「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-55a

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rumor

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だれでも歓迎! 編集

喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


鹿島とカシマ


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♪UNICORN (試験運用中)

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「思い出したか?……なぁ……先輩」

鹿島が姿を現す

「……思い出したよ……全てをな」
「俺は怒っているんだ……分かるかい?」
「……」
「先輩が俺を……先輩のせいで……俺がこれまで、どれだけ……苦しんだか」
「……すまない」

すらりと、軍刀を抜き放つ鹿島

「愚痴を言っても始まらないよな……勝負をつけよう」
「我等が争う必要は無いだろう……」
「勝った方の言う事を聞く……先輩が勝てば、先輩の言い分を受け入れよう」
「……話し合いで、解決する気は無いのだな?」
「ああ、話し合っても……どうせ、俺の望みは叶わないだろうからな……」
「分かった……勝った方の言い分を認める……ここに、約束しよう」

カシマもまた、軍刀を抜き放つ

「昔は全く勝てなかったが……お互いに片腕になった今なら、勝敗は分からないだろ?」

鹿島が問い掛け

「昔から実力に差はなかったさ……本当はな……」

カシマが答える

高まる剣気

「はぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」「せいッ!」

裂帛の気合と共に放たれる斬撃

刃がぶつかり

「どうして、俺達を捨てた!」
「?!」

火花が散る

「どうして、俺達が苦しんでいる時に傍にいてくれなかったんだ!」

鍔を迫り合い

「どうして、死を選んだ!」

鎬を削る

「あんたが生きていれば!帰ってくれば!助かった者達がいると考えなかったのか!」

同じ流派

「慕う者の為に、生きて帰ろうとは考えなかったのか!」

同じ太刀筋

「あんたはいつもそうだ!何かを切り捨てる時、最初に自分を捨てようとする!」

伯仲する実力

「それが、どれだけ他人を苦しめる事になるのか、考えた事があるか!」

共に学び

「死を選んだ時に、俺達の事を想いはしなかったのか!姉さんの事を想いはしなかったのか!」

共に考え

「ワタシとて、簡単に諦めたわけではない!」
「分かっているさ!だけどな!」

共に過ごし

「他人を押し退けてでも、生きて帰って来て欲しかったんだ!」

共に生きた

「姉さんは、あんた以外の男と再婚して、本当に幸せだったとでも思うのか!」
「くっ……」

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*



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着物がはだけ、胸元が露になり
ほどけた長い黒髪は、扇の様に広がり布団の上で艶めいている
妻だ
濡れた瞳が扇情的に揺れる

「お願いです……後生ですからっ……」

聞いているこちらが切なくなる様な、すがり付く様な哀願

「すまないが……キミの願いを叶える事はできかねる」

妻の上に跨る様にして、両肩を押さえつけながらカシマが言う

「お願いですから……おねがい、です……から……」

涙が頬を伝い、滑る様に落ち、布団を濡らす

「……すまない」

カシマの顔は、哀しみと、苦悩で満たされている

「どうして……どうして抱いてくれないのですか……」

しがみ付き、すがり付く
祝言を挙げたものの、出兵はすぐだった……生きて帰れない可能性が高い

「せめて、貴方の……何か、貴方の生きた証を、遺してください……」

半年後には死ぬかもしれない、こんな時代に、産まれた子は幸せだろうか……
ならば、今、この時代に、子を残す事は、はたして良い事なのだろうか……

「すまない……オレには判らない……どうしていいのか……すまない……」

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眩い光、視界が白く染まり、場面が変わる

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「香取先輩はどうしてそんなに優しいんだ?」

ふいに鹿島が聞く

「……夢……なんだと思う」
「夢?」
「ああ……将来の夢は?と聞かれたら何と答える?」
「……夢ねえ……そうだな……道場の跡を継いで……いや、香取先輩のようになりたいな」
「オレのように?……はは、それは夢ではなく目標や中継点さ」
「そんなこと……ないだろ……」
「もっと、大事なことが、きっとあるさ」
「もっと大事なことか……夢ね……それで、先輩の夢が優しさ?」
「優しい大人になる事……だと思う……夢を聞かれれば、職業や、偉人の様になりたい……
 と答える者も多いだろう……もちろんそれは構わない……だが」
「うん」
「どんな職業に就こうとも、結局のところ、大事なのは心だと思う……
 優しさを貫ければ、どんな職業に就こうとも、きっと満足した人生と成る」
「……だから、優しい大人か」
「優しくある為には、自分が苦しい時も耐えられる心と体が必要だ」
「だから、鍛錬……」
「その通りだ……さて、休憩は終わりとしようか」
「……」
「どうした、オレが目標なのだろう?」
「……よし……やってやる!」

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*



「俺の力じゃ、どんなに頑張っても、何も出来なかった!」

優しくあろうとするカシマ

「あんたにしか出来ない事があったんだ!それを少しでも考えた事があったのかよ!」

それに憧れた鹿島

「アイツを、俺の友だって救えたかもしれないんだ!」

カシマとて唯の人間だったのだ、出来ぬ事などいくらでもある

「あんたがいてくれたら、俺は都市伝説にならずにすんだかもしれないんだ!」
「すまない……」

だが、八つ当たりの様な言葉でもカシマは受け止める

「どうしてだ!どうしてなんだ!どうして俺達を捨てた!どうして俺達家族の記憶を捨てた!」
「救う為だ……お前を救う為だ……」

お互いに、枯葉色の軍服が破れ、皮膚が裂け、肉が剥き出しになる

「誰がそんな事を頼んだ!あんたはいつもそうだ!」
「都市伝説となった今、お前を救えるかもしれなかったのだ……」

距離をとり、間合いをはかる

「今更、遅いんだよ!」
「遅くなどない!お前には、自分で更生する力がある!」
「そんなものは必要ない!今の俺に必要なのは、あんたを打ちのめす為の力だけだ!」
「……そんなにワタシが憎いか」
「分かってないんだよ……」
「……分かっていない?」
「あんたは大事な事を……たった一つ、大事な事を……分かっていないんだ」

思い出す、過酷な日々を

「戦争から帰ると、俺は独りきりだった……」
「……妻は……彼女は生きていたのだろう?」
「皆……苦労して、地べたに這いずる様にして生きていたよ」
「……」
「食べるものも無く、仕事もなく、女が独りでまともに生きれる時代じゃなかった……」
「……」
「姉さんは……石上と言う男と再婚したと聞いたよ……どうせ碌な男じゃないさ……」
「?!……」
「生まれ育った土地から離れ、店を構えるなんてこと……
 あの時代にできた者など僅かだ……どうせ、口だけで果たせたわけがない」
「……待て……その石上という男……その姓の老夫妻の話を……どこかで……」
「……」
「そうか……あの時の強烈な眩暈……そうだったのか……あの喫茶店……あの懐かしい空気」
「喫茶店……それがどうしたよ」
「その石上と言う男が喫茶店をしていたそうだ……」
「……」
「妻とふたりで、幸せに生きていたと聞いた」
「……それが、姉さんだとは限らない」
「ああ、そうだな……だが、感じたんだ……懐かしい空気を」
「俺達家族の記憶を捨てたあんたが、それを言うか……」
「確証は無い……いや、彼女なら……自らの手で、必ず幸せを掴み取ったはずだ」
「放り出しておいて……」
「ワタシは信じている、己の妻の、優しさも、賢さも、強さも」
「……そうか……なら、これで最後にしよう」

鹿島が、にやりと笑う
勝利を確信した笑みの様に見えた

「次の一撃で決めよう……手を抜くなよ、先輩」
「もう一度……話し合えないか……」
「もう、話す必要はなくなった」
「そうか……分かった……ならば、手加減はしない……」

軍刀を構える

鹿島が息を静かに吐き出し、カシマが強く口を結ぶ

その様、阿吽の如く

勝敗は一瞬でつく

鹿島が上段に構えを取り、カシマが下段で迎える

間合い、気迫、呼吸

全てが整う

音も立てずに──静寂

魂が泣き叫ぶ──慟哭

斬り合いの果てに──終焉

残るはただひとり──孤独



鍔元まで握り込まれた軍刀───

───鋭く延びる、腕と脚、回転する、手首と腰

ほんの僅かに引いた脚───

───渾身の突き

投げる様に、滑る様に、手のひらを、柄がすり抜ける───

───空気の壁を突き破る切っ先

柄頭、柄の先端で掴み直される刀───

───延びきった体、驚愕、目を見開く

頭上へと振り下ろされる、鹿島の刀───

───届かない、カシマの刀は、脇腹の寸前で止まる



全てが止まる

片腕だからこそ、隻腕だからこそ

鍛えられた右腕が、右手が、一度手放した刀を掴み取り

柄の長さの分だけ、より長い間合いを得る

それは、一度手放したものを、もう一度掴み取る力

だが、何も斬られる事はない

止められた刃

「これで……俺の勝ちだ」

鹿島は静かに、刀を鞘に収める

「……っ」

カシマが刀を地に落とす

「負けを認めるな?」
「ああ……ワタシの負けだ……」

「では、俺の好きにさせてもらうぞ」
「ああ、ワタシの存在を消し去るのも……この体を使うも……お前の自由だ」
「ふん……最後に何か言う事はあるか?」
「……ワタシには契約者がいる……彼女を護り、彼女の仲間を護ってくれ」
「そんな事が出来ると思うか?」
「彼らなら、お前を受け入れてくれる……必ずだ」
「どうかな……」
「そして、ルーモアを、お前の姉が暮らしたあの店を護ってくれ」
「他に言う事は?」
「……ジャックに……ジャック・ザ・リッパーという都市伝説に……
 自分らしく生きれば、それだけで……それだけで、美しかったのだと……伝言を頼む」
「惚れてるのか?その女に……」
「……」
「まあ、いいさ……姉さんだって、他の男と幸せに暮らしてたんだからな」
「……お前……知っていたのか?」
「さあ……どうだかな……」
「最後にもうひとつ……お前に言っておきたい事がある」
「何だ?」
「お前はワタシを目標としていた様だが、もっと上を目指すべきだった……
 ワタシに追いつかない事をどこかで望んでいた
 言っただろう?昔から実力に差はなかった……本当はな……
 お前が無意識に自分に枷を嵌めていたんだ……ワタシが強くなるのに合わせて……
 お前がワタシに合わせて力を調節していたのだと……ワタシはそう考えている」
「……」
「ワタシの全てを利用して構わん……お前は生きてくれ……」
「……」
「お前の事を、お前の心の強さを信じている……超えてゆけ、ワタシを」
「……」
「託して良いな?」

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