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連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-50a

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


外伝・ある老黒服のお話(前篇)


季節は春
穏やかな風の吹く、暖かい日だった

エントランス前の道を少年が清掃していると
黒い服を着た男が近づいて来て、声を掛けた

「君はここの子かの?」

男は左手に持つ杖を支えにして立ち、視線を小学生ほどの少年へと据える
白い髭を蓄え、額に深いしわの刻まれた老人
杖を支えにしてはいるが、綺麗に伸びた背筋は老いを感じさせない

やや間をおいて応える

「うん、そうだよ」

黒服の老人は、ゆっくりと質問を重ねてくる

「そうかい、ご主人はおられるかの?」
「出掛けていていないんだ」
「それは残念だのう」
「お爺さんは知り合い?」
「そうさなぁ、知り合いと言えばそうかもしらん……
 もっとも、ご主人はもう忘れてしまっているかもしらんがのう」

着ている黒服から、組織の構成員かとも思ったが
柔らかい雰囲気に警戒するに至らない
赤ら顔につぶらな青い瞳
恰幅の良い、ただの老紳士
そう見える

そして何より、少年は老紳士とどこかで逢った事がある様な気がするのだ

「あの……どこかで……」

記憶をたどるが、出てくるのは僅かばかりの言葉のみ

「憶えておるぞい、君の事」
「え?」

自信の無い問い掛けに、しっかりとした言葉が返される

「溺れたのを憶えているかの?」
「……憶えてはいるけど」
「3、4才に見えた様に記憶しているのだがのう」
「……あ!」
「思い出したかのう?」
「うん……まだ、ハッキリとは思い出せないけど」
「無理に思い出す必要は無いさね、君にとっては思い出したくない記憶かもしらんからのう」
「そんなことないよ……あの時、助けてくれた黒服さんだよね?」
「いやいや、それがそうではないんだのう」
「でも、確かに……」

記憶の中の黒服は、今と同じ姿のままで
何一つ変わってはいなかった
なのに、助けたのは自分ではないという

「では、少し昔話をしようかのう」
「……」
「少し時間が掛かるがよいかの?」
「あ、はい」
「さて、どこから話したものか……」

そう言って、老紳士は花壇の縁に腰を預けると
思い出す様に話しを始めた

あの日も風の穏やかな、暖かい日だった───


*


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