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あふ☆いや ~らき☆すたAfter Years~ Last Episode

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「……う~~、寒、寒、寒っ」

クリスマスのデコレーションに飾られた、糟日部の街。
年の暮れの空気は冷たく透き通って、うっすらと雪化粧した街並みがまぶしい。

古びた雑居ビルの3階、階段から数えて4番目。
軽くノックして、扉を開く。
エアコンの暖かい空気が私を包みこんで、こごえ切った身体の緊張(こわばり)がほぐれてく。

「こにちわー……うー、寒いねぇ」
「あ、日向(ひなた)先生。寒い中ご苦労さんです」
「白石くんさー、『泉』か『こなた』でいいよ。元クラスメイトなんだからさ」
「いやいや。仕事の上では作家さんと担当者っすからね、公私でメリハリはつけないと」
やれやれ、白石くんはあいかわらずカタいねぇ。

「ほい、原稿」
リーバイスのベルトループに吊るしたUSBメモリを外して、白石君に手渡す。
いつもは電子メールで送ってるんだけど、今日はこの後大事な用事があるからね。そのついで。

「はいはい、確かにお預かり、っと。……年末進行も一段落したとこなんすから、そんなに急がなくてもいいのに」
「いやー、なんか興が乗っちゃってね~、勢いでサクッと」
いつもこれだけサクサク書けたら、気持ちいいんだろーなー。

「あら?日向先生、今日はちょっとおめかしされてませんか?」
ふわりとなびく銀髪、「星野」と書かれた名札。編集スタッフの子が、私の前に生姜湯の入った湯呑みを置きながら言った。
「うぉ、速攻で気づかれましたか、ゆめみさん」
まあ、着飾るのは私のキャラクターに合ってないから、格別おしゃれというわけでもないんだけど。
それでも、今日はシャツもジーンズも、いつものくたびれたやつじゃないもんね。
淡い色のセーターに、新調したばかりのロングコート。
さらに駄目押しで、普段はつけることなんてないアクセサリー。
お母さんの形見の、真珠のネックレスとアクアマリンのブレスレット。

……そう、今日はこの後、久しぶりに大事な人と逢うんだから。


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あふ☆いや ~らき☆すたAfter Years~
      Last Episode
   変わるもの変わらないもの
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「……ぱい、泉先輩?」
「ん?……え、あれ?ひよりん?いつの間に来てたの?」
おっと、いけない。ちょっとあっちの世界に旅立ってたみたい。

「さっきから何度も呼んでるのに、気づいてくれないんスから、もう~」
「あは、面目ない」
「何気にオシャレしてるところを見ると……もしや、このあと彼氏とデートっスか?」
「残念ながら。そんなもんいないって」
好奇心に満ちた目で、私を見つめるひよりん。……まさか、マンガのネタにする気だったんじゃないだろーね?

「せっかくのナイスバディなんスから、もうちょっと身なりに気を使えばモテると思うんスけどねえ」
ちら、と私の胸元に視線を写すひよりん。

高校を出たあたりから、私の背は急に伸びた。今では人並みの身長に、みゆきさんにも負けない胸とお尻。
身長には心当たりはないけど、胸の方は……ないでもない。
好きな人の事を思いながら揉むと大きくなる、っていうけれど……

「……や、やっぱり男っスか!?(ドキドキ)」
「……いや、期待されても何も出ないから」


 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―


「うわーヤバイヤバイ、打ち合わせ引っ張っちゃったよ」

年末の雑踏をかき分けながら小走り。二重にかけたブレスレットが、ちゃりちゃりとリズミカルな音を立てる。
着込んだ服の中に、汗がじっとりと滲む。これだから冬場の運動って嫌だよね。
……でも、今はそんなこと気にしてる場合じゃないんだよねー、これが。

ひよりんと来月分の原作の打ち合わせをしてて、気がついたら六時の十分前。
時間にはうるさいあの子のことだから、もう待ってるはず。急がなきゃ。

……いや、電話すればいいんだろうけど、久しぶりに会うのに遅刻じゃ、あまりにもカッコつかないじゃん?


つい半年前にできたばかりの、新しい駅前ロータリー。
車の流れも変わって、まだ慣れない車が立ち往生してる。

鈍い銅色に輝く、建ったばかりのオブジェの元へ駆け寄る。
何年かすれば、いい緑色になって風景に溶け込むんだろうけど、今はまだ"新入り"の待ち合わせスポット。

白い息を、リズミカルに、吐き出して、呼吸を、整える。

第四世代の最新型に機種変更したばかりの、真新しいケータイを取り出す。
サブディスプレイに浮き上がるホログラムの数字は……「18:03」。

きょろきょろ。辺りを見渡す。
懐かしいあのツインテールは……どこにも見当たらない。

浮き上がる虹色の数字が、「18:10」に変わった。

……おっかしいな、何かあったのかな?
……でも、今電車に乗ってるところだったら、ケータイ鳴らすのはよくないかな。
……だけど、こうしてても……うーーん。

ケータイを開く。上下に並んだ二枚のスクリーン、下の画面の真ん中にある『アドレス帳』のアイコンを指でタップ。
アイコンがマイクの形に変わったのを確認して、小さな声で「かがみ」と囁く。
これでクイックダイヤル発動。最近のケータイは便利なもんだね。

コール音を聞いている私の真横で、長身の女性が懐からケータイを取り出した。
板についた紺色のスーツに、桃色のアスコットタイ。シックな色合いの高めのヒール。
ぼんのくぼのところで左右に分けて、飾りゴムでまとめた、腰まである綺麗な長髪。
角度が悪くて表情までは見えないけど、なんというか、大人の魅力を醸し出すオーラがですね……

……あ、電話繋がった。

「もしもし、かがみ?」
「『あ、こなた?あんた一体どこで待って……』」

ケータイのスピーカーと、私の隣。
懐かしい声が、ステレオで聞こえた。


 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―


「……いやあ、びっくりしたよ。まさか、かがみがこんなに綺麗になっちゃってるなんてさ」
「私だってビックリしたわよ。あんた、いつの間にそんなスタイル良くなったの?」

久しぶりに二人で歩く、駅前通り。
糟日部の駅は、再開発の真っ最中。見慣れた三角屋根もホームも白い防音シートに囲まれて、立派な駅ビルに生まれ変わるのを待ってる。

「この辺りも変わったわね」
「もう七年だもんね……そういえば知ってる?陵桜の丸校舎、建て替えで来年取り壊しだって」
「へぇ、そうなんだ。……いろいろ、変わってっちゃうのね」

古いものが壊されて、新しいものが生まれていく。
時の流れに押し流されて、思い出の場所が消えていく。
……いろんなものが、変わっていく。


……私と、かがみは?


「そう言えばかがみ、いつまで埼玉(こっち)にいられるの?」
「ん、とりあえず一週間。そのあといっぺん戻るけど、卒業したらいったん実家に戻ろうかなって」
「そっかぁ……そしたら、また一緒に遊びに行けるね」
「司法試験は五年で三回勝負だから、受かるまではなかなか時間も取れないかもね。せっかく大学院出たのにまた予備試験食らうのも嫌だし」
「ふぅん……大変だね」


……あれ?


「…………」
「…………」

沈黙。……話が続かない。
久しぶりの再会。言いたいことは、いろいろあったはずなのに。


友達の噂。テレビの話。ちょっとした体験。
本当に他愛ないことで笑いあえた、あの頃。

七年という歳月。
かがみが法科大学院に進学して、あまり連絡が取れなくなって、三年。

……遠く離れて過ごした年月は、二人の間の接点まで、奪ってしまったのかな……


「……あ」
かがみが、ふと足を止めた。
「?どしたの?」
「ごめん、大事なこと忘れてたわ。……ちょっと寄り道していい?」


 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―


「大きな本屋に行きたい」というかがみを案内して、最近できたばかりの書店に入る。
よくまぁこれだけあるもんだ、と言いたくなるほど、たくさんの書架が並んだ広い店内。
私の書いたラノベも、この沢山の本の中にあるんだよね。

かがみが向かったのは、専門書のコーナー。「法学書」の棚。
私の知らない、法律書専門の出版社名が並んでる。
飾り気のない、小難しい漢字の背表紙は、活字までもが堅苦しくて……

『人生の一節まだ 卒業したくない僕と
他愛無い夢なんか とっくに切り捨てた君』

店内を流れるBGMは、ブレッド&バターの『あの頃のまま』。
切ない歌詞が、心に刺さる。


……かがみも……やっぱり、変わっちゃったの?


「……って、違う違う!」
かぶりを振って、かがみ。
「え?」
「今日はこっちに用があったんじゃないんだって。習い性って嫌よねー」
「そ、そうなんだ……」

「今日はこっち」
そう言いながら、かがみが向かった先は、

法学書のコーナーから、通路を三本隔てた一角。
私の見慣れた場所。コミックやアニメ雑誌の並んだ場所。
その一角にある、ライトノベルのコーナーだった。

膝ぐらいの高さから、平積みされた新刊たち。
かがみが手を伸ばした、その先にあったのは……

『ラベンダー・シャドウ4 ~機械仕掛けの異邦人(エトランゼ)~』。

「あんたの新刊、昨日発売だったのよね。……ここしばらく論文の追い込みだったから、本屋にも寄るヒマなかったのよね~、参るわよ、ホント」
「……かがみ……読んでてくれたんだ……」
「当ったり前でしょ。あんたの作品(ほん)は全部初版で三冊買いよ」

一番上の見本を飛ばして、三冊まとめて手に取る。

「一時はホント忙しくて、ラノベからも遠ざかってたんだけどね、」

かがみの表情が、柔らかく崩れる。
あの頃の面影が、よみがえってくる。

「あんたの『Lucky☆Star』読んだら、見事に戻ってきちゃったわよ」

照れくさそうに笑って、

「勉強って、がっつりやってもダメなのよねー、時々息抜きもしないと」

髪の毛の先を、くるくると弄んで、

「ゼミの仲間にあんたの本を『布教』してたら、なんか一大派閥できちゃったわ。孝行なファンに感謝しなさいよ♪」

私の肩を、ぽん、と叩く。


「……かがみ……」


変わっていくものの中に、変わらないもの。
どんなに変わっても、変わらないもの。

何もかもが変わってしまったんじゃなくて。
変わってしまった、と思い込んでいたのは……


「ところで、さ」
かがみの声のトーンが、ちょっと低くなった。

「……え、何!?」
「この主人公って、私がモデルでしょ」
「うぐっ!」

名前は『ホリィ=ミラー』。濃茶色のリボンで括った菫色のツインテールが特徴の、釣り目の少女。
ちょっとつっけんどんな性格だけど、根は寂しがり屋の女の子。
……だけど、その正体はある特務機関の凄腕エージェント。
大切にしているものを壊されると、深層心理に組み込まれたトリガーが発動して……

「……凶暴化する、ってのはどーいうことかな、ん?」
「あ、あははははは、そ、それは小説として面白くするためでぇ~、決してモデルがそーとゆーわけでは、ぐぇっ」


 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―


自動ドアを一枚隔てた外は、底冷えの街。
だけど、もう寒さなんて感じない。

クリスマスを前にした通りは華やかで、木々に掛けられた電飾が煌いてる。
そこかしこに輝く、ひと時限りのLucky Star。

「……さ、ひさびさに帰って来たんだし、つかさのお店で飲もー!」
大きく伸びをして、かがみ。
「そだね、パーッといこう!」
私も伸びをして、大声で。

周りの通行人が振り向いたけど、かまうもんか。
街はお祭り気分。二人の心も、お祭り気分。

新しい駅前ロータリーを、何台もの車が滞ることなくスムーズに流れていく。


「……お、金星みっけ!」
「へぇ、よく金星だってわかったわね」
「前の短編が天体絡みだったから、いろいろ調べたんだよぅ。この時間ならあそこの星は金星。間違いないよ?」
「へー、あんたも勉強することあるんだ~」
「うぉ、なんて失礼なッ」

口ではそう言いながら、笑顔。
私も、かがみも。


街には、ひと時限りのLucky Star。
あと二日もすれば取り払われて、ただの街に戻る、かりそめの星々。


―でも。


「ほら、早く行こ!風邪でも引いたらバカみたいじゃない」
「そだね~……ふぇ、はーっくしょんっ!」
「またゴーカイにしたなァ」


―空には、いつまでも変わらない星空。
街の灯りに呑み込まれそうになりながら、それでも輝きを失わない……


……永遠に変わらない、Lucky Star。



― Fin. ―


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  • こう言う後日談?的な話は大好きです
    名作との出会いをありがとうございました -- FOAF (2012-08-16 15:23:27)
  • 遅れてきた成長期! -- 名無しさん (2011-04-13 01:39:49)
  • こっちの保管庫はエロいだけと勝手に思ってた(汗
    色々読んでみて大後悔です。


    そのなかでも、自分は一番この作品が好きです。
    素晴らしい作品でした!


    作者様GJです!! -- 名無しさん (2010-05-26 12:36:05)
  • 一気に読んでしまうくらいよかったです。 -- フガ (2010-01-26 01:26:13)
  • いいお話でした。
    -- 名無しさん (2009-11-15 21:49:06)



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