kairakunoza @ ウィキ

みずたまりのほとり(ひより視点・1日目)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
授業中…みなみちゃんが不意に立ち上がった。

「先生…小早川さんの具合が悪そうです。保健室に連れて行きます」

見ると、ゆーちゃんは確かに顔色が悪く、がたがた震えていた。
さすがみなみちゃん。ゆーちゃんのこと、よく注意してる。

みなみちゃんが近づくと、ゆーちゃんは首を振った。

「だめ…行けない…」

「無理しちゃだめ」

「だめなの…動けないの…」

「歩けないほど辛いの?だったら抱っこしてあげる…だから、行こう」

…私の脳内に、0.05秒でお姫様抱っこの図が完成する。
すでに手が走って、ノートにラフを描き始めていた。

「だめ…触らないで…」

恥ずかしいのか、首を振っていやいやをするゆーちゃん。
大丈夫!何も恥ずかしいことないから!早くお姫様抱っこされて見せて!

「やめて!動いたら…!」

ゆーちゃんの声に構わず、みなみちゃんは手を伸ばす。いいよいいよー!

みなみちゃんの手が触れた瞬間…。

「おしっこがぁ!!」

「!?」

みなみちゃんはすぐに手を離した。
…でも、手遅れだった。

ぽたっ…ぽたっ…ちょろろろ……しゃあああああぁぁ……。

ゆーちゃんが座っている椅子の下に、あったかそうな液体が流れ落ち始めた。

「うわあああんっ!」

ゆーちゃんは机に泣き伏してしまった。
それでもおしっこは止まらず、椅子の下に水たまりになっていく…。

「……」

私は魂を奪われたように、大きくなっていく水たまりを見続けた…。

「……」

みなみちゃんもまた、魂を奪われたようにその場に立ち尽くしていた。

「ぐすっ…えぐっ…みない…で…」

ゆーちゃんが顔を伏せたまま言った。
みなみちゃんは慌てて目をそらし、自分の席に戻った。
やがて、おしっこは止まったけど…。

「ひっく……うぅぅ……えぐっ……うえぇぇん……」

ゆーちゃんは濡れた椅子に座ったまま、いつまでも泣き続けた…。
みなみちゃんがまた立ち上がり、ゆーちゃんの所に行った。

「保健室…行こう。着替えなきゃ、風邪ひいちゃう…」

「……ぐすっ…」

ゆーちゃんがよろめきながら立ち上がった。
みなみちゃんが支えようと手を伸ばすと…、

ぱしっ!

ゆーちゃんはその手を払いのけて、一人で走って教室を出て行ってしまった。

「………」

みなみちゃんは、払いのけられた手をもう片方の手でそっと押さえた。
一瞬だけ浮かんだ、悲痛な表情。
みなみちゃんがどれだけの痛みを感じていたか…私には想像もできない。

…それでも、みなみちゃんは次の瞬間には気を取り直していた。
自分の席に戻らず、掃除用具入れに向かってバケツと雑巾を数枚取ってきた。
みなみちゃんは、おしっこの後始末をするつもりなんだ…。

雑巾を水たまりの上に置いて、吸わせて、バケツに絞る。
水たまりはとても大きくて、一回では吸い取りきれない。
また雑巾を水たまりの中に置いて…バケツに絞る。
一片のためらいもなく、素手でその作業を繰り返すみなみちゃん。
みなみちゃんは優しい人だって…改めてそう思った。

どきどきして、みなみちゃんから目が離せなかった。
そのどきどきが何によるものか、自分でも理解できなかった。

「…んぐっ」

無意識のうちに、私は音を立てて唾を飲み込んでいた。
それを聞いたみなみちゃんが、ふと手を止めた。

「…見てる必要は、ないと思う」

みなみちゃんは、振り向かずにそうつぶやいた。
その声は怒っていたわけじゃなく、むしろ穏やかで…
…ものすごく冷たかった。

「!!」

それは私にピンポイントで向けられた言葉だと思って、慌てて目をそらした。
…でも、周りを見ると、他の人も同じようにたった今慌てて目をそらした様子だった。
見ていたのは私だけじゃなくって、みなみちゃんの言葉も私だけじゃなく
周りの全員に向けられたものだったらしい。

視線がそれたのを確認し、みなみちゃんが後始末を再開した。
でも、その後も私は気付かれないようにちらちらと見てしまった…。

みなみちゃんはおしっこを吸い取り終わると、バケツを持って出て行った。
バケツに水を汲んで戻ってきて、床と椅子の上を雑巾で丁寧に水拭きし始めた。
その頃にはまた、元のようにみんなの視線が集まっていたけど、
みなみちゃんはもう気にする様子もなく淡々と後始末を続けた。

みなみちゃんは、自分が好奇の視線に晒されるのなんてどうでもよかったんだ。
さっきの意思表示は、ただゆーちゃんの気持ちだけを考えて、
おしっこの水たまりが人目に晒されないようにしたかった…そういうこと。

みなみちゃんは水拭きを終えると、作業の完璧さを確認するように
自らゆーちゃんの席に座り、机の上に残っていた涙の跡をハンカチで拭いた。
再び立ち上がり、雑巾とバケツを洗ってきて元の場所に戻し、
落としたペンケースを拾いに立っただけのように平然と自分の席に戻った。

みなみちゃんが席に戻っても、パニックの余韻は消えなかった。
そんな中、『何を騒いでるのか分からない…』というように
一人平然とした表情のみなみちゃん。

…でも、いつもみなみちゃんを観察している私には分かっていた。
みなみちゃんがいつもと変わらないその表情の下でずっと、
泣き出しそうなほどの動揺を懸命に押し隠していたことを…。


☆☆☆☆☆☆☆

みなみは、授業中におもらしをしてしまったゆたかを保健室に連れてきました。
他の生徒はおらず、ふゆき先生もどこかに出ていて、保健室は空でした。

ふゆき先生がいなくても、今は特に困ることはありませんでした。
むしろ、好都合だったと言えるでしょう。

保健委員であるみなみは、どこに何の備品があるかをすっかり心得ていました。
みなみは手早く棚の中からタオルと体育着のハーフパンツを取り出し、
奥のカーテンで仕切られた空間にゆたかを導きました。

「はい…これ。下着はないから直接はくしかないけど、
 今はいてるのはすぐに洗濯して乾かすから…それまで少し我慢して」

みなみはタオルと着替えをゆたかに渡そうとしましたが…、

「ひっく…ひっく…ぐす……」

ゆたかはスカートを掴んだまま泣きじゃくるだけで、受け取ろうとしません。

(私が目の前にいるせいで、動きづらいんだね…)

そう思ったみなみは、

「…ここに置くね。向こう側で待ってる。
 脱いだものは洗濯機で洗うから、このかごに入れて出して」

手近のかごをゆたかに示し、タオルと着替えを傍らのベッドに置いて
カーテンの外に出ようとしました。

「やだ…」

ゆたかが呟きました。

「え?」

「いっちゃ…やだ…」

涙声で聞き取りにくいですが、ゆたかは確かにそう言っていました。

「ゆたか、着替えるんだから、外に出てた方が…」

「ひとりにしちゃ…やだあぁ…!」

教室にいたときのように、また大声で泣き出しそうになるゆたか。

「わわわ、分かった…。じゃ、後ろ向いてるから…着替えて」

みなみはゆたかに背を向け、着替えるのを待ちました…。

………

いつまで経っても、着替えが始まる気配がありません。
ゆたかが動いている気配がまったくないのです。

「ゆたか…そっち、見ていい?」

「…うん」

みなみは振り向きました。

やはり状況は、みなみが後ろを向く前とまったく変わっていませんでした。
ゆたかは着替えを手に取ろうともせず、スカートを掴んだまま泣いているだけです。

「ゆたか…どうして着替えないの?」

みなみは困った様子で言いましたが、ゆたかは泣き続けるだけでした。

「そのままじゃ、風邪ひいちゃうよ…」

それでも、ゆたかは何もしようとしません…。

一体、ゆたかはどうしたのでしょう。
まるで、泣くことしかできない赤ちゃんです。
おもらしのショックで精神が退行してしまったのでしょうか…。

「………」

みなみは少し考え込んだ後…、

「ゆたか…自分で着替えないなら…私が脱がせて、着替えさせちゃうよ?」

わざと意地悪な調子で言いました。
もちろん、本気じゃありませんでした。
こう言えば、びっくりして着替えを始めてくれるだろうと思っての言葉でした。

…しかし。

「…うん…きがえさせて…みなみちゃん」

ゆたかはその言葉を待っていたかのように、顔を赤らめてそう答えたのです。

「!?」

「きがえさせて…みなみちゃん」

凍り付いたみなみに、ゆたかは繰り返しました。

「…ゆたか。何言ってるか…分かってる?」

「わかってる…」

「着替えさせるって…ことは…その…スカートも…下着も…
 私の手で…脱がせちゃうってこと…」

動揺で途切れ途切れになるみなみの声。

「うん…いいよ」

ゆたかは…どう見ても、どう聞いても本気で言っていました。

「赤ちゃんのおむつ替えるのと…同じようなこと…しちゃうんだよ?
 脚とかも…拭かなきゃいけないし…
 脱いだ状態の…見ちゃうかも…しれないよ…?」

「いいよ…わたし…おもらししちゃう…あかちゃんだから…」

ゆたかは照れてはいましたが…間違いなく本気でした。

(どうしよう……)

みなみは困り果ててしまいました。

「…くしゅん!」

ゆたかがくしゃみをしました。

「うぇぇ…つめたいよぉ…さむいよぉ…みなみちゃん…はやくきがえさせてよぉ…」

ゆたかが身震いしました。
風邪をひいてしまう前兆かもしれません。

(これ以上、ゆたかをこのままの状態にはしておけない…)

「分かった…着替えさせるよ…」

意を決したみなみは、ゆたかのそばにそっと座りました。

(スカートはこのままにしておいて、下着を脱がせて、脚とかを拭いて、
 ハーフパンツをはかせて、最後にスカートを脱がせる…)

手順はすぐにまとまりました。
スカートもびちょびちょなので早く脱いだ方がいいのですが、
スカートで隠していないと、下着を脱がせたり拭いたりするのは不可能です。
隠してなくても、ゆたかはいいかもしれません。…たぶん、いいのでしょう。
でも…みなみの方が耐えられません。

「このまま下着、脱がせるから…スカートめくれないように、そのまま掴んでて」

「…うん」

下着を脱がせるには、ゆたかのスカートの中に手を突っ込まなければいけません。
緊張で手が震えます…。

「…んくっ」

思わず音を立てて唾を飲み込んでしまい…、
変な意味に取られてしまったかも、と思って慌てるみなみ。

でも、ゆたかは何事もなかったようにみなみを見つめていました。
気付かなかったのか、気付いたけど変な意味には取らなかったのか、
もしかしたら…変な意味に取った上でそれを喜んで受け入れたのか。

…どれだとしても…今はどうでもいいことです。
みなみは深呼吸をした後、手をそっとゆたかのスカートの中に……

☆☆☆☆☆☆☆


「…うわあああああ!」

シャープペンを片手に頭を抱える私。
学校から帰って、部屋で今日のあの出来事を思い出していて…
気が付いたら、ノート十数ページにわたってこんなネームが描き連なっていた。

…この後はもちろん、パンツを脱がせ終わって拭いてあげてるうちに
二人とも変な気持ちになって、そのままなし崩しに…。

「だああああああ!」

続きを描き始めようとする手を、もう一方の手で必死に押さえ込んだ。

「自重しろ…自重しろ…何をネタにしてるんだ私…!」

あの出来事を茶化すつもりなんか絶対にない。
腐った目で見なくたって、おもらしして泣いてたゆーちゃんは
保健室に連れてってお着替えさせてあげたくなるほどかわいかった。
そして、懸命にフォローしようとしていたみなみちゃんも
健気で優しくて魅力的だった。
だから物書きとして、純粋に二人の魅力を作品にしたいと思ったからで…。

「……はぁ」

私はため息をついて、ネームを書き連ねたノートを引き出しの最奥に封印した。
どんな理屈を並べたって、あの出来事を漫画のネタにするのは許されない。
少なくとも、時間が過ぎて、笑って話せるようになるまでは…。

…でも、目に焼きついていたゆーちゃんのおもらしシーンをイラストに一枚描くまで
むらむらして眠ることができなかった。

ああ…私、今日のことで何かに目覚めてしまったのかもしれない…。












コメントフォーム

名前:
コメント:
+ タグ編集
  • タグ:
  • ひより→みなみ&ゆたか
  • ひより壊れ気味
記事メニュー
ウィキ募集バナー