場には嫌な沈黙が立ち込めている。
榎木津と付き合うようになってもう随分と立つ。
中禅寺の「榎木津と付き合うと馬鹿になる」という助言はやはり正しかったのだと改めて思う。
馬鹿でなければ善良な図面引きが何故ヤクザの屋敷で正座するものか。
「受けてくれるのかいね?」
そんな問いは僕にはなかった。
薔薇十字探偵社のヒューズの調子が悪いと呼び出されたと思ったら、あれよあれよと木曽だか飛騨くんだりの山奥に連れてこられてしまった。
そんな僕に与えられたのは「あらゆる駒を揃えなければいけないそうだ!」とかいう理由にもならない理由だけ。
仕事を受けるか受けないかの問いかけなどない。
もっとも榎木津の口からそのような台詞が吐かれたら気持ち悪いだろうが。
「受けるも何も、何をしたらいいのかわからん。どの事件だ?この村はどいつもこいつも馬鹿ばかりだ!」
「榎木津子爵は聡明な方だで敬意を払っとったが、息子はとんだドラのようじゃな」
「あの馬鹿親父に敬意を払うとはあんたも馬鹿の一人だな!」
「本島さん、僕たち生きて帰れますかね」
剣呑なことを呟いた益田の顔は泣き笑いだ。
僕だってきっと病人より蒼白い顔になっているに違いない。
何せ榎木津と相対するはヤクザの親玉らしき鬼のような婆さん、その横には賽でも振れば映画の一幕になりそうな姐さん、周りはいかにもな強面の男がずらっと取り囲んでいる。
「このお魎を舐めとるんか!」
「棟梁だか魍魎だか知らんが、棟梁は箱を作る人で魍魎は箱に入る人だ!京極が云っていたぞ!」
「しかと探偵引き受けさせて頂きます!」
益田が割って入った。
このまま榎木津に喋らせておくよりは、と意を決したようだ。
「毎年綿流しというお祭りの日に誰かが死に、別の誰かが失踪する事件を調査すればよろしいんですね?」
「勝手に話をすすめるな、マスカマ!だからどの事件だと云っている!」
「ですから綿流しの夜に──」
「事件が多すぎる!誰を退治すればいい!あの変な男か?妙な女か?それともこの婆さんの孫か?」
「この糞餓鬼、叩っ切ってやろうか!」
今度は姐さんが袖を捲って片膝を立て凄んだ。
やっぱり映画のようだ──とどこか他人事の様に感じてしまう。
「ならあんたが犯人だ。まったく、こういう面倒なのは京極向きなんだ」
それだけ云うと榎木津はごろんと横になってしまった。
周りの男衆はどう対処したものか困っているようだ。
「本島さん、どうしましょう?」
嗚呼──本当に馬鹿ばかりだ。
榎木津と付き合うようになってもう随分と立つ。
中禅寺の「榎木津と付き合うと馬鹿になる」という助言はやはり正しかったのだと改めて思う。
馬鹿でなければ善良な図面引きが何故ヤクザの屋敷で正座するものか。
「受けてくれるのかいね?」
そんな問いは僕にはなかった。
薔薇十字探偵社のヒューズの調子が悪いと呼び出されたと思ったら、あれよあれよと木曽だか飛騨くんだりの山奥に連れてこられてしまった。
そんな僕に与えられたのは「あらゆる駒を揃えなければいけないそうだ!」とかいう理由にもならない理由だけ。
仕事を受けるか受けないかの問いかけなどない。
もっとも榎木津の口からそのような台詞が吐かれたら気持ち悪いだろうが。
「受けるも何も、何をしたらいいのかわからん。どの事件だ?この村はどいつもこいつも馬鹿ばかりだ!」
「榎木津子爵は聡明な方だで敬意を払っとったが、息子はとんだドラのようじゃな」
「あの馬鹿親父に敬意を払うとはあんたも馬鹿の一人だな!」
「本島さん、僕たち生きて帰れますかね」
剣呑なことを呟いた益田の顔は泣き笑いだ。
僕だってきっと病人より蒼白い顔になっているに違いない。
何せ榎木津と相対するはヤクザの親玉らしき鬼のような婆さん、その横には賽でも振れば映画の一幕になりそうな姐さん、周りはいかにもな強面の男がずらっと取り囲んでいる。
「このお魎を舐めとるんか!」
「棟梁だか魍魎だか知らんが、棟梁は箱を作る人で魍魎は箱に入る人だ!京極が云っていたぞ!」
「しかと探偵引き受けさせて頂きます!」
益田が割って入った。
このまま榎木津に喋らせておくよりは、と意を決したようだ。
「毎年綿流しというお祭りの日に誰かが死に、別の誰かが失踪する事件を調査すればよろしいんですね?」
「勝手に話をすすめるな、マスカマ!だからどの事件だと云っている!」
「ですから綿流しの夜に──」
「事件が多すぎる!誰を退治すればいい!あの変な男か?妙な女か?それともこの婆さんの孫か?」
「この糞餓鬼、叩っ切ってやろうか!」
今度は姐さんが袖を捲って片膝を立て凄んだ。
やっぱり映画のようだ──とどこか他人事の様に感じてしまう。
「ならあんたが犯人だ。まったく、こういう面倒なのは京極向きなんだ」
それだけ云うと榎木津はごろんと横になってしまった。
周りの男衆はどう対処したものか困っているようだ。
「本島さん、どうしましょう?」
嗚呼──本当に馬鹿ばかりだ。
| 前 | 次> |