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ぱら☆すた -Palarrel Star- その1

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 夜のうちに雨雲が通り過ぎて、埃っぽい空気を洗い流していった。

 空気の清々しい、ある休日の朝。私はつかさと一緒に、こなたの家の前に立っていた。
 今日は勉強会ということで、こうして朝からやってきたわけだけど……こなたのやつ、ちゃんと起きてるかしら。
 軽やかなチャイムの音。少し間を置いて、とたとたという足音が近づく。
 細い桟が並ぶ古風な引き戸が引き開けられて……こなたが顔を出した。


――――――――――――――――
 ぱら☆すた - Palarrel Star - 
 その1『いるべき人がいる世界』 
――――――――――――――――


「おーっす、こなた」
「おー、いらっしゃーい、つかさにかがみ」
「ふーん、今日は珍しくちゃんと起きてるわね」
「お母さんに叩き起こされちゃったよ~」
「自分で起きられんのか、あんたは」

 ……まったく、いつまでも親に頼ってて大丈夫なのかしら。

 こなたの部屋に入ると、みゆきがノートを広げてた。
「おはようございます、かがみさん、つかささん」
「おはよ、みゆき。もう来てたんだ。……こなたのやつ、ちゃんと起きてた?」
「はい、ちゃんと起きられてましたよ」
「こなた、あんた今日何時に起きたのよ」
「んー、七時前ぐらいかな。お母さんが出かける時に一緒に起こされたよ」
「先せ……おばさん、出かけちゃったんだ~」

 ちょっと残念そうな、つかさ。
 人見知りなこの子にしては珍しく、泉先生とは変に馬が合うみたい。時々料理を教わったり教えたりする仲みたいだしね。

「んー、学校行ってるよ」
「休日なのに?」
「生徒と違って、教師は忙しいものなのだよ、かがみ」

 人差し指を立てて、得意げに胸を張る。
 ……てか、なんでそこであんたが偉そうなんだ。

「そういえば、セバスチャンが昨日、美術で赤点引いたー、って嘆いてたね」
「そーそー。それで、今日は補習の日なんだってさ」
「まったく……芸能活動に凝りすぎだってのよね、あいつ。学生の本分ってものを忘れてるんじゃないかしら」

 教師って大変なのね……泉先生に、ちょっと同情。

 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―

「……ねえこなちゃん、ここわかんないんだけど……」
「あーそこはね、『ぶれている』は『軸が』にかかってるわけだから……」
「あ、そっかー」

 古文をさっさと終わらせて、苦手な理数系を前に頭を抱えていたこなただけど、国語となると、俄然生き生きとしてる。

「あんた、国語だけは得意よね。やっぱ血筋かしら?」
「ふっふっふ、直木川賞受賞作家を擁する文学一家を舐めてはいかんのだよ」

 ……得意げだな、こいつ。

「おばさんが厳しいんだっけ?」
「まあね~。成績低かったらいろいろ制約されちゃうし」

 ……あ、凹んだ。分かりやすいわね。

「そうなんですか?」

 数式を解く手を止めて、みゆき。

「1科目赤点だとネット接続止められるし、2科目だとPCの電源根元から切られちゃうしね」
「ふーん。あんたの場合、1科目赤点でもダメージ大きそうね」
「まあそんなわけで、頑張らざるを得ないわけだよ~。トホホ」

 何をどうやったらこんな口ができるのか、実に見事な正三角形。

「でも、なんで1科目赤点の時は制約緩いのかしらね?」
「ちっとも緩くないよ~……たぶん、自分にも後ろ暗いところがあるからじゃないかな」
「後ろ暗いところ?何それ」
「お母さん、数学苦手だし」
「ああ、なるほど。それであんたも、数学だけはいつも赤点ギリギリなわけね」
「うぐっ……お母さんの血筋だからしょうがないじゃん」

 血筋のせいにして逃げるのも、どうかと思うけどね。

「でも、お姉ちゃんもゆきちゃんも、数学得意だからよかったよね~。わからなかったらお姉ちゃんに聞けるもん」

 ……ちょっと待ちなさいよ、つかさ。私は頼られるのが前提か?


 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―


「そういえば、こないださー」

 ようやく、苦手な数学と向き合う気になった……かと思ったら、こなたはいきなり脱線した。

「あんたは……真面目にやんなさいよ」
「なになに? どしたの、こなちゃん?」

 つかさが、チャンスとばかりに話題に食いつく。

「ほら、テスト前の土曜日。軟禁食らっちゃって、本屋行けなかったんだよね」
「軟禁されないと勉強しないってのもどうなのよ……あんたも受験生でしょうに」
「だって、今度の新刊は何が何でも発売日にゲットしたかったし」

 いや、だからあんた受験生だろ。

「ネット通販とか使えばいいじゃないの」
「お母さんが受け取ったら、そのままテスト終了まで取り上げられちゃうし」
「あー、まあ、そりゃそうかもね……って、せめてテスト終了までぐらい自重しろよ」
「だからさ、変装して出かけようとしたんだよね」

 おい、受験生。

「変装、ですか?」
「うん。お母さんが出かけてる時に、お母さんの服借りて、ホクロ塗りつぶしてさ」

 受験……

「あんたって子は、ホントに……」
「でも、お父さんにすぐバレた。やっぱ、雰囲気でわかるのかな?」
「あんたね……出かけてるはずのおばさんがもう一度出かけようとしたら、わからないほうがおかしいわよ」

 雰囲気以前の問題だと思う。


 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―


 二科目ほど片付けたところで、みゆきと二人で小休止。
 すっかり高くなった秋空の中、一組のトンボがランデブー。
 こなたは答え合わせ中。つかさは……あと三ページってところかしら。

「……しっかし、あのしっかりしたおばさんがいて、なんであんたはこうもオタクになっちゃったのかしらね」
「お父さんの英才教育の賜物だよ」

 問題集から顔を上げて、こなたが得意げに笑う。
 いや、それ英才教育じゃないから。

「小中学と、オタクな友達にも恵まれたしね~」

 ……それはなんだろう、『恵まれた』と言っていいのか?

「むしろ、最近お母さんのほうがねー」
「え?」
「時々、勝手に私の漫画借りて読んでるみたい」
「朱に交われば……ってやつね。おじさんがあれだからねえ……」
「で、そのお父さんなんだけどさ」
「ふんふん」

 今をときめく流行作家・『宗 次郎』先生の私生活。
 一ファンとしてはやっぱり気になるわけで、つい身を乗り出してしまう。
 ……聞くところによると、かーなーりエキセントリックなんだけどね。

「最近、お母さんとペアルックさせたがって困るんだよね~。こないだも紫のワンピース持ってきてさ」
「……ちょっと待て、それは何かのネタなのか?」

 ……ああ、宗 次郎先生。
 お願いですから、ファンの幻想(ゆめ)を打ち砕かないでください……(涙)。


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つかさがようやく問題集を解き終えたところで、チャイムが鳴った。

「泉先輩、こんちわーッス」
「あれ、ひよりんどったの? 今日ゆーちゃん出かけてるよ」
「いやー、泉先生に急ぎで渡す原稿があったもんで……」
「そういえば、先せ……おばさんって、アニ研の顧問だったっけ?」

 学校では『泉先生』、プライベートでは『こなちゃん家のおばさん』。
 つかさなりのこだわりらしいんだけど、学校で『おばさん』とか口走らないうちに、やめたほうがいいと思う。

「桜庭先生があまりにも放任主義すぎるから、代わりに顔出してるだけみたいだよ」
「ああ、そういうことね。まったく……」
「担任と副担任だもんね、C組の」
「それはあんまり関係ないんじゃないかしら」
「でも、担任と副担任が二人揃って背がちっちゃいって、なんか萌えるよね」
「だから、何でも萌えに結びつけるなっての」

「えーと……泉先輩?」

 半ば置いてけぼりを食らった田村さんが、苦笑いしながら話に割り込んだ。

「ああ、ごめんごめん。なんか放置しちゃった」
「で、その泉先生は?」
「学校行ってるよー」
「げ。無駄足っスか」

 相変わらず報われないわね、田村さん。

 ―x― ―x― ―x― ―x― ―x― ―x―

 田村さんが泉家を辞して、学校に向かってから数分後。その人は帰ってきた。
 こなたとそう変わらない身長と、長い髪。こなたと似ているけれども違う、優しげな瞳。

 陵桜学園高等部・3年C組とD組の副担任にして美術教師。
 泉 かなた先生。……こなたの、お母さん。

「ただいま、こなた」
「あーお母さん、おかえり~」
「おじゃましてます、おばさん」

 やけに嬉しそうなつかさ。姉としては嬉しくもあり、ねたましくもあり。

「あら、つかささんにかがみさん、みゆきさんもいらっしゃい。……こなた、ちゃんと真面目に勉強してた?」
「ええ、それはもう」

 みゆきが持ち上げて、

「よく脱線してましたけどね」

 私が落とす。

「か、かがみぃ~~……」

 こなたが嘆いて、

「え、えへへ……」

 つかさが、身につまされて照れ笑い。

「もう、しょうがないわね……あとで冷たいトマト持っていってあげるから、もうひと頑張り。ね」
「こなちゃん、トマトって……あのトマト?」
「そだよ~。しっかり熟してから収穫したトマトって甘いんだよ、おやつ代わりになるんだよ」
「そういえば、お姉ちゃんから聞いたことあるよ。すっごく楽しみ~♪」

 先生の作った、家庭菜園のトマトの美味しさは折り紙つき。私が保証する。
 ……でも、うれしそうな二人に水を差すのもなんだけど、やることはやらないとね。

「ほら二人とも、残りニ科目、ちゃちゃっと片付けるわよ」
「んぁーい……って、あ! お母さん!!」

 思い出したように、こなたが叫んだ。

「どうしたの、こなた?」
「さっき、ひよりん……田村さんと会わなかった?」
「ううん、会ってないけど? お母さん、車で帰ってきたし……」

 思案顔の泉先生。……先生の運転する車って、外からドライバーが見えなくて怖いんですけど。

「……あちゃー、行き違いかぁ……今日はとことんついてないね、ひよりんは」
「あ~ららららら、だぁ~めだよミッキ~」

 こなたとつかさが顔を見合わせ、お気の毒に、と苦笑い。
 何も知らない泉先生は、頭の上にハテナマークを浮かべたまんま、笑ってるだけだった。


― おわり ― 













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  • 実はアニ研の顧問手伝いがひそかに(趣味的な意味で)愉しみになっていて、それを指摘されると激しく動揺するとかキボーン! -- 名無しさん (2009-01-17 09:43:05)
  • いや、そこはまあ私立ですから…… 普通担当学年は違う気もするけど、こなたは美術を選択してないので無問題、ってことで。 -- 妄想屋(仮名) (2009-01-17 09:21:17)
  • 親は子供と同じ学校いけたっけ?
    -- 名無しさん (2007-12-03 14:22:15)
  • 続きが書かれると嬉しいです。 -- 名無しさん (2007-12-03 14:00:48)

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