高校に上がってからひと月半。つかさを迎えに隣の教室に顔を出すと、変な奴がいた。
「……しゅっ。はっ、せっ……ふんっ」
小柄な女生徒が、こともあろうに教室内で拳法か何かを練習している。
あらかたの生徒が出てゆき、空っぽになってしまった教室。そんな中で彼女は一人、拳を振るい蹴りを放つ。
小柄な女生徒が、こともあろうに教室内で拳法か何かを練習している。
あらかたの生徒が出てゆき、空っぽになってしまった教室。そんな中で彼女は一人、拳を振るい蹴りを放つ。
腰まである長い髪が、彼女の動きにつれて躍る。
中学生か、下手すると小学生と見まがうような華奢な手足が、技を放つ度に力強く空気を引き裂く。
けれどその横顔は、退屈そうにも、憂いを秘めているようにも見えて。
その眼差しは、眠たそうにも、ここでないどこかを見ているようにも見えて。
気が付くと、そいつが勝手に机をどかして作った練習場の、かぶりつきの位置にまで近づいていた。
教室を占拠して拳法やってる非常識な馬鹿なのに……気が付くと、私の目はその馬鹿の一挙手一投足を逃すまいと必死に追っていた。
中学生か、下手すると小学生と見まがうような華奢な手足が、技を放つ度に力強く空気を引き裂く。
けれどその横顔は、退屈そうにも、憂いを秘めているようにも見えて。
その眼差しは、眠たそうにも、ここでないどこかを見ているようにも見えて。
気が付くと、そいつが勝手に机をどかして作った練習場の、かぶりつきの位置にまで近づいていた。
教室を占拠して拳法やってる非常識な馬鹿なのに……気が付くと、私の目はその馬鹿の一挙手一投足を逃すまいと必死に追っていた。
何本かの髪が汗に濡れて顔に張り付くけど、漫画かなにかのキャラクターみたいに頭の一房だけがぴんと立ち、ぴょこぴょこ揺れ動く。
その姿は妙に場違いで。それこそ、漫画から抜け出たかのように場違いで……だからこそ、妙に綺麗に見えた。
それにしてもこいつ、制服のままでこんな蹴り出してるけど……スカート大丈夫なのかしら。
勝手な心配をよそに、名前も知らないこいつは回し蹴りの態勢に入り……。
その姿は妙に場違いで。それこそ、漫画から抜け出たかのように場違いで……だからこそ、妙に綺麗に見えた。
それにしてもこいつ、制服のままでこんな蹴り出してるけど……スカート大丈夫なのかしら。
勝手な心配をよそに、名前も知らないこいつは回し蹴りの態勢に入り……。
「うりゃっ」
「……見えるっての」
「……見えるっての」
私の危惧通りに、ボーイレングスのショーツをもろにさらけ出した。
「……あ」
「……ん?」
蹴りぬいた姿勢のまま、そいつの動きが止まる。きょとんとした表情でこちらを見つめて。
そいつの視線を受けてはじめて、私は自分が思ったことをそのまま口にしていたのを知った。
「びっくりした……なんかのイベントかと思っちゃった」
「……は?」
蹴り足を下ろし、僅かに上気した頬でそいつは言ってのける。
見とがめるとか誰何するとかそういうのはかけらもなくって、ここに誰かがいてくれたことが嬉しくてたまらない、って顔で。
……なんか、こう。無警戒にこんな顔されると、毒気とか警戒感とかがすぽーんと抜けていってしまう。
小さな背中が、ぴょこぴょこと遠ざかる。机を適当に元の位置に戻すと、椅子を一つ拝借して逆向きに腰掛けて。
そして彼女は、私をきらきらした瞳で見つめた。どうも目の前のこいつは、拳法ごっこなんかより面白いおもちゃを見つけたみたい。
それが誰なのかは薄々感づいてたけど、今さら「はいさようなら」なんてちょっとできそうにない。
だって……私の方が先に、こいつに見とれてしまってたんだから。
「……ん?」
蹴りぬいた姿勢のまま、そいつの動きが止まる。きょとんとした表情でこちらを見つめて。
そいつの視線を受けてはじめて、私は自分が思ったことをそのまま口にしていたのを知った。
「びっくりした……なんかのイベントかと思っちゃった」
「……は?」
蹴り足を下ろし、僅かに上気した頬でそいつは言ってのける。
見とがめるとか誰何するとかそういうのはかけらもなくって、ここに誰かがいてくれたことが嬉しくてたまらない、って顔で。
……なんか、こう。無警戒にこんな顔されると、毒気とか警戒感とかがすぽーんと抜けていってしまう。
小さな背中が、ぴょこぴょこと遠ざかる。机を適当に元の位置に戻すと、椅子を一つ拝借して逆向きに腰掛けて。
そして彼女は、私をきらきらした瞳で見つめた。どうも目の前のこいつは、拳法ごっこなんかより面白いおもちゃを見つけたみたい。
それが誰なのかは薄々感づいてたけど、今さら「はいさようなら」なんてちょっとできそうにない。
だって……私の方が先に、こいつに見とれてしまってたんだから。
「その、さ。あんたのそれって、どっかで習ったの?」
観念して椅子を拝借し、拳法女(仮名)と向かい合わせに座ってみる。
「んー? んー、ちっちゃい頃にね。お父さんに言われて道場に通ってただけだったけど」
こいつの顔には、屈託なんてひとかけらもありゃしない。
「なるほどねえ。で、昔取った杵柄ってわけ?」
「そそそ。こないだ思いがけず、実生活でも役立ったし」
「……どういうシチュエーションよ、それ」
痴漢退治でもしたんだろうか。あまりに突拍子も無いので、後になるまで私はそれを聞こうとすらしなかった。
「でも良かった。今日の私、ついてるよ」
自分勝手に話題を変えて。そいつは、人なつっこい仔猫のように目を細めた。
「なんでよ?」
「だってさ。ついこないだ友達になった子のお姉さんともう逢えたんだよ?」
「……はい?」
聞き返そうとしたとき、教室の外から声がする。
観念して椅子を拝借し、拳法女(仮名)と向かい合わせに座ってみる。
「んー? んー、ちっちゃい頃にね。お父さんに言われて道場に通ってただけだったけど」
こいつの顔には、屈託なんてひとかけらもありゃしない。
「なるほどねえ。で、昔取った杵柄ってわけ?」
「そそそ。こないだ思いがけず、実生活でも役立ったし」
「……どういうシチュエーションよ、それ」
痴漢退治でもしたんだろうか。あまりに突拍子も無いので、後になるまで私はそれを聞こうとすらしなかった。
「でも良かった。今日の私、ついてるよ」
自分勝手に話題を変えて。そいつは、人なつっこい仔猫のように目を細めた。
「なんでよ?」
「だってさ。ついこないだ友達になった子のお姉さんともう逢えたんだよ?」
「……はい?」
聞き返そうとしたとき、教室の外から声がする。
「お姉ちゃーん、こなちゃーん!」
私ともう一人を呼ぶつかさの声。そう言えば一昨日の夕食でつかさが言ってた、「面白い子と友達になった」って。
「ちょっ、つかさ!?」
思わずこいつとつかさを見比べる。もしかして、本気でこいつと知り合いなの!?
「いやあ、愛されてるねえおねーさん。つかさも二言目には、『お姉ちゃんがね』って話してくれてたよ?」
うぅ……なんか無性に気恥ずかしい。
「……どういう偶然よ、これ……」
「もしかしたら、運命の出逢いって奴かもねー」
頭を振る私に、こなちゃんとやらはにんまり笑って左手を差し出す。
「私、泉こなた。よろしくね」
「柊かがみよ。……妹の分もよろしく、とは言っとくわ」
渋々差し出した手を、痛いくらいの力で握り返される。
お義理で取ったはずの手が、ほんとに運命の出逢いだったと気づくのは……ずっと後になってからのことだった。
私ともう一人を呼ぶつかさの声。そう言えば一昨日の夕食でつかさが言ってた、「面白い子と友達になった」って。
「ちょっ、つかさ!?」
思わずこいつとつかさを見比べる。もしかして、本気でこいつと知り合いなの!?
「いやあ、愛されてるねえおねーさん。つかさも二言目には、『お姉ちゃんがね』って話してくれてたよ?」
うぅ……なんか無性に気恥ずかしい。
「……どういう偶然よ、これ……」
「もしかしたら、運命の出逢いって奴かもねー」
頭を振る私に、こなちゃんとやらはにんまり笑って左手を差し出す。
「私、泉こなた。よろしくね」
「柊かがみよ。……妹の分もよろしく、とは言っとくわ」
渋々差し出した手を、痛いくらいの力で握り返される。
お義理で取ったはずの手が、ほんとに運命の出逢いだったと気づくのは……ずっと後になってからのことだった。
(どっとはらい)
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- こういう出だしで、らきすたの百合ゲ作ってください。お願いします。 -- 名無しさん (2011-04-12 01:23:07)
- ずっと後の事も書いて~ -- 名無しさん (2010-05-27 17:07:55)
- 出会いはいつだって突然に…… -- 名無しさん (2009-02-17 01:38:08)