「ふぃ~ちかれた」
固いクッションの座席にお尻を着地させるとつい声が漏れた。
しまったと思ってざっと辺りを見回してみるけど、私の小さな独り言を咎めるほど混雑してはい
ない。
ほっと胸をなでおろす。
私は今、一人でバスに乗っている。
アルバイトに行った帰りのため、同じ家に住んでいるゆーちゃんも今はいない。
遅番の日は高校生が働ける限界の21時まで残ることになるから、帰ってくるのはこんな時間に
なっちゃうんだ。家路につくおじさん達の背中もまばらになるほどにね。
いやー、それにしても今日は疲れたよ。
今度は口に出さずにちゃんと頭の中だけでつぶやく。
アルバイトの後はいつも疲れてるけど、それは嫌いじゃない疲労感なんだよ。これを何倍にもし
たら、修羅場を乗り越えた時の作家心理になるのかなっていう。
ただ、今の疲労感には心地よさがない。
なんか、こう、ねっとりと重い。
ん~、やっぱりあれかな。みゆきさんの怪談が効いたのかな。
私は窓の外を流れる暗い景色を眺めながら、昼間なのに同じように薄暗かった教室のことを思い
出していた。
わりと…いやわりとじゃないか、完全にみゆきさん主導ですることになった今日の放課後の怪談
話。怖い話が嫌いなつかさには悪かったけど、アルバイトに行くまでに時間がけっこうあった私に
とって、暇を潰すにはちょうどよかった。
職場が秋葉だから行っちゃえば時間なんていくらでも浪費できるんだけど、やっぱりみんなとい
るのはそれとは別の意味で楽しいからね。
せっかくだから雰囲気をってことで教室のカーテンを閉め切ったりして、太陽が傾いてたからけ
っこう暗かったなあ。つかさなんかそれだけでガクガク震えてかがみにしがみついてたりして。あ
れじゃあ夜はトイレに一人で行けないんじゃないかなあ。
どれくらい話を聞いたっけなー。みゆきさんが話してくれたのはどれも古めのお話で、私も名前
は聞いたことあるんだけど内容はよく知らないという物が多かった。
「テケテケ」とか単語はすごい聞いたことあったけど、ああいう話だとは知らなかったよ。
昔、PCの中に女の人の幽霊が宿るお話がそんな感じのタイトルだって聞いたことがあるんだけ
ど、全然違う話だった。
私は文字系の本はほとんど読まないから、学校の怪談とかはまだかがみの方が詳しかったね。
つかさは論外だとしても。
たしか学校の怪談ってゲームもあった気がするけど、文字を読むばっかのゲームは苦手なんだよ
なあ。
そういえばかがみに薦められたラノベや、文字読み系のゲームまだ読んでないや。
最近はアニメが殺人的スケジュールで放送してるから時間がなーい。
固いクッションの座席にお尻を着地させるとつい声が漏れた。
しまったと思ってざっと辺りを見回してみるけど、私の小さな独り言を咎めるほど混雑してはい
ない。
ほっと胸をなでおろす。
私は今、一人でバスに乗っている。
アルバイトに行った帰りのため、同じ家に住んでいるゆーちゃんも今はいない。
遅番の日は高校生が働ける限界の21時まで残ることになるから、帰ってくるのはこんな時間に
なっちゃうんだ。家路につくおじさん達の背中もまばらになるほどにね。
いやー、それにしても今日は疲れたよ。
今度は口に出さずにちゃんと頭の中だけでつぶやく。
アルバイトの後はいつも疲れてるけど、それは嫌いじゃない疲労感なんだよ。これを何倍にもし
たら、修羅場を乗り越えた時の作家心理になるのかなっていう。
ただ、今の疲労感には心地よさがない。
なんか、こう、ねっとりと重い。
ん~、やっぱりあれかな。みゆきさんの怪談が効いたのかな。
私は窓の外を流れる暗い景色を眺めながら、昼間なのに同じように薄暗かった教室のことを思い
出していた。
わりと…いやわりとじゃないか、完全にみゆきさん主導ですることになった今日の放課後の怪談
話。怖い話が嫌いなつかさには悪かったけど、アルバイトに行くまでに時間がけっこうあった私に
とって、暇を潰すにはちょうどよかった。
職場が秋葉だから行っちゃえば時間なんていくらでも浪費できるんだけど、やっぱりみんなとい
るのはそれとは別の意味で楽しいからね。
せっかくだから雰囲気をってことで教室のカーテンを閉め切ったりして、太陽が傾いてたからけ
っこう暗かったなあ。つかさなんかそれだけでガクガク震えてかがみにしがみついてたりして。あ
れじゃあ夜はトイレに一人で行けないんじゃないかなあ。
どれくらい話を聞いたっけなー。みゆきさんが話してくれたのはどれも古めのお話で、私も名前
は聞いたことあるんだけど内容はよく知らないという物が多かった。
「テケテケ」とか単語はすごい聞いたことあったけど、ああいう話だとは知らなかったよ。
昔、PCの中に女の人の幽霊が宿るお話がそんな感じのタイトルだって聞いたことがあるんだけ
ど、全然違う話だった。
私は文字系の本はほとんど読まないから、学校の怪談とかはまだかがみの方が詳しかったね。
つかさは論外だとしても。
たしか学校の怪談ってゲームもあった気がするけど、文字を読むばっかのゲームは苦手なんだよ
なあ。
そういえばかがみに薦められたラノベや、文字読み系のゲームまだ読んでないや。
最近はアニメが殺人的スケジュールで放送してるから時間がなーい。
そんなこんなで、バスの窓枠にあごを乗っけながらみんなでした怪談話を回想しながらも、つい
つい別の事柄に脱線しはじめたころ、制服のポケットに入れておいた携帯電話がブルブルと震え出
した。
しばらくしても震え続けるので、メールじゃないことはすぐにわかった。
マナーモードにしてあるから音は鳴らない。
音が鳴れば、アドレスをグループ分けしてるのでどんな人からの電話なのかだいたい予想がつく。
「…お父さんかな」
反射的にそう思った。
帰りが遅くなるといつも電話をかけてくるからだ。
ほら、ポケットからケータイを取り出して見れば液晶画面に「お父さん」の文字が……無かった。
そこにはお父さんもゆーちゃんもゆい姉さんも表示されていなかった。
というか、何の名前も無かった。
いや、名前だけじゃなくて、番号も。
つい別の事柄に脱線しはじめたころ、制服のポケットに入れておいた携帯電話がブルブルと震え出
した。
しばらくしても震え続けるので、メールじゃないことはすぐにわかった。
マナーモードにしてあるから音は鳴らない。
音が鳴れば、アドレスをグループ分けしてるのでどんな人からの電話なのかだいたい予想がつく。
「…お父さんかな」
反射的にそう思った。
帰りが遅くなるといつも電話をかけてくるからだ。
ほら、ポケットからケータイを取り出して見れば液晶画面に「お父さん」の文字が……無かった。
そこにはお父さんもゆーちゃんもゆい姉さんも表示されていなかった。
というか、何の名前も無かった。
いや、名前だけじゃなくて、番号も。
非通知設定
画面にあるのはその五文字だった。
いわゆるあれだ、非通知ってやつだよ。
「おお…ついに私にも来たか」
非通知という文字を見ながら唸った。
PCのアドレスはしかるべきところに突っ込んでるせいか、怪しげなメールが来ることにもう慣
れちゃってるけど、ケータイにこういう事が起きるのは初めてなのだよ。あんまりケータイは活用
してなかったからねえ。
さて、ちょっと感慨深いものはあるけど、まずはどうしよっかな。
とりあえず、切っちゃおう。えーっと、電源ボタンを押せばいいのかな。自分から通話を取らず
に切ったことないからよくわかんないや。
いわゆるあれだ、非通知ってやつだよ。
「おお…ついに私にも来たか」
非通知という文字を見ながら唸った。
PCのアドレスはしかるべきところに突っ込んでるせいか、怪しげなメールが来ることにもう慣
れちゃってるけど、ケータイにこういう事が起きるのは初めてなのだよ。あんまりケータイは活用
してなかったからねえ。
さて、ちょっと感慨深いものはあるけど、まずはどうしよっかな。
とりあえず、切っちゃおう。えーっと、電源ボタンを押せばいいのかな。自分から通話を取らず
に切ったことないからよくわかんないや。
ポチっとな。
アッ。
長く押しすぎちゃって電源切れちゃった。
えっと、もう一回電源ボタンを長押し長押し。
よし、ちゃんと非通知の電話は切れたみたい。
ふぃ~。
ちょっとびっくりしたねー。
電話だとメールよりも焦るんだね。
出ちゃってもこっちから掛け直したりしなければ変な料金請求とかは無いんだろうけど、気持ち
の良いもんじゃないしね。
そもそもバスの中だから出られないし。
いやー、マナーは守るよ私だって。
マナーは大事だよ。
だってマナーが無かったらコミケでは毎年死者が出るよ。絶対。
おたくだからこそマナーは守らんとね。
それにしても………
私は手にしたままのケータイを見つめて、少し考え込んだ。
この非通知は誰だったのかなあ?
どこかの胡散臭い業者なのか、はたまた誰かが間違えて非通知でかけてしまったのか。
間違えてっていうのは、ちょっと無理があるかなあ。
つかさならやりそうな気もするけど…
ちょっと考えてみただけだと、けっきょくその二通りしか思い浮かばなかった。
私がケータイ事情にそこまで敏くないせいなのかな。明日学校で、かがみかみゆきさんにでも訊
いてみようか。
特に緊急性のあることでもないと思っていたのでのんびりとそんな考えをめぐらしていたら、み
ゆきさんのことを思い浮かべた拍子にあることを思い出した。
思い出さなきゃよかったのかもしれないけど。
思い出しちゃったんだ。
長く押しすぎちゃって電源切れちゃった。
えっと、もう一回電源ボタンを長押し長押し。
よし、ちゃんと非通知の電話は切れたみたい。
ふぃ~。
ちょっとびっくりしたねー。
電話だとメールよりも焦るんだね。
出ちゃってもこっちから掛け直したりしなければ変な料金請求とかは無いんだろうけど、気持ち
の良いもんじゃないしね。
そもそもバスの中だから出られないし。
いやー、マナーは守るよ私だって。
マナーは大事だよ。
だってマナーが無かったらコミケでは毎年死者が出るよ。絶対。
おたくだからこそマナーは守らんとね。
それにしても………
私は手にしたままのケータイを見つめて、少し考え込んだ。
この非通知は誰だったのかなあ?
どこかの胡散臭い業者なのか、はたまた誰かが間違えて非通知でかけてしまったのか。
間違えてっていうのは、ちょっと無理があるかなあ。
つかさならやりそうな気もするけど…
ちょっと考えてみただけだと、けっきょくその二通りしか思い浮かばなかった。
私がケータイ事情にそこまで敏くないせいなのかな。明日学校で、かがみかみゆきさんにでも訊
いてみようか。
特に緊急性のあることでもないと思っていたのでのんびりとそんな考えをめぐらしていたら、み
ゆきさんのことを思い浮かべた拍子にあることを思い出した。
思い出さなきゃよかったのかもしれないけど。
思い出しちゃったんだ。
そういえば、みゆきさんに教えられた怪談に、電話に関する物があったなー……って。
**********
「…では次はどのようなお話にいたしましょうか」
「ふぇ~。ゆ、ゆきちゃんまだやるの~?」
「貴女のその表情が私をだばだばさせます。主に鼻的な意味で」
「ほらつかさ、あんたもそんな怖がんないの。みゆきはそれを喜んでるんだから。それじゃあみゆ
きの思うつぼよ」
「さすがですかがみさん。私の事を的確に理解してくださって光栄です。結婚しましょう」
「いやよ」
「残念です」
「それでみゆきさん、次はどうするのさ?」
「かがみさんに断られてしまいましたので泉さんに求婚しようと思いますが」
「いや、そういうことじゃなくてさ」
「泉さん、愛してます」
「あ、ありがと…ってそうじゃなくて、次はどんな話にするのってことなんだけど?」
「では『メリーさんの電話』などいかがでしょうか」
「メリーさん?名前は聞いたことあるねえ。イギリスあたりの幼女かな?」
「いやいやこなた。なんで幼女限定なのよ。メリーって名前のおばあさんだっているでしょうが」
「いやいやかがみん。語感からいってメリー=幼女だね。きっと大きくなったら世の中のメリーさ
んは名前が変わるんだよ。出世魚みたいに」
「……その発想は無かったわぁ」
「褒めるな褒めるな!」
「褒めてねえ」
「名前が変わるかはわかりませんが、泉さんのおっしゃる通りお話に出てくるメリーさんは必ず小
さな女の子ではあります」
「ほらみろかがみん」
「うるさいいばるな」
「お話の展開のパターンはいくつかありますが、一番有名なものはこういった感じですね。
「ふぇ~。ゆ、ゆきちゃんまだやるの~?」
「貴女のその表情が私をだばだばさせます。主に鼻的な意味で」
「ほらつかさ、あんたもそんな怖がんないの。みゆきはそれを喜んでるんだから。それじゃあみゆ
きの思うつぼよ」
「さすがですかがみさん。私の事を的確に理解してくださって光栄です。結婚しましょう」
「いやよ」
「残念です」
「それでみゆきさん、次はどうするのさ?」
「かがみさんに断られてしまいましたので泉さんに求婚しようと思いますが」
「いや、そういうことじゃなくてさ」
「泉さん、愛してます」
「あ、ありがと…ってそうじゃなくて、次はどんな話にするのってことなんだけど?」
「では『メリーさんの電話』などいかがでしょうか」
「メリーさん?名前は聞いたことあるねえ。イギリスあたりの幼女かな?」
「いやいやこなた。なんで幼女限定なのよ。メリーって名前のおばあさんだっているでしょうが」
「いやいやかがみん。語感からいってメリー=幼女だね。きっと大きくなったら世の中のメリーさ
んは名前が変わるんだよ。出世魚みたいに」
「……その発想は無かったわぁ」
「褒めるな褒めるな!」
「褒めてねえ」
「名前が変わるかはわかりませんが、泉さんのおっしゃる通りお話に出てくるメリーさんは必ず小
さな女の子ではあります」
「ほらみろかがみん」
「うるさいいばるな」
「お話の展開のパターンはいくつかありますが、一番有名なものはこういった感じですね。
まずある女の子が古くなった外国のお人形、メリーを捨ててしまいます。
古くなっていたからお母さんに捨てなさいと言われたのか、お引越しでもする際に整理を命じら
れたのでしょう。
小さな女の子にとってお母さんの命令は絶対です。
その子は泣く泣くゴミ捨て場にお人形をそっと置いてきました。
するとその夜、聞き覚えのない少女の声で電話がかかってくるのです。
古くなっていたからお母さんに捨てなさいと言われたのか、お引越しでもする際に整理を命じら
れたのでしょう。
小さな女の子にとってお母さんの命令は絶対です。
その子は泣く泣くゴミ捨て場にお人形をそっと置いてきました。
するとその夜、聞き覚えのない少女の声で電話がかかってくるのです。
『あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるの…』と。
電話を切ってもすぐにまたかかってきてしまいます。
『あたしメリーさん。今タバコ屋さんの角にいるの…』
そしてついに、
『あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの』
という電話が。
女の子は思い切って玄関のドアを開けてみますが、そこには誰もいません。やっぱり誰かのいた
ずらだったのですねと胸をなでおろした直後、またもや電話が…
女の子は思い切って玄関のドアを開けてみますが、そこには誰もいません。やっぱり誰かのいた
ずらだったのですねと胸をなでおろした直後、またもや電話が…
『あたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの』
ふっ」
「わひゃ――――ッ!!!」
「うわッ、いきなり何よつかさ!」
「みゆきさんがつかさの首筋に息を吹きかけたんだよ。わざわざオチのところで一技仕込むとは、
さすがみゆきさん。容赦ないね」
「こらっみゆき!」
「すみません。ですがこれが王道の『メリーさんの電話』ですので。……ハァハァ、ツカササンイイニオイガシマス」
「あんた絶対楽しんでるでしょ」
「ゆきちゃんやめてよぉぅぅ…」
「まあ落ち着きなさいつかさ。メリーさんって言ったってやってることストーカーみたいなもんじゃ
ない」
「それはそれで怖いよお姉ちゃん……」
「そうだつかさ。むしろストーカーというより純愛イベントだと思えばいいんだよ!」
「じゅんあいいべんと?」
「愛しのあの人に電話をかけたけど恥ずかしくて途中でやめちゃったり、いきなり会う自信がない
からちょっと離れたところからだんだん近づいてみたり!」
「えっと…あの、こなちゃん?」
「なんのエロげーの話をしてるんだあんたは」
「しかもそれをやってるのが幼女だって言うんだからね!なんていうか、ツンデレ幼女?うはー萌
えてきた!メリーさんは俺の嫁!」
「だめだこいつ、はやくなんとかしないと……」
「わひゃ――――ッ!!!」
「うわッ、いきなり何よつかさ!」
「みゆきさんがつかさの首筋に息を吹きかけたんだよ。わざわざオチのところで一技仕込むとは、
さすがみゆきさん。容赦ないね」
「こらっみゆき!」
「すみません。ですがこれが王道の『メリーさんの電話』ですので。……ハァハァ、ツカササンイイニオイガシマス」
「あんた絶対楽しんでるでしょ」
「ゆきちゃんやめてよぉぅぅ…」
「まあ落ち着きなさいつかさ。メリーさんって言ったってやってることストーカーみたいなもんじゃ
ない」
「それはそれで怖いよお姉ちゃん……」
「そうだつかさ。むしろストーカーというより純愛イベントだと思えばいいんだよ!」
「じゅんあいいべんと?」
「愛しのあの人に電話をかけたけど恥ずかしくて途中でやめちゃったり、いきなり会う自信がない
からちょっと離れたところからだんだん近づいてみたり!」
「えっと…あの、こなちゃん?」
「なんのエロげーの話をしてるんだあんたは」
「しかもそれをやってるのが幼女だって言うんだからね!なんていうか、ツンデレ幼女?うはー萌
えてきた!メリーさんは俺の嫁!」
「だめだこいつ、はやくなんとかしないと……」
**********
いやー、余計なことまで思い出しちゃった。
とにかく、電話をしてくる幽霊とかお化けっていうのもいるらしいんだよ。
もしかして、この非通知電話がメリーさんの電話だったりねーとか。
ちらっと。
ほんとちらっと思ったりなんかして。
まあ、違うよね。
だって、ケータイだし。
『次は○○○~次は○○○~』
けっこう考え込んでた時間が長かったのか、いつの間にかバスはずいぶんと進んでいた。合成音
のような感情の無い女声が、耳馴染みのあるバス停の名前を読み上げる。
あ、もうすぐ降りるバス停だ。
ボタンをぽちっと押して、と。
『御忘れ物のないようご注意くださ……』
ぷしゅー。
バス停に到着すると、空気の抜けるような音と共にバスは左側に少し傾いた。降りやすいように
段差を少なくしているんだろう。こういうのもバリアフリーって言うのかな。お年寄りも増えてき
たし、そうじゃなくても背の小さい人には段差が大きいと降り辛いしね。
ゆーちゃんとかには段差は小さい方が良いだろうし、嬉しい配慮だよ。
ありがたやありがたや。
私は自分の身長くらいでも簡単に飛び降りられるんだけどね。
そりゃっ。
私がバスの出口、階段になってるところをひとっ飛びに降りると、バスは低いうなり声をあげな
がら次の目的地に向かって走り去って行った。
降りたのは私一人だけ。わりと田舎の方だし、時刻的にも、まあ当然の結果だった。
ふわっと、温かい空気が私を包む。
バスの排気ガスというわけじゃない。十月になっても残暑払いをしたくなるような気候が、夜に
なっても消えてくれていないからだった。
さすがに夜は暑いというほどではないけど、それでも秋の涼しさはどこに行っちゃったのかって
いう気温が続いてる。異常気象のせいで、秋と冬をすっ飛ばして春になっちゃったんじゃないかと
思うくらいだよ。
さて、バスを降りたら家まではもうすぐだ。さっさと帰ってネトゲにインしようかな。
そろそろななこ先生にあけられてるレベル差を埋めようかなどと、両手を上げて伸びをしてると
きだった。
「ん~…」
自然とそんな声を漏らしていると、ポケットの中のケータイがぷるぷる震え出した。
心臓が、一拍だけどくんと大きく跳ねる。
ぷるぷると震え続けるケータイをポケットの中で掴むと、一瞬取り出すのを躊躇した。
さっきの非通知の電話のことが、まだしっかりと頭に残っていた。
また非通知だったらどうしよう。
どうしようも何も、また切ってしまえばいいのはわかってるんだけど、ちょっとだけ迷いがあっ
た。
好奇心っていう名前の。
ただ、その迷いはケータイをとり出したら一気にどっかに飛んで行った。
ケータイの画面に、お父さん、って表示されていたのだ。
「ふぅ……なんだお父さんか」
ちょっと拍子抜けした私は、電話に出ながらついため息をつく。
『なんだとはなんだこなたー。遅いから心配したんだぞー』
「今日は遅番だから帰るの遅くなるって言っといたでしょ」
『あ、ああそうだったかなあ』
忘れてた忘れてた、と電波の向こうで乾いた笑い声をあげるお父さん。
お父さんってば、帰るのが遅くなる日はたいてい一度は電話をかけてくるんだよね。
しかもその理由が毎回、私が遅くなるってことを忘れてた、なんだ。
まったく、作家なんだからもうちょっとバリエーションを考えてほしいもんだよ。
……悪い気はしないけどね。
『今どこなんだ?迎えに行こうか?』
「だいじょーぶだよ。もうバス降りて歩くだけだから」
『そうか。もう遅いんだから寄り道しないで帰ってこいよ?』
「はいはいー」
とにかく、電話をしてくる幽霊とかお化けっていうのもいるらしいんだよ。
もしかして、この非通知電話がメリーさんの電話だったりねーとか。
ちらっと。
ほんとちらっと思ったりなんかして。
まあ、違うよね。
だって、ケータイだし。
『次は○○○~次は○○○~』
けっこう考え込んでた時間が長かったのか、いつの間にかバスはずいぶんと進んでいた。合成音
のような感情の無い女声が、耳馴染みのあるバス停の名前を読み上げる。
あ、もうすぐ降りるバス停だ。
ボタンをぽちっと押して、と。
『御忘れ物のないようご注意くださ……』
ぷしゅー。
バス停に到着すると、空気の抜けるような音と共にバスは左側に少し傾いた。降りやすいように
段差を少なくしているんだろう。こういうのもバリアフリーって言うのかな。お年寄りも増えてき
たし、そうじゃなくても背の小さい人には段差が大きいと降り辛いしね。
ゆーちゃんとかには段差は小さい方が良いだろうし、嬉しい配慮だよ。
ありがたやありがたや。
私は自分の身長くらいでも簡単に飛び降りられるんだけどね。
そりゃっ。
私がバスの出口、階段になってるところをひとっ飛びに降りると、バスは低いうなり声をあげな
がら次の目的地に向かって走り去って行った。
降りたのは私一人だけ。わりと田舎の方だし、時刻的にも、まあ当然の結果だった。
ふわっと、温かい空気が私を包む。
バスの排気ガスというわけじゃない。十月になっても残暑払いをしたくなるような気候が、夜に
なっても消えてくれていないからだった。
さすがに夜は暑いというほどではないけど、それでも秋の涼しさはどこに行っちゃったのかって
いう気温が続いてる。異常気象のせいで、秋と冬をすっ飛ばして春になっちゃったんじゃないかと
思うくらいだよ。
さて、バスを降りたら家まではもうすぐだ。さっさと帰ってネトゲにインしようかな。
そろそろななこ先生にあけられてるレベル差を埋めようかなどと、両手を上げて伸びをしてると
きだった。
「ん~…」
自然とそんな声を漏らしていると、ポケットの中のケータイがぷるぷる震え出した。
心臓が、一拍だけどくんと大きく跳ねる。
ぷるぷると震え続けるケータイをポケットの中で掴むと、一瞬取り出すのを躊躇した。
さっきの非通知の電話のことが、まだしっかりと頭に残っていた。
また非通知だったらどうしよう。
どうしようも何も、また切ってしまえばいいのはわかってるんだけど、ちょっとだけ迷いがあっ
た。
好奇心っていう名前の。
ただ、その迷いはケータイをとり出したら一気にどっかに飛んで行った。
ケータイの画面に、お父さん、って表示されていたのだ。
「ふぅ……なんだお父さんか」
ちょっと拍子抜けした私は、電話に出ながらついため息をつく。
『なんだとはなんだこなたー。遅いから心配したんだぞー』
「今日は遅番だから帰るの遅くなるって言っといたでしょ」
『あ、ああそうだったかなあ』
忘れてた忘れてた、と電波の向こうで乾いた笑い声をあげるお父さん。
お父さんってば、帰るのが遅くなる日はたいてい一度は電話をかけてくるんだよね。
しかもその理由が毎回、私が遅くなるってことを忘れてた、なんだ。
まったく、作家なんだからもうちょっとバリエーションを考えてほしいもんだよ。
……悪い気はしないけどね。
『今どこなんだ?迎えに行こうか?』
「だいじょーぶだよ。もうバス降りて歩くだけだから」
『そうか。もう遅いんだから寄り道しないで帰ってこいよ?』
「はいはいー」
じゃーねと言って電話を切る。
ここのバス停から家までは二つのルートがあって、片方のルートだと途中にコンビニがあるのだ。
言われなきゃまったく考えてなかったんだけど、雑誌漁りでもしようかな、なんてことがむくむ
くと頭の中に湧き上がってくる。
そういえば今週のジャ○プまだ読んでないなあ。マガ○ンも。
ん、ここはコンプって言っておくべき?
いやいやコンプはきっちり買ってあるから良いのだよ。
コンビニにコンプはあんまり無いしねー。
うーん、寄りたくなってきた。
でもコンビニルートだとちょっと遠回りになるんだよ。それに、コンビニに寄って余計な時間を
費やさずにすむ自信はまったくと言っていいほど無いし。
「んー……明日でいっか」
私はコンビニへと続かない方の道に身体を向けた。
家への最短ルートへと。
そして一歩目を踏み出そうとした瞬間、また、ケータイがぷるぷると震え出した。
お父さんが何か言い残したのかな?
コンビニで何か買ってきて欲しい物があるとか。
そんな風に思ってすぐにケータイを取り出す。少なくとも、お父さんからの電話だろうと思って
いた。
でもあとから考えると、さっきのお父さんの調子からしてどこかに寄って来いと言ってくると考
えるのはおかしかった。
じゃあお父さんが他にどんな用事でかけてくるのか?
答えは、そんなものはない、だった。
つまり、電話はお父さんからじゃなかった。
ここのバス停から家までは二つのルートがあって、片方のルートだと途中にコンビニがあるのだ。
言われなきゃまったく考えてなかったんだけど、雑誌漁りでもしようかな、なんてことがむくむ
くと頭の中に湧き上がってくる。
そういえば今週のジャ○プまだ読んでないなあ。マガ○ンも。
ん、ここはコンプって言っておくべき?
いやいやコンプはきっちり買ってあるから良いのだよ。
コンビニにコンプはあんまり無いしねー。
うーん、寄りたくなってきた。
でもコンビニルートだとちょっと遠回りになるんだよ。それに、コンビニに寄って余計な時間を
費やさずにすむ自信はまったくと言っていいほど無いし。
「んー……明日でいっか」
私はコンビニへと続かない方の道に身体を向けた。
家への最短ルートへと。
そして一歩目を踏み出そうとした瞬間、また、ケータイがぷるぷると震え出した。
お父さんが何か言い残したのかな?
コンビニで何か買ってきて欲しい物があるとか。
そんな風に思ってすぐにケータイを取り出す。少なくとも、お父さんからの電話だろうと思って
いた。
でもあとから考えると、さっきのお父さんの調子からしてどこかに寄って来いと言ってくると考
えるのはおかしかった。
じゃあお父さんが他にどんな用事でかけてくるのか?
答えは、そんなものはない、だった。
つまり、電話はお父さんからじゃなかった。
非通知設定
ケータイの画面には少し前に見た覚えのある五文字が並んでいた。
おおッ。
はじめて非通知が来たと思ったら、もう二回目かね。
まったく、業者さんもお盛んだね。
えーっと、電源ボタンをぽちっと、今度は電源を切っちゃわないように短く押してみよう。
おや?
応答保留中ってなったよ。
これじゃまだ切れてないみたいだ。
んー、どうすればいいんだろ。とりあえずもう一回押してみようか。
えいっ。
私が二度目となる電源ボタンプッシュを実行したところ、ケータイの震えはぴたりと止まった。
「ふぅ」
どうやら二回押せば良いらしい。ケータイを持ってる歴はもう何年にもなるのに、いまさら知っ
た。
ただ、どれか他のボタンを一回押せば済むような気がする。ケータイの説明書って分厚くて全然
読んでないから、帰ったら見てみようかな。
私は思いのほか落ち着いていた。
はじめての時は焦ったけど、二回目ともなるとこんなことでも慣れるものらしい。
だから、すぐにまたケータイが震え出したのにも驚くことはなかった。
むしろ非通知の表示を見たとき、イラッとした。
もー、いいかげんしつこいよ。
こうなったら出てやろーじゃないか!
ぽちっと。
「ハイ、もしもし」
おおッ。
はじめて非通知が来たと思ったら、もう二回目かね。
まったく、業者さんもお盛んだね。
えーっと、電源ボタンをぽちっと、今度は電源を切っちゃわないように短く押してみよう。
おや?
応答保留中ってなったよ。
これじゃまだ切れてないみたいだ。
んー、どうすればいいんだろ。とりあえずもう一回押してみようか。
えいっ。
私が二度目となる電源ボタンプッシュを実行したところ、ケータイの震えはぴたりと止まった。
「ふぅ」
どうやら二回押せば良いらしい。ケータイを持ってる歴はもう何年にもなるのに、いまさら知っ
た。
ただ、どれか他のボタンを一回押せば済むような気がする。ケータイの説明書って分厚くて全然
読んでないから、帰ったら見てみようかな。
私は思いのほか落ち着いていた。
はじめての時は焦ったけど、二回目ともなるとこんなことでも慣れるものらしい。
だから、すぐにまたケータイが震え出したのにも驚くことはなかった。
むしろ非通知の表示を見たとき、イラッとした。
もー、いいかげんしつこいよ。
こうなったら出てやろーじゃないか!
ぽちっと。
「ハイ、もしもし」
泉です、と続けそうになったのをすんでのところで飲み込む。
イケナイ業者が相手かもしれないからね。自分から名前を教えちゃうこともない。
イケナイ業者が相手かもしれないからね。自分から名前を教えちゃうこともない。
『ひゃっ、出た…』
私の声から間を置かずに届いたのは、意外な反応だった。
自分から掛けてきたくせに驚いているみたい。
でも、私の方も、かなりびっくりしてた。私が想像していたのとあまりにも違う声だったからだ。
変な業者からの電話だと思っていたから、なんとなく男の人だと思っていた。女の人だとしても、
ずっと年上の人だと。
なのに、聞こえてきたのはどう考えても大人ではない、女の子の声だった。
変な業者からじゃないのかな?
そう思った直後、口に出して尋ねたわけじゃなかったけど、電話の向こうの女の子は私の疑問に
応えるように自分が誰であるかを名乗った。
自分から掛けてきたくせに驚いているみたい。
でも、私の方も、かなりびっくりしてた。私が想像していたのとあまりにも違う声だったからだ。
変な業者からの電話だと思っていたから、なんとなく男の人だと思っていた。女の人だとしても、
ずっと年上の人だと。
なのに、聞こえてきたのはどう考えても大人ではない、女の子の声だった。
変な業者からじゃないのかな?
そう思った直後、口に出して尋ねたわけじゃなかったけど、電話の向こうの女の子は私の疑問に
応えるように自分が誰であるかを名乗った。
それは、まったく予想してなかったものじゃなかった。
ついさっき、ほんのちょっとだけ、もしかしたらそうなのかなって思った。でもまさか本当にそ
うだとは、ハルヒ二期が年内に放送する可能性ほども信じてなかったのに。
うだとは、ハルヒ二期が年内に放送する可能性ほども信じてなかったのに。
それだけに、私の驚きは相当なレベルに達した。
『わたしメリーしゃん……』
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- 映画「メリーさんの電話」
出演:紗綾、長澤奈央
撮影中! -- saaya_holic (2010-05-10 21:13:49)