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捩れる

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捩れる 04/07/09

  螺旋状に巻かれている電話の本体と受話器を繋ぐ電線が、挨拶もなく無論断りもなく捩れているのは何故か。

  携帯電話が主流となり、コードレスフォンが当然のように普及しているからこそ、古き電話の姿を、その記憶を残している間にせっせと綴るべきなのだ。

  触れる機会があって、何故これは捻れるのだろうかと疑問に思い、色々試しているうちに何となく判った。途中で受話器を持ち替えるから捻れるのだ。電話機本体は、右利きが大勢であるという信念により右手でダイアルなり釦なりを突付きまわすことを前提として受話器が左側に位置している。受話器に繋がる電線もよく見ると左側から出ている。だから仮に左手で受話器を取り上げたとしよう。しかし途中で右手に持ち替える際、相手の声を聞き漏らすまいとして聞こえる穴を自分の顔に向けたまま、こちらが話しながらであれば声を遠くしたくないから尚更、つまり持ち替える一瞬は耳に当てる穴を見ていて次の瞬間目的の耳へ最短距離で運ばれる。これはつまり半回転半したことになるわけで、やがて受話器を本体に戻す時にそのまま自然に置くと更に四分半の回転が加えられ、都合一回転することになり、捻れる。この蓄積が勝手に捩れてゆく原因だ。

  電話の受話器を繋いでいる線は時計回りに下降していて、同じ方向に捻れる場合は団子状に絡まって伸びなくなり、電線は序々に短くなってくる。反時計回りに捻れると、一部で直線が出現する。更には直線と直線の間で一時的に反対回りの螺旋になっていることもある。

  幾世代も前の電話ボックスでもやはり螺旋が更に捩れていたのであり、それをくるくる回してあるべき姿に戻しても、ところどころがだらしなく伸び切って侘しさを興させる。やがて「捻ってはならん」という思想のもと、編まれた布地を外皮に太く強張った電線のものが登場した。あれは確かに捩れはしないのだが受話器と電線を無意識に弄ぶ際、どうしても折り曲げてみたくなるのであって、皆が皆そう考えるものだから結果としてその電線は捻れたものより悲惨な姿になる。

  会話を交わしつつ螺旋電線を指に巻き付けては解き、また巻き付けたまま不意の動作で受話器を取り落としそうになったり、螺旋の中空に鉛筆を通してみたり、電線も電話の内容も近道などしてくれないのに螺旋同士を噛み合わせて無意味な円を作ってみたり、果ては螺旋を一旦ほどいて反対方向に巻こうとしてみたり、あれはやはり単なる電線ではないみたいだ。螺旋の如く遠回しに想いを伝えようとした、そのもどかしさを懐かしく思う。
 
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