バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

最後に笑うは

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kyogokurowa

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「…………。」

 垣根は、病院内にあったCTスキャンを利用して、首輪の解析を開始していた。ピコピコと、垣根の命令の通りに機械を動かすシルバ。
 薬品棚の上に座り、うつむいたビエンフー。
 そんな中、足を組んで椅子に座った垣根のやっていたのは、読書だった。
 パラパラと、何やら本のようなものをめくっている。

「垣根さん……何を読んでいるんでフか?」

 この静寂に耐えきれなくなったビエンフーが聞くと、

「あ? …………名簿だよ。」
「名簿? 参加者のでフか?」
「ああ。アイツらの遺品を整理していた。……使えないものを持っていく余裕はないからな。」
「それで、名簿でフか?」

 そう問いかけるビエンフー。

「ああ。コイツは黒いやつ、リゾットの持ってた名簿だ。顔写真付きのな。」
「顔写真…………。もしかして!!」
「ああ。スクールを襲った怪物は、鬼舞辻無惨ってやつ見てぇだな。あの白いやつは累。そして、」

 名簿にあったのは、富岡義勇、錆兎、煉獄杏寿郎の文字。

「写真の服装から見て、こいつらは奴と同じ時代の人間だ。」

 病院にあった赤ペンで、煉獄と錆兎の写真に×をつける。

「前回の放送でコイツらは呼ばれた。だからこの二人はアウト。残ってんのは富岡ッつう奴だ。」
「その男を探すんでフか?」
「ああ。奴が無惨の敵なら弱点を話してくれるだろうし、奴が無惨の味方なら捕まえて拷問して吐かせるまでだ。容赦はしねぇ。」
「垣根さん……。」

 ビエンフーの目に映る垣根の瞳には、闘志が宿っていた。

「俺は、学園都市の暗部にいる最低の人間さ。クソ野郎だ。」
「…………。」

「敵討ちとかいう高尚な目的なんざ持ち合わせちゃいねぇよ。」

 リゾットの残した写真付き名簿を閉じ、そういうのは期待するなと立ち上がる。

「だがな、許せねぇのさ。」
「フ?」
「あの野郎が、舐め腐って俺だけ残して一人勝ちした気になってのうのうとまだ息をしてることが許せねぇ。いいか、覚え解け帽子野郎。最後に勝つのはスクール俺たちだ。」
「す、スクール?」

 マギルゥがそこに所属することになったのは道中に聞いていた。だが、

「スクールは、もう無いのではないんでフか? あの金髪の彼も、黒い人も、姐さんも…………。」

 ガンッ!!

 と、垣根は壁を殴りつけ、ビエンフーの言葉を黙殺する。

「ああ死んださ。でもな、」

 垣根は金色のケージを見る。リゾットの支給品に入っていたケージには、ジョルノが残した蛇がある。

「アイツらが残したものもある。アイツらの意志は死んでねぇぞ。」

 そう言うと、シルバから、

「終わりました。」

 と、無気力な声がした。

「ああ。そうだったな。」

 垣根はそう言い、シルバに近づく。

「テメェもだ。俺の指示でしか動かねぇ木偶のお人形はいらねぇ。『お前は、お前で考えて動け。』」

 垣根がそう言うと、シルバのうつろだった瞳が急に色を帯び、シルバは倒れこんだ。

「おい、どうした?」

 屈みこんだ垣根だったが、起き上がったシルバは、うぅ……とうなってから、

「ここは……。」

 と呟いた。

「……どういうことだ?」

 首をかしげる垣根。すると、

「おそらく、封じられてた自我が、垣根さんの命令で解除されたんでフ。」
「解除?」
「その子には見覚えがあるんでフよ。」

 と言い、エレノアがまだ聖領の対魔士だったころに会った、テレサという対魔士の聖隷だったとか。話によると、災禍の顕主の一人、聖隷ライフィセットも、彼女の聖隷だったんだとか。

「おそらく、ここに来てた時点で、この聖隷には『自我を出してはいけない』みたいな命令があったんだと思うんでフ。」
「マギルゥは解除しなかったのかよ。」
「忘れてたんだと思いまフ。」

 まったく、抜けてるやつだぜ。 と、吐き捨てるように言ってから、

「俺が命令したから、それが解けた。ってことか?」
「多分、そうでフ。……アレ? と言うことは、今のボク達の主は、垣根さんと言うことになるんでフかね?」

 と、不思議そうに首をかしげる。

「一応聞くが、聖隷の主が死んだら聖隷はどうなるんだ?」
「……契約のない聖隷になりまフ。でも、長い間契約のないフリーの聖隷でいると、穢れと言う物に蝕まれてしまうんでフ。」
「……だが、シルバは俺の命令で自我の抑制を解除した……どういうことだ?」

 顎に手を当てる垣根。しばらくしてから、おろおろと二人を見ているシルバを見て、

「チッ。おいビエンフー、命令だ。」
「エッ!?」

 その命令にまっすぐ直立してしまうビエンフー。

「コイツにいろいろ教え解け。木偶人形はいらないが、何も出来ねぇ足手まといもいらねぇ。しっかり教育しろ。いいな?」

 と、指を立ててそう言ってから、CTスキャンの場を出ていく。

「あ、ちょっと!! スキャンの結果をって、消えたでフ!?」

 目を丸くしてそう言ってから、おろおろするシルバを見て、

「ああもう仕方がないでフ!!」

 と言って、シルバの元へ向き直った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 垣根は階段を降り、病院の一階に来ていた。

「アイツらが俺の命令に従うってことは、俺とアイツらは契約してるってことになる。だが、そんなことをした覚えも、そもそも俺には聖隷の知識しかねぇ。じゃぁ、これをしたのは誰だ?」

 答えは一つしかない。

「マギルゥ。アイツが、俺に契約を移したのだとしたら?」

 あの死の間際、死を悟ったマギルゥが、彼に最後の手品を施したのだとしたら。

「だが、奴はほぼほぼ即死だった。そんな時間があったようには思えねぇ。いや……待てよ?」

 術式を組んで、スイッチを押し、発動させるまでの時間があったとは思えない。だが、スイッチを押すだけなら?

「奴はもともと、死んでもいいように術式を組んでいた? いつから?」

 ここに来る前からだろうか? しかし、一度離れていたビエンフーと解約されているところを見るに、そう言った術式は解約されているはずだ。

「じゃぁ……何だってんだ?」

 考えるが、うまくアイデアが浮かばない。

「そもそも、別世界の人間に何で譲渡が出来る?」

 それもわからない。

「……やっぱ、こういうのに詳しい奴に聞くしかないか。候補は対魔士、いや。ビエンフーに聞くのが手っ取り早い。」

 そう呟くと、垣根は、それにしても、と、少し思案を巡らせる。

『後は頼みます。』

 死ぬ間際のジョルノの言葉の後ろには、垣根。と、彼の名が入っていたような気がした。

『垣根。』

 罠から彼を助けた冷ややかなリゾットの瞳。復讐を果たせず、虚空を掴んだその手と悔し気なその瞳の中に残っていたのは、悲しみのように見えた。

『垣根や。』

 そして、のーてんきなマギルゥの呼び声。自分の大切な部下であり相棒である聖隷を、誰にも気が付かれず託した彼女の鬱陶しかったジョークは、今はもう永遠に聞くことはかなわない。

「クソが。」

 呟いたその言葉には、一抹の悔しさが残っていた。

「どいつもこいつも、好き勝手に俺に託してい無くなりやがって…………!!」

 垣根は自分を最低の人間だと自称している。目的の為ならば民間人を巻き添えにすることも、どんな非道な手段を取ることもいとわない漆黒の意志が、彼の中には確かにある。
 正直なところ、彼らが死んだことに心すら痛めていない。
 人選間違えてんじゃねぇよ。とボヤいてから、

「オイ、どうせ見てんだろ、アレイスター!!」

 真昼の山で、垣根は吼えた。

「見てやがれ!! 俺たちを散々おもちゃ扱いしてくれたクソどもが!! テメェら絶対殺すからな!! あの触手野郎も、第一位も、すべてを下して頂点に立ってやる!! 俺たちだ!! 最後に笑うのは、俺たちだ!!」

 そう叫び、ハァッ、ハァッ、と息を継ぐ垣根に、

「おーおー、ずいぶんとうるさい決意表明だな。」

 と、声がした。

「誰だ、テメェ。」

 睨んだ先の茂みから現れたのは、顔の一部が黒い着流しの男。

「ただの通りすがりの業魔だよ。」

 そう言って現れたのはロクロウだ。どうやら遺跡に向かう最中で、垣根の吼え声を聞いてここまで登ってきたみたいだ。

「……そのツラ、ロクロウ・ランゲツか。」
「何故知ってる? まさか、俺を知る誰かにあったのか? 誰だ?」

 名前を言い当てたことで、ロクロウが垣根に近づいた。そんなロクロウに垣根は、

「女の魔法使いだよ。」
「おう。マギルゥがいるのか。どこにいるんだ?」

 期待に膨らませた表情を張り巡らせた彼に、垣根はそっぽを向き、

「いや、もういねぇ。」
「そうか…………。」

 そう言うと、ロクロウは残念そうな顔をした。

「死んだ。生き残りは俺一人だ。」
「にわかには信じがたいな…………。」

 そう呟く。

「ああ。来い。アイツを含む俺の仲間三人が残した、首輪の鑑定が終わる。」
「ん? いいのか? あったばかりの奴を信頼して。」

 そう声を上げるロクロウに、

「アイツ……マギルゥから、お前の話は聞いている。切ることにしか脳のない奴だとな。」
「俺は……そういう業魔だからな。」

 ロクロウはそう言って、病院の中に行く垣根に付いていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……そんな…………。」

 シルバは、ビエンフーから知らされたすべてに、絶望していた。この殺し合い。気が付いたらそんなところに放り込まれて、今もなお、どこかで誰かが死んでいるかもしれない。もう、彼の元主人も死んでしまったと。
 そんな現実に、見た目相応の、いや、それよりも下かもしれないような精神年齢の少年が、受け入れられるものではないだろう。

「……気持ちは、わかるんでフ。」

 ビエンフーが、暗い顔で呟く。

「おい、戻ったぞ。」

 そこに、垣根が帰ってきた。ロクロウを連れて。

「あ、垣根さん……って、ロクロウ!?」
「ビエンフー。……マギルゥは本当に…………。」
「…………。」

 うつむいたビエンフーの態度で、ロクロウは認めたくな事実を、あの愉快な魔導士の死を、痛感することになった。
 そんな彼らをよそに、首輪の解析データの置かれたコンピューターの前に座った垣根は、キーを走らせる。

「……なるほど、なぁ。」

 と、笑みを浮かべる。

「首輪の仕組みが分かったぜ。」

 そう言って、ロクロウの方を向き直った。

「何だとっ!?」

 真っ先にそれに真っ先に反応したのはロクロウだ。

「ああ。クソほど下らねぇ。そしてムカつくぜ。これだ。」

 スキャンした首輪の中身は、空洞だった。

「首輪の中にご丁寧に製品の説明が書かれてやがる。俺たちに配られた支給品みたいにな。」

 裏側には、文字でこう書かれていた。

 μ特性!! 参加者用特殊首輪。

 この首輪はメビウスをベースとした世界で生み出された存在を消去するために存在する、緊急手段です。
 これにより、仮想世界での作られた存在である彼らのデータそのものを強制的に【消去】することが可能となります。
 また、削除対象に『死』を認識させるため、削除と同時に爆発が発生します。危険なので、首輪の削除機能を始動させてからは、対象から離れるようにしてください。起爆までは十秒ほどの猶予時間があります。
 また、首輪には緊急解除コードが存在します。
 もしもの場合は、緊急解除コードを利用して首輪を外すなりしてください。

「メビウス? 削除? 『死』の認識?」

 何やら難しい言葉が使われているな。首をかしげるロクロウに、

「大事なのは緊急解除コードの方だろうが。」

 と、垣根はつぶやく。

「確かにな。それにしても、緊急解除コードなんてどこにも書いてないぞ。」
「首輪の解除方法だって書いてねぇ。解除コードを言うだけで外れるなら、何かの拍子で外れかねないからな。何か手順があるんだろうが、」
「まぁ、連中は教える気なんざさらさら無いだろうな。」
「そういう訳だ。」

 そう言って、ロクロウに、

「そうだ。この名簿の中に、×のついてない対魔士はいるか?」

 と、通常の名簿を見せる。写真付き名簿を見せるのは、マギルゥの元仲間とは言え少々リスキーだ。

「う~む。居るとすれば、シグレとオスカーとかいうのの二人だな。」
「そういや、あいつの名前もランゲツだったな。」
「あいつ? 知っているのか?」

 その時、ロクロウの空気が変わった。

「ゲームが始まったばかりの頃にやりあった。」
「どうなった!?」
「邪魔が入った。その後は知らねぇ。どこへ行くとも言ってなかったしな。」
「そうか……行先は知らないか。」
「探してんのか? お前、災禍の顕主の仲間だよな。」
「おう。俺はシグレを超える。超えなくちゃならんのでな。」
「ハッ、どおりで兄弟そろってデカい剣ぶら下げてるわけだ。」
「ん? 號嵐の事か?」

 と、背中の太刀の方に顔を向けて。

「あ? お前が持ってたのか?」

 そう問いかけると、

「あいや。コイツは影打だ。シグレが探しているのは、真打だろうな。」
「同じ名前の剣が2本あんのか。」
「同じじゃない。真打と影打だからな。」
「俺には違いが分からねぇな。」

 そう言って肩をすくめる。

「……俺たちはそろそろ行く。やるべきことができた。」

 垣根はそう呟いて立ち上がり、カバンの中に広げた荷物や首輪の解析データ。それらをしまっていく。

「お前にも予定があんだろ? 俺についてこいとは言わねぇ。そうだ。」

 何かを、ロクロウの方に投げた。

 「うおっ? これは……。」

 投げてよこしたのは、チョコラータの首輪。

「この首輪の謎がある程度分かった以上、そんなに大量の首輪はいらねぇ。俺の首輪の解除コードが書かれているわけでもねえしな。」
「そういう割には…………。」

 ロクロウは見逃さない。大量の首輪はいらないという割には、ロクロウに一つよこしただけで、

「アイツらの首輪は大切に持ってるんじゃないか?」

 その言葉に、出ていこうとした垣根は足を止める。

「うるせぇ。」

 そう言い、振り返った垣根の顔を見て、ロクロウは、

「……ひどい顔だ。」
「……うるせぇっつってんだろ。」

 いらだち気な垣根に、おお、怖い怖い。と気の抜けたことを言って、

「ま、お前がマギルゥの事を大切にしていた。と思っておいてやるよ。」
「妄想を語ってんじゃねぇぞ。」

 吐き捨てるようにそう呟いて、ビエンフーとシルバを引き連れて病室を出ていく。

「やれやれ、素直じゃない奴だ。」

 肩をすくめてそう言ってから、垣根が出て言った方向とは反対の方に、歩みを進めた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「まさか、やつを見失った後、破壊痕を見つけて追ってみたら、思わぬところでいいものと悪い知らせが来るとはなぁ。」

 ぽりぽりと顎をかきながら、チョコラータの首輪を眺めつつそう呟く。

「マギルゥ……エレノアに続いて、お前が死ぬとはな……。」

 虚空に向かってそう呟く。正直、彼女は抜けた性格をしているようで用心深い。

「ああいう女は死にづらいと思っていたのだが…………。もう、アイツの冗談を聞くことも、同じ演壇に上がることも出来ないのか。あれは意外と楽しかったのだが。」

 こういう時、心水でもあればなぁ。と呟きながら、男は歩く。

「それにしても、あの男は強そうだったな…………切りかかっても良かったが、マギルゥの仲間だからなぁ。」

 いかんな。どうもうだうだと考えがまとまらない。と、呟きながらロクロウは、遺跡を目指すのだった。時を同じくして、マギルゥの仇が、同じ場所を目指しているなどと言うことは、一切知らずに。

「まぁ、マギルゥを殺した奴は、おそらく強いのだろう。なら、仇討ちを兼ねて、ぜひとも手合わせしたいものだな。」

 この言葉を聞いたのなら、エレノアやマギルゥはなんというだろう。
 きっと、『また貴方(お主)はそんなことを……!!』とか言い出すにきまってる。そして、それに対するロクロウの答えも

「俺は、そういう業魔だからな。」

 そう呟いて、ロクロウは遺跡に歩みを進めた。

【E-6/草原/一日目/昼】

【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:健康、頬に裂傷、疲労(中)、全身ダメージ(中)、反省、感傷
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2 チョコラータの首輪@バトルロワイアル
[思考]
基本:シグレ及び主催者の打倒
1: シグレを見つけ、倒す。その後、『大いなる父の遺跡』にいるオシュトルの元へ、シグレの首輪を届ける
2: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
3: ベルベット達は……まあ、あいつらなら大丈夫だろ
4: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
5: シドー、見失ってしまったが、見つけたら斬る
6: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
7: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはってやるさ。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「…………。」

 やることを済ませた垣根は、病院を後にした。先ほど、何やら何かが落下する音がしたので、今度はその音の発生源を探しに行くつもりだ。その後ろを、ビエンフーと、不安げな顔をしたシルバが付いてくる。

「あの……垣根さん…………。」
「あ?」

 ビエンフーの声に、垣根はそちらを向いた。

「その……垣根さんは、スクールのメンバーは、どんな風に思っていたんでフか?」
「それは、この・・スクールの話か?」

 と言う問いに、ビエンフーは頷く。

「出会ってまだ一日どころか半日立ってるか怪しいくらいしか会ってねぇ。リゾットとかいう奴に至っては共闘こそしたが、出会ってほんの数時間ってとこだ。」
「…………。」

 垣根の言葉に、ビエンフーはうつむく。

「だから、俺はあいつらの死に思うところはねぇ。絆とかそういう物もありゃしねぇ。でもな、」

 垣根は言葉を続ける。

「ジョルノは、俺に蛇を託した。マギルゥは、俺にお前たちをよこした。リゾットは、何も託さず抱え込んで死んでったが、とにかく俺は託された。
 身勝手な奴らだぜ。託すだけ託して逝かれちまったら、文句の一つも届かねぇ。」

 そうこぼしてから、

「それはさておきだ、ビエンフー。俺に契約が移ったこと、どう思う?」

 と、問いかけた。

「う~ん、あくまで垣根さんは受け皿になっているんだと思いまフ。」
「受け皿? ああ、穢れとかいうやつか。」

 少し考えこんでから、さっきそんな話をしてたな。と考える。

「ただ、垣根さんから、対魔士になれる適性があるレベルの霊応力は感じないんでフ。」
「マギルゥからジョルノが倒れたのは見えなかったはずだ。何でジョルノじゃなくて俺に託した?」
「それは……想像が応きまフ。」
「あ?」
「多分、リゾットさんとジョルノさんには、あの力があったからじゃないかって。」
「スタンド、とかいうやつか?」

 そう、それでフ!! と、声を上げてから、ビエンフーは仮説を立てる。

「ボクは姐さんを通してジョルノさんと共闘してたので分かるんでフ。多分、あれは『精神エネルギーの塊』でフ。」
「つまり、ジョルノとリゾットの、いわば精神エネルギーの受け皿は、スタンドで埋まってた。ってことか。」
「穢れも、大きく見れば精神エネルギーではありまフからね。」
「ハッ、こいつが魔術じゃなくて異能で助かったってわけか。」

 背中に一対の翼を生やして皮肉気に笑う。

「そんな感じだと思いまフ。ん? 魔術?」
「聖隷術だったか?。」

 そう言うと、ビエンフーは、聖隷術でフ。と答える。

「それと、疑問が残る。アイツはほぼ即死だった。そんなことをする時間があったのか?」
「もしかしたら、姉さんは保険を残していたのかもしれないでフ。」
「保険?」
「はい。姐さんが死んで、僕たちが取り残された時の為に……。」
「油断も隙もねぇ女だったからな。死ぬ間際に、すでに構築していた術のスイッチを押すくらいなら出来た。ってわけか。」

 あり得るな。と垣根はつぶやく。

「そういやお前、対魔士になれるレベルの適性、とか言ってたな。どういうことだ?」

 その問いに、ビエンフーが説明をした。話によれば、もともと霊応力が無いものに、聖隷は見えなかったらしい。穢れが業魔を産むウェイストランドも、昔は突然人が狂暴化する、という認識だったそうだ。だが、

「開門の日と言う物を境に、人々の霊応力が上がって、聖隷を確認できるようになったんでフ。」
「そういや、スタンド使い意外にスタンドは見えないとか言ってたな。」
「だから、もしかしたら霊応力が高められているのかもしれないでフ。」
「なるほどな。」

 もしそうなら合点がいく。と、垣根は思案する。

「(あの首輪の説明文には、『作られた存在』っつう文面があった。つまり、俺達はこのデスゲームの為に作られた存在。コイツも、死んでいった奴も、あの触手野郎も、皆本人の代替品オルタナティブ。だとしたら、スタンドが見えるように、霊応力があるように、事前にデータを改ざんされててもおかしくない。だがな、)」

 垣根は笑みを浮かべる。

「(だったら俺が未元物質で多彩なことを出来るのも連中にとっては想定内だ。だが、いらねぇデータを改ざんしたことで、そこに隙が生まれる。)」

 そう。改ざんにより事実が歪めば、異常事態イレギュラーが発生する。

「(例えば、本来使えないものを使えるようになるのなら?)」

 垣根は考えついたたのだ。学園都市の世界ではありえない組み合わせを。

「おい、ビエンフー。俺は聖隷術が使えるか?」
「一応……僕らがサポートすれば、大きな術も使えるかも、というところでフ。シルバ君もボクも聖隷の中では優秀な方でフから。」
「なるほどね。なら、」

 未元物質の翼をはためかせる。

「コイツを聖隷術と掛け合わせることは?」
「聖隷術の媒介にするという意味なら……未元物質が読んで字のごとく物質なら可能でフ。」
「ならいけるな。」

 ジョルノにより生物が生み出されたように、未元物質は物質だ。

「(もし、これを見てるやつがいる仮定する。俺の考えではこの下らねぇ殺し合いショーを見物して楽しんでるやつらが100%存在する。あのテミスとかμとかってのはそいつらの下っ端にすぎねぇとも、俺は考えている。
 そう仮定すると、だ、十中八九、アイツは見てる。アレイスターは。そして、俺を作り出した時点で、俺では勝てない。いざと言う時は首輪で何とかすればいいと考えていやがるはずだ。)」

 だったらどうすればいいか? 答えは簡単だ。

「(首輪を外し、異常事態イレギュラーをおまけで起こす。そのために俺に必要なのは、解除コードを手に入れること、そして、未元物質を超える力を手に入れることだ。)」

 そして、それらすべてを利用して、眺めている奴らを引きずり下ろして叩き潰す。

「(俺は未元物質の事をよく理解している。これが圧倒的な力であることは違いないが、第一位を圧倒しうるほどの力ではないことも理解している。)」

 第一位一方通行には勝てる。その自信はある。だが、油断していたら自分が食われるだろうというのは、簡単に想像できる。だから奴は第一位なのだ。

「(聖隷術あの力は、超能力で見ればレベル4相当。とはいえ、今までマギルゥが俺の前で打った技の力の話だ。もっと威力の高い隠し玉があってもおかしくない。超能力者が言えたことじゃないが、あの物理法則を完全無視する力があれば、俺は更に強くなれる。だから……)」
「垣根さん? 何を考えこんでいるんでフ?」
「おい、ビエンフー。俺に聖隷術を教えろ。」
「えッ!?」

 ビエンフーが目を丸くした。

「何だ。そんな、豆鉄砲でも食らったみてぇな顔しやがって。」
「え、だって、垣根さんには未元物質があるじゃないでフか。」
「意外ってわけか。無敵に近い未元物質を持つこの俺が聖隷術に手を付けようってのが。」
「…………。」

 そのビエンフーの沈黙を肯定ととらえた垣根は、言葉を続ける。

「これは癪なことだしよ、俺自身思い返したり認めたりしようとするだけでハラワタが煮えくり返りそうではあるんだが……事実だからな。
 今のままでは足りねぇんだ。このクソゲーを乗り越えるにも、触手野郎をブッ殺すにも、この箱庭から飛び出して、クソッたれの主催どもをぶち殺すにも。」

 そういう垣根は、キツくこぶしを握り締めている。

「この世界で俺が成長しない限り、学園都市第二位の垣根帝督・・・・・・・・・・・・でいる限り、俺は奴らの手のひらの上だ。
 クソつまんねぇプライド守って死ぬ気はねぇ、それだけだ。」
「……分かったでフ。」

 ビエンフーの目も、鋭い光を帯びる。

「ボクも、マギルゥ姉さんを殺した奴は許せないでフ。こんなゲームを壊せるのなら、ボクも力になりたいでフ!!」
「よく言った。」

 垣根はそう言うと、笑みを浮かべて、

「改めて、契約成立ってところか?」
「はいでフ!!」

 そして、二人は手を握り合った。その後、細かい仕組みを聞き、垣根は簡単な聖隷術である【アクアスプリット】を試してみることにしたが…………。

「おい、コイツはどういうことだ……?」
「さすがにボクも予想外でフ……こんな……こんな……。」

 術式に未元物質を組み合わせたせいか、魔法陣が荒れ狂い、シルバ、ビエンフーを合わせた三人で辛うじて発動した【アクアスプリット】は、数本の木々をなぎ倒してから破裂したのだ。

「とんでもない威力になるなんて…………!!」
「オイ、これは本当に初級の術式なんだよな?」
「間違いないでフ!!」
「じゃぁそれの何がどうなったらこんなバカげた火力に……って、そういうことか。」

 ビエンフーに追求しようと垣根だが、頭の中である仮説が思いつき、追及をやめた。

「どういうことでフ?」

 首をかしげるビエンフーに、

「原因は未元物質コイツだ。」

 と、背中の翼を指す。

「これが、でフか!?」
「ああ。コイツは、何度も見せてきた通り、世界に実際には存在しない物質で、世界に存在している物質に影響を及ぼす。だから、」
「聖隷力にも影響を及ぼしたってことでフか!?」

 垣根の解説は合っていた。だが、いくつか抜けている部分もある。
 まず、大前提として、学園都市では、超能力者が魔法を使おうとすると、能力の回路の違いから、使おうとした能力者が大ダメージを受けるということが発生する。
 それを知っていたら、垣根は聖隷術に手を付けようとは思わなかっただろう。しかし、垣根は魔術の存在を知らなかった。
 では、何故垣根は致命傷を負わないのか。それは、魔術と聖隷術が別物であるからだ。決め手となるのは、垣根の未元物質と、聖隷術の使い方・・・の問題。
 魔術とは違い、聖隷術は聖隷なしでの行使はできない。超能力との回路が違うのは魔法聖隷術も同じだが、聖隷術は、聖隷が術式の行使をサポートする。よって、聖隷の回路さえあれば、回路の違いは問題じゃないのだ。
 さらに、垣根の未元物質も影響していた。

 マギルゥが式神を使っていたように、シルバの元の持ち主、テレサが杖で術式を操っていたように、聖隷術には媒介となるものが必要だ。そして、垣根が無意識のうちに選んだ媒介とは何なのか? 答えは決まっている。未元物質だ。
 そして、垣根の言ったように未元物質は他の者に影響を及ぼす。そして、未元物質は霊応力に影響を及ぼした。
 結果、術に使う力が増幅され、このような威力になったのだ。

「コイツは、切り札になるぜ。」

 そう言い、笑みを浮かべる垣根。

「…………。」

 一方、シルバはうつむいていた。

「おい、どうした?」

 垣根が声をかけると、

「……不安なんだ。」

 と、言う答えが返ってきた?

「不安だ?」
「今までテレサ様のもとにいて、テレサ様の命令で動いてきた……。
 テレサ様の元を離れた後も、メルキオル様の命令でずっと動いてきていた。急にここで目が覚めたと思ったら、もう味方だった人が死んでて、テレサ様もメルキオル様も居ない。
 …………自分で考えて動け。それが、新しいご主人様からの命令。でも、ボクは今までそんな事なんてしたことが無い。
 だから、不安なんだ。ねぇ、ご主人様。」

 すがるように、シルバは垣根を見つめる。

「僕に命令をください。そうしたら、そうしないと僕は…………。」
「うるせぇ。」
「あだっ!?」

 垣根は、そう言って近づいてきたシルバに、デコピンをかました。

「言ったとおりだ。俺はイエスマンなんて求めちゃいねぇ。俺の命令がないと動けない木偶人形なんてのはいらないと言ったはずだぜ。」
「でも……でも、僕は…………。」
「あー、クソッ。生まれたての赤ん坊みたいなやつだなうじうじしやがって。」

 そう毒づくと、

「いいかクソガキ。俺はお前に命令しねぇ。命令が欲しいんならあきらめろ。何で命令しないからって言うとそうやってがんじがらめにするやり方はクソだと思ってるからだ。
 いいか? 自分の歩く道っていうのは自分で作るもんだ。中には他人に付き従うやつもいる。だがな、そういうやつも多少は道を作ってるもんだ。
 でもな、命令に従ってるだけの奴ってのは、ただ舗装された道をのろのろ歩いているクソだ。
 そして、道がなくなった今、お前はそこから道を作ることもせず、道を作っておぜん立てしてもらうことをずーっと立ち止まって待ってる状態だ。
 そんなのはクソとかそういう次元じゃねぇ。そんなのはただの奴隷の行いだ。」

 そう言い、立ち上がる。

「いいか、世の中には、俺たちは運命と言う決まった世界の軌道の奴隷だというやつもいる。だがな、俺はそんなことは信じねぇ。
 俺の道は誰にも譲らねぇ。運命だろうが創造主だろうが神だろうがすべてに蹴り入れて死ぬ最後まで突き進んでやる。」
「進む……。」
「ああ。生まれたてのガキをほっぽり出してすべて決めろなんて言うほど俺は畜生じゃねぇ。俺に付いてきた蹴ればそれでいいし、俺をご主人様と仰ぎたいなら好きにしろ。
 だがな、いつ、どこで、何を、お前が、どうすればいいかなんてのはいちいち命令しねぇ。そこはテメェで考えろ。
 あと、甘えが許されるのは今日までだ。俺はスパルタ教育で行くからな。覚悟しとけ。」

 そう言って、歩いていく。

「進み……続ける。」

 垣根の言葉に、いくらか不安が拭われたのか、少し、少しだけ晴れた表情で、シルバは垣根の後ろ歩いていく。

「(君も……こんな気持ちだったのかい? 二号。)」

 かつての相棒に、届かないとわかっていても、心の中でそう声をかけながら。

「それで、垣根さん、聖隷術、どうするんでフか?」
「詳しいことは知らねぇ。お前らが全力でサポートしろ。」
「えッ!? アレをでフか!?」

 目を丸くするビエンフーに、垣根は笑みを浮かべる。悪い笑みを。

「それがテメェらの仕事だろうが。」
「ふえぇ、これはマギルゥ姐さんの時よりブラックな環境になりそうでフ…………。」

 涙目のビエンフー。垣根は、シルバの方に振り返り。

「クソガキ、テメェの力も期待しといてやる。せいぜい馬車馬のように働けよ?」

 それが、少しは命令してやる。という、垣根の善意のように聞こえた。

「はい!!」

 シルバは、それに対して笑みを浮かべた。

 ギャングスターを目指す青年と、最強クラスの超能力者、復讐者に愉快な魔女という奇妙な集まりは崩壊し、残された者たちは歩き続ける。

「(たとえ仮想世界だろうが俺が作られた存在だろうが関係ねぇ。俺は俺だ・・・・そして、アイツらの間違いは、どうせ消去できるからと高をくくって、俺達を作ったことだ。
 見てろ、悪趣味なクソッたれの主催者ども。全員ねじ伏せて、頂点に立ってやるぜ。最後に笑うのは、俺達だ。)」

 そのために仲間を増やす。聖隷術もものにする。さあ、やることは多い。

「行くぞお前ら。絶望奴らの時間はおしまいだ。こっからすべてをひっくり返すぞ。」


【D-6/D-7付近/一日目/昼】

【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)、全身に掠り傷、激しい怒り
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、ビエンフーテイルズ オブ ベルセリア@、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0~1、ジョルノの支給品0~3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:音(ブチャラティ達の墜落音)のした方を確認に向かう
1:あの化け物(無惨)は殺す。
2:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。
3:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。
4:災禍の顕主一行(ベルベット、ライフィセット、ロクロウ)とブチャラティを探す。
[備考]
  • VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※シルバ@テイルズオブベルセリア、ビエンフー@テイルズオブベルセリアは、マギルゥの最後に残した魔法によって契約を垣根に移しています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。

前話 次話
詐謀偽計 投下順 崩れてゆく、音も立てずに

前話 キャラクター 次話
病院戦線、終幕(後編) 垣根帝督 生きる者達
触らぬ神に祟りなし ロクロウ・ランゲツ 奏でよ、狂騒曲
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