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みずたまりのほとり(ひより視点・3日目)

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だれでも歓迎! 編集
あの後、眠れたのはせいぜい1時間ぐらいだった。
だけど、不思議と血の滾りは落ち着いていた。
これなら、学校でみなみちゃんに会っても普通の範囲でいられそう。

学校に着いて、教室に入った。
昨日と同じように、みなみちゃんもゆーちゃんもまだいなかった。

今日もゆーちゃんはたぶん来ない。、
みなみちゃんはまたギリギリまで待ってから一人で来るのだろう…。

…と、思っていたそのとき。
ゆーちゃんが、そっと教室に入ってきた。
驚くのと同時に、少し安心する。
学校に来ることができたってことは、少しは立ち直れたってこと。

「おは…」

「!」

声をかけようとした瞬間、ゆーちゃんはびくっと体を震わせ…。

ばんっ。

ゆーちゃんの鞄が、その場に落ちた。
何人かがその音でこっちを向いて…ゆーちゃんは教室から駆け出していった。

「………」

少しの間に多くのことが起こりすぎて、追いかけることもできなかった。
とりあえず鞄を拾って、ゆーちゃんの机に置いた…。

それから少しして、みなみちゃんも教室に入ってきた。
その表情には、隠し切れない悲痛がありありと表れていた。
きっと、みなみちゃんはバス停でゆーちゃんに会って、
今の私と同じような反応をされたに違いない…。

「ゆたかは…」

「来たけど…すぐに出て行っちゃった。話もできなかったよ…」

「そう…」

ふと、みなみちゃんの姿に違和感を覚えた。
違和感の原因は、みなみちゃんのスカートの下だった。
みなみちゃんのすらりとした脚が、タイツで覆われてなかった。
濡れるものをできるだけ少なくしたかったのか、
脚をできるだけ冷やして利尿作用を高めたのか、
もっと他の理由なのか、それは分からないけど、
どうであれ、それが意味するのは…
みなみちゃんが本気で今日、おもらしするつもりだということ。

ゆーちゃんは、HRで先生が来るのと同時に戻ってきた。
席についてもずっと下を向いて、周りを見ようとしなかった。
たぶん、おもらしのことでいじめられると思っておびえてるんだ。
ゆーちゃんは全然立ち直ってなんかいない。無理して来ただけなんだ。

ゆーちゃんが立ち直って学校に来たんだから、
みなみちゃんがおもらしする必要もなくなったんじゃないか。
そんな淡い期待はあっけなく消えた。

………

1時間目が終わって、休み時間になった。
ゆーちゃんはすぐさま教室を出て行った。

ゆーちゃんを探しに、私も教室を出た。
ゆーちゃんと話をしたい。
怖がることなんかないって、誰もいじめたりなんかしないって、伝えたい。

トイレには…いない。
図書室にも…いない。
食堂は…まだお昼じゃないから開いてない。もちろん誰もいない。

保健室にも…いない。

屋上にも…いない。
屋上から校庭をくまなく見渡したけど…見当たらない。

結局ゆーちゃんは見つからず、虚しく教室に戻った。
チャイムが鳴ってもゆーちゃんは戻ってこなかった。
もしかして帰っちゃったのかと心配になってくる…。

…幸い、それは考えすぎだった。
ゆーちゃんは先生がくるのに合わせて教室に戻ってきた。
でも、戻ってきてもゆーちゃんの様子は変わらなかった。

………

2時間目の休み時間。
またゆーちゃんは走って出て行って…私もまた探しに出た。

ゆーちゃんは、泉先輩と一緒にいるかもしれない。

さっきの授業中に訪れたひらめきに従って三年生の教室に行ってみた。
ゆーちゃんがいなくても、泉先輩に相談したかった。
泉先輩なら、今のゆーちゃんともきっと話ができる。
誰もいじめたりなんかしないって、みんな心配してるって、
泉先輩から伝えてもらえれば、ゆーちゃんの気持ちもずっと楽になるはず…。

廊下から、泉先輩のクラスを隅々まで覗いてみたけど…
ゆーちゃんと泉先輩は見当たらなかった。

「ひよりちゃん、どうしたの?」

「え、あ…つかさ先輩」

いつの間にか、つかさ先輩が横にいた。
教室を覗いている私に気付いて、来てくれたらしい。

「その…小早川さん、こっちに来てたりしないかなと思って…。
 それと、泉先輩と話したいこともあって…」

「ううん、ゆたかちゃんは来てないよ。それに、こなちゃんも今日は休みなの。
 昨日から風邪気味だったんだけど、夜になってもっと悪化しちゃって
 今朝は39度近く熱があったって…」

「そうなんですか…」

泉先輩がすぐ会える場所にいない。
今のゆーちゃんにとって、それはどれだけ不安なことだろう…。

つかさ先輩と別れた後、もう少し探したけどやっぱりゆーちゃんは見つからず、
チャイムが鳴ってしかたなく教室に戻った。
ゆーちゃんは、また同じように先生が来るのに合わせて戻ってきた。

………

3時間目の休み時間。
また出て行ったゆーちゃんを、また探しに出た。

今度は教室という教室を全部覗きながら歩いていると…
とある空き教室の隅っこに、誰か座り込んでいるのを見つけた。
もしかして…。
空き教室に入ってみると…座り込んでいたのは、ゆーちゃんだった。
やっと、見つかった。

ゆーちゃんがこちらに気付いた。

「よかった…見つかって。あのね、小早川さん…」

「……!」

話しかける間もなく、ゆーちゃんはおびえた表情になると
飛び上がって廊下に駆け出していった。

「あ、待って…」

慌てて追いかけて廊下に出ると、
走り去っていくゆーちゃんの後姿が見えた。

「ゆーちゃん…」

遠慮して心の中だけで使ってる呼び名を、思わず声に出してつぶやいていた。

ギャルゲーの主人公ならこんなとき、『なんでだよ!』って怒り出して
追いかけて捕まえて無理矢理想いを伝えればうまくいっちゃうんだろう。
でも、私はギャルゲーの主人公じゃない。
それに、一昨日の夜に私がしてたことを思えば、
ゆーちゃんが私を避けるのは理不尽だなんて、とても言える立場じゃなかった…。

………

4時間目が終わって、昼休みになった。
ゆーちゃんはお弁当を持って出て行った。
どこかで一人で食べるのだろう。
食欲は一応あるんだと知って、少しだけ安心。

私はまた探しに教室の外に出かけて…思い留まった。
もし、ゆーちゃんをまた見つけ出せたって…どうしようもない。
お昼を食べるのを邪魔しちゃうだけ。
それに、今はみなみちゃんの様子も気になっていた。

みなみちゃんはいつものようにお弁当を取り出していた。
私もいつものように机を移動して、みなみちゃんと一緒に食べ始めた。

「………」

…会話がない。
ゆーちゃんがいないというのもあるし、
私にもみなみちゃんにも、心に重くのしかかる何かがあって、言葉が出なかった。

黙々と食べるみなみちゃん。
その様子は一見普段と変わらない。
だけど…。
みなみちゃんはただ食べ物を口から入れているだけで、味なんて感じてない。
苦手なはずの梅干を表情一つ変えずに口に入れて
そのまま種ごと飲み込んでしまったことからはっきりとうかがえた。
それは、ゆーちゃんのことが心配というのもあるけど、もっと物理的な要因がある。
おしっこしたくて、味を感じる余裕なんかないんだ。

気のせいじゃないって、はっきり言い切れる。
今の時点でもう、みなみちゃんはおしっこしたいってはっきり感じてる。
事情を知っている私にしか分からないほどかすかだけど、仕草にも出始めている…。

みなみちゃんは私より先にお弁当を食べ終えた。
私をどきっとさせたのは、みなみちゃんの次の行動だった。
みなみちゃんは…鞄からペットボトルのお茶を取り出した。

「んっ……んっ……」

みなみちゃんは、ペットボトルの蓋を開けて、中身を飲み始めた。
それ自体は当たり前のこと。
剣を『つかう→セルフ』で自分の胸に刺しちゃうどこかの真の勇者ですら、
ペットボトルのお茶は中身を飲むことにしか使いようがないだろう。
問題なのは、その飲み方だった。
みなみちゃんが持ってたのは500mlのボトル。
それを一気に飲もうとしていた。
この季節、普通の状態でも一気に飲むのはつらい量。
今の状態じゃ、その何倍もつらいはず。

こんなことをする理由は…考えるまでもない。
今飲んだ分は、たぶん6時間目の直前から途中にかけておしっこに変わる。
6時間目は、一昨日ゆーちゃんがおもらししたのと同じ時間。
それに合わせて、自分も限界が来るように露骨な調整をしてるんだ…。

「……はぁ」

みなみちゃんが、空になったペットボトルを机に置いた。
それから、一呼吸の後。

ぶるるっ。

「うぅ……」

みなみちゃんが、泣きそうな声とともに体を震わせ、脚をもぞもぞさせた。
冷たいお茶のせいで、おしっこしたいのがさらに煽られたのだろう…。

「………」

「……!」

私がじっと見てるのに気付いて、みなみちゃんは膝の辺りをぎゅっと押さえて
恥ずかしそうに下を向いてしまった…。

どくん。

私の胸が鳴った。

今朝目覚めてからずっと落ち着いていたある感情が…またくすぶり始めた。

『みな☆フェチ』。

まだ、鼻血が出るほどじゃない。
まだ、私は普通の範囲に片足は留まってる。
…今のところは、まだ。

5時間目が始まった。
すでに、みなみちゃんの表情に余裕はほとんど感じられなかった。
昨日トイレに行った時点より、ずっと辛そうに見えた。

「………」

無言で見ている私。
実を言うとスケッチ用の新しいノートは用意してきたんだけど、
手が震えてスケッチするどころじゃなかった。
携帯を取り出して動画撮影したい、という衝動と戦うのが精一杯だった。

そして、5時間目が半分ぐらい終わった頃。

「んんっ…!」

突然みなみちゃんがかすかな声を上げ、下を向いてぎゅっと目を閉じた…。
みなみちゃんの体が小刻みに震えてる…。

…ぽきっ。

私の心が折れた音かと思った。
でもそうじゃなく、シャープペンの芯が折れて飛んだだけだった。
私はまだ大丈夫。眼鏡は弾け飛んでない。鼻血も出てない…。

やがて、みなみちゃんは落ち着いた。
恐る恐る周りを見て、私以外の誰も気付いてないのを確認すると、
『びっくりさせてごめん…もう大丈夫だよ』と視線で告げてきた。

大丈夫になんか、見えなかった。
その後の様子からも、みなみちゃんが急激に不安になったのは明らかだった。
この時間のうちに限界が来てしまうとか、
私以外の誰かに気付かれてトイレに行かされてしまうとか、
色々な不安要素が、みなみちゃんの頭に浮かんでいるに違いなかった。

そして私の方も、耐えられる自信が急激に失われるのを感じていた。
もう一度、今みたいなことが起きたら…。

みなみちゃんは祈るような様子でその後も耐え続けた。
私も、それ以上何も起こらないことを祈り続けた…。

それぞれの祈りは通じて、それ以上何も起こらずに5時間目も終わった。

最後の休み時間。
私はみなみちゃんの席へ向かった。

思い留まってくれるように頼める、最後のチャンス。
まだ、後戻りはできる。
今ならまだみなみちゃん、トイレまで歩くことはできそうだったから。

「岩崎さん…あの…やっぱりさ…」

「…いいの。このままで」

みなみちゃんは、私に心配させまいと笑顔を作ってそう言った。
苦痛に耐えるその笑顔は…本当に綺麗だった。

「…ごめんね。こんなの、見てるだけでも嫌だよね…」

違うの!全然嫌じゃなくって!
むしろ嫌じゃなさすぎて困ってて…!

「でも…ゆたかにしたこと、償う方法…これしかないの。
 ゆたかが立ち直るきっかけになれるなら、私はどうなってもいい。
 あと少しだから、このまま最後まで…ね。もう一度…お願い」

私は、何秒かためらって…。

「……うん」

それだけ言って、自分の席に戻った…。

欲望に負けたんじゃない。
みなみちゃんの意思を尊重しただけ。
ゆーちゃんのために約束を守るだけ…。

頭の中で言い訳を並べ立てるうちに、チャイムが鳴った。

6時間目は世界史で、黒井先生が来た。
ゆーちゃんも戻ってきた。
みなみちゃんは起立と礼も耐えて…6時間目の授業が始まった。

………

みなみちゃんの震えが止まらない…。
みなみちゃんの呼吸が乱れる…。
みなみちゃんの視線が虚空をさまよう…。

私の精神を、いつまでもフィニッシュしない無月散水が切り刻み続ける。
理性が吹っ飛びそう。
昨日、自分自身がおしっこ限界だったときより、もっと吹っ飛びそう。

おもらしした後、みなみちゃんはどうするんだろう。
ゆーちゃんみたいに泣き出しちゃうのかな。
放心しちゃうのかな。
気を失っちゃうのかな。
冷静にみんなに謝って、自分で後始末を始めたりするのかな。
おかしくなっちゃって、笑い出しちゃうのかな…。

そのどれか一つを具体的に想像しただけで、もう…。

…鼻の奥に嫌な感覚がした。
昨夜の経験のおかげで、それは鼻血が出る前兆と分かっていた。
手の中に用意してあったティッシュで鼻を押さえる。

ティッシュに鼻血が染み出すのを感じて…確信した。
みなみちゃんのおもらしを見たら…私、完全に壊れちゃう。
何をしでかしてもおかしくない。何をしでかすか想像できない。想像したくもない。
生命機能を維持できるかどうかも分からない。

萌え死に。
泉先輩のお父上が憧れるのも分かる、幸せな死に方だと思う。
だけど、まだ生きたい。生きて描きたいことがいっぱいある…。

助けて…誰か…。

周りを見回した。
誰かがみなみちゃんの様子に気付いてくれないかと思って。
でも、不思議なぐらい誰も気付かない…。

…私の視線が、ある人に止まった。

ゆーちゃん。

この中で、みなみちゃんの一番近くにいる人。
それに、今の状況が起きてるきっかけでもある人。

次の瞬間、よく分からない衝動に襲われて、
片手で鼻を押さえたまま、もう片方の手でメモ帳を一枚破り走り書きしていた。

『いわさきさんがおもらししちゃう』

右手で書いたみたいに乱れてたけど、読めないほどじゃないはずだった。
ゆーちゃんの背中をつっついて、メモを差し出す。

…受け取ってくれない。

気付かないの?それとも、からかってると思って無視してるの?

ゆーちゃん、気付いて。お願い。
助けて、助けてってば…!

もっと強く背中をつっつく。

…ゆーちゃんは、やっとメモを受け取ってくれた。

鼻血が止まってなくて顔を上げられなかったけど、
ゆーちゃんが驚いてみなみちゃんを見たのが分かった。

………

誰にも言ったりしないって…最後まで放っておくって、約束してた。
なのに…約束を破ってしまった…。
でも…耐えられなかったんだよ…。
このままじゃ…私、壊れちゃうんだよ…。
他の人から見たらとっくに十分壊れてるだろうけど、もっと壊れちゃうんだよ…。

がたんっ!

大きな音に、思わず顔を上げた。
幸い、鼻血はもう止まっていた。

見ると…立ち上がっていたのは、ゆーちゃんだった。

「先生…みなみちゃ…岩崎さん、具合が悪そうなので、保健室に連れて行きます」

みんなの視線を浴びながら…ゆーちゃんは震える声で、でもはっきりと言った。

「…あー、ウチもちょうど今気付いた。
 めっちゃ顔色悪いし、震えとるし…岩崎、無理せんと早く行っとき。
 言いだしっぺやし、小早川、頼めるか?」

黒井先生はすぐにそう言って、ゆーちゃんはみなみちゃんに駆け寄った。

「…行こう、みなみちゃん」

ゆーちゃんは言った。でも…。

「だめ、行けない…」

その言葉の通り…みなみちゃんはどう見ても、もう動けそうになかった。
その瞳にはもう、これ以上我慢しようという意志もほとんど感じられなかった。

「無理しちゃだめ、行こう!抱っこはできないけど、支えるから…!」

…不意に、一昨日見た光景が、今の目の前の光景に重なって見えた。
そして…この先に起こることが、見えた。

ゆーちゃんがみなみちゃんを立たせようと、腕を取って…。
それで、みなみちゃんはおしっこをしてしまう…。

同じ未来がみなみちゃんにも見えたのだろう。
もちろん苦しそうなんだけど…その中に微笑みが浮かんで…幸せそうにすら見えた。

ゆーちゃんがしたのと同じように、おもらしする。
自分がさせたのと同じように、ゆーちゃんの手でおもらしさせられる。
それはきっと、みなみちゃんが一番望んでいた形に違いなかった。

ゆーちゃんもまた同じ未来を見たのか、手を止めてしばらくためらっていたけど、
やがてみなみちゃんの視線に押されるようにまた手を伸ばして、
みなみちゃんの腕をそっと取った…。

「あ……」

みなみちゃんが目を閉じて…おなかの緊張を解いたのが分かった…。

「だめええええええっ!!!」

「!!」

ゆーちゃんの小さな体からは想像もできないほどの絶叫が教室中に響き渡り、
みなみちゃんはびくっと体を震わせた。

普通だったら、それはおしっこを解放させるとどめの一撃になったはず。
離れていて、しかもおしっこを我慢していなかった私でさえ、
気が遠くなって少しもらしそうになったほどだから…。

だけど、その叫びが今のみなみちゃんに奇跡を起こした。
夢から醒めたように、みなみちゃんの瞳にまだ我慢しようという意志が戻った。

少しの間見つめ合った後…。

「立たせて、いい?」

「…うん」

ゆーちゃんはそっと、そっと、みなみちゃんを立ち上がらせた。
みなみちゃんの脚は震えてたけど、まっすぐに立つことはできていた。

「歩ける…?」

みなみちゃんは、恐る恐る一歩を踏み出しました。

「歩けそう…少しの間なら」

「じゃあ行くよ。ゆっくり、急いで」

ゆーちゃんは、みなみちゃんを支えて教室から出て行った。

恐る恐る、みなみちゃんの椅子を見た。
椅子は少しも濡れてなかった。
少なくとも、この教室ではもらさないですんだんだ。
私にできることはもう、この調子でトイレまで間に合ってくれることを祈るだけ。

二人が出て行って数秒後、教室中でざわめきが始まった。

「トイレだったよな、どう見ても…」

「間に合うのかな、あんな状態で…」

「なんであんなになるまで我慢してたんだろ…」

「そういや岩崎、5時間目から様子変だったような…」

「今日、岩崎さん、席から離れたの一回も見てない…」

「じゃあ、もしかしたら今日一回もトイレ行ってないってこと?」

「どうして…?」

「もしかして、小早川…」

「はいはい、つまらん詮索すな。授業続けんでー」

黒井先生がざわめきを鎮め、教室が静かになった。

その静けさの中で、ある男子生徒がつぶやいた。
その人は普段みなみちゃんのことを良く言わない人だったけど…。

「正直、さっきの岩崎、かわいいと思っちゃった」

誰もその発言にツッコミを入れなかった。
それは引いたからじゃなくて、誰もが心のどこかでは同意していたからだった。
実際、頷いた人も何人かいた…。

私ほどにではないにせよ、
あの状態のみなみちゃんに心を奪われる人は、他にもいっぱいいたんだ。
それが分かって、少しだけ、安心できた。

授業は再開された。
でも、私の心は教室から離れてゆーちゃんとみなみちゃんを追っていた。


☆☆☆☆☆☆☆

みなみはゆたかに支えられて何とかトイレまで歩くことができました。

…しかし、あと数歩で個室に入れるというところで
ゆたかが不意に立ち止まってしまいました。
ゆたかが動いてくれないと、みなみも動けません。

「ゆたか…疲れた?」

みなみは、こんな状態でもゆたかのことを心配していました。

「…みなみちゃん」

「え…」

みなみがゆたかの顔を見ると…真っ赤でした。

「私…見たい。みなみちゃんがおもらしするとこ」

「!?」

「他の誰にも見せたくない。おもらしの瞬間、独り占めしたい…。
 だから、連れ出したんだよ」

「………」

みなみは、あまりのことに凍り付いています。

「みなみちゃん…お願い…ここで…して」

「待って…待ってよ。そんなの、できない…」

「あのまま…教室でするつもりだったんでしょ?私のために…」

「それは…そうだけど…」

それは、みんなの前でして、ゆたかと同じになろうとしたから。
同じになれば、ゆたかが立ち直るきっかけになると思ったから。
見るのがゆたかだけじゃ、何の意味もありません。

「私…みなみちゃんのおもらしを見たら…立ち直れる気がする」

「…どうして、そうなるの?」

「みなみちゃんのおもらし…きっと…かわいいから。
 おもらしは…かわいいものでもあるって…確かめられたら…
 私がしたのも…恥ずかしいだけじゃなかったんだって…思えるから…」

「………」

さすがのみなみも、ゆたかの言葉を理解するのに時間がかかっています。
自分が言っていることはめちゃくちゃだと、ゆたかも分かっていました。
でも、ゆたかは半分本気でした。
そして、後の半分は…もっと本気でした。

「………」

ようやくゆたかの言葉を理解したみなみの表情から、抵抗の色が消えました。
それでゆたかが立ち直れるというのなら…異存はありません。
…あるのは、一つの願望だけ。

「ゆたかに…させてほしい…」

「…うん」

ゆたかは手をそっと伸ばして…さっきそうしたように優しくみなみの…。

☆☆☆☆☆☆☆


ぬわーーーーーっ!

ゆーちゃんそこ代われ!
じゃなくて!何を!何を妄想してる私!

うああぁぁ…このままじゃまた鼻血が噴き出る…。

落ち着け落ち着け、上げて上げて上げて上げて…。
もっと健全な妄想でかき消すんだ。
おもらしから離れるんだ。
みなみちゃんは間に合う。おもらしなんかしない…。


☆☆☆☆☆☆☆

ゆたかは無事にみなみをトイレまで送って、外で待っていました。
やがて、みなみがトイレから出てきました。

「大丈夫…だった?」

ゆたかは心配そうに言いました。

「うん」

「…ほんとに?」

「本当…」

「ほんとのほんとに?」

「う、うん…」

みなみは答えるのに少し口ごもってしまいました。
ゆたかがあまり執拗に聞くので戸惑っただけなのですが、
ゆたかには別の意味にしか取れませんでした。

「ほんとは、ちょっとぐらいもれちゃったとか…」

「う、ううん、本当に大丈夫だよ。確認もしたし…」

「私も、確認していい?」

「え…」

みなみが答えるどころか、言葉の意味を理解する暇もなく…

ふわっ。

ゆたかはみなみのスカートをめくり上げて、中を…

☆☆☆☆☆☆☆


何色なんだろう。なんとなく青系な気がする。淡いスカイブルーとか…。
そして、もしちょっともらしてたら、一部だけ色が…。

…じゃなくて!どうしてそっちの方向に行く!
離れろ。おしっこから離れるんだ。
みなみちゃんは私のアイドル…アイドルはおしっこなんかしない…。
…でも、この前読んだ漫画ではアイドルがトイレ休憩取れなくて
ファンと握手しながらもらすってネタがあったなぁ…。
漫画では少し出ちゃっただけで水かぶってごまかせてたけど
ラジオドラマでは明らかに全部もらしちゃってそのままフォローなしで終わりっていう
悲惨な展開になってたっけ…。

…思考がいい具合に脱線して、ようやく心が落ち着いてきたその頃。

がらっ。

教室のドアが開いた。
二人が戻ってきたんだ…。











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