バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

戦刃幻夢 ―死闘の果てに―

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kyogokurowa

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複数の意思と力が、代わる代わる交錯していく戦地。
今現在は二つの巨大な影が、互いの存在を叩き潰さんと、咆哮と衝突を繰り返している。

どすん、どすん、と。
その戦闘の余波により、大地は激しく揺さぶられるが―――

「……ぁ……、……がぁ……」

二体の巨像が殺し合う地帯から、少し距離を置いた地にて。
断続的に到来する振動によって、早苗の意識は無理矢理に呼び覚まれてしまった。

「ぐ、う……っ」

先刻、ヴライが放った大火球に、飲み込まれてしまった早苗。
瞬間、即興で全身に纏わせた風の防護にて、どうにか炭化は免れたものの、無傷とはいかなかった。
地面に叩きつけられた衝撃、そして爆圧によって、彼女の華奢な身体は押し潰される形となり、意識は刈り取られてしまっていた。

「ゴボッ……」

内臓が損傷したのか、呼吸の度に口の中が血で溢れかえる。
圧迫を受けていた全身は、まるで鉛を括り付けられたかのように重く、鈍い。
全身は、まるで鉛を括り付けられたかのように重く、鈍い。
致命傷とまではいかぬものの、決して軽傷とも呼べないダメージを負ってしまっている。

しかし、それでも―――

「……クオン、さん……」

伝搬する振動にて、未だ仲間が向こう側に留まり戦い続けていると、察した早苗は、5メートルほど宙に浮遊。
視界も聴覚もおぼつかないが、それでも懸命に、震源地へと向かうのであった。




『ハァアアアッ!!』
『フンッ!!』

二体の巨像が咆哮を上げては、互いに拳を振るい、衝突を繰り返していく。

ヤマト八柱が一人、剛腕のヴライは、黒の巨躯を豪快に振り回して―――
二重の『仮面』を装う右近衛大将オシュトルは、白の巨躯を機敏に駆って―――

『根源』から力を汲み上げた二人の『仮面の者』は、その身に宿した大いなる力を惜しみなく振るい、眼前の宿敵を討滅せんと、苛烈な肉弾戦を繰り広げる。
拳と拳が交錯する度に、大気が唸り、大地が軋み、天へと地鳴りの如き衝撃が昇っていく。
人智を超越した力と質量の激突――。
エリア内の空間そのものを揺るがす、両雄の闘争は、まさに神劇の世界を再現したかのような光景となっていた。

『ウハハハハハッ! 愉快! 愉快ゾ!
コレゾ戦! コレゾ死合! コレゾ我ガ望ム至高ノ瞬間ヨ!!』

拳を叩きこみ、その返しとして叩き込まれる中、ヴライは、己が内が沸るのを感じていた。
闘争の権化たる漢は、この地において、様々な難敵と相見えてきた。
しかし、如何に相手が強者であろうと、覚えるのはせいぜいが、苛立ちや怒りといった程度のもの。
武士の血が踊り、魂が震えるような、この高揚は、相手が同じ『仮面の者』であるからこそ―――そして、何よりも、己が認めた宿敵と全身全霊を賭して闘っているからこそ味わえるものであった。

『貴様モ、ソウハ思ワヌカ、オシュトルゥゥゥゥゥ!!』

猛るヴライは、オシュトルの突き刺すような拳打を掻い潜ると、渾身の力を込めた拳を叩き込む。

『グッ――!?』

オシュトルは、その一撃を真正面から受けてしまい、大地を削りながら吹き飛ばされるような形で後退する。

『アア……。確カニ、心ガ踊ル……。
コレゾ《仮面ノ者》ノ闘争ーー」

しかし、それも一瞬のこと。
両脚に踏ん張りを効かせ、踏みとどまったオシュトルは、上空へと飛翔。

『ダガ、己ガ闘争欲ニ身ヲ捧ゲテ、貴様ト長々ト闘ウツモリハナイ!
早々ニ終ワラセテ貰ウゾ、ヴライ!!』

ヴライがそうであるように、オシュトルもまた仮面の力を解放した今、身体は高揚感を覚えていた。
身体を巡る血液が、内に宿る腑が、灼熱を呼び覚まし、訴えかける。
眼前の強者との闘争に興じよ、と―――。
しかし、オシュトルは、それを意志の力で捻じ伏せる。

『ウハハハハハハハ!!
吐カシタナァ、オシュトルゥ!!』

そんなオシュトルの葛藤を他所に、彼を追うため、地を蹴り上げて、飛翔するヴライ。
接近する黒の肉塊に、オシュトルは、右腕を銃口の如し構えると、その巨掌から巨大な水塊を怒涛の勢いで、射出していく。
地に向け、高速連射されるは、半径10メートルはゆうに超える超高速のウォーターカッター。
常人が直撃すれば、一瞬で挽肉と化すような水圧の散弾だが、ヴライは両掌を天へと掲げると、水塊を遥かに凌ぐ巨大な火球を展開。
それを盾にして、飛来する水の散弾を防ぎながら、オシュトルとの間合いを詰める。
五発目、六発目、七発目、八発目……。
オシュトルの放ったウォーターカッターが、火球に着弾し、水蒸気に帰す度に、火球の直径は徐々に小さくなっていく。

九発目、十発目―――、そして、十一発目が達して、火球は大きく弾け去った頃。
ヴライは、オシュトルの元に到達。
霧散する蒸気を吹き飛ばす勢いで、業火を纏った剛腕が、オシュトルを襲う。
しかし、それを紙一重で躱したオシュトルは、カウンター気味に水の大砲をヴライの胸部に撃ち込んだ。

『ヌウッ!?』

至近距離の射撃に、思わず呻き声を上げるヴライは、数メールほど後方に吹き飛ばされる。
間髪入れず、オシュトルは、先ほどよりも二回り小さなウォーターカッターを連射。

『グヌォオオオオオオオ!?』

一発一発の出力を抑制した分、連射速度は機関銃の如し。
秒間数十発という速射でヴライの巨躯に炸裂し、進撃の巨像の肉を穿ちつつ、後退させていく。

『足リヌ―――』

しかし、ヴライはその全てを受け止めながらも、息を大きく吸い込むようにして、その身に宿した『力』を練り上げる。
そして――、

『コレシキデハ、我ヲ屠ルニ足リヌゾ、オシュトルゥゥゥゥゥ!!』

ヴライの咆哮が、空間そのものを震わせたかと思うと、彼の肉体から業火が溢れ出す。
それはまるで、火山の噴火の如く。
ヴライの全身は炎に包まれながら、オシュトルへと突進していく。
射出されるウォーターカッターの悉くは、炎の鎧の前に蒸発してしまい、その進撃を阻むことは叶わず。
瞬く間に、オシュトルの間合いにまで到達したヴライは、炎を纏った拳打を繰り出す。
咄嗟に身を捻って躱したオシュトルは、再びカウンター気味に水の大砲を放たんとするも―――

『我ニ同ジ手ハ、通用セヌ!』

発射口たる腕を、ヴライの剛腕に掴まれ、捻り上げられると、大砲は天に放たれる。

『ガッ!?』

豪炎を宿すヴライの剛腕の灼熱に、苦悶を漏らすオシュトル。
ヴライはというと、捻じり上げた腕をそのまま、身動きが取れないオシュトルの頭蓋に、もう一方の拳を叩き込む。

ド ン ッ !!

まるで、大地が爆ぜたような殴打音。
瞬間オシュトルの頭の中では、星が煌めき、意識が明滅した。
しかし、それも束の間。すぐに意識を直したオシュトルは、追撃のために振り上げられたヴライの炎拳が迫る前に、四肢を全力で動かし、その拘束から脱する。
瞬時に、大きく後退し、距離を取らんとするオシュトルであったが―――

『――ッ!?』

刹那、眼前に迫るは巨大な火球。
無論、ヴライが間髪入れず放ったものである。
咄嗟に両掌を眼前に翳して、水の障壁を展開。

『グゥオオオオオオオオオ!!』

圧倒的質量を孕んだ炎塊に圧されつつも、水の障壁を維持し、完全に防ぎきるオシュトル。
炎球が消失した後、反撃のための水塊を放出せんと、その両掌に力を籠めんとする。
しかし、視界には既に黒の巨獣の姿はなく―――

『ヌゥン!!』

間髪入れず、オシュトルの頭上からヴライが降り立ち、剛腕を鉄槌の如く叩きつける。

ド ン ッ !!

オシュトルは、再び脳天に凄まじい鈍痛を味わうと、勢いそのまま、垂直方向へと叩き落とされる。
しかし、地面に衝突する寸前で、反転―――どうにか持ち堪えると、頭上を見上げ、改めてヴライに対峙する。
しかし、黒の巨像の猛攻は止まらない。

『ナッ―――!?』

目を見開くオシュトルに迫りくるは、炎槍の雨霰。
咄嗟に横方向へと滑空をしながら、これを躱していく。

『ドウシタ、オシュトルゥゥゥゥ!!
汝ノ力ハ、ソノ程度カァア!!』

自身に二度も土をつけた漢の実力は、この程度ではない---。
そう言わんばかりに、ヴライは怒涛の勢いで炎槍を投擲。
大地は忽ちに爆撃に晒されていき、爆炎とともに、大規模なクレーターが穿たれていく。

(……強い……、流石は、剛腕のヴライ……。
兄貴が『ヤマトの矛』と讃えた漢……)

地を滑るように滑空し、どうにかして爆撃の雨を避けていくオシュトル。
引き続き炎槍を投擲しながらも追尾してくるヴライに向けて、ウォーターカッターを連射しつつも、その猛撃に、オシュトルは内心で舌を巻く。
この姿で、ヴライと相対するのは二度目となるが、こと一対一の闘いでは、前回同様、ヴライに分があると言わざるを得ない。
巨躯に刻まれたダメージも、オシュトルとは比ではなく、満身創痍であるはずだが、それをまるで感じさせない。
まさしく、ヤマト最強―――。亡き友に倣わんがため、武芸に研鑽を重ねて間もないオシュトルであったが、一人の武士として、ヴライの武勇には、脅威を感じるとともに、畏敬の念すら覚えるのであった。

(……だが、ここで圧し負ける訳にはいかない……!)

無数の炎弾と水弾が衝突し、高熱の蒸気が戦場を満たす中、オシュトルは自らを奮起させると、地を踏み抜き、突貫。

『ウォオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
『ヌゥウ!?』

それまで接近戦を嫌い、遠距離攻撃に徹していたオシュトルが、突如として反転―――己が懐へと飛び込んできたことに、虚を突かれるヴライ。
オシュトルはそんなヴライの心の臓目掛け、右掌に圧縮した水流を、ゼロ距離で叩きつけんとする。

しかし―――

『笑止ッ!!』
『ナッ!?』

ヴライが、咄嗟にその巨躯を捻転させると、オシュトル渾身の水撃は彼方へと逸れてしまう。
そして、そのまま身体の回転とともに繰り出されるは、必滅の炎槍握る剛腕。

『コレデ終イダ、オシュトルゥゥ!!』

今度はオシュトルの胸元を穿つべく、炎槍が唸りを上げて迫る。
オシュトルもまたこれを躱さんと、身を捻らんとするが、時既に遅く―――

ド ガ ン!!

『ガハッ―――』

触れるものを灰燼にした上で、炸裂した炎槍。
ゼロ距離からのカウンターは、白の巨像の胴部に大穴を空けると同時に、その巨躯を吹き飛ばして、大地に仰向けに転がした。

ズシン ズシン

倒れたオシュトルの元へ、ヴライは歩を進めていく。

(……くそっ……しくじった……)

振動と共に、近づいてくるヴライの気配を感じながらも、オシュトルが起き上がることが出来ない。
もはや、勝敗は決した。
先の一撃は、致命傷だった。
胸元に穿たれた大穴からは、何か大事なものが溢れていく感覚を覚え、脳が身体を動かすための信号を送ったとしても、もはやこの巨躯がそれに応じることはない。
やがて、虚になりつつある視界に、黒い影が映り込む。

『先ニ逝ケ、オシュトル……。
地獄(ディネボクシリ)デモ、マタ闘リ合オウゾ……』

まるで、生気を感じさせない眼光で自身を見上げる宿敵。
ヴライはそんなオシュトルを見下すと、とどめを刺すべく、炎槍を振り上げた。

その時だった―――

「ハクーーーーッ!!」
『ッ!?』

絶叫が木霊すると同時に、金色の塊が、弾丸の如く、ヴライの懐に飛び込んできた。
眼下の宿敵に気をとられていたヴライは、咄嗟に反応できず、直撃。

ド ン!!

『グッ――!?』

予期せぬ衝撃に、ヴライの巨躯は大きく仰け反った。
咄嗟にギロリと、そんな自身の懐に飛び込んだ存在を睨みつける。

「―――絶対に、殺させないっ……!!」

視界に捉えたのは、金色の闘気を放つクオン。
この戦場で、幾度も拳を交わしてきた少女は、衝突の反動で、大きく後ろに空に吹っ飛ぶも、素早く空中で体勢を整える。
そして再び、ヴライの元へと降下すると、その頭蓋目掛けて回転蹴りを繰り出さんとした。

『マタ、汝カ―――』

しかし、その蹴撃が顔面に叩き込まれる寸前。
怒れる怪獣が、その巨躯を再び起こすと―――

『漢ノ死合ニ、水ヲ差スカ、女ァアアアアアアアアッッッ!!!』

激情のままに、剛腕を振り下ろし、自身の数十分の一にも満たないサイズの躰を叩き落した。

「――ごほっ……!!」

地面に叩きつけられたクオンは、衝撃で、肺の中の空気を強制的に吐き出させられる。
それに続いて色鮮やかな鮮血が、口から溢れた。
ヴライの打撃自体は、発現している『力』によって緩衝されたが、その『力』の酷使によって、器たる彼女の身体は悲鳴を上げ、吐血という形で、その限界を知らせていた。

(……クオン……!!)

仰向けとなっていた首を横に動かした、オシュトル。
霞む視界の中で捉えたのは、ボロボロの状態でも、尚、全身を震わせながらも立たんとするクオンの姿。
このままでは、クオンが先に殺されてしまうのは明白だ。

(――せめて、クオンだけでも……)

どうにか、生き延びてほしい――。
その一念でオシュトルは奮起する。
だが、その想い虚しく、死体も同然の巨躯は最早動かず。
己が非力を恨みつつ、意識が途切れるのを待つ他なかった。

【彼ノ者ヲ、護リタイカ……?】

その時だった。

(……っ!?)

突如として内より響く、何者かの声。
聴覚からというよりは、意識の奥底に、直接囁きかけてくる声は、無機質―――声色も分からぬため、声主が男性なのか、女性なのかも定かではない。
得体の知れないその囁きに、オシュトルは閉じかけていた瞼を、大きく見開いた。

(……誰だ……?)

死期が迫ったが故の幻聴か。
そう訝しみながら、オシュトルは問いを投げ返した。

【我ハ、汝ノ内ニ在リシ、願望ヲ叶エル断片ナリ】

(……願望を叶える断片だと?……)

答えが返ってきた。
しかし、突拍子のない返答にオシュトルは困惑を覚える。
そんなオシュトルを他所に、声は淡々と語り掛ける。

【然リ……。時ヲ渡リシ旅人ヨ、今一度、問オウ……。
汝ハ、アノ娘ヲ護リタクハナイノカ……?】

声に唆されるままに、今一度、視線をクオンに向けた。
辛うじて、立ち上がるクオン。
しかし、今一度その身に金色を宿すと、血反吐を吐いて、膝を地につけた。
ヴライはそんなクオンを見下し、巨拳を振り下ろす構えを取る。

(――ああ……、護りたい……!!
自分は、クオンを護りたい……!!)

得体の知れない存在に、オシュトルは首肯した。
すると声は、その答えを待っていたかのように、再び語り掛ける。

【ナレバ、根源ニ『力』ヲ求メヨ。汝ガ求メレバ、我モ力ヲ貸ソウ。
シカシ、ユメ忘レルナ。汝ハ既ニ、十全ニ『力』ヲ引キ出シテイル。
コレ以上ノ『力』ノ捻出ハ、汝ノ身ニ破滅ヲ齎ソウ……】

(――構わない……!!
黙ってこのままクオンを見殺しにして、朽ち果てるくらいならば……!!)

本音を言えば、この声の主に対する疑念は晴れていない。
しかしながら、今この胡散臭い存在を訝しむ猶予など残されていはい。
万に一つでも、事態を打破する可能性があるのならば、それに賭けたい。縋りたい。
僅かな逡巡を経て、オシュトルはそのように結論づけ、己が覚悟を打ち明けた。

【良カロウ……ナラバ、求メヨ、彼ノ者ヲ救ウタメノ『力』ヲ……!!】

無機質な声からどことなく満足したような感情を感じ取ったと同時に、オシュトルは内より活力が湧き起こるのを感じた。
胸の奥底から湧き上がる、灼熱のような衝動。
それがオシュトルの全身に行き渡ると、

(……『仮面』よ、我は更に求む―――)

内なる声に唆されたままに、『力』を求めた。

(我が魂を全てを喰らいて、天元を超えし天外の力を示せっ――』

この窮地を脱するために。
そして、何よりも、自身を想う一人の女のために。

『我ヲ……チカラ深淵ヘト導キタマエ……!!』

死に体も同然だった白の巨躯が、大きく躍動し、立ち上がった。
胸に空いていたはずの大穴は瞬く間に、塞がっていく。

『ナ、ニッ……!?』
「……ハ、ク……?」

再起したオシュトル。そして、癒えていく致命傷―――その異常事態を目の当たりにして、ヴライもクオンも、驚愕に目を見開く。

『更ナル深淵ヘト……我ヲ――』

白の巨像の全身が、煌めき始める。
同時に、オシュトルは心地の良さとともに、途方もない力が無制限に雪崩れ込んでくる感覚を覚えた。

そして―――

『ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!』

空間を軋ませるかのような咆哮を上げると、オシュトルは、大地を蹴り上げた。
瞬間移動と見間違うばかりの速度で、ヴライの懐に飛び込んだ白の巨像。
黒の巨像も即座に、黒炎の豪腕を以って、これを迎撃せんとする。

ド ォ ン !!

だが、炎拳が振り降ろされるよりも先に、オシュトルの拳がヤマト最強の顎を突き上げた。

『……ガァッ!? オシュトル―――』

ド ォ ン !!

仰け反ったヴライが体勢を戻すよりも早く、もう一方の白の剛腕が容赦なく叩き込まれる。
拳打の速度は、先程までのそれを遥かに凌ぎ―――右拳、左拳が交互に、機関銃の弾丸の如き勢いで、その巨躯に叩き込まれていく。
空間が爆ぜるかのような衝突音が、怒涛の勢いで連続し、黒の巨像が前後に激しく揺れる。

『グッ、ガッ……!?』

一撃一撃に、黒の巨躯が軋みを上げていく。
『根源』の最後の扉を開いたオシュトルは、ものが違った。
身体能力、反応速度、出力、全てが別次元の領域に到達しており、もはやただの『仮面の者』では太刀打ちできない。

『ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

だが、しかし――

ド ォ ン !!

『――ガハッ!!』

ヤマト最強とうたわれるものは、ただの『仮面の者』にあらず。
オシュトルの打撃の嵐を浴び続け、仰け反りながらも、膝を屈することなく。
その拳を握り続け、渾身の一撃を、眼前の宿敵の顔面に叩き込んだ。
理不尽なまでに強大な力を前にしても、その闘志が折れることはない。
むしろ、それを更に燃え上がらせ、仰け反ったオシュトルへと、追撃の拳打を撃ち込んでいく。

『ウハハハハハハハハハハハハッ!! 愉快……愉快ゾォッ……!!
我ヲココマデ滾ラセルトハ、流石ヨ、オシュトルッ!!』

昂ぶる感情とともに、闘争を貪っていく、黒の巨獣。
己が磨き上げた武(ちから)のみを頼りとする、その姿こそ、まさに武頼(ヴライ)。まさしく、闘争の権化。

『ヴライィッーーー!!!』

しかし、オシュトルも地を踏みしめ堪えると、再びその拳を打ち放っていく。
やはり、その連打の速度は尋常ではないが、それに負けじと、ヴライもまたオシュトルの拳によって脳を揺らされながらも、重厚な連打を見舞っていく。

ド ォ ン !! ゴ ォ ン !! ガ ォ ン !! グ ォ ン !!

互いに防御を一切顧みない、愚直なまでの正面衝突。
爆音にも似た衝突音と同時に、両雄の肉片や血飛沫が、周囲に四散していく。

『ウォオオオオオオッ、オシュトルゥゥゥゥゥッーーー!!』

だが、やはり根源の全ての扉を開いたオシュトルの地力は、ヴライのそれを遥かに上回っていることには変わらない。
徐々に、徐々に、黒の巨像は後退していき、その剛拳も、威力が弱まっていく。
気合いと共に、どうにか持ち堪えんとするが、やがてそれも限界に達し、頭の芯を捉えた正面打を以って、その巨躯は弾かれるように大きく後退。

『幕ヲ下ロソウゾ、ヴライッ!!』

その隙を見逃すまいと、オシュトルはその手にドリル状の水流を纏わせ、ヴライの胸部を穿たんと、疾駆。

『否ッ!! 我等ガ闘争ハ、コレカラゾォ、オシュトルゥゥッ!!』

ヴライも、即座に体勢を立て直し、これに反応。
その拳に炎球を宿らせ、オシュトルを迎え撃つべく、その剛腕を振りかぶると、炎拳と水拳が正面から衝突。
戦場に、二色の野太い咆哮が響き渡れば、全てを灰燼にする猛炎と、全てを穿つ水流が、互いに押し合い、鍔迫り合いの様相を呈する。

『グ……、ヌゥウウウウ……!!』

しかし、それも数瞬のこと。
水の拳が、炎の拳を押し返していき、地を削りながら、ヴライの巨躯を押し込んでいく。
今や、単純な力比べでさえも、オシュトルに軍配が上がる状況となっていた。

『仮面(アクルカ)ヨ……、更ナル力ヲ、我ニ……!!』

だが、それでも尚、黒き巨獣は抗わんとする。
闘争心を滾らせ、歯を剥き出しにして、更なる力を求め、己が仮面に呼びかける。

『我ガ魂魄ヲ更ニ喰ライテ、更ナル力ヲ差シ出セッ!!』

不屈の闘志の根幹にあるのは、ただ一つ―――この死合において、眼前の宿敵を打ち負かせたいという、純粋な我儘だけ。その宿願を果たさんが為、更なる力を漢は欲した。
そして―――

『オオオオオオオオオオオオォォッーーー!!』

黒の拳が宿す火球は、たちまちに肥大化。
それとともに、水流を纏うオシュトルの拳を、圧倒的質量を以って押し返し始める。

『グゥ……!! ヴライ……貴様ハ……!?』

―――“窮死覚醒"。
この殺し合いの地で取得した、所謂『火事場の馬鹿力』の特性は、それまで劣勢に立たされていたヴライの出力を限界突破させ、根源の深淵へと至った『仮面の者』ですら凌駕する力を与えた。
今の今まで、圧倒していたはずのオシュトルは、その底力と自身の巨躯が後退しつつあるという事実に、目を見開く。

(……クオン……!!)

それも束の間。
地に膝をつき、呆然と此方を見上げるクオンの姿を視界の隅に捉えるや否や、オシュトルは脚に踏ん張りを効かせて、踏みとどまる。

『某ハ……、敗レル訳ニハイカヌノダァッ!!』

ボロボロの状態のクオン。見ているだけでも、痛々しい。
もうこれ以上、彼女を傷つけせたくない―――。
絶対に護ってみせる―――。

そんな想いと共に、己が拳に更なる力を込めると、拳に纏わる水流は、その体積と勢いを増大。
黒の拳と、それに宿る火球の質量を押し返すと、拮抗の状態に持ち直した。

『フハハハハハハハッ!!
ヤハリ、ドコマデモ愉シマセテクレル漢ヨ……!!』

己が限界を越えた出力で押し切ろうとしても尚、押し通せない。
食らいつくオシュトルに、ヴライは喜悦を滲ませながら、その剛腕に全身全霊を込めていく。

『ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』

吼える両雄。巨拳による鍔迫り合いは、尚も続く。
二人の『仮面の者』が織り成す、圧倒的質量の豪炎と、螺旋を帯びた激流のせめぎ合い―――その衝動の余波は、周囲に散らされていき、地は揺れ動き、飛び散った炎と水の断片は、暴風の如く、破壊の爪痕を刻んでいく。
それは、さながら天地鳴動の光景であった。

ピシリピシリピシリ―――

しかし、その均衡は、長くはもたなかった。

『ヌゥウウッ!?』

突き立てる己が拳に生じる異変に、ヴライが唸る。
全身全霊を込めている剛腕は、蜘蛛の巣状に亀裂が走っていき、割れ目からは白い粒状のものが溢れ、大気へと霧散しているのだ。

―――“窮死覚醒"を基にした根源からの、限界を超越した『力』の入出力。

例えるならば、容量が定められた器を以ってして、爆発的に許容量を大幅に超過する水を流出入させる様なものだ。
己を顧みることなく、そのような過剰強化を、幾度も発現するようなことがあれば、当然決壊は免れない。
今まさに、その決壊の瞬間が、ヴライの身に訪れていた。

『――マダダァッ……!! マダ……我ハ、闘エルゥッッッ!!』

怒号を張り上げ、尚も剛腕を押し込もうとするヴライ。
それに比例するかのように、火球も膨れ上がっていき、その質量を加速度的に増加させ、オシュトルを圧迫していく。

パリン―――

しかし、そんなヴライの執念も虚しく、剛腕はガラスが砕けるような音と共に、決壊。
大火球を宿したその拳は砕けたまま、天上と弾け飛んでいった。

『終ワリダ、ヴライィイイイイイッッーーー!!』

宙に舞い上がった大火球が爆発を起こし、夜天が白に染め上がり、天地が鳴動する中、オシュトルは勢いそのままに、ヴライの胸元に水流を纏った拳を叩き込んだ。
ドリル状の水流は、黒の巨塊に穴を穿っていく。

『グオオオオオオオオオッッッッ―――』

断末魔の咆哮を上げる、ヤマト最強。
白の巨腕は、その胸元に大穴を貫通させるや否や、ダメ押しとばかりに、大筋の水流を噴射。
黒の巨躯全てを飲み込まんとする勢いで、圧倒的な水圧を以ってして、吹き飛ばした。

『オシュトルゥゥゥゥゥゥッッーーー!!』

片腕を消失し、致命傷を負わされたヴライには、もはやなす術なく。
水流の勢いに飲まれたまま、夜の闇の向こう側へと、溶けて消えていくのであった。

『--ハァ…ハァ……』

やがて、戦場に訪れるは、夜の静寂。
肩で息をしていた白の巨像は、黒の再来に備えて、身構えていた。
しかし、その気配はもはやない。

(……終わったか……)

手応えはあった---巨躯が飲み込まれたであろう夜の闇の向こうを睨みつけながら、闘争の終焉を実感すると、オシュトルは肩の力を抜く。
途端に、その巨躯は眩い光に包まれる。

「――ハク……」

背後から、聞き慣れた声が聴こえてくる。
どこか安心感を覚える声色。
自分が、長い眠りから目覚める時に聴いた声。

(……そうだ……。もう一つ、ケリをつけないといけないことがあるんだよな……)

変身が解かれて、元の人間の姿へと戻った青年は、背後を振り返る。
そこには、こちらを心配そうな眼差しで窺う少女が佇んでいた。




「……見事だ……、オ、シュトル……」

瓦礫に背を預け、座り込んだまま、血反吐とともに掠れた声で呟くは、剛腕のヴライ。
その姿形は、オシュトルと同様に、元のヒトの姿へと収まっていた。
オシュトルとの激闘の果て、全身に水流を浴び吹き飛ばされてしまった彼は、勢いそのまま、一エリアを跨いで、市街地に聳え立つビルへと激突。
大地に撒かれた瓦礫の上にて、変身もまた解除され、鎮座していた。

先の激闘の爪痕は、その肉体に深く刻まれており、片方の視界は奪われ、その片腕は消失し、胸元には大きな風穴が穿たれており、もはや立ち上がることは叶わない。

「……汝との、死合……、存分に、堪能したぞ……」

ヤマト最強の武士は、敗北した。
決定打は、自身の肉体の酷使による崩壊―――そこからの一撃であったが、この結末に対して悔恨はない。
己が認めた強者と、互いに全力以上を出し尽くし、戦い、そして、敗れた。
一人の武士として、充足感に満たされる、清々しさすらあった。

「……抜かるなよ……、オシュトル……」

あの“御方”が愛した國を統べるに相応しいのは、己かオシュトルの、何れかの勝者だ。
そして、勝ち残ったのはオシュトル。
力を以って全てを制すべきという、己が覇道とは決して相入れぬものではあるが、勝者であるが故、奴の在り方も認めざるを得ない。
故に、ヤマトの次代を託す。貴様は、貴様のやり方でヤマトを治めてみせよ、と。

そして、見事ヤマトを導き、己が生を全うしたその後は―――

「……地獄(ディネボクシリ)で、待つ……」

再び相見える、その瞬間を心待ちに。
ヤマト最強とうたわれた漢は、その生涯に幕を下ろした。
その死に顔は、目を見開いたままの能面。憤怒の色も、悔恨の色も、ましてや喜悦の色などもなく。
しかし、どことなく、微かな穏やかさを感じさせるものとなっていた。

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