え……?」

 瞬間、何を言われたのかわからなかった。
 私、柊かがみは柊つかさの事が好き。でも私の“好き”はつかさの私に対するソレと違って、極め付き危険な代物なのだ。“女同士”で“姉妹”で片方だけでも親泣かせのトンデモない核爆弾なのである。
 だから私は己の恋心と非核条約を締結し、厳重な処理を施して心の奥深くに封印しなければならないし、事実私はそれを17年間見事に隠し通してきた。その気持ちに正直になっちゃいけないんだって自分に言い聞かせてきたのだ。
 なのに、それだっていうのに!
 つかさの一言は冷徹なまでに正確な狙撃で私の恋心をズキューン! と貫いたのだ。
 え、なに!? 王子様? 素敵って、つかさが私に言ったの!? ――し、死ぬ。ドキドキしすぎて死ぬ! 
 頭がグツグツと沸騰して、心臓がメルトダウンするんじゃないかってくらい反応してる。今、この火照った頬に触れれば絶対大火傷の上300年くらい放射能汚染されちゃうと思う。
 ――もちろんそれはは姉として私を尊敬しているがゆえの言葉だったのだろう。しかしつかさはわかっていなかったに違いない。その罪のない、剥き出しの好意が、どれほど残酷に私を勘違いさせ、翻弄する事になるのかが。
 すっかり魂の抜け殻と化した私の隣で、みゆきはいかにも微笑ましげに頬に手をあて、最後のトドメとばかりにとびっきりの爆弾を投下した。

「つかささんは本当にかがみさんの事が好きなんですね」
「うん! えへへ、大好きだよ」

 それはもう、太陽へ背伸びする向日葵のような天真爛漫な笑顔だった。



 言われちゃった言われちゃった言われちゃった――っ!
 当然の帰結として、その晩私は枕に顔を埋め自室のベッドの上で悶えまくっていた。
 つかさの「素敵」「大好き」という唇の柔らかな動きが、脳内オーディオで延々とリピート再生される。
 溢れるときめきの赴くままに転げまわった結果、密かに気に入っていた「I LOVE NY」のTシャツ(いのり姉さんの大学卒業旅行土産)と几帳面にベッドを覆っていたシーツがすっかりしわくちゃになってしまったがそんなのに構っていられる余裕はゼロ。
 気を落ち着けて小説でも読もうと取り出した『フルメタル・パニック! つどうメイク・マイ・デイ』も、集中力が三行と持たず、幾度ものチャレンジの末結局諦めて枕元に投げ出してしまっていた。

 舞い上がるな舞い上がるな私。
 そう、つかさは私を姉として尊敬しているだけなのだ。
 例えばお風呂あがりバスタオル一枚で私の前で牛乳を飲んでみせたり(私の好きなつかさの仕草その2)、「全然胸大きくならないよー」などと淡い膨らみをふにふに揉みながら泣き言を言ってくるのも(同その3)、「お姉ちゃん何読んでるの?」なんて胸元が際どい角度で覗き込んでくるのだって(同その4)、私を姉として信頼しているからでけっして私を誘っているからではこれっぽっちもない。
 まして私がつかさのアレなところを見えそう見まいでも見たいちょっとくらいならっていうか姉妹だしこれくらいのスキンシップは当たり前よねいやダメだ誘惑するんじゃない私は純粋につかさを愛して、あ、今チラッと薄桃色の先っぽが♪ などと葛藤しながら「だらしないわよ早く服着なさいよね」と叱り付けているなど全然想像もしていないはずなのだ。

 でも。私は枕に頭を埋めて考える。
 これはあくまでも仮定の話。もしも、つかさの“好き”も私と同じ“好き”だったら?
 ありえない話。もちろんそれは到底現実的ではないし、私は自分の願望と現実の区別がつかない程馬鹿じゃない。でも……想像するくらいなら、許されるよね?
 うん、例えばいつかのごっこ遊びのようにつかさが私のお嫁さんになってくれたとしたら。

 つかさが、私の、お嫁さん! 
 その甘美な想像に私はじったんばったん七転八倒する。えへへ……うん、子どもは男の子ひとりと女の子ふたりが理想かなぁ。
 ああもう、もう! 絶対今夜は眠れん!

「お姉ちゃんお風呂空いたよ~」
「うひゃあ!」

 背後の扉をちょこっとあけて、覗き込んだつかさの声に、私は悲鳴をあげた。

「お姉ちゃん?」
「ああ、うんなんでもない! すぐ行く」

 用件を告げてトタトタと自室に戻って行くつかさの足音が、早鐘のように打つ自分の鼓動と重なる。
 あーぁ。私は身を捩って仰向けに天井を見上げた。顔の火照りが消えない。
 無理だった。落ち着けとか、勘違いするなとか、冷静になれとか散々繰り返した自戒の言葉は、つかさの声ひとつで吹き飛んじゃった。瞼の裏につかさの笑顔を思い描く。
 そりゃそうよね。だって想い人に「好き」って言われたんだから。
 だからやっぱり、ドキドキするななんて無理!

 ――結局、私が眠る事が出来たのは翌朝も五時を回った頃だった。
視界の沸騰、グツグツと泡立つ脳髄。動悸に眩暈に神経衰弱。典型的な片想いシンドローム。
 その症状はその後一週間に渡って私を苛み続ける事となったのである。



〈 つづく 〉(美女と野獣2










コメントフォーム

名前:
コメント:
  • かがみんかわゆす -- 名無しさん (2009-10-03 05:57:15)
  • 先生…続きが読みたいです -- 名無しさん (2009-10-02 21:09:26)
  • 続きまだーいや本当お願いします -- 名無しさん (2008-12-17 06:03:53)
  • これはww変な笑いがwwニヤニヤ -- 名無しさん (2008-08-14 18:27:15)
  • 野獣かがみモエスw -- 名無しさん (2008-08-09 00:07:10)
  • 続きwktk
    -- 名無しさん (2008-08-06 22:58:25)
  • 悶えるかがみが可愛いwww是非続きを -- 名無しさん (2008-08-05 22:48:29)
  • 姉妹百合ってのもイイネ~w -- TDN (2008-08-05 15:32:00)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー