「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-48

最終更新:

rumor

- view
だれでも歓迎! 編集

喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


追跡者


時間軸としては、童貞魔術師 篇 の途中となります




学校町南区

道を行く人々は皆、寒さから逃れる様に足早に歩いて行く
冷気が静かに降り積もり、大気を重く冷たく押しつぶしている様だった
それでもまだ
人々の巻き起こす活気にあたり、街は芯まで凍えてはいない

喧騒を縫う様に、足早に進む男がいた
険しい表情をして、何かを探す様に周囲に視線を配る

ひとつの路地に視線が固定される
喧騒にまぎれる様に
ガラの悪い男達が二人で、一人の若い女性に声を掛けている最中だった
男達の後ろにはウィンドウに黒いスモークの張られたワンボックスカーが止められ
運転席からも男が顔を覗かせている

男の足は既に彼らへと向かって動き始めていた

──数分後

男は、悠然と歩を進める

先に逃がしていた女性に追いつくと二言三言交わし別れる
女性は去り際に、何度もお辞儀をして男を見送っていた

*



「こんばんは、カシマ」

男は不意に声を掛けられ、一瞬の緊張が走るがすぐに声の主に気付き息を吐く
いつもの外套は無く、現代的な暗色のコートを着てはいるが
まぎれも無くジャック・ザ・リッパーである
町へ溶け込む為にカシマもまた、いつもの軍装ではなく帽子も被ってはいない

「……ジャックか」
「どうしたのですか?こんなところへ貴方が来るなんて」
「いや……例の魔術師が……目撃されたという話があってな」
「例の魔術師……そうですか、輪の……
 ですが、こんな人通りの多い所へ来るなど……少し妙な気がします」
「木は森に隠せとも言う……とは言え確かに妙だな、まるで……」
「まるで、見つけてくれとでもいう様な?」
「うむ……もしそうだとして、何のメリットがあるというのだろうか」
「……さぁ……皆目見当もつきませんね」
「あの日からもう半年だ、単純に気を緩めているのかもしれん」
「自分は見つからないという、小物にありがちな根拠のない自信かもしれませんよ」
「それならば楽なのだがな……」
「詮無き事です」
「うむ……考えても意味のない事だったな」

この時はまだ、誰も正確に予測しえなかっただろう
彼らを待ち受ける運命を……

*



「ところでカシマ、先程の……見ていましたよ」
「ん……そうか」
「貴方の性格上、仕方の無いことだとは思いますが……あまり感心しません」
「判ってはいるのだがな……つい、体が反応してしまう」
「人間達の揉め事は人間達で解決すべきかと」
「……そうだな」

少し悲しそうな顔をするカシマをジャックは見逃さない

「すみません、余計な事を言いました」
「いや、キミの言う事は正しい……ワタシが未熟なのだ」

そんな事はないとジャックは思う
ただ、優しすぎるのだ

きっと、ジャックを助けた時も先程と同じ様にしただけのこと
そうと思うと、どうしようもない程の虚無感に襲われる

つい、カシマにとって自分はどういう存在なのかと考えてしまう
二人はただの知人だ
それ以上でも、それ以下でもない
ただ、ジャックがカシマに好意を抱いている……それだけだ

「……もし…………」
「ん……何だね?」
「もし、私が危険な目に遭っていたら……貴方はまた、助けてくれますか?」
「……キミが危険な目に遭うなどそうそう無い、ワタシ如きで救えるかどうかも疑問だ」

ジャックはそういう現実的なことを聞いているわけではない
自分はただ、カシマと何かで繋がっていたいだけなのだと……

だが、カシマは真面目な男だ
その場の雰囲気で……軽い気持ちで助けるなどとは言わない
彼が助けると言うならば、必ず助ける、勝算あっての言葉という事だ
カシマは嘘をつける様な男ではない

「そう……ですね……すみません、つまらない事を訊きました」

カシマはそんなジャックを見て怪訝な顔をするも、深くを聞きはしない
ジャックが何を言わんとしているか、カシマも判ってはいる
だが、それでも軽はずみな言葉を、出来もしない約束をするわけにはいかない

お互いに、次の言葉が見つからない
どちらからともなく目を逸らし、その日はそのまま別れてゆく



吐く息は白く
吹き付ける風は、人々の心まで凍りつかせるかの様だった


*


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー