「で、お前らの用件ってのはなんだ」
館に入るなり、垣根はソファに背中を預け傲慢さを表すかのように足を組み座る。
「俺を殺してーだろう第四位(オマエ)がわざわざ招き入れたんだ。つまらねえことじゃねえだろうとは思うが」
「...あぁ、そうね。回りくどいのはナシで単刀直入に言わせてもらう。あたしらと手を組め第二位。このゲームの主催に勝ちたいなら猶更な」
「...あぁ、そうね。回りくどいのはナシで単刀直入に言わせてもらう。あたしらと手を組め第二位。このゲームの主催に勝ちたいなら猶更な」
対して麦野は、垣根の向かい側のソファに腰かけ、両膝を開いて座り、前かがみに背を丸めつつもその眼光を鋭く光らせる。
先の失言のような愚はもう犯さない。そんな意思が込められているようにも思える。
先の失言のような愚はもう犯さない。そんな意思が込められているようにも思える。
「まあ、そう来るよな。で、目的は?」
「このゲームの盤面をひっくり返す———だけじゃねえ。その前に、レベル6級にも対抗できる力が要る」
「あぁ?」
「生まれたのよ。この会場で、それに匹敵する魔王が」
「このゲームの盤面をひっくり返す———だけじゃねえ。その前に、レベル6級にも対抗できる力が要る」
「あぁ?」
「生まれたのよ。この会場で、それに匹敵する魔王が」
麦野は垣根に説明する。
ベルベットが変貌し、格段に力を増したこと。
原子崩しすら食らい、数多の異能を喰らいつくさん存在になり果てたことを。
ベルベットが変貌し、格段に力を増したこと。
原子崩しすら食らい、数多の異能を喰らいつくさん存在になり果てたことを。
「あいつから聞いたのとさして違いはねえが...なるほど。確かにただの伝聞じゃあその規模まではわからねえか」
垣根は予めライフィセットから魔王ベルセリアの存在を聞いてはいたが、しかしそれはあくまでもライフィセットの主観でしかない。
特にベルベット・クラウに思い入れの強い彼からの情報ではどうしても正確さに欠けてしまう。
学園都市の暗部にまで根を張る麦野沈利が言及してこそその脅威も正しく窺い知れるというものだ。
特にベルベット・クラウに思い入れの強い彼からの情報ではどうしても正確さに欠けてしまう。
学園都市の暗部にまで根を張る麦野沈利が言及してこそその脅威も正しく窺い知れるというものだ。
「お前の言い分を信じるなら、第一位以下の第二位(オレ)と第四位(おまえ)じゃ個々で挑んでも勝てねえから、一旦協力してそいつを排除しようってことか」
「......」
「まあ、理に適ってるわな。世の中、ただ一人だけが強ければ全てまわるわけじゃねえ。だから俺もお前も『スクール』だの『アイテム』だの組織を作ってんだ。てめえの案も間違っちゃいねえ———俺を見下してるって点を除けばなァ」
「......」
「まあ、理に適ってるわな。世の中、ただ一人だけが強ければ全てまわるわけじゃねえ。だから俺もお前も『スクール』だの『アイテム』だの組織を作ってんだ。てめえの案も間違っちゃいねえ———俺を見下してるって点を除けばなァ」
刹那。
今まで余裕すら浮かべていた垣根の顔から笑みが消え、室内は冷え切った殺意に包まれる。
「ご、ごしゅじん...」
「...大丈夫よ」
「...大丈夫よ」
子猫のように身を縮ませるムネチカを労わるように夾竹桃は冷や汗をかきつつも頭を撫でてやる。
「なあ、知ってんだろ?順位は能力研究の応用が生み出す利益が基準に決められている。つまり戦闘面は二の次ってことだ。
席が三つ離れてるテメェならいざ知らず、俺と第一位(あいつ)に大層な壁は存在しねえし、そもそもてめえが俺を同格に見てる時点で舐めてんだよ」
席が三つ離れてるテメェならいざ知らず、俺と第一位(あいつ)に大層な壁は存在しねえし、そもそもてめえが俺を同格に見てる時点で舐めてんだよ」
学園都市レベル5には人格破綻者が多い。
彼らには彼らなりの倫理や理性があれど、そのぶん感情的にもなりやすく、とりわけ共通しているのはプライドが高いことである。
絶対の自負から構成される強力な能力。暗部に関わるが故に歪みやすい人格。
故に、時折、第三者からは幼稚にも見える言動をとることもある。
彼らには彼らなりの倫理や理性があれど、そのぶん感情的にもなりやすく、とりわけ共通しているのはプライドが高いことである。
絶対の自負から構成される強力な能力。暗部に関わるが故に歪みやすい人格。
故に、時折、第三者からは幼稚にも見える言動をとることもある。
「もう一度聞くぜ第四位。格下のてめえが、俺に、どうして欲しいって?」
顔には笑みが戻っているが、その殺気は隠すまでもなく告げている。
返答次第ではこの場の三人を纏めて殺す、と。
返答次第ではこの場の三人を纏めて殺す、と。
そんな身を凍らす殺意に晒される張本人である麦野は。
「何度でも言ってあげるわよ。あたしたちで、レベル6を超えてやるって言ってんのよ。言い訳並べて『強い子には逆らいたくありませ~ん』ってケツまくりたいなら話は別だけど」
冷や汗ひとつかかずに、平然と言ってのけた。
麦野も理解している。
垣根提督の力は本物であり、また、魔王ベルセリアにも自分一人では勝ち目がないことを。
しかしだからといって及び腰になりはしない。なるつもりもない。
交渉とは相手に組む価値があると思わせること。
例え虚勢でも対等に取引が出来ると思わせなければ成立しない。
力関係が偏ればそこから始まるのはただの搾取だ。
故に。
麦野は己のプライドをそのままチップに乗せ、第二位に手を組むに値すると己の価値を示した。
垣根提督の力は本物であり、また、魔王ベルセリアにも自分一人では勝ち目がないことを。
しかしだからといって及び腰になりはしない。なるつもりもない。
交渉とは相手に組む価値があると思わせること。
例え虚勢でも対等に取引が出来ると思わせなければ成立しない。
力関係が偏ればそこから始まるのはただの搾取だ。
故に。
麦野は己のプライドをそのままチップに乗せ、第二位に手を組むに値すると己の価値を示した。
シン、とした静寂に包まれる。
沈黙が流れたのは数秒か、数分か。
やがて口火を切ったのは、垣根提督。
「...いいぜ。てめえのその挑発に乗ってやる」
交渉は成立した。
垣根は、別に麦野の言葉に思うところがあったわけではない。
むしろ、これくらい強気で来なければ交渉を結ぶつもりなどなかった。
なんせ彼女が相手にしようとしているのは神の領域にも等しい世界だ。
その彼女が、レベル6よりは格下の自分に情けなく縋りつくほどに心を折られていれば組む価値などあるはずもない。
それならば、大きく能力が劣っていても、折れぬ心を持つブチャラティのような人材の方がまだ可能性がある。
だが麦野は屈さなかった。
レベル6という高い壁にも、目の前の第二位という脅威にも怯むことなく、その先を見据えた上で胆を据わらせてみせた。
故に垣根は同盟を呑んだ。
例え虚勢だったとしても、組む価値があると判断したのだ。
垣根は、別に麦野の言葉に思うところがあったわけではない。
むしろ、これくらい強気で来なければ交渉を結ぶつもりなどなかった。
なんせ彼女が相手にしようとしているのは神の領域にも等しい世界だ。
その彼女が、レベル6よりは格下の自分に情けなく縋りつくほどに心を折られていれば組む価値などあるはずもない。
それならば、大きく能力が劣っていても、折れぬ心を持つブチャラティのような人材の方がまだ可能性がある。
だが麦野は屈さなかった。
レベル6という高い壁にも、目の前の第二位という脅威にも怯むことなく、その先を見据えた上で胆を据わらせてみせた。
故に垣根は同盟を呑んだ。
例え虚勢だったとしても、組む価値があると判断したのだ。
「同盟成立ね。...戦力が増えるのは喜ばしいことにしても」
横で見ていた夾竹桃は、チラと横目で垣根を見て、小さくため息を吐いた。
「どうせなら女の子がよかったわね...」
☆
「結局、最初からこっちにむかっておくべきだったかしらね」
十六夜咲夜は、紅魔館へ向かうことにした。
ゲームに乗っていないという垣根の存在もそうだが、身体を休めるなら自分の知る施設の方が落ち着くだろうと考えてのことだ。
破壊神とジオルド、そしてヴライとの連戦は消耗が激しすぎた。
これ以上の休養を挟まぬ戦闘は死を意味する。
かといって組みやすい連中———神隼人たちは病院にも向かっていなかったことからどこにいるかがわからないし、ジオルドの襲撃から生き延びた黄前久美子は論外。荷物を増やすだけなら組む価値もない。
故に、交渉さえできれば戦力を確保できる紅魔館を選んだのだ。
ゲームに乗っていないという垣根の存在もそうだが、身体を休めるなら自分の知る施設の方が落ち着くだろうと考えてのことだ。
破壊神とジオルド、そしてヴライとの連戦は消耗が激しすぎた。
これ以上の休養を挟まぬ戦闘は死を意味する。
かといって組みやすい連中———神隼人たちは病院にも向かっていなかったことからどこにいるかがわからないし、ジオルドの襲撃から生き延びた黄前久美子は論外。荷物を増やすだけなら組む価値もない。
故に、交渉さえできれば戦力を確保できる紅魔館を選んだのだ。
(最悪、交渉が決裂しても...コレを使えば戦闘は避けられるかもしれない)
妖刀・罪歌。
志乃から回収したこの刀で斬りつければ、洗脳、あるいは隙を生んでの逃走はできるかもしれない。
できれば使いたくないと思いながらも、咲夜の足は紅魔館へと進んでいく。
志乃から回収したこの刀で斬りつければ、洗脳、あるいは隙を生んでの逃走はできるかもしれない。
できれば使いたくないと思いながらも、咲夜の足は紅魔館へと進んでいく。
☆
「ねえ、そういえば不思議だったのだけれど、どうしてベルベットを倒す前提で交渉を進めたのかしら?」
夾竹桃はふと抱いた疑問を麦野に投げかける。
ベルベットは同盟相手であり、いまも岩永琴子を連れてくるお使いを頼まれてくれた間柄だ。
麦野とベルベットの間に決定的な亀裂が走ったのならばいざ知らず、別れる直前にもそういった素振りは見られなかった。
ベルベットは同盟相手であり、いまも岩永琴子を連れてくるお使いを頼まれてくれた間柄だ。
麦野とベルベットの間に決定的な亀裂が走ったのならばいざ知らず、別れる直前にもそういった素振りは見られなかった。
「確かに私たちが結んでいるのは今生を共にする姉妹の契りではなく同盟。破棄するのはいつでもできる。でも、あの子にとってもまだ私たちを切り捨てる理由はないんじゃなくて?」
「...てめえはエロ本読みすぎて思考回路までピンク色になっちまったか?」
「エロ本じゃないわ同人誌よ。それに私はアダルトだけではなく健全本も嗜む正当な作家」
「どっちでもいいわ。あたしが言いたいのは、もうあいつはいつでも同盟を切っていい下地が出来上がってるってことよ」
「...てめえはエロ本読みすぎて思考回路までピンク色になっちまったか?」
「エロ本じゃないわ同人誌よ。それに私はアダルトだけではなく健全本も嗜む正当な作家」
「どっちでもいいわ。あたしが言いたいのは、もうあいつはいつでも同盟を切っていい下地が出来上がってるってことよ」
いいか、と言葉を挟み麦野は夾竹桃にもわかるよう順を追って説明していく。
「第一に、あんたの頼んだお使いだ。あの集団がまだ固まっていて、且つ岩永琴子を攫ってくるのに苦戦してくるならいい。失敗してくるならまだマシだ。
だが、あいつは確かに『あのくらいなら一人で片付く』って言った。可笑しな話だよな、つい数時間前に殺されかけたやつの台詞じゃあねえ」
だが、あいつは確かに『あのくらいなら一人で片付く』って言った。可笑しな話だよな、つい数時間前に殺されかけたやつの台詞じゃあねえ」
先の駅での戦いにおいて、ベルベットは失神するまでに追い詰められた。その相手は主催の連中でも複数にかかられた訳でもなく、冨岡義勇ただ一人。
無論、一度の勝負で優劣が全て決められるわけではない。麦野自身、それを認めていないから浜面へのリベンジに執着していた。
ベルベットもまた同じ条件で、且つ相手の手札を知っている状態から戦闘を始めれば結果は変わるだろう。
だが、それでも甘く見積もって義勇はベルベットと真っ向からやり合える力を持っているのは事実。
その中に戦闘に長けた者があと二・三人もいればどう足掻いても苦戦は必至。それがわからない女ではないだろう。
その彼女が一人で片付くと断言してみせた。感情任せではなく、だ。
無論、一度の勝負で優劣が全て決められるわけではない。麦野自身、それを認めていないから浜面へのリベンジに執着していた。
ベルベットもまた同じ条件で、且つ相手の手札を知っている状態から戦闘を始めれば結果は変わるだろう。
だが、それでも甘く見積もって義勇はベルベットと真っ向からやり合える力を持っているのは事実。
その中に戦闘に長けた者があと二・三人もいればどう足掻いても苦戦は必至。それがわからない女ではないだろう。
その彼女が一人で片付くと断言してみせた。感情任せではなく、だ。
「それを余裕で潰してみろ。あいつはこう思うはずだ『なんだ、この力でさっさと優勝した方が楽じゃん』...ってな。
そうすりゃ別に岩永琴子を攫う約束なんて守る必要もねえし、なんならあたしらも食らっちまった方が早えだろうが」
「ふむ、言われてみればそうね」
「第二にこの現状だ。あいつが飛んでってから、あたしらになにか発見はあったか?」
「それはもう、多種多様な友情の形を発見できたわよ。近親、快楽責め、従者の秘め事、私の趣味からは外れるけれどムネチカの紹介してくれたBL...」
「それが答えな」
「説明不足」
「分かれよ殺すぞ」
そうすりゃ別に岩永琴子を攫う約束なんて守る必要もねえし、なんならあたしらも食らっちまった方が早えだろうが」
「ふむ、言われてみればそうね」
「第二にこの現状だ。あいつが飛んでってから、あたしらになにか発見はあったか?」
「それはもう、多種多様な友情の形を発見できたわよ。近親、快楽責め、従者の秘め事、私の趣味からは外れるけれどムネチカの紹介してくれたBL...」
「それが答えな」
「説明不足」
「分かれよ殺すぞ」
そう。ベルベットと別れてから、彼女たちは何も進められていない。
首輪の本質は既にベルベットも知っているし、緊急解除コードも結局わからずじまい。
どの道、主催がわかりやすい施設にわかりやすいヒントを隠している筈もないため、百合本を読み漁っていた夾竹桃とムネチカに全ての責があるわけではないが、少なくとも、面倒なお使いを頼まれて達成してきた結果、『同人誌を堪能してたらこんな時間になりました☆』なんて返されようものなら殺意を抱かれても何の反論もできない。あまりに正当な動機である。
首輪の本質は既にベルベットも知っているし、緊急解除コードも結局わからずじまい。
どの道、主催がわかりやすい施設にわかりやすいヒントを隠している筈もないため、百合本を読み漁っていた夾竹桃とムネチカに全ての責があるわけではないが、少なくとも、面倒なお使いを頼まれて達成してきた結果、『同人誌を堪能してたらこんな時間になりました☆』なんて返されようものなら殺意を抱かれても何の反論もできない。あまりに正当な動機である。
「ってわけで抑止力は必要なのよ。わかった?」
「...そうね。その点については反省するべきね」
「...そうね。その点については反省するべきね」
「お前がなんであんなトチ狂ったことを口走ったかわかってきた気がするぜ原子崩し。で、ムネチカだっけか」
突如呼ばれた名に、ムネチカはビクリと身を震わせ夾竹桃に助けを請うように身を寄せる。
「なにがどうなってこいつらと行動してるかは知らねえが、和解してたんなら話が早え。ライフィセットの奴が心配してたぜ」
「!ライフィセット、どのが...」
「放送を聞いてなかったか?あいつならまだ生きてるぞ。病院でブチャラティって奴らと一緒に会った」
「そう、ですか...」
「...あぁ?」
「!ライフィセット、どのが...」
「放送を聞いてなかったか?あいつならまだ生きてるぞ。病院でブチャラティって奴らと一緒に会った」
「そう、ですか...」
「...あぁ?」
喜びも驚きもせずしおれていくムネチカの様子に、垣根は眉を潜める。
ライフィセットからもブチャラティからも、ムネチカは身を張ってライフィセットを助けたと聞いている。
そんな者の生存を知れば、喜ぶことはあれど萎える要素などないだろう。
始めは夾竹桃がライフィセットの存在を人質にでも取って脅したのかと思っていたが、どうにもおかしい。
ここに至るまでムネチカは夾竹桃の指示にも一切の嫌悪も反抗の意思も見せていない。
それどころか従順な下僕のような振舞を見せている。
ライフィセットからもブチャラティからも、ムネチカは身を張ってライフィセットを助けたと聞いている。
そんな者の生存を知れば、喜ぶことはあれど萎える要素などないだろう。
始めは夾竹桃がライフィセットの存在を人質にでも取って脅したのかと思っていたが、どうにもおかしい。
ここに至るまでムネチカは夾竹桃の指示にも一切の嫌悪も反抗の意思も見せていない。
それどころか従順な下僕のような振舞を見せている。
「なあ、こいつになんか嗅がせたのか?」
「あたしに聞くな。事情ならこいつに聞け」
「嫌なことを、辛い現実を忘れさせてあげただけよ」
「あたしに聞くな。事情ならこいつに聞け」
「嫌なことを、辛い現実を忘れさせてあげただけよ」
話を振られた夾竹桃はあっさりと己の施したことを自白する。
ムネチカを拘束した後、護れなかったという事実と自責の念を解すように媚薬やら少量の毒やらを注入したこと。
それに伴い彼女の自我が崩壊したこと。
念には念を入れて、共に百合同人誌を読み漁ることで彼女の嗜好を自分の色に染め上げたこと。
ムネチカを拘束した後、護れなかったという事実と自責の念を解すように媚薬やら少量の毒やらを注入したこと。
それに伴い彼女の自我が崩壊したこと。
念には念を入れて、共に百合同人誌を読み漁ることで彼女の嗜好を自分の色に染め上げたこと。
「わかったでしょう?私は別に無為に時間を浪費していたわけではないのよ」
「わかったけどわかりたくなかったわ」
「とどのつまり、こいつはもう戦力としては宛てにならねえってことだな?」
「...否定はできないわね」
「わかったけどわかりたくなかったわ」
「とどのつまり、こいつはもう戦力としては宛てにならねえってことだな?」
「...否定はできないわね」
ムネチカの本来の強さは電車での戦闘からそれなりには知っている。
肉弾戦に限ればこの四人の中で一番長けているだろう。
だが、それも彼女のこれまでの経験値が無ければ無用の長物。
今の彼女は夾竹桃が頼めば戦闘はしてくれるだろうが、本来のパフォーマンスを発揮するのは到底不可能だろう。
肉弾戦に限ればこの四人の中で一番長けているだろう。
だが、それも彼女のこれまでの経験値が無ければ無用の長物。
今の彼女は夾竹桃が頼めば戦闘はしてくれるだろうが、本来のパフォーマンスを発揮するのは到底不可能だろう。
「で、魔王とやらに食われれば能力を吸収されちまうんなら———こいつはさっさと首輪に変えちまった方がいいんじゃねえか?」
ジロリ、と向けられる垣根の視線に、ムネチカは再びビクリと身体を震わせる。
首輪に変える。それは即ち、ムネチカへの処刑宣告に他ならない。
首輪に変える。それは即ち、ムネチカへの処刑宣告に他ならない。
垣根は主催に反抗する立場ではあるが、しかし不殺主義ではない。
己の邪魔をする者には一切の容赦はしないし、必要ならば殺害も躊躇いが無い。
垣根としては、いまのムネチカを戦力として数え魔王に情報を食われるリスクをとるよりは、さっさと首輪のサンプルを増やしてしまった方が己の利になると考えた。
己の邪魔をする者には一切の容赦はしないし、必要ならば殺害も躊躇いが無い。
垣根としては、いまのムネチカを戦力として数え魔王に情報を食われるリスクをとるよりは、さっさと首輪のサンプルを増やしてしまった方が己の利になると考えた。
ムネチカは震えながらも恐る恐る麦野と夾竹桃、二人の同志へと目を遣る。
「あたしとしても賛成だ。こんなフレンダ以下のカスに命を預ける気なんてさらさら起きないし、サンプルが増えるに越したことはないし」
「私は反対だけれど...2対1ならいくら反対しても無駄よね」
「私は反対だけれど...2対1ならいくら反対しても無駄よね」
味方はいなかった。
その事実にムネチカの表情は絶望に染まるも、しかし泣き出すことも怒ることもなく。
ただただ全てを投げ出したかのように、脱力するのみだった。
その事実にムネチカの表情は絶望に染まるも、しかし泣き出すことも怒ることもなく。
ただただ全てを投げ出したかのように、脱力するのみだった。
「っつーわけで、だ。なんか言い残すことは?」
垣根は未元物質の羽を展開し、ムネチカの喉元へと突きつける。
ムネチカは弱弱しく「ひっ」と喉を鳴らすも、受け入れるように一切の抵抗もしなかった。
ムネチカは弱弱しく「ひっ」と喉を鳴らすも、受け入れるように一切の抵抗もしなかった。
「ご主人様」
生気の籠らない青ざめた顔で。
一切の光籠らぬ死んだ目で。
それでもムネチカは夾竹桃へと顔を向け、引きつり強張った微笑みを浮かべ告げる。
一切の光籠らぬ死んだ目で。
それでもムネチカは夾竹桃へと顔を向け、引きつり強張った微笑みを浮かべ告げる。
「私のようなものを赦してくださり、ありがとうございました」
その言葉を聴いた瞬間、夾竹桃の目が見開かれる。
(ダメだなこりゃ。もう芯まで腐ってやがる)
一方の垣根は心底呆れたようにため息を吐く。
垣根としては、ここでムネチカが再起の兆しを見せるなら別にそれでよかった。
死にたくないと自衛に走り反抗するのもまだ許せた。
だが、いまのムネチカは自分の命どころか、護ろうとしていたライフィセットのことすら蚊帳の外。
ただ苦しいことから解放されたいと縋るだけの愚物だ。
ここまで腑抜けているならやはりサンプルにしてしまおう。
垣根としては、ここでムネチカが再起の兆しを見せるなら別にそれでよかった。
死にたくないと自衛に走り反抗するのもまだ許せた。
だが、いまのムネチカは自分の命どころか、護ろうとしていたライフィセットのことすら蚊帳の外。
ただ苦しいことから解放されたいと縋るだけの愚物だ。
ここまで腑抜けているならやはりサンプルにしてしまおう。
そう決断し、羽を突き刺そうとしたその時だ。
「あー...取り込み中だったようね」
ガチャリ、と扉を開けるのと同時、そんな気まずそうな声が一同の注目を集めた。
声の主は、十六夜咲夜。
声の主は、十六夜咲夜。
☆
「貴方が垣根提督でいい?」
「誰から聞いた」
「変な帽子を被った変な生き物から」
「あー...あいつか」
「争いたくて来たわけじゃないけれど、出直した方が良いかしら」
「誰から聞いた」
「変な帽子を被った変な生き物から」
「あー...あいつか」
「争いたくて来たわけじゃないけれど、出直した方が良いかしら」
垣根は横目でチラ、とムネチカを見やる。
やはりと言うべきか、未だに腑抜けたままであり、垣根の中での彼女の価値は変わらない。
しかしここでムネチカを殺すことに賛同するか分からない者に殺害現場を見せつけて余計な諍いを持ち込むのもいただけない。
やはりと言うべきか、未だに腑抜けたままであり、垣根の中での彼女の価値は変わらない。
しかしここでムネチカを殺すことに賛同するか分からない者に殺害現場を見せつけて余計な諍いを持ち込むのもいただけない。
「別に構わねえよ。話があるならどーぞこちらに」
垣根はムネチカに突きつけていた羽を仕舞い、咲夜を招き入れる。
緊張感から解放されたことで力なく膝を着くムネチカへ夾竹桃が肩を貸し立ち上がらせる。
咲夜は垣根の誘いに従い、向かい側に座ろうとする。
そのソファは麦野が座っている席だが、いまの満身創痍な咲夜を見れば彼女は自然に席を譲った。
緊張感から解放されたことで力なく膝を着くムネチカへ夾竹桃が肩を貸し立ち上がらせる。
咲夜は垣根の誘いに従い、向かい側に座ろうとする。
そのソファは麦野が座っている席だが、いまの満身創痍な咲夜を見れば彼女は自然に席を譲った。
「で、用件は」
咲夜が座るなり、そう垣根は切り出す。
「見ての通りよ。消耗が激しいから休憩したいというのと...垣根提督。貴方と手を組みたい」
「またかよ。俺は慈善活動愛好家じゃねえんだぞ」
「もちろんただじゃないわ。貴方の知らない情報を教える。そのうえでどうするかは決めればいいわ」
「聞かせてみな」
「またかよ。俺は慈善活動愛好家じゃねえんだぞ」
「もちろんただじゃないわ。貴方の知らない情報を教える。そのうえでどうするかは決めればいいわ」
「聞かせてみな」
咲夜は話す。
術師・マロロと手を組んだ後、炎獄の学園でひと悶着あったこと。
その後、映画館で情報収集し、転送装置で離れたエリアまで飛んできたこと。
破壊神と根源たる神との戦い、そして病院での災害との戦いを。
もちろん、自分たちはあくまでも殺し合いには乗っていないと脚色を加えているが。
術師・マロロと手を組んだ後、炎獄の学園でひと悶着あったこと。
その後、映画館で情報収集し、転送装置で離れたエリアまで飛んできたこと。
破壊神と根源たる神との戦い、そして病院での災害との戦いを。
もちろん、自分たちはあくまでも殺し合いには乗っていないと脚色を加えているが。
「...あながちあたしの考えも的外れじゃなかったようね」
麦野の考察した『蒐集の器』。
それはたまたまベルベットがそう覚醒したというのが彼女の考えだが、普通に考えるならそこで終わらない。
最初から彼女一人がその資格を有していた?いいやそんなはずはない。
義勇とベルベットの戦いの折、夾竹桃があと数秒到着するのが遅ければベルベットは死んでいた。
もしも彼女一人がその器の資格足り得るものだとしたら、その時点でとん挫する計画など実践価値はないだろう。
それなら予め全参加者に、せめて他の一部の参加者にもその資格があったと考えるのが自然だ。
魔王どころか神まで出てくればそう思わざるをえない。
それはたまたまベルベットがそう覚醒したというのが彼女の考えだが、普通に考えるならそこで終わらない。
最初から彼女一人がその資格を有していた?いいやそんなはずはない。
義勇とベルベットの戦いの折、夾竹桃があと数秒到着するのが遅ければベルベットは死んでいた。
もしも彼女一人がその器の資格足り得るものだとしたら、その時点でとん挫する計画など実践価値はないだろう。
それなら予め全参加者に、せめて他の一部の参加者にもその資格があったと考えるのが自然だ。
魔王どころか神まで出てくればそう思わざるをえない。
麦野が自説に確信を抱きつつ思考する一方で、垣根は咲夜に向き直る。
「面白い情報提供には感謝してやるよ。だがそれで俺たちと手を組むのはちょっと対価が足りないと思わねえか?」
「どういうことかしら?」
「ゲームに乗ってズタボロにされてきた奴を受け入れてやろうっていうんだ。お前がそれに値する能力がなけりゃあ組んでやる理由もねえだろ」
「どういうことかしら?」
「ゲームに乗ってズタボロにされてきた奴を受け入れてやろうっていうんだ。お前がそれに値する能力がなけりゃあ組んでやる理由もねえだろ」
垣根の指摘に咲夜は思わず息を呑む。
彼女は決して馬鹿ではない。
己の話の中で矛盾が起きないよう順序を組み立て構築したはずだ。
だが、垣根の目には微塵も迷いはなく、確信をもって咲夜を乗った側だと判断している。
彼女は決して馬鹿ではない。
己の話の中で矛盾が起きないよう順序を組み立て構築したはずだ。
だが、垣根の目には微塵も迷いはなく、確信をもって咲夜を乗った側だと判断している。
「...どうしてそう思うのかしら?」
「簡単な話だ。お前が俺の事を聞いたってビエンフーってやつがいねえ。あいつはお前を信用できるならくっついて動くだろうよ。
それがいねえってことはあいつはお前から俺の事を無理やり聞き出されて殺されたか、あるいは俺の不利益になる事を話したのをビビッて逃げ出したかの二択になるっつーことだ」
「...!」
「簡単な話だ。お前が俺の事を聞いたってビエンフーってやつがいねえ。あいつはお前を信用できるならくっついて動くだろうよ。
それがいねえってことはあいつはお前から俺の事を無理やり聞き出されて殺されたか、あるいは俺の不利益になる事を話したのをビビッて逃げ出したかの二択になるっつーことだ」
「...!」
しくじった、と咲夜は素直にそう思った。
あの場で無駄な消耗を避ける為にビエンフーを逃がしたのは悪手だった。
せめて脅しでもして連れ歩けばよかったと今更ながらに後悔する。
あの場で無駄な消耗を避ける為にビエンフーを逃がしたのは悪手だった。
せめて脅しでもして連れ歩けばよかったと今更ながらに後悔する。
「だが安心しな。俺たちは正義の味方なんかじゃねえ。むしろ自分の目的の為ならなんでもやる悪党共だ。お前がゲームに乗っていようがいまいがそんなのはどうでもいい。使えるかどうか、話はそれだけだ」
「...価値を示せ、というわけね」
「...価値を示せ、というわけね」
咲夜は思案する。
咲夜の一番の売りは、時間を止める程度の能力。
これを示せば、垣根の求める『使える能力』には合格できるだろう。
だが、これは咲夜にとっての心臓部。
時間を止めようが敵わない存在がいるのはシドーとヴライのせいで痛いほどわかっている。
非常事態ならいざ知らず、敵になりうる存在に対して正体を明かすのは限界まで避けたい。
しかしそれ以外に価値のあるものなど、いまの彼女には———
咲夜の一番の売りは、時間を止める程度の能力。
これを示せば、垣根の求める『使える能力』には合格できるだろう。
だが、これは咲夜にとっての心臓部。
時間を止めようが敵わない存在がいるのはシドーとヴライのせいで痛いほどわかっている。
非常事態ならいざ知らず、敵になりうる存在に対して正体を明かすのは限界まで避けたい。
しかしそれ以外に価値のあるものなど、いまの彼女には———
(...あったわね)
ある。
時間を操る程度の能力には敵わないが、それでも彼らの興味を引ける代物が。
時間を操る程度の能力には敵わないが、それでも彼らの興味を引ける代物が。
咲夜はデイバックに手を入れ、一振りの刀を手にする。
「妖刀・罪歌。これは斬りつけた相手を支配する優れも、」
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』
垣根たちに見せつけようとした罪歌の呪詛に負け、つい手放し床に落としてしまう。
迂闊。
いまの疲弊しきった自分には、罪歌の愛を受け止めるだけの余裕はなかったのを失念していた。
迂闊。
いまの疲弊しきった自分には、罪歌の愛を受け止めるだけの余裕はなかったのを失念していた。
足元に滑り落ちてきたそれを垣根は思わず拾い上げる。
「へえ、よくわからねえがこれが妖刀」
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』
垣根は咄嗟にバン、と大きな音を立てて罪歌をテーブルに叩きつけた。
「どうした?」
「...さすがに少し驚いちまってな。触ってみるか?」
「???」
「...さすがに少し驚いちまってな。触ってみるか?」
「???」
首を傾げる麦野だが、ここで咲夜を殺しに行かないということは毒の類ではないのだろうと、半分は好奇心で罪歌に触れてみる。
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』
無言で床に叩きつける麦野。
意味不明なラブコールを聞かせてきた咲夜に殺意をもって跳びかかりたくなる衝動を、しかし隣の彼がしていない以上は面子的にも手を出すこともできず。
結局、できることと言えば咲夜に憤怒の籠った目を向けるのが限界だった。
意味不明なラブコールを聞かせてきた咲夜に殺意をもって跳びかかりたくなる衝動を、しかし隣の彼がしていない以上は面子的にも手を出すこともできず。
結局、できることと言えば咲夜に憤怒の籠った目を向けるのが限界だった。
「もう。みんなしてなんなのよ」
皆が一斉に手放した妖刀。
その有様に、なにか毒のようなものでもあったのかと好奇心と期待の織り交ざった感情で罪歌を拾ってみる。
その有様に、なにか毒のようなものでもあったのかと好奇心と期待の織り交ざった感情で罪歌を拾ってみる。
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』
流れ込む呪詛に夾竹桃は
ツゥ——...
鼻血を流した。
「流れてくる...私の中に、女の子の友情が...」
恍惚な表情を浮かべうわごとのようにぶつぶつと呟き始める夾竹桃。
「おい?」
「熱く...燃え上がるような灼熱の太陽...同時にほの暗く苦い...一人では輝けぬ月...相反する二つの感情の交響曲...」
「おい、ガキンチョ?」
「垣根提督」
「熱く...燃え上がるような灼熱の太陽...同時にほの暗く苦い...一人では輝けぬ月...相反する二つの感情の交響曲...」
「おい、ガキンチョ?」
「垣根提督」
呼びかける麦野を無視して、夾竹桃はグリン、と首をまわして垣根へと振り返る。
妖怪さながらの光景に他三人は一様に引き気味に彼女を見てしまう。
妖怪さながらの光景に他三人は一様に引き気味に彼女を見てしまう。
「さっき、ムネチカが戦えないから要らないって言ったわよね?」
「...言ったな」
「なら貴方が認めるくらいに戦えれば問題ないのよね」
「まあ、そうなるな」
「言質とったわよ」
「...言ったな」
「なら貴方が認めるくらいに戦えれば問題ないのよね」
「まあ、そうなるな」
「言質とったわよ」
瞬間。
夾竹桃が右手を振るえば、肉を切る音と共に鮮血が舞う。
夾竹桃が右手を振るえば、肉を切る音と共に鮮血が舞う。
「ぁ、ぇ...?」
無防備を晒していたムネチカは、信じられないものを見たかのように目を見開き、ドサリ、仰向けに倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。
「なんだ、お前が殺すのか」
「ふふっ、殺す?そんなはずがないでしょう。傷は浅いわ」
「そんじゃああれはどういうことだ?毒でも塗らなきゃああはならねえ」
「そこの彼女に聞けばわかるわ。なんなら私が言ってもいいのよ?」
「...わかった、話すわよ」
「ふふっ、殺す?そんなはずがないでしょう。傷は浅いわ」
「そんじゃああれはどういうことだ?毒でも塗らなきゃああはならねえ」
「そこの彼女に聞けばわかるわ。なんなら私が言ってもいいのよ?」
「...わかった、話すわよ」
改めて咲夜は罪歌について三人に話す。
とはいっても、本来の持ち主は佐々木志乃であり、咲夜は状況と軽い見聞でしか知らないのだが。
とはいっても、本来の持ち主は佐々木志乃であり、咲夜は状況と軽い見聞でしか知らないのだが。
「...つまり、あの刀に呪いに耐性があるやつが斬れば駒を増やせるってわけか」
「ええ。私たち三人は無理だったけれど、どうやら彼女は呪いを払うことに成功したみたいね」
「払う?違うわ、受け入れたのよ。熱い、あつ~い女の友情を」
「ええ。私たち三人は無理だったけれど、どうやら彼女は呪いを払うことに成功したみたいね」
「払う?違うわ、受け入れたのよ。熱い、あつ~い女の友情を」
罪歌の呪いから逃れる方法は二つある。
一つは自分の世界とその出来事を徹底的に客観視し、罪歌の思念までもを額縁の中の出来事と捉えてしまうこと。
もう一つは己の意思で罪歌の支配に打ち勝つこと。
一つは自分の世界とその出来事を徹底的に客観視し、罪歌の思念までもを額縁の中の出来事と捉えてしまうこと。
もう一つは己の意思で罪歌の支配に打ち勝つこと。
夾竹桃がとったのはそのどちらでもなく、呪いを受け入れ共生すること。
従うのではなく親友のように寄り添うこと。
無論、本来はそんな道理はまかり通らない。
しかし、彼女も知らぬことだが、いまの罪歌は志乃の間宮あかりへの呪い以上にどす黒く爛れた愛情に二度も敗北している。
その二度の敗北により、罪歌自身にも変容が起き、罪歌本来の支配の強制力は弱まっていた。
人類全てを平等に愛する呪いから、人の感情を流し込まれ呪毒のように相手を蝕むただ一人へ捧げる愛への変貌。
これもまた、ある種、麦野が考えた異なる世界の異能を掛け合わせた一つの結果ともいえるだろう。
従うのではなく親友のように寄り添うこと。
無論、本来はそんな道理はまかり通らない。
しかし、彼女も知らぬことだが、いまの罪歌は志乃の間宮あかりへの呪い以上にどす黒く爛れた愛情に二度も敗北している。
その二度の敗北により、罪歌自身にも変容が起き、罪歌本来の支配の強制力は弱まっていた。
人類全てを平等に愛する呪いから、人の感情を流し込まれ呪毒のように相手を蝕むただ一人へ捧げる愛への変貌。
これもまた、ある種、麦野が考えた異なる世界の異能を掛け合わせた一つの結果ともいえるだろう。
「ムネチカ...私は信じているわよ。女の友情を体現してきた貴女なら、この愛を受け入れモノにできると」
夾竹桃としては、いまのムネチカはもはや同志にも近い存在。
元の世界にも理子のように理解を示してくれる者はいるが、あそこまで蜜に語り合える存在はそうはいない。
できることなら失いたくない。共に脱出できたら二人で夏コミに参加して二人の友情を書き上げたい。
そんな願望がムネチカの助命を賭けた行為に移らせた。
元の世界にも理子のように理解を示してくれる者はいるが、あそこまで蜜に語り合える存在はそうはいない。
できることなら失いたくない。共に脱出できたら二人で夏コミに参加して二人の友情を書き上げたい。
そんな願望がムネチカの助命を賭けた行為に移らせた。
だが。
罪歌の本来の愛が正しく機能していないということは、本来の結果が出るとは限らないということ。
弱まった支配力で。
全ての人間に向けられる筈の感情をたった一人に向けて凝縮され。
そんなものを流し込まれた者がどうなるか、彼女は知らない。
咲夜も、垣根も、麦野も。本来の罪歌を知らない彼らの誰も知らない。
弱まった支配力で。
全ての人間に向けられる筈の感情をたった一人に向けて凝縮され。
そんなものを流し込まれた者がどうなるか、彼女は知らない。
咲夜も、垣根も、麦野も。本来の罪歌を知らない彼らの誰も知らない。
言えることはただひとつ。
いまのムネチカには、確かに『異変』が起きていた。
☆
「......」
眼を開ける。
暗い。
なにもみえない。
ただ自分の身体がここにあるという奇妙な感覚だけが残っている。
暗い。
なにもみえない。
ただ自分の身体がここにあるという奇妙な感覚だけが残っている。
ここはどこだ。
誰もいない。
垣根提督も。麦野も。十六夜咲夜も。ご主人様も。
誰もいない。
垣根提督も。麦野も。十六夜咲夜も。ご主人様も。
怖い。
ここがどこだかわからないが、無力な自分はすぐにでもどうにかなってしまいそうだ。
助けてくださいご主人様。
ご主人様は優しくしてくれる。弱い自分を赦してくれる。
あの人はいつも正しい。救ってくれる。
だから傍にいさせてください。あの人のもとへ帰らせてください。
ここがどこだかわからないが、無力な自分はすぐにでもどうにかなってしまいそうだ。
助けてくださいご主人様。
ご主人様は優しくしてくれる。弱い自分を赦してくれる。
あの人はいつも正しい。救ってくれる。
だから傍にいさせてください。あの人のもとへ帰らせてください。
『—————』
そんな私の願いに応じるように聞こえてきたのは声。
何処かで聞いたような、しかし記憶よりも悍ましき声。
何処かで聞いたような、しかし記憶よりも悍ましき声。
『あかりちゃん』
振り返り、対面する。
「ッ!?」
その姿に私は息を呑んだ。
『あかりちゃんいま行くねあかりちゃんあかりちゃんだいすきあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん待っててあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん』
禍々しい刀を構え、ゆらりゆらりと身体を揺らし。
ぶつぶつと呪詛のように、しかし喜色を交えて呟き続け。
全身をドス黒い赤に染め上げ、それでもなお立ち続ける様は怨霊の如し。
ぶつぶつと呪詛のように、しかし喜色を交えて呟き続け。
全身をドス黒い赤に染め上げ、それでもなお立ち続ける様は怨霊の如し。
黒の長髪に豊満なバストと白と赤のコントラストの映える制服。
間違いない。
私は知っている。
その女の名を。
それは既知への安堵か、あるいは恐怖か。
私は思わず口に出した。
間違いない。
私は知っている。
その女の名を。
それは既知への安堵か、あるいは恐怖か。
私は思わず口に出した。
「志乃乃富士...!?」
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