懐かしい客人
その者はみた感じ老人のようではあるがしっかりした足取りで山を登ってくる。
「じいさんこんななにもない山になんの用だ?」
騎馬を率いた若者がその老人に声をかける。
「うーむ。ちと深山のものに用があってのぅ。」
「しかしお主目上の者に対しての礼儀がなっておらんようじゃな。」
というなりその若者の鐙を持っている杖でたたき上げる。
鐙にかけた足が空に向かって蹴り上げられその若者は馬から叩き落された。
「このくそじじぃ!」
影心は叫んだ。
「影心様、お怪我は?」
周りの騎馬武者が駆け寄ってくる。
「ほー。影心か。里までつれてけ。」
「なにをー。」
影心は反抗しようとしたとき杖で肩を押さえつけられた。
しょせん年寄りの力で押さえつけられてるだけである。影心は払いのけようと右手で杖をはたこうとした。が・・・
バシッ
その右手を払われ、また肩を押さえつけられた。動けないのである。
そこへ雲心の伝令の騎馬が駆け寄ってくる。
「影心様、そのご老人を館まで案内せよとの仰せでございます。」
「なに?」
影心は歯がゆい気持ちをかみ締めながらも老人を自分の馬の背にのせ館まで連れて行った。
「じいさんなにものだい?」
「ほっほっ」
老人は笑うだけである。
館の前では風心と楓が待っていた。
「雲流様お久しぶりでございますわ。」
楓が懐かしそうに言う。
姉上の知り合いか・・・。影心はだれか気になって仕方がない様子である。
「もしかして楓か?」
「そうでござりまするわ。」
「そちらは風心じゃな。大きくなりおったな。」
「お久しぶりでございます。報告はできませなんだが楓とは夫婦の契りを結びました。」
「なんと。それはめでたいの。孫の顔を見るのが楽しみじゃわい。」
孫!!このじいさん兄者か姉上のじいさん?でも姉上は様をつけて呼んでおったな。
「えっ?もしかして俺のじいさん?」
「ほっほっ」
「影心!!先代の深山の長、深草雲流であられる。まあわしらのじいさんだ。お前は赤子の頃にしか会うておらぬからの。覚えてはないじゃろな。」
「じいさんか・・。」
影心はびっくりして声もでないようである。
楓が案内しながら館に入っていく。
「父上お久しぶりでございます。」
「雲心久しぶりじゃの。ここの里は変わっておらぬの。あちこちで深山の一族の戦働きみせてもろうとるぞ。なかなかやるようになったわい。」
「父上の頃とは違いあちこちから要請がありましての。」
「そうか。まあ里もよくなってきとるようでなによりじゃ。」
その間に一族の者にも伝えられ一人一人と集まってくる。
「雲心じい様お久しぶりでございます。」
「おー。お主は空心じゃな。やはりいい体になりおった。どうじゃ武芸のほうは?」
「はっ。じい様のお教えを守り精進しております。」
「うむ。また後で見せてもらうとするかの。ほっほっ」
いつもだれにも礼儀をほとんど見せない空心であるのだがいつもとは違う兄の一面を見てびっくりしている影心であった。
その日は酒宴が行われ深山の里はお祭り騒ぎであった。
普段、館に顔を見せることもない村人達もひっきりなしに雲流に会いに来る。
翌日、空心が稽古をつけてもらうというので館の前の広場には兵達も集まり大賑わいであった。空心は稽古用の棒を持ち現れた。
「お主はそれで戦場を戦うのか?」
「いえこれは稽古用でありまして。」
「よい。戦場で使ってるものでかかってこい。」
「しかし・・」
「よい。戦場のものでないと力がわからぬ。」
「はっ。」
空心の戦場の獲物は真っ赤な朱槍である。重さも長さもどの槍をもこえている。じいさんやばいな。影心は内心そう思いながら見つめていた。
空心は雲流に向かい槍を構える。
槍をつく。重さを感じさせない鋭い突きである。
ひらりと柳の枝のようにかわす。
空心は突いた槍をなぎ払う。しかし槍がピタッと止まるのである。
雲流の杖が槍を押さえている。空心は必死の形相で押そうとする。しかし動かない。あれだ。影心は思った。あの時やられたやつだ。その時ふっと雲流の杖の力が緩んだのか槍が振り抜かれる。
「参りました。」
空心の額には杖の先が押し当てられている。
「戦場なら死んでおったの。お主は力が強いがわしのような老人でも止めることはできる。力とは使いようじゃよ。兵を扱うときもそうである。よく覚えとくがいい。」
「ありがとうございました。」
あの戦場では敵がいるのかと思うほどの戦働きをする空心が手も足もでないのである。周りに集まった兵達もびっくりして誰一人声を出すものがいない。しかし、
「次は俺だ。」
周りの兵達の間から影心が勇ましく出てきた。
「今はやめておこう。お主にはいいものを用意しておる。」
「じい様稽古つけてくれよ。」
「まあまてもう少しすれば嫌ってほど叩きのめしてやるわい。」
わけがわからず肩透かしをくらった影心を背に館にはいっていく雲流であった。
その夜、
「では、父上御たの申します。」
「うむ。まかせとけい。」
館で雲流と雲心がなにやら話し込んでいたようだ。
翌日、父に呼ばれ影心は父の元に向かった。
「影心、父上がおぬしを鍛えてくれるという。父上と一緒に全国を回って来い。」
「は?いきなりどういうことじゃ父上。」
「お主は力も兵を指揮することもなかなかのものをもっておる。しかしそれ以上になるにはただ戦場にでればよいわけではない。それを父上から学ぶのじゃ。」
影心は少し嫌ではあったが空心を軽くあしらうあのじい様であるし、あがらっても無駄だろうなと思い始めていた。
「よしっ。いっちょ旅にでもでるか。」
「うむ。父上の言うことをよく聞くのじゃぞ。今日には出るそうじゃからすぐさま準備せよ。」
「今日?早すぎねえか。」
「つべこべいうでない。いけい。」
しぶしぶ影心は少しの手荷物と父からもらった旅費を持ち手に雲流と共に村から旅立つのであった。
最終更新:2008年04月09日 11:43