夜。かがみは自室で机に向かっていた。一日中蒸し暑かった夏は終わり、涼しい季節になったので勉強もはかどりやすい。
十時を過ぎた頃、
「……ちょっと小腹空いてきたな」
時計を見ながら呟いた。何か夜食をつまもうかと思ったが、すぐにその考えを引っ込める。
(秋はただでさえ食べ過ぎがちだし……体重計で悲鳴を上げるような事態は避けなければ……)
空いた小腹は気合いでカバーすることにして、問題集の続きに取り掛かる。
と、不意に部屋のドアがノックされた。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「つかさ?」
普段はもう寝ている時間なのにどうしたのだろうと、かがみは少し訝しげに思った。
「あのね、お夜食作ったんだけど、良かったら一緒にどうかな……?」
部屋に顔を出したつかさは、遠慮がちに聞いてきた。
一瞬、かがみの顔が石のように強張った。ついさっき夜食は控えようと決心した矢先である。
料理上手なつかさのことだから、さぞかし美味しい夜食だろう。今までも時折、夜の空きっ腹に程よいおやつや軽食を作ってくれた。
だがそのお陰で体重が増えたことも事実である。
かがみにとってつかさの善意と裏の無い微笑みは、肥満という名の堕落へ貶める小悪魔の誘惑だ。
「…………」
コンマ何秒かの間に何十回もの逡巡が繰り返された末、かがみの出した決断は、
「す……少しだけ、食べようかしら。それほどはお腹空いてないから……」
妥協に見せかけた敗北だった。
「それじゃあ、準備するね」
「準備?」
一端引っ込んだつかさは、白いお団子を盛ったお皿と、小さなススキを飾った花瓶をお盆に乗せて入ってきた。
「どうしたのそれ?」
「今夜はお月見だから」
「あ、そっか」
言われてようやく思い出す。今夜は十五夜、中秋の名月だ。
「それじゃあ、ちょっとカーテン空けるね」
つかさは部屋のカーテンを空けて、窓の近くにお盆を置いた。
「電気消してもいい?」
「いいわよ」
折良く雲一つ無い夜空だった。
鮮やかに光る月が、遠くぽっかりと浮かんでいる。
「綺麗だねー……」
「うん……」
しばらく二人して、ぼんやり月を眺めていた。
「……さて、と」
「それじゃあ、お団子食べよっか」
つかさはいそいそと二人分の小皿とお箸を用意した。小皿とは別にきな粉を盛った鉢もある。
「つかさ、一人でこれ用意したの?」
「うん。……ちっちゃい頃はみんな揃ってお月見とかよくしてたけど、最近はこういうのもやらなくなっちゃったね」
つかさはやりたかったのだろう。だから思い切って準備して、かがみを誘ったわけか。
少し照れたような顔をしているつかさが、かがみには何ともいじらしかった。
「……ん。美味しいわねこれ」
お団子を一つ口にしたかがみが呟く。
「本当? ちょっと固かったと思ったんだけど」
「そんなことないわよ。きな粉の甘さも丁度良いし」
また一つ頬張る。せっかくつかさが作ってくれたお月見団子なのだから、もう体重など気にしないことにした。
「お姉ちゃん、あんまりお腹空いてないんじゃなかったの?」
「甘い物とつかさの作ってくれた物は別腹よ」
ほくほく笑顔でお団子を頬張るかがみに、つかさも嬉しそうに微笑む。
月より団子の風情を、十五夜の月が静かに照らしていた。
十時を過ぎた頃、
「……ちょっと小腹空いてきたな」
時計を見ながら呟いた。何か夜食をつまもうかと思ったが、すぐにその考えを引っ込める。
(秋はただでさえ食べ過ぎがちだし……体重計で悲鳴を上げるような事態は避けなければ……)
空いた小腹は気合いでカバーすることにして、問題集の続きに取り掛かる。
と、不意に部屋のドアがノックされた。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「つかさ?」
普段はもう寝ている時間なのにどうしたのだろうと、かがみは少し訝しげに思った。
「あのね、お夜食作ったんだけど、良かったら一緒にどうかな……?」
部屋に顔を出したつかさは、遠慮がちに聞いてきた。
一瞬、かがみの顔が石のように強張った。ついさっき夜食は控えようと決心した矢先である。
料理上手なつかさのことだから、さぞかし美味しい夜食だろう。今までも時折、夜の空きっ腹に程よいおやつや軽食を作ってくれた。
だがそのお陰で体重が増えたことも事実である。
かがみにとってつかさの善意と裏の無い微笑みは、肥満という名の堕落へ貶める小悪魔の誘惑だ。
「…………」
コンマ何秒かの間に何十回もの逡巡が繰り返された末、かがみの出した決断は、
「す……少しだけ、食べようかしら。それほどはお腹空いてないから……」
妥協に見せかけた敗北だった。
「それじゃあ、準備するね」
「準備?」
一端引っ込んだつかさは、白いお団子を盛ったお皿と、小さなススキを飾った花瓶をお盆に乗せて入ってきた。
「どうしたのそれ?」
「今夜はお月見だから」
「あ、そっか」
言われてようやく思い出す。今夜は十五夜、中秋の名月だ。
「それじゃあ、ちょっとカーテン空けるね」
つかさは部屋のカーテンを空けて、窓の近くにお盆を置いた。
「電気消してもいい?」
「いいわよ」
折良く雲一つ無い夜空だった。
鮮やかに光る月が、遠くぽっかりと浮かんでいる。
「綺麗だねー……」
「うん……」
しばらく二人して、ぼんやり月を眺めていた。
「……さて、と」
「それじゃあ、お団子食べよっか」
つかさはいそいそと二人分の小皿とお箸を用意した。小皿とは別にきな粉を盛った鉢もある。
「つかさ、一人でこれ用意したの?」
「うん。……ちっちゃい頃はみんな揃ってお月見とかよくしてたけど、最近はこういうのもやらなくなっちゃったね」
つかさはやりたかったのだろう。だから思い切って準備して、かがみを誘ったわけか。
少し照れたような顔をしているつかさが、かがみには何ともいじらしかった。
「……ん。美味しいわねこれ」
お団子を一つ口にしたかがみが呟く。
「本当? ちょっと固かったと思ったんだけど」
「そんなことないわよ。きな粉の甘さも丁度良いし」
また一つ頬張る。せっかくつかさが作ってくれたお月見団子なのだから、もう体重など気にしないことにした。
「お姉ちゃん、あんまりお腹空いてないんじゃなかったの?」
「甘い物とつかさの作ってくれた物は別腹よ」
ほくほく笑顔でお団子を頬張るかがみに、つかさも嬉しそうに微笑む。
月より団子の風情を、十五夜の月が静かに照らしていた。
後日、かがみの体重はばっちり増えました。
おわり
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- 萌えですね~~♪♪ -- フウリ (2008-04-09 15:50:53)