――静寂、静粛、閑静、静かだ、水を打ったように音が溢れていない――
――静寂は素晴らしい。このまま、そうこのまま時間が止まってしまえばいいのに――
――静寂は素晴らしい。このまま、そうこのまま時間が止まってしまえばいいのに――
「り、り、梨花ちゃん、そ、そろそろ奉納演舞のじ、時間だよ」
園崎魅音の言葉によって静寂は打ち砕かれた。
園崎魅音の言葉によって静寂は打ち砕かれた。
私を取りまいていた人々が、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
――ここは、何処だ?
そうだ、私は銃を構えていて・・・
そうだ、私は銃を構えていて・・・
「せ、関口先生、写真を撮らなきゃいけないから、先に行きますよ」
鳥口が云う。
鳥口が云う。
――弾はどうなったんだろう?
よくわからない・・・
よくわからない・・・
祭囃子が聞こえる。
――1人になった。
本殿の方に三々五々、人が集まっていく。
私もつられるように、そう向かっていく。
人垣ができつつある、境内を目前にして。
本殿の方に三々五々、人が集まっていく。
私もつられるように、そう向かっていく。
人垣ができつつある、境内を目前にして。
何かが行われるのだろうか?
背の低い私には見えずらい。
背の低い私には見えずらい。
歓声があがる――少女――古手梨花が巫女のような服で出てきた。
鍬(くわ)のような物を持っている――奉納演舞――何かの儀式か。
鍬(くわ)のような物を持っている――奉納演舞――何かの儀式か。
人混みはつらかった。
眸に入る光が厭だった。
もっと暗い所に行きたい。
私の脚は暗闇に向かってく。
眸に入る光が厭だった。
もっと暗い所に行きたい。
私の脚は暗闇に向かってく。
月が輝いている。
私には輝かしい光などは似合わない、相応しくない。
太陽の光は生命の輝き――私には向いていない。
私には月光がちょうどいい、それでいい。
太陽の光は生命の輝き――私には向いていない。
私には月光がちょうどいい、それでいい。
私がこんな風になってしまったのはいつからだろう?――考える。
鬱病が激しく発病したのは学生の頃だった。
何故発病したのだろう?――考える。
当然だが、なりたくて、なったわけではない。
私は生まれつき、そういった人間だったのだろうか?――考える。
元々そういった素養を持っていたのかもしれない。
だが何かを忘れている気がする。何か"きっかけ"があったような?――考える。
私が発病したきっかけ、引き金――思い出せない。
ただ何かがあった気がする、けれど暗闇の中を歩いていると、それまでより少しだけ心が落ち着いてきた。
鬱病が激しく発病したのは学生の頃だった。
何故発病したのだろう?――考える。
当然だが、なりたくて、なったわけではない。
私は生まれつき、そういった人間だったのだろうか?――考える。
元々そういった素養を持っていたのかもしれない。
だが何かを忘れている気がする。何か"きっかけ"があったような?――考える。
私が発病したきっかけ、引き金――思い出せない。
ただ何かがあった気がする、けれど暗闇の中を歩いていると、それまでより少しだけ心が落ち着いてきた。
やはり私は日陰の人間なのである。
『蔭花植物』等という、ありがたくない仇名まで頂戴した事がある――命名者は榎木津だったか。
戦争からおめおめと戻ってきた後、私は大学に戻り粘菌の研究をしていた。
『蔭花植物』等という、ありがたくない仇名まで頂戴した事がある――命名者は榎木津だったか。
戦争からおめおめと戻ってきた後、私は大学に戻り粘菌の研究をしていた。
粘菌は走る黴、動菌とも云われ、面白い特性がある。
粘菌は葉緑素を持たず、動物のような栄養摂取をするのに、胞子をつくって繁殖する。
粘菌は動物と植物の合いの子の生き物なのだ。
粘菌は葉緑素を持たず、動物のような栄養摂取をするのに、胞子をつくって繁殖する。
粘菌は動物と植物の合いの子の生き物なのだ。
私が粘菌の研究を辞めたのは、雪絵――妻と身をかためる事にしてからだ。
私はその時、副業にしていた、小説家などと云うものを職とした。
私のような社交性の欠片もない人間には、他の職業を選ぶ事などできなかった。
私はその時、副業にしていた、小説家などと云うものを職とした。
私のような社交性の欠片もない人間には、他の職業を選ぶ事などできなかった。
妻は私には勿体ない女性だ。気立ても、器量もどちらも優れている。
妻は何故私などと夫婦(めおと)になったのだろう?――考える。
妻は私の事を好いていてくれるのだろうか?――考える。
妻は何故私などと夫婦(めおと)になったのだろう?――考える。
妻は私の事を好いていてくれるのだろうか?――考える。
私は私の事がこんなにも嫌いなのに。
人間は考える葦だとは云うが、考えてはいけないものも、あるのかもしれない。
下手の考えは休むに似たりとも云うが、私の思考は物事をより良く捉える事ができないようだ。
下手の考えは休むに似たりとも云うが、私の思考は物事をより良く捉える事ができないようだ。
考える事を止めるにはどうしたらいいのだろう?――考える。
ただ、考える事を止めた人間は、人間なのだろうか?――考える。
私は人間の範疇に入れてもらえるのだろうか?――考える。
ただ、考える事を止めた人間は、人間なのだろうか?――考える。
私は人間の範疇に入れてもらえるのだろうか?――考える。
私は葦――いや粘菌だ。
私は動物と植物の合いの子なんだ。
私は動物と植物の合いの子なんだ。
――粘菌は胞子をつくって繁殖する――
月夜の凶人のように、月光の中をふらふらと歩いた。
何処に行こうとするのか、何をしようとするのか。
何処に行こうとするのか、何をしようとするのか。
あてもなく歩いていく。
拓けた所に建物がある――倉庫――倉――蔵――
ちょうど少し腰を下ろしたいと思っていたので、近寄ってみる。
近づくと入り口に影がある――影――陰――人影――
瞬時に躰が緊張した、今の私には人と接するには準備がいる。
ちょうど少し腰を下ろしたいと思っていたので、近寄ってみる。
近づくと入り口に影がある――影――陰――人影――
瞬時に躰が緊張した、今の私には人と接するには準備がいる。
「―――――あらあら。どなたかしら?」
聞いた事がある声を感じた。
聞いた事がある声を感じた。
――こんばんは、何とか声を絞り出した。
「あらあら、関口さんじゃないですか――今晩は」
声の主(ぬし)は鷹野三四だった、隣には富竹もいる。
声の主(ぬし)は鷹野三四だった、隣には富竹もいる。
これはとんだ出歯亀だったのかもしれない。
――え、ええと、上手く言葉にならなかった。
――え、ええと、上手く言葉にならなかった。
私の狼狽を察して富竹が答えてくれた。
「いや関口さん、そう云うんじゃないんだよ」
「くすくす―――残念だけど、関口さんが覗き見したくなるような場面じゃないのよ。
期待に添えなくて申し訳ないわね――」
鷹野三四は嗤った。
――じゃあ、こんな所で何を?
「いやあ、これはね・・・」
富竹は言葉に詰まり鷹野三四を見る。
「ここはね。祭具殿と云ってね。祭具をしまっている倉庫なの。
―――いえ、祭具を祀っている神殿と云ってもいいかもしれないわね」
鷹野三四の言葉に建物を見る、確かに古式ゆかしい佇まいの建物だった。
「今日、梨花ちゃんが使っていた、祭事用の鍬(くわ)もここにしまってあったの。
雛見沢の神主の血筋、古手家の人間以外は『不浄』を持ち込むから立ち入り禁止の不可侵領域――」
「いや関口さん、そう云うんじゃないんだよ」
「くすくす―――残念だけど、関口さんが覗き見したくなるような場面じゃないのよ。
期待に添えなくて申し訳ないわね――」
鷹野三四は嗤った。
――じゃあ、こんな所で何を?
「いやあ、これはね・・・」
富竹は言葉に詰まり鷹野三四を見る。
「ここはね。祭具殿と云ってね。祭具をしまっている倉庫なの。
―――いえ、祭具を祀っている神殿と云ってもいいかもしれないわね」
鷹野三四の言葉に建物を見る、確かに古式ゆかしい佇まいの建物だった。
「今日、梨花ちゃんが使っていた、祭事用の鍬(くわ)もここにしまってあったの。
雛見沢の神主の血筋、古手家の人間以外は『不浄』を持ち込むから立ち入り禁止の不可侵領域――」
――聖域なの。
「じゃ・じゃあ、こんな所で何をしているんですか?」
鷹野三四は稚気の混ざった口調で。
「私、雛見沢の昔語りや伝承を趣味で研究しているって云ったでしょう。
私の知的興味の様々な答えがこの中に詰まっているの。
この中に入れる機会(チャンス)を今日まで、ずっと待っていたの――」
鷹野三四は稚気の混ざった口調で。
「私、雛見沢の昔語りや伝承を趣味で研究しているって云ったでしょう。
私の知的興味の様々な答えがこの中に詰まっているの。
この中に入れる機会(チャンス)を今日まで、ずっと待っていたの――」
どうやら、この祭具殿の中に侵入しようとしていたらしい。
確かに今の時間帯はみんなお祭りに気を取られていて機会なのかもしれない。
けどそれは許されない事なのでは――考える。
確かに今の時間帯はみんなお祭りに気を取られていて機会なのかもしれない。
けどそれは許されない事なのでは――考える。
富竹が私の視線に気づき。
「いや僕も、いけない事だとは思うけどね、鷹野さんが『どうしても』って云うから」
「つき合わせてしまってごめんなさいね。でも、ジロウさんのお陰よ感謝してるわ」
「やれやれ・・・でも鷹野さん、こういうのはこれっきりにしてくれよ?
こういう所に黙って入り込むのはやっぱり気が引けるよ」
「くすくす―――やっぱりジロウさんはいい人ね」
「いや僕も、いけない事だとは思うけどね、鷹野さんが『どうしても』って云うから」
「つき合わせてしまってごめんなさいね。でも、ジロウさんのお陰よ感謝してるわ」
「やれやれ・・・でも鷹野さん、こういうのはこれっきりにしてくれよ?
こういう所に黙って入り込むのはやっぱり気が引けるよ」
「くすくす―――やっぱりジロウさんはいい人ね」
そう云うと富竹は扉に付いている南京錠に手を加えた。
ゴトリ――神聖なる建物を護っていてモノが外れた。
「いよいよね」
鷹野三四は唾を飲み込むと一呼吸して扉を押した。
中から黴(かび)くさいような歴史のにおいが漂ってきた。
ゴトリ――神聖なる建物を護っていてモノが外れた。
「いよいよね」
鷹野三四は唾を飲み込むと一呼吸して扉を押した。
中から黴(かび)くさいような歴史のにおいが漂ってきた。
「どう?関口さんも共犯なんだし、せっかくだから一緒に見学しません?
雛見沢の秘史を埋める。貴重な文化遺産の見物会よ。――今日だけの限定会館――くすくす」
鷹野三四は嗤った。
雛見沢の秘史を埋める。貴重な文化遺産の見物会よ。――今日だけの限定会館――くすくす」
鷹野三四は嗤った。
――共犯なんて・・・上手く声にならず、むにゃむにゃとした言葉が出た。
富竹は階段部分に腰をおろして
「ここで見張りをしていますから、見てきたらいいですよ。
僕はあまり趣味じゃないですけど、結構面白いかもしれませんよ――ふっふっふ」
富竹は笑った。
「ここで見張りをしていますから、見てきたらいいですよ。
僕はあまり趣味じゃないですけど、結構面白いかもしれませんよ――ふっふっふ」
富竹は笑った。
――この中に何があるのか、富竹さんは知っているのですか?
「まあね、鷹野さんに散々聞かされているからね・・・」
富竹は苦笑した。
「まあね、鷹野さんに散々聞かされているからね・・・」
富竹は苦笑した。
結局私は反対の意志を示す事ができなかった。