「凄い人ですね」鳥口が云う。
「ああ、2000人はいるね」私は答える。
「ああ、2000人はいるね」私は答える。
男2人で縁日を回る。
遠くで花火があがり、祭囃子が聞こえる。
遠くで花火があがり、祭囃子が聞こえる。
――狂騒
やはりこうした賑やかなものが好きではないのだ。
――喧騒
やはりこうした華やかなものが好きではないのだ。
――陰陽
光があるから、影があるのか、明と暗は分かれていく。
気が滅入る。
お祭り騒ぎの一層騒がしい方から、見た事がある顔がやって来た。
竜宮レナと園崎魅音そして、古手梨花だった。
竜宮レナと園崎魅音そして、古手梨花だった。
「関口先生、楽しんでますか?」
園崎魅音が声をかけてくる。
「まあね」――嘘を吐いた(ついた)。
園崎魅音が声をかけてくる。
「まあね」――嘘を吐いた(ついた)。
私は子供が苦手なのだと思う――嫌いではないのか?
あまり接触する機会がなかったせいなのだろうか?
多分子供が持つ性質が私には合わないのだろう。
生命力に満ち溢れて、未来に向かっていく、しかも純粋に。
あまり接触する機会がなかったせいなのだろうか?
多分子供が持つ性質が私には合わないのだろう。
生命力に満ち溢れて、未来に向かっていく、しかも純粋に。
やはり私は子供が苦手なのだと思う――でも理由はそれだけだろうか?
竜宮レナが云う。
「折角だから、関口さん達も仲間に入れてあげようよ」――いや
古手梨花が云う。
「そうなのですよ、3人では少し寂しいのですよ」――嫌
竜宮レナが云う。
「関口さんは健太君を助けてくれたし」――嫌だ
古手梨花が云う。
「鳥口は沙都子を助けてくれたのですよ」――厭だ
園崎魅音が云う。
「よーしそれじゃ、園崎魅音の名において関口巽と鳥口守彦を仲間に加えます」
「折角だから、関口さん達も仲間に入れてあげようよ」――いや
古手梨花が云う。
「そうなのですよ、3人では少し寂しいのですよ」――嫌
竜宮レナが云う。
「関口さんは健太君を助けてくれたし」――嫌だ
古手梨花が云う。
「鳥口は沙都子を助けてくれたのですよ」――厭だ
園崎魅音が云う。
「よーしそれじゃ、園崎魅音の名において関口巽と鳥口守彦を仲間に加えます」
さらに気が滅入る。
少女達と射的をすることになってしまった。
しかも私が最後、トリを務める事になってしまった。
しかも私が最後、トリを務める事になってしまった。
竜宮レナが云う。
「あの熊さんの人形かわいい~」
子供というのは、皆こうなのだろうか?、それとも女性とは、なのだろうか?
「あの熊さんの人形かわいい~」
子供というのは、皆こうなのだろうか?、それとも女性とは、なのだろうか?
熊を目指して皆がコルク玉を弾いていく。
けれども、当然、軽いコルク玉では簡単には落ない。
少し位置をずらすのが関の山だ。
けれども、当然、軽いコルク玉では簡単には落ない。
少し位置をずらすのが関の山だ。
「関口先生、あとちょっとですから、落としてくださいよ」
私の前に撃った鳥口が云う。
私の前に撃った鳥口が云う。
私の順番が来てしまった。
少女達が盛り上がっていたせいか、少なくない野次馬達が私を見ている。
「関口さん、絶対、絶対、熊さんとってね」
竜宮レナが云う。
「関口、ふぁいと、おー、なのですよ」
古手梨花が云う。
「関口先生、決めてね」
園崎魅音が云う。
竜宮レナが云う。
「関口、ふぁいと、おー、なのですよ」
古手梨花が云う。
「関口先生、決めてね」
園崎魅音が云う。
かなり気が滅入る。
銃を手にした、手の平はびっしょりと濡れていた。
みんなの視線が痛い、みんなの期待が痛い。
私は何故こんな事をしているのだ?
銃を手にした、手の平はびっしょりと濡れていた。
みんなの視線が痛い、みんなの期待が痛い。
私は何故こんな事をしているのだ?
―――期待が大きいほど失態は大きくなる―――
銃をかまえる、いつ以来だろうか?
多分あの戦場以来だろう。
多分あの戦場以来だろう。
私は戦争に行っている、それも将校として。
そもそも理系だった私は戦争には行かない事もできたはずだ。
私は何故、戦場に赴いたのだろうか?
もしかしたら、死にたかったのかもしれない――そう思う。
小隊長として南方の前線に送られた、結局私と木場修太郎以外は全員玉砕した。
私は戦ったのだろうか?――何故か必死に逃げまわっていた気がする。
――死にたかったのに?
そもそも理系だった私は戦争には行かない事もできたはずだ。
私は何故、戦場に赴いたのだろうか?
もしかしたら、死にたかったのかもしれない――そう思う。
小隊長として南方の前線に送られた、結局私と木場修太郎以外は全員玉砕した。
私は戦ったのだろうか?――何故か必死に逃げまわっていた気がする。
――死にたかったのに?
銃口を向ける、手が震える。
がたがた――音をたてて、銃口がぶれる。
――ここは、何処だ?
指を引き金にかける、遠くで祭囃子が聞こえる。
私はためらいがちに――引き金を引いた。
弾は―――――はずれた――――――
【始末の支度 壱】
どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている坂道を登り詰めたところが目指す京極堂である。
木場修太郎(きばしゅうたろう)は坂道を登っていく。
木場は真四角の顔に、目と口が申し訳なさそうに付いている男だ。
美丈夫というには無理がある、だがそのがっしりとした体躯に合わせるとなかなか風格があるのだ。
どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている坂道を登り詰めたところが目指す京極堂である。
木場修太郎(きばしゅうたろう)は坂道を登っていく。
木場は真四角の顔に、目と口が申し訳なさそうに付いている男だ。
美丈夫というには無理がある、だがそのがっしりとした体躯に合わせるとなかなか風格があるのだ。
木場はためらわずに母屋の戸を開ける。
京極堂は古本屋だ。主(あるじ)は神主で、陰陽師である。
京極堂の細君――中禅寺千鶴子(ちゅうぜんじちずこ)が応対に出てきた。
色白の、大層目の大きな、一見西洋人風の顔立ちをした美人である。
色白の、大層目の大きな、一見西洋人風の顔立ちをした美人である。
「京極はいるかい?」
主である中禅寺秋彦(ちゅうぜんじあきひこ)は屋号の京極堂が通り名だ。
主である中禅寺秋彦(ちゅうぜんじあきひこ)は屋号の京極堂が通り名だ。
京極堂は座敷で呪いにかかった芥川龍之介の様な顔に、
太宰治を拗らした(こじらした)ような表情を浮かべ、古い和綴じの本を読んでいた。
太宰治を拗らした(こじらした)ような表情を浮かべ、古い和綴じの本を読んでいた。
「旦那、公僕たる国家警察には休日なんてものはないんじゃないのか?」
京極は木場を旦那と呼ぶ、それは木場が旦那にふさわしい風袋をしているからだ。
――うるせいや。木場は座敷にあがった。
京極は木場を旦那と呼ぶ、それは木場が旦那にふさわしい風袋をしているからだ。
――うるせいや。木場は座敷にあがった。
「さてこんな、時間にやって来るなんて――飯でもたかるなら、もう少し早いほうが」
京極堂が憎まれ口を叩く。
「よせやい、仮にもこの木場修太郎そこまで落ちぶれちゃいねいぜ」
京極堂は口の角を少しだけ上げた。
京極堂が憎まれ口を叩く。
「よせやい、仮にもこの木場修太郎そこまで落ちぶれちゃいねいぜ」
京極堂は口の角を少しだけ上げた。
「今日は聞きたい事があって来たんだ、京極――未来予知ってのはできるのかい?」
「不可能だよ」
京極は眉根を寄せて、即答した。
「不可能だよ」
京極は眉根を寄せて、即答した。
「まあ普通はそうだが、ほら榎木津の馬鹿みたいな"未来が見える"奴がいる事はねえのかい?」
榎木津――榎木津礼二郎(えのきづれいじろう)は2人の共通の友人だ。
榎木津は戦争で致命的に視力を失ってから、"人の過去が見える"という能力を手に入れた。
今ではそれをいかして、神田で探偵をしている。
榎木津は戦争で致命的に視力を失ってから、"人の過去が見える"という能力を手に入れた。
今ではそれをいかして、神田で探偵をしている。
「いいかい、旦那、過去と未来というのはまったく違うんだ。
確かに榎木津には人の過去を見るという、云うなら超能力がある。
けれどもそれはそんなに難しい話でもないんだ、何なら科学でも推測できる」
「どういうことだ?」
「旦那、過去というのは確定した事柄だよ、記憶の積み重ねだ。
仮令(たとえ)ば記憶というのはど何処にあると思う?」
「この脳味噌じゃねえのか、よくわかれねえけど」
木場にとっては理論など、どうでもいい。
映画は見て面白ければそれで良し、画が映る仕組みなど興味もなかった。
確かに榎木津には人の過去を見るという、云うなら超能力がある。
けれどもそれはそんなに難しい話でもないんだ、何なら科学でも推測できる」
「どういうことだ?」
「旦那、過去というのは確定した事柄だよ、記憶の積み重ねだ。
仮令(たとえ)ば記憶というのはど何処にあると思う?」
「この脳味噌じゃねえのか、よくわかれねえけど」
木場にとっては理論など、どうでもいい。
映画は見て面白ければそれで良し、画が映る仕組みなど興味もなかった。
「所謂(いわゆる)科学の信奉者達もそう考えているね、脳の大脳新皮質がどうとか。
科学的に推測するから、ここではその説を採用しよう。記憶は脳の細胞に刻まれたものだとする。
だとすると、人の記憶・過去を見る事、観測は不可能だろうか?」
「見えるわけねえだろ、人には頭蓋骨があるんだから」
「確かに今の科学では不可能だろう、でも進んだ科学、進(しん)科学とでも云おうか。
今から何百年も後、科学が発達して頭蓋骨の外側からでも脳の動きが観測できるようになったら?」
「そりゃ何百年も後なら可能だろうが」
京極堂は手で顎を撫でる。
「なら今度は、その脳の動きと同じ動きを自分の脳に行えばいいんだ。
そうすれば、科学的に人の過去が見えた事になるだろ」
「けど、そいつはずっと先の話だろ?」
「旦那、重要なのはそれが可能かどうかという話だよ。
榎木津には人の過去が見える、これは現時点では超能力さ、でも何百年も後なら不可能じゃない。
榎木津は"見る事ができないものを見ているだけさ、見えないものを見ている"訳じゃない」
科学的に推測するから、ここではその説を採用しよう。記憶は脳の細胞に刻まれたものだとする。
だとすると、人の記憶・過去を見る事、観測は不可能だろうか?」
「見えるわけねえだろ、人には頭蓋骨があるんだから」
「確かに今の科学では不可能だろう、でも進んだ科学、進(しん)科学とでも云おうか。
今から何百年も後、科学が発達して頭蓋骨の外側からでも脳の動きが観測できるようになったら?」
「そりゃ何百年も後なら可能だろうが」
京極堂は手で顎を撫でる。
「なら今度は、その脳の動きと同じ動きを自分の脳に行えばいいんだ。
そうすれば、科学的に人の過去が見えた事になるだろ」
「けど、そいつはずっと先の話だろ?」
「旦那、重要なのはそれが可能かどうかという話だよ。
榎木津には人の過去が見える、これは現時点では超能力さ、でも何百年も後なら不可能じゃない。
榎木津は"見る事ができないものを見ているだけさ、見えないものを見ている"訳じゃない」
「まあ、あの馬鹿の話はそれでいいにしても、
その進科学か、そいつを使えば未来だって見えるんじゃねえのか?」
「未来は過去みたいに一筋縄ではいかないんだよ、未来は可能性の塊で不確定な物だ。
例令るなら旦那が昨日食べた晩飯と、明日食べる晩飯のような関係なんだよ。
旦那が昨日食べた物は現在において確定していて変わったりしない、
けど明日何を食べるかは現在においては未確定なんだ。
もちろんある程度の予測や予報はできるけどね、
男独身(おとこやもめ)が食べる晩飯なんて店屋物か何かに決まっているから」
「ほっとけよ、じゃあ何百年たっても未来予知はできないのか」
「基本的にはそうさ、もちろん高度の予測や予報はできるようになるだろうがね。
ただ天気予報でも99.9%雨が降ると予報して、例令雨が降らなくてもそれは外れた訳じゃない。
残りの0.1%は当たった訳だからね、未来とはそう云う曖昧模糊な物なんだ。
未来は観測されて初めて現在、現実、今となる。云いかえれば未来は実存なんかしない」
京極堂は続ける。
「時間と云うものはね、1・2・3・・・と過去、現在、未来、
という並びじゃなく。0・1・2・・・と未来、現在、過去と並んでいるんだ。
そして、零――"ないものは見えない"」
木場はうーんと唸った。
「なら、その高度の予測か、例令ばそいつが百発百中までいく事はねえのか?」
「もちろん可能性はあるよ、でもそれは下手したら何千年後とかの話になるよ、
お釈迦様が弥勒菩薩になって56億7千万年後に人々を救いに来るのと同じような話さ。
さっき云った過去を見る、こちらは後2百年か百年ぐらいでできるかもしれない、
あるものを観測するだけでいい訳だから。
けど、未来の場合は観測しなくちゃいけないものが多すぎる。
旦那の明日の晩飯ぐらい短期的で限定的な物でも、さっき僕は店屋物だろうと予測したけど。
同僚と飲みに行くかもしれないし、急な事件が起こって抜きになるかもしれない、
飯をたかり損ねた帰り道に、拾い食いでもして腹を壊すかもしれない、可能性は無限に近い」
京極堂は仏頂面で笑った、そして――
その進科学か、そいつを使えば未来だって見えるんじゃねえのか?」
「未来は過去みたいに一筋縄ではいかないんだよ、未来は可能性の塊で不確定な物だ。
例令るなら旦那が昨日食べた晩飯と、明日食べる晩飯のような関係なんだよ。
旦那が昨日食べた物は現在において確定していて変わったりしない、
けど明日何を食べるかは現在においては未確定なんだ。
もちろんある程度の予測や予報はできるけどね、
男独身(おとこやもめ)が食べる晩飯なんて店屋物か何かに決まっているから」
「ほっとけよ、じゃあ何百年たっても未来予知はできないのか」
「基本的にはそうさ、もちろん高度の予測や予報はできるようになるだろうがね。
ただ天気予報でも99.9%雨が降ると予報して、例令雨が降らなくてもそれは外れた訳じゃない。
残りの0.1%は当たった訳だからね、未来とはそう云う曖昧模糊な物なんだ。
未来は観測されて初めて現在、現実、今となる。云いかえれば未来は実存なんかしない」
京極堂は続ける。
「時間と云うものはね、1・2・3・・・と過去、現在、未来、
という並びじゃなく。0・1・2・・・と未来、現在、過去と並んでいるんだ。
そして、零――"ないものは見えない"」
木場はうーんと唸った。
「なら、その高度の予測か、例令ばそいつが百発百中までいく事はねえのか?」
「もちろん可能性はあるよ、でもそれは下手したら何千年後とかの話になるよ、
お釈迦様が弥勒菩薩になって56億7千万年後に人々を救いに来るのと同じような話さ。
さっき云った過去を見る、こちらは後2百年か百年ぐらいでできるかもしれない、
あるものを観測するだけでいい訳だから。
けど、未来の場合は観測しなくちゃいけないものが多すぎる。
旦那の明日の晩飯ぐらい短期的で限定的な物でも、さっき僕は店屋物だろうと予測したけど。
同僚と飲みに行くかもしれないし、急な事件が起こって抜きになるかもしれない、
飯をたかり損ねた帰り道に、拾い食いでもして腹を壊すかもしれない、可能性は無限に近い」
京極堂は仏頂面で笑った、そして――
「もし、森羅万象全てを観測し、それを理(ことわり)の中に入れ、確実な未来予測、いや予知か、
それができるとしたら、それはもはや―――神の所業だよ」
それができるとしたら、それはもはや―――神の所業だよ」
京極堂はそこで一区切りをつけた。
それを見計らったように千鶴子がお茶を持ってきた。
それを見計らったように千鶴子がお茶を持ってきた。
京極堂はお茶を一啜りすると。
――で、本題は何なんだい?、と聞いた。
――で、本題は何なんだい?、と聞いた。
木場もお茶を少し飲み。
「実はな――