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逆転☆裁判Ⅲ

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「ちょっと、こなた!!」
裁判が終わり、控え室に戻るとすぐに、私はこなたの元へと走った。
こなたはすべての書類を纏め上げ、他の検察の人を連れて検察へ戻るところだった。
「私は急いでいるのですが、何か用ですか、柊かがみさん」
さっきと同じ、冷たい声。
あの頃のこなたとはぜんぜん違う、冷たい声。
「どこへ行ってたのよ。何も言わないでどっか行っちゃって。私がどれだけ心配したと思ってるの!!」
こなたがいなくなったのは三年の一月の終わりあたり。
その頃になると受験生は自由登校になり、私たち全員が揃う事も少なくなってきていた。
でも、みゆきもつかさも、もちろん私も、携帯で連絡を取り合い、受験の合間の短い休みをできるだけ共有しあった。
やがて来る別れ、三月の卒業を前にできるだけ四人での思い出を作りたかった。
でも、唯一連絡が取れなかったのがこなた。
携帯電話に何度連絡しても出ない。家に連絡しても出てくるのは父親のそうじろうさんだけ。
そうじろうさんに何があったか聞いても、
「今は、そっとしてあげてくれないか?」
と言うだけで、こなたが私たちの前から消えた理由を教えてはくれなかった。
三人で過ごす日々も終わりを迎え、私たちはバラバラになった。
ううん、でも心はいつまでも一緒、バラバラになんかなっていない。
ただ一つ、私たちの心残りは、一月の終わりに連絡もなしにいなくなってしまったこなたの事だった。
「何で、何で何も言わないで私たちの前からいなくなっちゃったのよ。私たちがどれだけ心配したと……」
うわっ、なんだか私、涙声になっている。
でも、仕方ないじゃない。ずっと、ずっと心配だったんだから。
こなたの隣にいる検察の人も、困ったようにこなたを見ている。
こなたは困ったようにため息をつく。「先に行ってて」と隣の人に投げかけて、私のほうへ歩みよる。
検察の人も席を外した方がいいと感じ取ったためか、何も聞かずに先に行ってくれた。
「久しぶりだね、かがみ」
それは、私がずっと聞きたいと思っていた声。
あの法廷の冷たい声じゃなくて、あの頃と同じ、春の日差しのように柔らかい声。
「こなた……」
こなたに駆け寄ろうとする私に、こなたは手の平を突きつける。
それは、紛れもない拒絶……
「ダメだよ、かがみ。私にはそんな資格ないもん」
「何言ってるのよ、私たちがどれだけ心配したか分かってるの!! せめて何でいなくなったか説明しなさい!!」
こなたはため息をついて窓枠に寄りかかる。
青い、長い髪がさらりと揺れる。
あの頃と変わらないようで、ずっと大人っぽくなったこなた。
「あんまり話したくないけれど、かがみだから教えてあげるね、あの時、私に何があったか……」


あの日は雪の降る寒い日だった。
センターも間近に控え、そろそろラストスパートの時期。
一夜漬けが得意な私だって、さすがにセンター試験は一夜漬けでは無理。
三年間続けてきたコスプレ喫茶もこれを区切りにやめようと考えていた。
運命のあの日、私は今回が最後とコスプレ喫茶のバイトに出かけた。
三年もやってればなかなか常連もつくもんでね、やめないで、って言う人も多かった。
あの時は、受験が終わって大学に入り、落ち着いたらまたバイトをやってもいいかななんて考えていた。
あの、事件にあうまでは。
引き止める常連も多かった事で、私は終電いっぱいまで働いていた。
未成年の勤務時間オーバーは見逃してよね。最後のお別れパーティーで忙しかったんだから。
店の片付けと引継ぎを終わり、私は道を出た。
雪の降らない埼玉には珍しく、春日部は雪に染まっていた。
終電の時間も近かったしね、私は家路を急ぐために早道をしようと思って狭い路地に入ったんだ。
思えばそれが、最大の失敗。
背後からガツンとやられてね、気がつけば雪の上に転がっていた。
頭を抑えて見上げれば、そこにいたのはコスプレ喫茶で私をいつも変な目で見ていた人。
格闘技の経験者って言ったって、いざというときにはまったく役に立たないものだね。
自分よりずっと身体の大きい大人の男の人に押さえつけられたら、抵抗するすべはなかった。
そして、私は…


「この先は言わなくても分かるでしょ」
こなたが言ったことを、信じる事ができなかった。
あの明るく、元気なこなたが? ねぇ、なんで、なんでよりによってこなたなの?
「帰りが遅くなったお父さんが警察に連絡してね、路地裏でボロボロになった私が見つかった。
 私が犯人の顔を覚えていたのもあって、犯人はすぐ捕まった。でもね……」
こなたが視線を落とす。
「犯人は……アイツは無罪になった。何の刑事罰も受けずに、のうのうと今も暮らしている」
「なんで!!どうしてそんな事がありえるのよ!!」
新米弁護士の私にだって分かる。
強姦罪は3年以上20年以下の有期懲役。通常は執行猶予すらつかない。
どうして、何でそんなやつが!!
「アイツにはアリバイがあったんだ。それも完璧な。アイツの父親が警察の高官でさ、
 事件をもみ消すためにいろいろやったみたい。調べようにも圧力がかけられ、容疑者不明で事件は迷宮入り……」
信じられない。たった、そんな事で罪が裁かれないなんて。
弱いものを救うための法律が、まったく何もできないなんて……
こなたは足元に落としていた視線を天井に上げる。
「だから私は検察官になろうって決めた。私みたいな被害者が、これ以上増やされないように。ゲームも漫画もすべて捨てた。
 あんな、無理やり女の子を辱めて喜ぶようなオタクと同列にされたくなかった。あれからほとんど眠らずに勉強した。
 頑張ればやれるもんだね。ロースクールのある大学に何とか引っかかって、そこでも懸命に勉強して、気づけばこの身分」
こなたが自嘲するように両手を広げる。
胸元にはきらりと光るバッジ。旭日と菊の花弁と葉をあしらった、検察官のバッジ。
四方八方に広がる霜と日差しのようにも見えるこのバッジは「秋霜烈日のバッチ」などと呼ばれ、
秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのように厳しく犯人を裁く、検察官としての役割を示している。
「あの日から私は決めたの。女の子に手を出すような変体なオタクを、一人でも牢屋にぶち込んでやるって。
 そのためには、私は何だってやる。悪魔にだって、魂を売り渡してやる」
こなたの笑みにぞっとする。見るものを怯えさせる、冷たい笑み。
こなたは時計に目をやる。「もう時間だね」と呟き、私に背を向ける。
「ねぇ、もう戻れないの? あの頃の私たちに。一緒に笑っていたあの頃に」
こなたに笑って欲しかった。あの自嘲の笑みではなく、冷たい笑みではなく、心からの暖かい笑み。
でも、こなたは、振り返らずに言った。
「ごめんね、かがみが好きだったこなたは、高校三年のときに死んじゃってるから、もう戻れないんだ」






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  • えー。こんな重い話になるの? -- 名無しさん (2011-04-12 22:21:08)
  • うわあ急展開 -- 名無しさん (2009-02-12 22:31:00)




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