京極堂の云った言葉の意味が判らなかった。
「ど・どう云う、意味だ?」
「判るだろ、大きな矛盾が生じている事に」
「判るだろ、大きな矛盾が生じている事に」
そして、私の隣に在る小さな影に目を落とし。
「古手梨花さん、貴女が何故、"予めこの雛見沢連続怪死事件を知り得たのかだ"」
予めこの事件を知っていた?
「貴女は5年前、あそこにいる赤坂刑事にこの雛見沢連続怪死事件を予言しましたね」
赤坂――あの若い男が。
「貴女はどうして、5年前の時点でこれから起こる事件が判っていたのですか?」
それは・・・たしか・・・
「そ・それは・・この娘(こ)には不思議な力が有って、えっと羽入と云う鬼が見えて、その力で、
何度も同じ時間軸を生きているから、だから知ることが出来たんだよ」
何度も同じ時間軸を生きているから、だから知ることが出来たんだよ」
――関口君、君は何を云っているんだ?
私は何を云っているんだ。
「いつから非科学主義者に宗旨変えをしたんだい、そんな事がありえる訳がないだろう、それに――」
京極堂は云った。
――"これはもっと現実的な解釈が出来るんだ"。
私の中では終わりかけていた、物語はまだ続いていく。京極堂の手によって。
「関口君、時間の流れの速さは一定だろうか?」
「え、えーと・確かアインシュタイン博士の相対性理論でそうじゃないと・・」
「その通りだ、特殊、一般相対性理論で、時間は速度と重力に関係性を持つことが観測された。
けれども、この地球上でいるならば、一定と云ってもいいだろう」
「え、えーと・確かアインシュタイン博士の相対性理論でそうじゃないと・・」
「その通りだ、特殊、一般相対性理論で、時間は速度と重力に関係性を持つことが観測された。
けれども、この地球上でいるならば、一定と云ってもいいだろう」
京極堂は口を開く。
「さて関口君、次は世界だ、君にとって世界とは何だい?」
「ま、まるで禅問答だよ、京極堂、ここにある、今ここにいるこれか?」
「ま、まるで禅問答だよ、京極堂、ここにある、今ここにいるこれか?」
世界?
「なら関口君、君が観ているこの世界は本当に本物なのかい?」
この世界が本物か?
「この世界は何らかの電気刺激で君の脳が観ているだけの世界じゃないのか、
君が感じている、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、全てを支配しているのは脳だろ?」
君が感じている、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、全てを支配しているのは脳だろ?」
脳が全てを支配している?
「例えば、君は夢の中でその世界が、夢と解ることが出来るのか?」
「それは出来ないけど・・・」
「まあ、中には稀に、それが自覚出来る人もいるようだが、通常はできない。
"仮想の世界の中にいる観測者には、その世界が仮想であると云う事が自覚出来ないんだ"」
「それは出来ないけど・・・」
「まあ、中には稀に、それが自覚出来る人もいるようだが、通常はできない。
"仮想の世界の中にいる観測者には、その世界が仮想であると云う事が自覚出来ないんだ"」
仮想の世界の中にいる観測者?
――君がいるこの世界だって、誰かが紙に書いた世界かも知れない、
いや、ひょっとしたら誰かの頭の中の電気信号に過ぎないのかも知れないんだ。
いや、ひょっとしたら誰かの頭の中の電気信号に過ぎないのかも知れないんだ。
この世界は、本物なのだろうか?
私が目にし、聞き、感じているこの世界は。
私の唯でさえ不安定な世界は大きく揺らぎ出す。
私が目にし、聞き、感じているこの世界は。
私の唯でさえ不安定な世界は大きく揺らぎ出す。
「そ、そんな・・こ・・この世界は・・本物だろ・・・」
京極堂は答えた。
「関口君、だからこそ人は世界を観測し、理(ことわり)を造ろうとしてきたのだよ――」
――科学と云う名の理をね。
京極堂は少女の方を見つめなおし。
「古手さん、今から僕の幾つかの質問に答えてくれますか?」
「な、何をする気だ、京極堂」
「な、何をする気だ、京極堂」
京極堂は答えた。
「いいかい、仮想の世界の中にいる観測者に、今いるその世界が仮想だと自覚させる方法がある」
――"その世界の矛盾点を挙げればいいんだ"。
「古手さん、貴女はこの関口君に、今年は色々な可能性が、世界が有ったと云いましたね。
例えば、竜宮レナさんや、園崎詩音さん、北条沙都子さんが雛見沢症候群を発症する世界が有ったと」
例えば、竜宮レナさんや、園崎詩音さん、北条沙都子さんが雛見沢症候群を発症する世界が有ったと」
私は尋ねた。
「きょ、京極堂、さっきは雛見沢症候群は存在しないって・・・」
「それは科学では証明されていないという話で、存在する可能性は零ではないよ」
「それは科学では証明されていないという話で、存在する可能性は零ではないよ」
「関口君、少し黙っていてくれ」
京極堂は私を一瞬、睨み。
「さて、古手さん。今云った事は事実ですね」
少女は戸惑い乍(なが)ら頷いた。
「では、もう一ついいですか?
なら、その誰が発症するのかに法則は有るのでしょうか?
貴女が干渉する事に因って、誰が発症するかを決められるのですか?」
なら、その誰が発症するのかに法則は有るのでしょうか?
貴女が干渉する事に因って、誰が発症するかを決められるのですか?」
少女は困惑し乍ら首を振った。
「そうですね、例えば北条沙都子さん場合など、彼女の叔父が帰ってくる事に、
貴女が干渉することは難しいでしょう」
貴女が干渉することは難しいでしょう」
京極堂は少し間を置き。
「なら、そこで疑問が生まれます。もし貴女が同じ時間軸上を移動しているなら、
"貴女が干渉しない事柄は全て同じ結果にならなくてはいけないのです"。
何故ならば、過去は確定された事柄なのだからです、未来とは違う。
けれど、世界は色々な可能性を観せてます。それは何故でしょう?」
"貴女が干渉しない事柄は全て同じ結果にならなくてはいけないのです"。
何故ならば、過去は確定された事柄なのだからです、未来とは違う。
けれど、世界は色々な可能性を観せてます。それは何故でしょう?」
少女は困った表情をした。
「きょ、京極堂、それはあれじゃないか、平行世界と云うか。
冒険科学小説でよくあるだろ、時間と共に空間も跳躍してるとか」
冒険科学小説でよくあるだろ、時間と共に空間も跳躍してるとか」
私は思わず口を出した。
「確かに、平行世界以外に整合性をとれる概念はないだろう。
しかし、もしそうだとしても、それに因って矛盾が生じる」
しかし、もしそうだとしても、それに因って矛盾が生じる」
頭が痛くなってきた。
「古手さんの過ごした世界が、多様な可能性の塊で在るとするならば、おかしな事になるんだよ。
もしそうならば、"雛見沢連続怪死事件は起こりえないんだ"」
もしそうならば、"雛見沢連続怪死事件は起こりえないんだ"」
雛見沢連続怪死事件が起こりえない?
「そう、雛見沢症候群が存在すると仮定して、貴女が平行世界を過ごしたとするなら。
雛見沢連続怪死事件は"偶然、毎年、綿流しの日に発症する事になる"。
3年目の事件を鷹野さん達の行為と観ても、3回も同じ日に発症する可能性はどのくらいだろうか?」
雛見沢連続怪死事件は"偶然、毎年、綿流しの日に発症する事になる"。
3年目の事件を鷹野さん達の行為と観ても、3回も同じ日に発症する可能性はどのくらいだろうか?」
偶然、毎年、同じ日に発症する確率?
「これは、どう云う理を付ける事もできない」
何故だ?・・・なぜ・・・
「た・・例えば・・雛見沢症候群は綿流しの日に発症しやすくなるとか」
「綿流しの祭りは古来は不定期に行われて来た、6月の今の時期になったのは近年だよ」
「綿流しの祭りは古来は不定期に行われて来た、6月の今の時期になったのは近年だよ」
だとすれば・・・
「これは大いなる、矛盾点だ。特に2年目の事件、北条夫妻が転落事故した事件。
貴女の云う通りならば、北条沙都子さんが発症し夫妻を突き落とした事になるのですが。
この事件は時間までも指定しています。"それこそ半刻ずれただけでその様な形にはならない"」
貴女の云う通りならば、北条沙都子さんが発症し夫妻を突き落とした事になるのですが。
この事件は時間までも指定しています。"それこそ半刻ずれただけでその様な形にはならない"」
京極堂は云った。
――"貴女の話した世界は理が崩壊している"。
よって、それは偽りの世界だ。
よって、それは偽りの世界だ。
ああ――世界が揺れる。
京極堂は云った。
「古手さん、もっと解りやすい事を聞きましょう、"ここにいる関口君は何人目ですか?"」
『関口、"また来てくれたの――"』
『今回の関口は、今までで一番格好いい』
『今回の関口は、今までで一番格好いい』
少女の顔は蒼白に成っていた。
「いいですか古手さん、関口君が初めて貴女と出会ったのは、5日前です。
きっと、貴女はその5日間に何年もの時間を体感しているのでしょう。
そう、時間の速度は変えられなくても測る早さ、測度は変えられる」
きっと、貴女はその5日間に何年もの時間を体感しているのでしょう。
そう、時間の速度は変えられなくても測る早さ、測度は変えられる」
測度は変えられる?
「ど・・・どう云う事だ、きょ・・京極堂・・・」
京極堂は云った。
「そのままだよ、絶対的な時間の速度は一定でも、それの受け取り側の相対測度は個別なんだよ。
よく云うだろ、文字通り『一日千秋の思い』とかね。時刻は平等ではない」
よく云うだろ、文字通り『一日千秋の思い』とかね。時刻は平等ではない」
京極堂は少女に歩み寄り。
「古手さん、貴女は関口君に出会ってから、関口巽が登場する世界を創りだしたのです」
――"貴女の頭の中で"。
ああ――物語が終わる。
これ以上は、止めて欲しい、もうこれ以上私を揺さぶらないで欲しい。
「な・何でそんな事を?」
それでも・・だから・・私は安定を、安寧を求める。
「それにも必然性が有るんだよ」
京極堂は呆然としている少女に近づき――
「僕が会いたいのは貴女じゃない、引っ込みなさい」
そして、少女の耳元で何かを囁いた。
少女は一瞬、蹌踉(よろ)めき――豹変し――告げた。
少女は一瞬、蹌踉(よろ)めき――豹変し――告げた。
我はオヤシロさま。 我こそはオヤシロさまの祟り。
我を祟めよ、讃えよ、そして畏れよ。我が紡ぐは祟りにあらず、死にあらず。
我を祟めよ、讃えよ、そして畏れよ。我が紡ぐは祟りにあらず、死にあらず。
我が紡ぐは歴史なり。歴史は祟りを語り、我が存在を永劫に語り伝えるであろう。
我こそは祟りなり、 肉で出来た身を超越し者なり。この身が例え朽ち果てようとも、
我が紡ぎし歴史は永遠に残り続けるであろう。
我が紡ぎし歴史は永遠に残り続けるであろう。
「神降ろしか」
木場が云った。
京極堂は云った。
「貴方が――神だったのですね」