バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

英雄の唄 ー序章 introductionー

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kyogokurowa

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「なあ、お前の指ってこれのことか?」
「それよ。結構わかりやすいとこに落ちてたわね...全く、どこかの誰かさんのお陰で随分手間取ったわ」
「うぅ...面目ないです」

王とシドーとの交戦現場に着き、しばしの捜索に当たったカナメ・霊夢・早苗の三人は、さほど時間をかけることなく、切り落とされた霊夢の指を見つけることが出来た。

「ほんと、あの時だれかさんが血迷ってロケット頭突きなんてしてこなければねぇ」
「だっ、だから何度も謝ってるじゃないですかぁ!」
「その辺にしといてやれよ...もう半泣きじゃねえか」

しつこく弄る霊夢だが、カナメの目からしても彼女が本気で怒っているわけではないのは容易に見て取れる。
ここまで気丈にふるまってきた彼女であるが、不安なのは変わりないのだろう。

放送まで既に一時間を切っている。
その中で齎されるであろうものは多い。
禁止エリアの追加、知己の生死、その他諸々...。
どれをとっても自分の命にも関わってくることだし、次の放送に己の名が並ばないとは言い切れない。

恐らくは日常の空気感に寄せることで不安を誤魔化したいのだろう。
それは早苗も霊夢自身も自覚している。
だからカナメがやんわりと止めれば霊夢もそれを受け入れるし、早苗も半泣きにはなっているものの、それで必要以上に落ち込んだりはしていない。

「とりあえず指は見つけたことだし、一旦は学校に戻るってことでいいよな?」
「すみません、お願いします」

当初の『カナメと霊夢は病院へ向かい、早苗は学校に残り月彦と麗奈を待つ』という方針に沿い、早苗の学校到着までの保護をしつつ三人は来た道を引き返す。

「まあ、出発して数十分そこらで変化があるとは思えないけど...あらら、そうでもないみたいね」

学校へとたどり着いた彼らは、五人の男女と黒い馬車の姿を確認する。

「五人か...それにあの様子だと乗った側じゃなさそうね」
「じゃあ私がお話してきますね。霊夢さんだとちょっと怖がらせちゃいそうですし」
「そうね。私の顔を見れば泣く子も黙る...ってコラ、誰が竜馬みたいな悪人面よ失礼しちゃうわね」
「そこまで言ってませんよ?むしろ霊夢さんこそ竜馬さんに対して失礼では!?」

などと緩いコントを繰り広げている二人を他所に、カナメは目を見開き駆けていく。

「ちょ、カナメ!?」

先走る彼を止めようと霊夢が腕を伸ばすも時すでに遅し。

「動くな金髪野郎!」

機関銃を構えながらのカナメの警告に一同が振り返る。
その銃身が向く先―――金髪の青年、ジオルド・スティアートは感情の籠らない面持ちでカナメを見つめていた。


「は...え?麗奈が、しんだ?」

突如、知己から齎された情報に久美子は目を白黒とさせる。
情報の処理が追い付かない。
みぞれが突然馬車に乗ってやってきて。
かと思えばいきなり麗奈が死んだなんて聞かされて。
悲しいだとか怒りだとか以前に、ぽかんと思考が白く染まってしまった。
遅れてジワジワとその事実とやらを否定したい気持ちが湧いてくる。
冗談だと思いたい。
あすか先輩がたまにやる質の悪いつまらないジョークだと。
でも、流石にあの人でもそんなことはやらなくて。...あすか先輩だって、死んじゃってて。
そもそもみぞれ先輩は場を和ませようとする冗談なんて言わない性格で。

乱れきった思考と感情で情報を整理していたその時だ。


「動くな金髪野郎!」

青年の叫びに意識は現実へと引き戻される。
振りむけば、只ならぬ殺気を目に宿し、銃口を向ける青年がいた。

殺気。
そう。それを持った人たちに、あすか先輩と希美先輩、麗奈も殺された。

「ひっ」

情報が結びついた途端に久美子は膝が笑い、がくりと尻餅を着いてしまう。
殺される。
あの銃でたくさん撃たれて。
セルティさんみたいに血をたくさん流して死んでしまう。

逃げなきゃ。
そう思っても立てない。身体が震えて力が入らない。
そんな彼女を庇うように弁慶が盾になるように、久美子に背を向け立ちふさがる。

「おいてめえ!女の子がいる中で物騒なモン向けるんじゃねえ!」

弁慶は銃にも一切怯まずカナメへと怒号を飛ばす。
その背に激励を受けたかのように、みぞれもまた力が入りきらないなりにどうにか身体を動かし、久美子を庇うように抱き寄せる。

「死なせない...死なせ、ないんだから」

小さく、震え、しかし確かな意思を以てみぞれはその言葉を口にする。

そんな三人、そしてこちらを警戒し刀を構える志乃の姿にカナメは冷静に判断する。

(やっぱり、そういうことだよなこいつは!)

ジオルドを除く四人は一般人、あるいはソレを護る為の態勢を取っている。
刀の少女はまだ微妙だが、銃口を向けられてなお一般人を護ろうとしている大柄な男はまず殺し合いには乗っていない。

となるとだ。
ジオルドは他の四人を盾に潜伏し殺して回ろうとしているのだ。

(こういう奴らは絶対に殺したくねえ...それこそコイツ―――いや、主催のやつらの思う壺だ)

カナメはジオルドが如何な思いで殺し合いに賛同しているかはわからない。
愉悦などは一切なく、自分が生き残る為に仕方なく、どうしても叶えたい願いがある、というならば王やウィキッド相手のように殊更に憎悪はしない。
だが、犠牲を増やそうというなら容赦はしない。
そう決めてしまったから。迷っている間に無くしてしまうのはもうたくさんだったから。

「俺はその金髪の男に襲われて仲間を一人失った...信用できないかもしれないが、頼む。そいつから離れてくれ」

だからカナメは他の面々と諍いが起きないように警告する。
可能な限り犠牲を絞るために。

「ちょっと、あんたいきなり何してんのよ!?」
「霊夢、早苗。あの金髪が水口と組んで魔理沙を襲った奴だ」
「ッ...そう」

その一言で霊夢の目の色が変わり殺気を帯び、早苗の顔が青ざめる。

「...なあ、ジオルドとなんかあったのか?」

カナメだけならばまだしも霊夢と早苗が加わったことで流石に違和感を覚えた弁慶は眉を潜めて問いかける。

(よし、耳を傾けてくれた)
「放送前のことだ。紅魔館って場所で俺とこいつらの友達、霧雨魔理沙を襲い殺したんだ。水口...『ウィキッド』って女と手を組んでな」
「女?てことはまさか!」
「いや、その子じゃない。ウィキッドに関してはもう俺がカタを付けた。恐らくその子はその金髪に騙されて同行してるだけだ」

思わず志乃を見やる弁慶にカナメは即座に否定の解を差し込む。が、その一方でカナメはここまで一切の反応を示さないジオルドを不審に思う。

(なんだあいつ...なんでなにも反論してこねえ)

こちらには敵対視しているのが三人、弁慶も傾きつつありこの調子でいけば残る三人も時間の問題だろう。
そうなればジオルドは一気に逃げ場無しの四面楚歌だ。
なのになにもしない。なにも言わない。
銃を向けられているというのに、対処しようともしない。

(これは...ごまかしが効きそうにありませんね)

志乃はカナメの殺意が不信に変わっていくのを察する。
もしこのままジオルドが射殺されようものならば良いことなど何一つない。

単純に『怪物』たちを相手取るのに戦力が減ってしまうし、無抵抗だったジオルドに違和感を抱き自分にまで謂われなき悪評が纏わりつくのは非常に困る。
なにより武偵として目の前の殺人を許せばアリアに劣ることを証明してしまう。
それは困る。この異常事態を治めアリアを越えたと証明してこそ愛しのあかりちゃんの心を掴めるのだから。

「...事情はわかりました。カナメさん、銃を降ろしてください」

先んじて剣を降ろした志乃は両手を挙げながら銃身とジオルドの間に立ち交渉の場に立つ。

「わかったんならどいてくれ...いや、ちょっと待て。なんで俺の名前を知ってる?俺はまだ名乗ってないはずだが」
「ジオルドさんから聞いたんです。この人がこの会場で何を思い、どう動いていたかを。それとあなたの言葉を照らし合わせれば間違いはないでしょう」
「ならどいてくれるな」
「いいえどきません。私は武偵ですから」
「...その武偵のことはよくわからんが、それが俺の邪魔をすることと何の関係がある」

カナメの反応に志乃は目を丸くする。
武偵は歴史がさほど深くないとはいえ、いまや警察にも劣らない世界を股に掛けるレベルの権力を有している。
テレビや新聞を見ていなくても現代社会に生きる者であれば耳にすらしないのは不可能。
その武偵の名が通じない。志乃は背後を振り返り弁慶達を見やるが、やはりカナメと同じように困惑している。
ではカナメ達の後ろの少女たちはというとやはり同じ。

(...これは猶更観念しないといけませんね)

志乃は小さくため息を吐き、罪歌を握り掲げる。

「武偵とは、武力を行使し事件を解決するなんでも屋...武装探偵の略称です。私は武偵として人の犠牲なく殺し合いを止める為、殺し合いに乗るジオルドさんに使わせていただきました。
この斬りつけた者を支配する妖刀・罪歌を」
「...つまりは洗脳したってことか?」
「まあそういうことになりますね。ですがこれは私欲ではなく、やむを得ない緊急措置ですので誤解なきよう」

志乃の言葉に皆の間に困惑の空気が漂い始める。

(まあ...そうなりますよね)

如何に殺し合いを止める為とはいえ、人の自意識を奪うのだ。生理的嫌悪感を抱かれるのも無理はない。
だから志乃は弁慶達にもこの刀の効果を教えなかった。

「...証拠はあるのかしら。ソイツとあんたが口裏合わせてるとか、ソイツが操られているフリをしているとか」

霊夢の追及は尤もだ。口で『これは人を操れるアイテムです』などと言われてもハイソウデスカと信じられるわけがない。

「なら実際に見てもらうのが早いですか...ジオルドさん」
「はい、母さん」

志乃の目配せに従い、ジオルドはようやく動いたかと思えば―――その場で膝を地に着け、両の掌も地につけ。
額を擦り付け土下座の姿勢を取った。

「なっ!?」
「うぇ!?」

唐突な土下座に霊夢と早苗は揃って驚愕の声を上げる。

「いま、私は頭の中で貴方たちに謝罪するよう命じました。こういうことを殿方にさせる趣味はないのですが...まだ疑いが?」
「...ついでに確認させてくれ。魔理沙を殺したのはソイツなのか、それとソイツが殺し合いに乗った理由もだ」
「答えてください、ジオルドさん」
「はい母さん。僕はカタリナと共に生きて帰る為に殺し合いに乗りました。魔理沙さんを殺したのはウィキッドです」
「そうか、あいつが...それを見てあんたはどう思った」
「不快でした。ひどく醜悪に見えました」
「...だ、そうですが」
「......」

カナメはジオルドから目を離さず黙考する。

ジオルドが王や茉莉絵のように人を甚振るのを愉しむ下衆ではないのは理解した。
殺し合いに乗る理由も真っ当だ。全員を助けられそうにないならせめて大切な者だけでも、というありふれた理由だ。
魔理沙の直接的な仇でもない。

だからといって許せることではないし、人を洗脳する志乃に対してもいい気持ちにはならないが...

(何が違う?)

敵を排除し犠牲を減らそうとする自分。
他者を排除し限られたものを救おうとするジオルド。
他者を洗脳することで殺し合いを止めようとする志乃。

過程は違えど誰かを救おうとしていることには変わりはない。

だからもし、このまま犠牲なく殺し合いを止めることができれば誰も何も失わなくて済む。


「...今度こそ最後だ。武偵って言ったか、えっと...」
「佐々木志乃です」
「志乃。あんたは殺し合いを止める為だけにその能力を使うか?」
「いまこの場でジオルドさん以外に行使していないことがなによりの証明かと」
「...そうか」

そしてその理想に最も近づけるのは、敵を殺さず制せる志乃だ。

カナメは背後の霊夢たちを見やる。

「お前たちはどうしたい?」
「...別にいいわよ。あいつを殺したのは水口ってやつらしいし、今は無害だって言うなら」
「私は...犠牲は少ないに越したことはないと思います」
「...わかった」

二人の意思の確認を得て、カナメは銃を下ろす。

(なんとか収まりましたか)

志乃はふぅ、と息を吐き肩の力を抜く。
これでひとまずカナメ達からの信頼を勝ち取った。
これから大勢の化け物たちと戦おうというのだから、余計な諍いでの消耗を避けられたのは幸運と言えよう。

「なあ、これから俺たちは学校に戻るんだが、一旦情報を整理するためにも」

ザザッ
『参加者の皆様方、ご機嫌よう』

カナメの提案を遮るようにノイズが走り、女―――テミスの声が響き渡った。


『それでは、また次もお会いできることを願っております。ご機嫌よう』



放送を聞き終えた一同に沈黙の空気が訪れる。


μの放送が流れ、多くの情報を齎された。

禁止エリアのこと。死者の数。死者の名前...

「......」

早苗は俯きその面持ちを暗くする。

彼女が想い馳せるは、鈴仙・優曇華院・イナバのこと。
決して大の仲良しという訳ではなかった。
かといえば、犬猿の仲というほどでもなかった。
いわば、会えば挨拶を交わすし共に行動するのも苦ではないくらいの顔見知り。

そんなありふれた関係性だ。なのに。

無くなってしまえばこうもぽっかりと孔が空いてしまうのか。

霧雨魔理沙。魂魄妖夢。鈴仙・優曇華院・イナバ。

三人を失ってしまった日常という器はこれほどまでに物悲しいものだったのか。

「...ぐすっ」

思わず涙が零れ落ちる。

彼女たちと最後に話した言葉はなんだったか?最後に向けてくれた表情はどんなのだったか?

なにも思い出せない。

あって当たり前の日常だったから。

ドラマティックなことなどなにもないことまで全部覚えられるほど生き物は優れてはいないから。

「...くたばったのか、晴明のやつ」

ぽかんと口を開き、その大柄な身体に見合わないほどの小さな声で弁慶は呟く。
晴明が死んだ。
弁慶にとって晴明は和尚や同じ門の仲間たちの仇だった。
実際に介錯したのは自分だし、直接そうせざるをえない状況を作ったのは鬼とはいえ、その鬼を派遣したのは晴明に他ならない。
竜馬や隼人のようにあっさりと割り切れる訳ではなく、仇敵の突然の喪失は彼の心にぽかりと孔をあけていた。

「...まさか、彼女が...」

志乃は呼ばれた知己の名に思わず瞳孔が開く。
高千穂麗。
彼女とはあかりを巡る好敵手(ライバル)のようなものであり、あかりの心友の席を奪い合う間柄だった。
本来ならば席が空いて幸運だと喜ぶべきなのだろうが、しかしとてもそういう気持ちにはなれなかった。

彼女とはよく衝突していたが、悪い思い出ばかりではなかった。
剣技での決闘の後は二人の仲を取り持ってくれたあかりの尊さに共に鼻血を流し。
彼女に招かれた豪邸プールではあの手この手で共にあかりの盗撮に勤しみ写真を交換し合い。
ある程度ぶつかった後は共にあかりについて語り合い、共に笑いあった。

推しの一致と言えばそれまでだが、しかしそれでも彼女自身に対しては一定以上の好感度があったし、それは向こうも同じはずだ。
宿敵であり友でもある彼女の喪失は志乃にとっても大きな事態だった。

「......」

ジオルドは何も思わない。否、思えない。
罪歌の力はそれほどに強く、今の彼はただの動く肉袋にすぎない。
だから、出来たのは知った名前を小さく呟くだけ。
マリア、と。



「...は?」

放送を聞き終え霊夢に湧きあがってきた感情は怒りだった。
その死は伝えられるはずだったものだ。
魔理沙を殺した彼女の。
その死を嗤い嬉々としていたという奴の。
水口茉莉絵―――ウィキッド。
その名は連ねられなかった。

「...悪い、うかうかしてられなくなった」

その怒りを代弁するかのように。
カナメは踵を返しその足を進めていく。

「霊夢。俺は先に病院に向かってる。情報を整理できたら追いついてくれ」
「ちょっとカナメ!」
「大丈夫、俺は冷静だ」

足早に去っていくカナメを霊夢も早苗も引き留めることはできなかった。

カナメが先を急ぐ理由。それはウィキッドの始末に他ならない。
霊夢も早苗も彼女に魔理沙を弄び殺されている以上、それを斃そうとするカナメを止めることなどできず。

「あ、あのっ、無理だけはしないでくださいね!」

結局、早苗がそんな激励をかけることしかできないままカナメの背中は遠ざかっていく。

「はぁ...ったく、私だって気持ちの整理なんてついてやしないのに、仕方ないわね。ホラあんたたち、思うところはあるかもしれないけど、燻ってても仕方ないわよ」

パンパンと手を叩き、残る面子の注目を引き受ける。

「まずは学校に戻りましょう。そこでいろいろ情報交換しないと始まらないわ」
そう音頭を取れば、皆、戸惑いながらもそれに従おうとなんとか顔を上げる。

「ぇ...あれ...なんで...?」

そんな中で一人。
鎧塚みぞれはひどく困惑していた。
オスカーも鈴仙も名を呼ばれた。
その事実はひどく胸を痛めるし、しかし現場に居合わせたようなものだから覚悟も決めていた。
けれど。
麗奈は呼ばれなかった。
目の前で頭部を破壊されたはずの彼女が、生きていた。
わけがわからない。

「みぞれ先輩...?」

そんな彼女の様子に久美子は首を傾げざるを得なかった。
震えている。
殺された、と告げた麗奈以外の二人の名が呼ばれたことに悲しみ泣いている様子もなかった。
まるでなにかに怯えている子供のような―――久美子にはそんな風に見えた。

ならなぜこんな風になっているのか。
心当たりはある。
呼ばれた二人と呼ばれなかった麗奈。
自分は麗奈が呼ばれなかったのは嬉しいと思ったけれど、みぞれ先輩にとってはそうじゃなかった。
だから、つい、疑問を抱き、口にしてしまった。



「逃げたんですか?」


「―――――――ッ!!」

久美子のその言葉を聞いた瞬間、みぞれの心臓がバクバクと跳ね上がり呼吸すらも困難にさせる。
違う。逃げてなんてない。見捨ててなんてない。
そう言えれば良かったのに、言えなかった。
みぞれという少女はそういう性格の少女だから。
引っ込み思案で、他者とのコミュニケーションが苦手な少女だから。

「ハッ、ハッ――――ぁっ」

そしてその甚大なストレスと身体的な疲労が重なり、異様なまでに呼吸が荒くなっていく。


「みっ、みぞれ先輩!?」

突如苦しみだしたみぞれを案じ、久美子は慌てて身体に手を添える。

「おいどうした久美子ちゃん!」

異変を察した一同が慌てて駆け寄り、みぞれの容態を看る。

「これは...黄前さん、少し空けてください!」

志乃はみぞれの症状を過呼吸と判断し、久美子を退け、みぞれの背に手を添える。

「みぞれさん、大丈夫です。私たちが着いていますから」

極めて落ち着き払い、優しく声をかけることで相手を安心させる。
武偵高で習った過呼吸の応急的な対処法に従い手当を施す。

「ハーッ、ハーッ」
「大丈夫、大丈夫ですから...」

そんな様子をハラハラと見守る弁慶と早苗。
その傍らで、霊夢は久美子の首根っこを掴み引き寄せていた。

「ねえ、あんたなんか知らない?」
「えっ?」
「えっ、じゃないでしょ。あんたが一番近くにいたんだから何かしらはわかるでしょ?」
「えっと、その...ただ、みぞれ先輩の様子がおかしかったから、ただ『逃げたんですか』って聞いただけで...」
「絶対ソレ原因じゃない!普通そんなこと言わないでしょ!?事情は知らないけど!!」

平手打ちと共にぶつけられた指摘を受け、久美子はようやく気付く。
自分はまた失敗してしまったのだと。

―――久美子って性格悪い。

よく言われるその言葉が頭から離れず、ただ眼前の光景を見下ろすことしかできなかった。


見失った。
シドーの足はこちらの疲労を加味しても早く、入り組む木々や足跡消えるコンクリートに紛れあっという間に姿を見失ってしまった。

「...ビルド。どこに向かったか心当たりはあるか?」

一旦足を止め、隼人の問いかけにビルドは地図を取り出し考えるが、首を横に振る。
ビルドが知っている施設はムーンブルク城くらいなものであり、見失う前まで補足していた時点ではそちらに逃げたのではないことはわかっている。
仮にあえて引き返しムーンブルク城にまで逃げ込んだとしたら、と考えるも、そもそもシドーには単純に速さで引き離されているのだ。
わざわざ策略巡らせこちらを待ち受けるよりもそのまま純粋に足を進めていった方が手っ取り早い。
結局のところ、ロクな当てもなしに探すしかないのだ。

「...ねえ、ビルド、隼人。二手に分かれないかな」

クオンの提案にビルドは顔を上げる。

「二手に別れた方が効率がいいでしょ?戦う訳じゃないんだし、探すだけならそこまで危険でもないと思うかな」
「どうだかな」

反論する隼人に二人は思わず視線を向ける。


「知らない参加者ならまだしも、唯一の知り合いから逃げだした時点でキナ臭い。なにも起こすつもりがないならなぜ逃げ出した?」
「...少なくとも、ビルドと戦うつもりはないんじゃないかな」
「ビルドとは、な。俺にはどうも奴が殺し合いに『乗った』側にしか思えん」
「ちょちょちょ、隼人。そんな直球的に言わなくても!」
「ぼかす必要がどこにある。アリア、クオン、ビルド。俺たちが巻き込まれたのはスポーツじゃねえ。『殺し合い』だ。きっかけひとつで心変わりなんざ腐るほどあり得る」
「それは...そうかもしれないけど」

隼人の言葉は正論である。
この異常事態、極限にまでおかれれば人の精神状態などどう転ぶかわからない。
知り合いだからと言って不審な行動をする者にまで全幅の信頼を置くのは迂闊にすぎるというもの。
だが、正論だけで動ける程ヒトは、人間は器用な生き物ではない。

せっかく見つけられた友を、敵かもしれないという可能性だけで排除に傾けるのはクオンとしては納得できない。
それこそ。
オシュトルという、あれほど懇意にしていた友を護れなかった漢の無様を見ているから猶更だ。

「あちゃ~火花バチバチやりあってんよ...ビルドぉ、どうしようこれ」

意見をぶつけあう二人を交互に見やり、ビルドは考える。
このまま安全を考慮し四人で探すか、効率を重視し二手に別れるか。
これからの方針はビルドに委ねられている。
そんな中、彼が決めた方針は―――

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赤は愛より出でて愛より赤し 投下順 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー

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カウントダウン 神隼人 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
カウントダウン ビルド 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
カウントダウン クオン 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
カウントダウン シドー 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
Monster Hunter 武蔵坊弁慶 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
Monster Hunter 黄前久美子 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
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崩れてゆく、音も立てずに 東風谷早苗 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
崩れてゆく、音も立てずに 博麗霊夢 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
崩れてゆく、音も立てずに カナメ 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー
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