喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
追跡者
時間軸としては、童貞魔術師 篇 の途中となります
学校町南区
道を行く人々は皆、寒さから逃れる様に足早に歩いて行く
冷気が静かに降り積もり、大気を重く冷たく押しつぶしている様だった
それでもまだ
人々の巻き起こす活気にあたり、街は芯まで凍えてはいない
冷気が静かに降り積もり、大気を重く冷たく押しつぶしている様だった
それでもまだ
人々の巻き起こす活気にあたり、街は芯まで凍えてはいない
喧騒を縫う様に、足早に進む男がいた
険しい表情をして、何かを探す様に周囲に視線を配る
険しい表情をして、何かを探す様に周囲に視線を配る
ひとつの路地に視線が固定される
喧騒にまぎれる様に
ガラの悪い男達が二人で、一人の若い女性に声を掛けている最中だった
男達の後ろにはウィンドウに黒いスモークの張られたワンボックスカーが止められ
運転席からも男が顔を覗かせている
喧騒にまぎれる様に
ガラの悪い男達が二人で、一人の若い女性に声を掛けている最中だった
男達の後ろにはウィンドウに黒いスモークの張られたワンボックスカーが止められ
運転席からも男が顔を覗かせている
男の足は既に彼らへと向かって動き始めていた
──数分後
男は、悠然と歩を進める
先に逃がしていた女性に追いつくと二言三言交わし別れる
女性は去り際に、何度もお辞儀をして男を見送っていた
女性は去り際に、何度もお辞儀をして男を見送っていた
*
「こんばんは、カシマ」
男は不意に声を掛けられ、一瞬の緊張が走るがすぐに声の主に気付き息を吐く
いつもの外套は無く、現代的な暗色のコートを着てはいるが
まぎれも無くジャック・ザ・リッパーである
町へ溶け込む為にカシマもまた、いつもの軍装ではなく帽子も被ってはいない
いつもの外套は無く、現代的な暗色のコートを着てはいるが
まぎれも無くジャック・ザ・リッパーである
町へ溶け込む為にカシマもまた、いつもの軍装ではなく帽子も被ってはいない
「……ジャックか」
「どうしたのですか?こんなところへ貴方が来るなんて」
「いや……例の魔術師が……目撃されたという話があってな」
「例の魔術師……そうですか、輪の……
ですが、こんな人通りの多い所へ来るなど……少し妙な気がします」
「木は森に隠せとも言う……とは言え確かに妙だな、まるで……」
「まるで、見つけてくれとでもいう様な?」
「うむ……もしそうだとして、何のメリットがあるというのだろうか」
「……さぁ……皆目見当もつきませんね」
「あの日からもう半年だ、単純に気を緩めているのかもしれん」
「自分は見つからないという、小物にありがちな根拠のない自信かもしれませんよ」
「それならば楽なのだがな……」
「詮無き事です」
「うむ……考えても意味のない事だったな」
「どうしたのですか?こんなところへ貴方が来るなんて」
「いや……例の魔術師が……目撃されたという話があってな」
「例の魔術師……そうですか、輪の……
ですが、こんな人通りの多い所へ来るなど……少し妙な気がします」
「木は森に隠せとも言う……とは言え確かに妙だな、まるで……」
「まるで、見つけてくれとでもいう様な?」
「うむ……もしそうだとして、何のメリットがあるというのだろうか」
「……さぁ……皆目見当もつきませんね」
「あの日からもう半年だ、単純に気を緩めているのかもしれん」
「自分は見つからないという、小物にありがちな根拠のない自信かもしれませんよ」
「それならば楽なのだがな……」
「詮無き事です」
「うむ……考えても意味のない事だったな」
この時はまだ、誰も正確に予測しえなかっただろう
彼らを待ち受ける運命を……
彼らを待ち受ける運命を……
*
「ところでカシマ、先程の……見ていましたよ」
「ん……そうか」
「貴方の性格上、仕方の無いことだとは思いますが……あまり感心しません」
「判ってはいるのだがな……つい、体が反応してしまう」
「人間達の揉め事は人間達で解決すべきかと」
「……そうだな」
「ん……そうか」
「貴方の性格上、仕方の無いことだとは思いますが……あまり感心しません」
「判ってはいるのだがな……つい、体が反応してしまう」
「人間達の揉め事は人間達で解決すべきかと」
「……そうだな」
少し悲しそうな顔をするカシマをジャックは見逃さない
「すみません、余計な事を言いました」
「いや、キミの言う事は正しい……ワタシが未熟なのだ」
「いや、キミの言う事は正しい……ワタシが未熟なのだ」
そんな事はないとジャックは思う
ただ、優しすぎるのだ
ただ、優しすぎるのだ
きっと、ジャックを助けた時も先程と同じ様にしただけのこと
そうと思うと、どうしようもない程の虚無感に襲われる
そうと思うと、どうしようもない程の虚無感に襲われる
つい、カシマにとって自分はどういう存在なのかと考えてしまう
二人はただの知人だ
それ以上でも、それ以下でもない
ただ、ジャックがカシマに好意を抱いている……それだけだ
二人はただの知人だ
それ以上でも、それ以下でもない
ただ、ジャックがカシマに好意を抱いている……それだけだ
「……もし…………」
「ん……何だね?」
「もし、私が危険な目に遭っていたら……貴方はまた、助けてくれますか?」
「……キミが危険な目に遭うなどそうそう無い、ワタシ如きで救えるかどうかも疑問だ」
「ん……何だね?」
「もし、私が危険な目に遭っていたら……貴方はまた、助けてくれますか?」
「……キミが危険な目に遭うなどそうそう無い、ワタシ如きで救えるかどうかも疑問だ」
ジャックはそういう現実的なことを聞いているわけではない
自分はただ、カシマと何かで繋がっていたいだけなのだと……
自分はただ、カシマと何かで繋がっていたいだけなのだと……
だが、カシマは真面目な男だ
その場の雰囲気で……軽い気持ちで助けるなどとは言わない
彼が助けると言うならば、必ず助ける、勝算あっての言葉という事だ
カシマは嘘をつける様な男ではない
その場の雰囲気で……軽い気持ちで助けるなどとは言わない
彼が助けると言うならば、必ず助ける、勝算あっての言葉という事だ
カシマは嘘をつける様な男ではない
「そう……ですね……すみません、つまらない事を訊きました」
カシマはそんなジャックを見て怪訝な顔をするも、深くを聞きはしない
ジャックが何を言わんとしているか、カシマも判ってはいる
だが、それでも軽はずみな言葉を、出来もしない約束をするわけにはいかない
ジャックが何を言わんとしているか、カシマも判ってはいる
だが、それでも軽はずみな言葉を、出来もしない約束をするわけにはいかない
お互いに、次の言葉が見つからない
どちらからともなく目を逸らし、その日はそのまま別れてゆく
どちらからともなく目を逸らし、その日はそのまま別れてゆく
吐く息は白く
吹き付ける風は、人々の心まで凍りつかせるかの様だった
吹き付ける風は、人々の心まで凍りつかせるかの様だった