「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-47

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


復讐者


時間軸としては、童貞魔術師 篇 の途中となります



学校町南区

道を行く人々は皆、寒さから逃れる様に足早に歩いて行く
冷気が静かに降り積もり、大気を重く冷たく押しつぶしている様だった
それでもまだ
人々の巻き起こす活気にあたり、街は芯まで凍えてはいない

だが、ここは暗く、人通りは無い
心の芯まで冷えそうな路地裏で
引き摺る様に歩を進める者たち

路地裏には似つかわしくない童女
そして、血で変色し所々破れたスーツを着た男───浅井達だ

身を隠し、逃げる為にその道を進むのか
他者を巻き込まない為にその道を進むのか

怪我をかばう様にスーツの破れた箇所を手で押さえながら歩く

*



「おい、おっさん」

不意に声が投げかけられた
背の高いひょろりとした男
積み重なり、ビニールの紐でくくられた浅いダンボール箱を脇に抱えている

沈黙
浅井と童女は警戒する様に細い男を見つめている
胸元から赤い燐光を放っている石が見えた

「ボロボロに見えるんだが、大丈夫か?」

平然と問いかける

「効かねえか……お前、契約者だな?」
「おいおい、ちょっと待てよ……俺は何もする気はないさ……そう睨むなよ」

お互いの距離、思惑を測る

「おとーさん」
「ん?」
「無理、しないでね?……やくそく……さっきしたよ?」
「……そうだったな……すまねえ、さっちゃん」

「……」

そのやり取りを見て、顔をしかめる細身の男

「心配してくれた様だが、こっちは問題ねえ……気にしないでくれ」
「そうか、ならいいんだけどよ」

そう言いながらも、浅井たちへと近づいて行く男
警戒を解かずに、身構える浅井
さっちゃんがきゅっと浅井のスーツの端を掴む

「ああ、あれだ……あんたらの後ろにある車、俺のなんだ」
「そうかい」

振り返らずに浅井が返す

「嘘じゃねえって……」
「どうだかな」
「早く帰りたいんだけどなぁ……全く、面倒な話だ」
「そう簡単に契約者を信じられねえだろうよ」
「違いない……さて、どうしたものか」

ゆっくりと歩を進めながらも言葉を継ぎ続ける

「にしても……おっさん、そんなもんと契約してると命を縮めるぞ」
「チッ、全てお見通しってことか……」
「便利な能力なんでね……それよりも、あんた修羅道にでも堕ちるつもりか?」
「修羅道ねえ……そうかもしれねえ、復讐ってのはそういうもんだからな」
「復讐ねぇ……大切なものでも奪われたのか?」
「まあ、そんなところだ」
「ちょっと聞かせてくれないか、復讐者の気持ちってヤツをさ」
「断る」
「だよな……悪かった」

立ち止まり、目を閉じて思案する男
本当に争う意思はない様に見え、つい惹きこまれてしまう

「何故そんなことを聞きたがる?」
「ちょっと、大切なものを奪ってしまったかもしれないんでね」
「……」
「復讐者は何を望む?」
「……」
「大切なものの重みってのはどうやって測ればいい?」
「……」
「じゃあ、これだけ教えてくれ」
「……なんだ?」
「復讐するってことは、奪われたものが大切なものだったって事でいいんだよな?」
「……そうだな」
「それは都市伝説も同じか?」

「おなじだよ」

「おにーたんは、さっちゃんに優しくしてくれたもん……
 楽しかったもん……だから、大切だもん!
 だから……だから……だから……だから……だから!!」

童女のつたない言葉に圧倒され、後ずさる

「……」
「どうだ、判ったか?」
「……あ、ああ……すまない」

呆然と立ち尽くす男をそのままに、浅井と童女は歩き始める

「待て……いや、待ってくれ」
「まだ何かあるのか?」
「いや、礼をしていなかったからな」
「礼などいらねえ」

男は浅井の体に向け手をかざす
ひょろりとした外見からは想像出来ないほどに素早い
身構え、童女をかばう浅井
男は小さく何度かつぶやく

「……れ」

何の衝撃もなく、静寂が戻る

「?」
「だから、礼だよ」
「……傷が?」
「まぁ、適当だけどな……これで傷口を押さえなくてすむだろ」
「ああ、そうだな……助かる」
「んでな……ガキの手、あいてるぞ」

ポリポリと頭を掻きながら言う

「ん?……嗚呼……ああ!……駄目だな男親ってのは……」

ポリポリと頭を掻きながら言う

童女を返り見る

「おとーさん、お話おわった?」
「終わったよ、さっちゃん……手……繋ぐか?」

スーツの端を掴んでいた童女の手が離れる

「うん!」

互いに歩き出し
すれ違い様に目が合う
細身の男は、どこか悟った様な、諦めた様な、そんな貌をしていた

「まるで、仏だな……」

浅井は振り返らずに言う

「?……俺が仏?……仏どころか地獄道に堕ちてるさ」

男も振り返らずに応える

「地獄道に修羅道か……六道輪廻だな」
「ああ、輪廻だ……俺はそいつに絡めとられて逃げることも出来ない」
「どうだか……逃げる気がないんだろ?」
「さあな」

それが交わした最後の言葉

*



車に乗り込みエンジンをかける
フロントガラス越しに、手を繋いで歩くふたりが見えた
その姿は本当の父娘の様だった

「復讐か……もし、俺の所へアイツ本人が来るのなら……
 認めなきゃならないんだろうな……だが……それでも俺は……」

溜め息を吐きながら、自分の手のひらを見る

「にしても……こんなちっぽけな力だが、不思議なもんだな……
 いや、力の大きさや性質が問題ではないのか……」

力の使い方が問題なのだろう

「とんでれ……か」

魔術師は、帰りを待っているであろう桃娘を想い自然と笑みがこぼれる

「待っているのは桃の到着か、それとも……
 おっと、雪か……積もらないうちに早く帰らないとな」


空からは真っ白な雪
季節は既に、その全てを冬に飲み込まれていた



*


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