……糟日部の駅前広場から、細い通りをちょっと入った雑居ビル。
蔦の絡まる手すりと模造煉瓦。狭い階段を昇ったところにある、小さなお店。
イーゼルに乗った小さな黒板に、『本日のおすすめ』の文字。
蔦の絡まる手すりと模造煉瓦。狭い階段を昇ったところにある、小さなお店。
イーゼルに乗った小さな黒板に、『本日のおすすめ』の文字。
ステンドガラスの嵌まった、マホガニーの扉を押し開ける。
素焼きの鈴が、カラコロと素朴な音を立てた。
素焼きの鈴が、カラコロと素朴な音を立てた。
「いらっしゃいま……あ、こなちゃん!いらっしゃーい」
いつもの人懐っこい笑顔で、いつものように、つかさが出迎えてくれた。
いつもの人懐っこい笑顔で、いつものように、つかさが出迎えてくれた。
あふ☆いや ~らき☆すたAfter Years~
Episode 2. グラスの中の思い出
Episode 2. グラスの中の思い出
「……ねえ、こなちゃん?」
「んー、何?」
「んー、何?」
カウンター席の奥から3番目。
いつもの席に腰を落ち着け、つかさ特製チョココロネとハーブティーを堪能した私に、つかさが話しかけてきた。
いつもの席に腰を落ち着け、つかさ特製チョココロネとハーブティーを堪能した私に、つかさが話しかけてきた。
「あのね、ちょっとお願いごとがあるんだぁ」
「私に?」
つかさが私に『お願いごと』……というのは、ちょっと珍しい。
「私に?」
つかさが私に『お願いごと』……というのは、ちょっと珍しい。
「うん……実はね、新しいメニューを考えたんだけど、味見してほしいなあって」
「へぇ、新作かぁ」
「へぇ、新作かぁ」
つかさの作るスイーツは美味しい。
高校の頃からクッキーを焼いたりしてたし、本当にお菓子作りが好きなんだね……と思ってたけど。
まさか本格的に調理師学校に通って、卒業後はこのお店でパティシエの修行を始めるなんて、思ってもみなかった。
ぽや――っとしているようでいて、ちゃんとつかさは自分の夢や進路を考えてた。
成り行きまかせで物書きになった私としては、ちょっと見直したというか、してやられたというか、なんというか。
高校の頃からクッキーを焼いたりしてたし、本当にお菓子作りが好きなんだね……と思ってたけど。
まさか本格的に調理師学校に通って、卒業後はこのお店でパティシエの修行を始めるなんて、思ってもみなかった。
ぽや――っとしているようでいて、ちゃんとつかさは自分の夢や進路を考えてた。
成り行きまかせで物書きになった私としては、ちょっと見直したというか、してやられたというか、なんというか。
「おまたせ~」
つかさが持ってきたのは、大きめのタンブラーに入った、透き通った液体。
みっしりと付いた泡の粒。窓から差し込む、初夏の昼下がりの日差しを浴びて、無数の太陽がきらきらと輝いてる。
つかさが持ってきたのは、大きめのタンブラーに入った、透き通った液体。
みっしりと付いた泡の粒。窓から差し込む、初夏の昼下がりの日差しを浴びて、無数の太陽がきらきらと輝いてる。
「ん?ソーダ水?……どれどれ」
と、タンブラーに口を近づけた私を、
「あ! ちょ、ちょっと待って、こなちゃん」
ちょっと慌てたように制止する。
と、タンブラーに口を近づけた私を、
「あ! ちょ、ちょっと待って、こなちゃん」
ちょっと慌てたように制止する。
「それだけじゃ、まだ完成じゃないんだ。主役はね……はい、これっ」
薄いクリスタルガラスで出来たワンショットグラスと、磁器製(マイセン)の小さな砂糖壷が4つ。
「へ?こっちが主役?」
「うんっ、開けてみて」
薄いクリスタルガラスで出来たワンショットグラスと、磁器製(マイセン)の小さな砂糖壷が4つ。
「へ?こっちが主役?」
「うんっ、開けてみて」
蓋を取ると、壷の中には小さな小さな『星粒』が入ってた。
赤、菫色、白、オレンジ……壷ごとに違う色。
赤、菫色、白、オレンジ……壷ごとに違う色。
「一粒、舐めてみて」
促されるままに、菫色の粒を一粒つまみ、口に入れる。
金平糖に似ているけれど透き通ってはいないそれは、舌に乗せるとさらりと溶けて、ほのかに甘酸っぱい味がした。
「んー……これを舐めながら飲めばいいのかな?」
「ううん、その中から好きな色を……好きな味を組み合わせて、炭酸水で溶かすの」
「なるほどね、組み合わせるのかぁ」
「いちおうレシピもあるんだけど、お客さん自身でいろいろ試して、好きな味を見つけてもらいたいな、って」
促されるままに、菫色の粒を一粒つまみ、口に入れる。
金平糖に似ているけれど透き通ってはいないそれは、舌に乗せるとさらりと溶けて、ほのかに甘酸っぱい味がした。
「んー……これを舐めながら飲めばいいのかな?」
「ううん、その中から好きな色を……好きな味を組み合わせて、炭酸水で溶かすの」
「なるほどね、組み合わせるのかぁ」
「いちおうレシピもあるんだけど、お客さん自身でいろいろ試して、好きな味を見つけてもらいたいな、って」
とはいえ、何か目安がないと味の見当もつかないので、まずはつかさのレシピに従ってみることにした。
赤と菫色の粒をいくつか炭酸水に溶かして、一口含む。
酸っぱさと軽い刺激の中に、主張しすぎず、埋もれてもしまわない甘さがあった。
ミスマッチなようでいて、それでいて不思議に調和した味。
酸っぱさと軽い刺激の中に、主張しすぎず、埋もれてもしまわない甘さがあった。
ミスマッチなようでいて、それでいて不思議に調和した味。
なんだか、とても懐かしさを感じるような、この味は……
「それね、高校の時のこなちゃんとお姉ちゃんをイメージしてみたんだ」
「私と、かがみを……?」
「うんっ。いつもこなちゃんがお姉ちゃんをからかってて、お姉ちゃんは怒ってるみたいに見えるんだけど、なんだかすっごくお似合いなんだよね」
「…………」
「私と、かがみを……?」
「うんっ。いつもこなちゃんがお姉ちゃんをからかってて、お姉ちゃんは怒ってるみたいに見えるんだけど、なんだかすっごくお似合いなんだよね」
「…………」
『かがみ』を多めにしてみる。勢いを増した酸味を、軽い刺激が飄々と受け流す。
……うわ、かがみをイジった時とおんなじだ。ちょっと笑っちゃった。
……うわ、かがみをイジった時とおんなじだ。ちょっと笑っちゃった。
「それで、これがゆきちゃんと私」
空になったグラスに、白とオレンジ色の粒を落として炭酸水で溶かす。
白の甘さを、オレンジの香りが包み込む。ほんわりとした味わいが、舌と鼻の奥に心地よい。
空になったグラスに、白とオレンジ色の粒を落として炭酸水で溶かす。
白の甘さを、オレンジの香りが包み込む。ほんわりとした味わいが、舌と鼻の奥に心地よい。
「これが、お姉ちゃんと私」
菫色と白の粒が、炭酸水に溶けていく。
酸っぱさと甘さが、反目することなく調和する。これが『姉妹のスタンス』って感じなのかな。
菫色と白の粒が、炭酸水に溶けていく。
酸っぱさと甘さが、反目することなく調和する。これが『姉妹のスタンス』って感じなのかな。
「こうすると、こなちゃんと私ね」
うは、甘さが刺激に押し負けそうな、ギリギリのバランス。まんまあの頃だなぁ……
うは、甘さが刺激に押し負けそうな、ギリギリのバランス。まんまあの頃だなぁ……
「……でね、四人で集まると、こんな感じ」
……かがみ。つかさ。みゆきさん。そして私。
どことなく噛みあってないようで、それでも気がつくと、いつも一緒にいた四人。
どことなく噛みあってないようで、それでも気がつくと、いつも一緒にいた四人。
あの頃のみんなが、あの頃のまま、グラスの中で輝いてる……
「……こなちゃん?……泣いてるの?」
「え?……あ、いや、その、煙草の煙が目に、ね」
「あれ?煙、流れて来ちゃった?……ちょっと空調見てくるね」
「え?……あ、いや、その、煙草の煙が目に、ね」
「あれ?煙、流れて来ちゃった?……ちょっと空調見てくるね」
窓際で煙草をくゆらせる、見知らぬおじさんに、心の中で感謝。
……あー、不覚。最近、なんか涙腺緩くなったなぁ……
……あー、不覚。最近、なんか涙腺緩くなったなぁ……
-x- -x- -x- -x-
いつしか日も傾いて、店内は琥珀色の光に包まれてた。
そろそろ夕食のお客が入ってくる時間。うーん、あんまり仕事の邪魔しちゃ悪いかな……
そろそろ夕食のお客が入ってくる時間。うーん、あんまり仕事の邪魔しちゃ悪いかな……
そんな事を考えていたら。
「……それでね、このメニューの名前なんだけど……こなちゃんにつけてほしいなあ、って」
「私に?」
「うんっ」
「……それでね、このメニューの名前なんだけど……こなちゃんにつけてほしいなあ、って」
「私に?」
「うんっ」
新メニューに自分が考えた名前がつく……というのは、ちょっと面映い。
……いや、小説やらコラムやら発表しておいて、『何を今さら』って感じではあるんだけどね。
……いや、小説やらコラムやら発表しておいて、『何を今さら』って感じではあるんだけどね。
「別にいいけど……なんで私に?つかさは何かアイデアとかないの?」
「うん、あるよ」
「なんだ、だったら……」
「あるんだけど……、元ネタはこなちゃんの命名だから、こなちゃんのOKが欲しいんだ」
「?……どゆこと?」
「うん、あるよ」
「なんだ、だったら……」
「あるんだけど……、元ネタはこなちゃんの命名だから、こなちゃんのOKが欲しいんだ」
「?……どゆこと?」
つかさはちょっと照れくさそうに、はにかみながら言った。
「名前ね……『Lucky☆Star』にしたいなって」
「名前ね……『Lucky☆Star』にしたいなって」
『Lucky☆Star』。私のデビュー作のタイトル。
とある地方都市を舞台にした、少女四人の日常を描いたお話。
とある地方都市を舞台にした、少女四人の日常を描いたお話。
そう。私が書いたラノベも、つかさが作ったカクテルソーダも、込められた想いは同じ。
もう戻れないあの頃への……私たちなりの、愛惜の歌。
「いいよ、つかさがそれでいいなら、私はオッケー」
「わぁっ、ありがとう、こなちゃん!」
「わぁっ、ありがとう、こなちゃん!」
懐かしい思い出たちが、ソーダ水の中で揺れている。
ワンショットグラスの中。
『Lucky☆Star』が……あの頃のみんなが、西日を受けて暖かい色に輝いていた。
『Lucky☆Star』が……あの頃のみんなが、西日を受けて暖かい色に輝いていた。
― Fin. ―
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- 『Lucky☆Star』、作れないかなぁ…
ソーダ水と砂糖菓子を組み合わせて何とか…
ともかく、GJ! -- 名無しさん (2010-10-25 02:15:29) - GJ。 -- 名無しさん (2010-01-05 22:37:24)
- 肝心な事を言い忘れた。
GJ! -- 昨夜の名無し (2009-05-16 11:41:11) - すいませ~ん
こっちにも『Lucky☆Star』1つお願いします -- 名無しさん (2009-05-16 00:53:20)