一定の期間にわたって投稿されたブログの形式で物語が展開していく。語り手(ブログの筆者)は森近霖之助、宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンなど日によって異なる。
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あらすじ
ページ1~5
初めに、蓮子がミステリーボックスと呼ばれるダークウェブの商品に興味を持つ。ミステリーボックスとは、いい値段がついているが中に何が入っているかわからないという箱の商品。蓮子は薫子に頼み込み、霖之助を好きにさせることを代価としてミステリーボックスを購入させる。
一か月後、配達先に指定した秘封霖倶楽部に、部室の窓を破って投げ入れられる形でミステリーボックスが届く。それは大きめの重い段ボール箱で、中にはバレエの靴、バレエクラウン、白い皮の箱、アナベル人形、手紙が入っており、手紙にはフランス語で「さようならエリサ」と書かれている。白い皮の箱は爆薬を使うことでようやく開き、中にはフランス語での自己紹介の音声が記録されたカセットテープが入っていた。声の主はエミールという12歳の人物で、フランスのゴルドの郊外にある城に住んでいると話す。城の中にはほかにも多くの未成年の女の子が一つの部屋の中に住んでおり、隣には男の子の部屋もあるが、それぞれの住人たちは互いに出会うことがないという。
蓮子はミステリーボックスの内容の意図について手掛かりを探すうち、海外の一人のユーチューバーに辿り着く。その人物が開けたミステリーボックスの中には首輪と血まみれの鎖、兎の剥製、人の排泄物で満たされた蓋つきのオルゴール、白い皮の箱、手紙が入っていた。手紙にはフランス語で「さようならポーレット」と書かれており、白い皮の箱は拳銃でかろうじて開き、中には霖之助たちの入手したものと同じカセットテープが入っていた。いたずらの可能性を疑う霖之助に対し、蓮子は調査続行のため、霖之助と薫子、メリーを連れてフランスのゴルドへと発つ。
ページ6~14
フランスのシャルル・ド・ゴール空港に到着した一同は、国際免許を持つ薫子の手配したレンタカーでアヴィニョンTGV駅(
Wikipedia
)へ行ってホテルに宿泊後、観光を楽しみつつゴルドを探索する。
ゴルドでの二日目(11月17日)、目立った成果も出せないまま、疲労した蓮子とメリーを先にホテルへ帰した霖之助たちは、まだ花の咲いていないラベンダー畑で、少女の首吊り遺体を発見する。少女は安らかな笑顔のまま息絶えており、近くには少女の私物と思しきものが詰められた箱、さらにその中には白い皮の箱が入っていた。通報で現れた警官は、この自殺が複数連続しており、「伝染」する恐れがあることを仄めかす。
三日目(11月18日)、霖之助たちはゴルドでの調査を続行するうち、出発前に動画で目にしたミシガンのユーチューバーと遭遇し、調査を共にすることとなる。手当たり次第に建物の壁を調べていると、偶然その壁がスライドして地下遺跡への穴が開き、一同は遺跡の奥を調べることにする。その先には、コンピューターに接続された頭部だけの少女の遺体があった。遺体に驚いた一同は遺跡から地上へと逃げ出し、その建物で店を営んでいる人物を呼び、遺体のもとへ戻ろうとするが、遺跡への道を再び発見できずに終わる。
しかし、頭部だけの遺体の発見を通じて、霖之助のスマートフォンには「AIの少女」が住み着き始める。少女は「ELIZA-RC」(イライザ・アールシー)という規格名を名乗り、霖之助たちに愛想よく接し、霖之助たちが手に入れたミステリーボックスに入っていたものの持ち主であったことを明かす。彼女によれば、ミステリーボックスに入っていた白い皮の箱には、もともと自身の自己紹介映像を記録したUSBメモリを入れていたというが、手紙のことやミステリーボックスの配達人のこと、霖之助たちが発見した首吊り自殺のことは知らないという。
少女はネットの世界に存在しており、霖之助をその世界へ招き入れようと呼びかける。ネットの世界へ移るためには、自分の身の回りの物を箱にまとめ、この世への別れの手紙とともに他人の手へと渡した後、自殺するのだという。(※この場面はあとの場面と前後する形になっている。先の場面で手紙のことは知らないと言ったことと矛盾している。)
ページ15~21
四日目(11月19日)、一同はホテル周辺の田舎風景の中を探索し始めると、ミシガンのユーチューバーと再会する。彼は自身の購入したミステリーボックスを持参しており、中には日本製の球体関節人形、娘の顔だけが破り取られた家族写真、現世への恨みつらみが綴られた日記のノート、白い皮の箱と手紙が入っていた。霖之助の能力を通じて、球体関節人形の中には金色の髪の毛が詰まっていることがわかり、気味が悪くなったユーチューバーは人形を地中に埋めてしまう。
その後、一同は柱と床と多少の壁だけが残った遺跡を発見するが、調べようとするや否や地盤が沈下し、遺跡の地下に閉じ込められてしまう。電話で救助を呼ぶ傍ら、暗闇の奥へと進んでいくと、「マルキア家の執事」と名乗る老人と出会う。執事は「ヒルクお嬢様」という人物の世話をしているといい、手には箱を持っているが、その内容は「お嬢様のお友達の生前の思い出」だという。執事は出口のある方向を指し示した後、その方向へと立ち去っていく。
一同もその方向へ進むと、突き当たりには施錠されたドアがあり、ミシガンのユーチューバーが電動ドライバーで鍵を破壊してさらに先へ進む。するとそこには、頭を大きな機械と接続された銀髪で全裸の少女がおり、大きな機械には少女たちの笑い声を発するものと、少年たちの笑い声を発するものがある。テレビ画面に映る人型の影は少女から「パパ」と呼ばれ、「パパ」と少女の会話によってその少女の名前が「セリア」であると明かされる。会話によれば、「ヒルク」はこの世を厭った子供のためにインターネットへ行く方法を見つけた人物だという。そこで霖之助だけでなく蓮子たちのスマートフォンからも、少年少女が語り掛け始める。
一同は自分たちのスマートフォンを破壊してその場から逃げ出し、執事の指し示した出口へ進む。するとその先には、いくつもの赤黒く腐敗した遺体と首掛け縄があり、比較的新しい遺体の顔は安らかに微笑んでいる。部屋の奥から執事の声が語り掛けてくると、彼は「セリア様のため」だと言い、出口は施錠され、遺跡は爆破される。霖之助たちは生き埋めにされるが、事前に救助を呼んでいたために救出される。しかしながら、遺跡の中が暴かれることはなかった。
帰り際の空港での待ち時間で、霖之助はミシガンのユーチューバーの新しい動画を視聴する。そこには彼が地中に埋めたはずの人形が映っていたが、その真意を問う術はなく、そのまま霖之助たちは日本へと帰って行く。方や、一連の出来事が記されたブログの最後のページで、何者かが霖之助を発見したことを告げる。
考察
終盤に登場する「ヒルク」と「セリア」の関係についての謎が残っている。
遺跡で現れた執事は「ヒルク」の世話係を自称し、その先で現れて「パパ」と会話する銀髪の少女は「ジイジ」という名を口にする。「ジイジ」は執事のことと思われる。ここまで読めば、銀髪の少女は執事と主従関係である「ヒルク」と思われ、疑う余地はない。
しかし、「パパ」は少女との会話で「ヒルク」に呼びかけたかと思いきや、その次では「セリア」に呼びかけている。その後再び現れた執事は、一転して「セリア様のため」といって一連の出来事の隠滅を図る。「ヒルク」が唐突に「セリア」になってしまったかのような描写である。少女には双子の妹がいるというが、その妹とは「パパ」の言及した「マーヤ」のことと思われ、日本で母親に伴われて逃げ出しているという。
なお、「マーヤ」は別のエピソードに登場する麻耶のことではないかと考察されている。