「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 三面鏡の少女・小ネタ-14

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小ネタその14 とある漁船の臨時職員(アルバイト)


「いやぁ、俺んとこ来た奴で生きて帰る奴ぁ初めてだよ」
手ぬぐいを引き絞った鉢巻をした作業着の屈強な男が、その外見に違わぬ豪快さで笑う
「俺も何で生きてるのか不思議なぐらいです」
同じ作業着姿をした青年は、そんな男とは逆に落ち着いた様子でスポーツバッグに荷物を詰め込んでいる
「ともあれ、これでお前の親父さんの借金はチャラだ。良かったなぁ、大陸の連中に売られなくて」
「売られりゃ良かったんですよ、博打と女で借金作るような糞親父は」
「俺んとこの船に送られてきたら、撒き餌ぐらいにしか使えなさそうだなそりゃ」
「あんなの食ったマグロや蟹、売れなくなりますよ」
荷物を詰め終わった鞄を担ぎ、青年は男にぺこりと頭を下げる
「長らくお世話になりました」
「金に困ったらまた来るといいさ。お前なら黒いのの紹介じゃなくても大歓迎だ」
「流石に次は死にそうですし遠慮しときます」
「そうか、そりゃあ残念だ。お前なら俺の船でも充分やっていけると思ったんだがな」
そう言うと男は、ポケットからくしゃくしゃになった紙と預金通帳を取り出し、青年に手渡す
「借金分を越えた分の給金だ。三年も海で過ごしてたんだ、戻るにゃあそれなりに金がいるだろう」
「いただけるんならありがたく。こっちの紙は何ですか?」
「いやさな、お前さんもあの黒いのや俺と関わっちまったからな。お前さんの住んでた町に戻るなら、念のためってやつだ」
男は外見に似合わない歯切れの悪い調子で、頭を掻きながら唸る
「何も無けりゃそれでいいんだがな。その紙はお守り袋にでも入れて肌身離さず持っておけ。お前の手に負えないようなもんに出会っちまったら、その紙さえ持ってりゃ俺が助けてやる。そういう契約のための紙だ」
「山姥と三枚のお札みたいですね」
首を傾げながら、くしゃくしゃになった紙を丁寧に畳み直してポケットに押し込んだ
「それじゃ、気ぃつけてな」
「ありがとうございました、船長もお元気で」
改めて頭を下げて港を離れていく青年を見送り、男は折れ曲がった煙草を咥えて火をつける
「帰るのが本当にあの町だとしたら、再会は早そうだな」

―――

壱岐大(いつき・まさる)、21歳
学歴、高卒
高校卒業のその日に借金まみれの父親が失踪しかけるも即捕縛
金貸しの元締めという男に呼び出され、金策についての話を相談する事となる
父親の眼球から臓器まで余す事無く売り払うという案が出るも、本人が泣き叫んで許しを乞うた事と、不摂生な生活であまり高く売れなさそうという点から却下された
「じゃあ俺のは売れますか。運動やってたんで健康だとは思います」
淡々とそう告げた大に、それならいけるんじゃないかと大喜びした父親を、元締めは思い切り蹴倒した
「こんな親でも息子としちゃあ助けたいって訳かい?」
「いえ。アレを寸刻みにして売り飛ばしてお金を返せるならそれでいいんですが、それだと返せないそうですし」
アレとはなんだと声を上げた父親は、その頭を元締めに踏み付けられて黙らされる
「借りたものは返すのが道理です。金利とかは法的には問題があるかもしれませんが、同意して借りたのはうちのバカですから」
バカとはなんだと声を上げた父親は、いい加減に黙れと言わんばかりに猿轡を噛まされて部屋の隅に逆さに吊るされた
「度胸と根性はあるな。身体も健康ってぇ話だ。それなら仕事を紹介してやる……それをやり遂げりゃあ借金はチャラになるぐらい稼げるのをな」
「殺人とか死体処理とか麻薬密売とか、そういうのですか」
「そんなのは素人使っちゃ簡単にアシがつく。もっと単純な肉体労働さ」
元締めは愉快そうに顔を歪めて笑みを浮かべる
「マグロ漁船のアルバイト、なんてぇ話を聞いた事はあるかい?」
「……? 昔はともかく、今はさほど高給取りという話は聞きませんが」
「ああ、ぶっちゃけて言えば噂話だ。『都市伝説』と言ってもいい……だがね、それは確かに『ある』んだよ」
元締めは古びた手帳を取り出すと、古ぼけて黄ばんだページを丁寧に捲っていく
「小額なら『死体洗い』とか『マグロ拾い』なんてものあるんだがね、額面が大きくなるとやっぱり『マグロ漁船』だなぁ……これこれ」
手を止めたその一ページを破り取ると、大にそれを手渡した
「日時はそこに指定されてる通り。死ぬか無事船を降りるかの時点で報酬を貰う手筈になってるから、そこで借金はチャラだ。後は仕事を覚えて、生きて帰ってくるだけだ」
メモを受け取った大は、元締めに深々と頭を下げる
「ありがとうございました」
「おいおい、死ぬような仕事を紹介した相手に頭を下げるかね」
「金利や返済期間や取り立てがどうであれ、借りた金を返せないのは不義理ですから。返済のためのチャンスをくれた以上は、それに報います」
そして、部屋の片隅で逆さ吊りになっている父親を一瞥し
「生きて帰って、借金なんてしがらみのない状態になってからブン殴るから覚悟しとけよ」
そう告げて事務所を出て行った

―――

「三年振りかぁ……なんか帰ってきたって実感湧かないけど」
三年ぐらいでは町というものはそれほど大きく変わらない
変わったとすれば、それはもっと大きな時間の流れの節目が丁度当たってしまっただけの事なのだ
だが大にとってはそれ以上に、今立っている場所が生まれ育った町とは『何か』が違うと感じていた
駅周辺だけ取っても、ホーム、コインロッカー、トイレ、踏み切り、何から何まで『何か』が違うのだ
「……ま、いいや。とりあえず電話だ」
生きて帰ってきた事を、まずは報告したい相手がいる
駅構内にある古ぼけた公衆電話に百円玉を放り込み、鞄から取り出したメモを確認しながら電話を掛ける
《おう、音門(おとかど)だ。何モンだ?》
「お久し振りです、壱岐です」
大の声に、電話の相手――元締めは嬉しそうに語調を緩める
《おお、あの腐れの息子か! こうして電話してきてるって事は生きて帰って来たか!》
「船長には随分と面倒を見ていただきました。こうして帰ってこれたのはあの人のお陰ですし、きちんとお金を返せたのは元締めの紹介のお陰です。本当にありがとうございました」
《法外な利子取ってる身としちゃ礼を言われるのはどうかと思うがね。それにしても、借金なんて悪縁が切れたってのに俺なんかに何の用だい?》
「親父の居場所を聞こうと思いまして。最後に見たの吊るされてるところだったし、あの後どうなったのかも知らなかったもので」
その言葉に、受話器の向こう側にいる元締めが黙り込む
「何かやらかして死んだりしたなら、別にそれでいいんですが。生きてたらとりあえず一発ぶん殴っておきたかったんです」
《あー……そういやそんな事も言ってたな。いやさな、先に言っておくとだな、あいつはあの後きちんと解放してやったんだが》
「それじゃ、家に戻ってるって事ですか? 三年も大人しくしているとは思えないんですが」
《そりゃ半分当たりだ。去年の秋頃かな? ちょいとゴタゴタした事があってな……何を思ったかそれに首突っ込んで、巻き込まれてくたばった》
半ば予想していた事ではあったし、死んで当然な人間だと常々思っていたので全く動揺はしなかった
「ありがとうございました、俺の個人的な話にお付き合いいただいて。落ち着いたら改めてご挨拶に伺いますので」
《気にすんな。まあアレだ、金の縁も切れた事だし俺らみたいなのには関わらんで真っ当な暮らしをした方がいいぜ?》
それから二言三言、軽い挨拶をして電話を切る
「……何やらかしたんだろうな、あのバカ親父」
まあ自業自得なんだろうと心の中で呟き、駅を出てとりあえずは実家のあった場所へと向かう
母はとうに出ていき祖父母の家で暮らしているらしいが、アパートの部屋と家財道具は念のためと元締めが確保してくれていたらしい
「何で金貸しなんかやってるんだろう、あの人」
大にとっては既に『良い人』で認定されてる元締めだが、それはあくまで大の人間性に応えてくれただけの話である
音門金融の取り立ては現実にはありえないレベルのものであり、完済した極一部の人間以外はあらゆる手段を使って存在そのものを金に替えられているのだから

―――

時刻はそろそろ夕刻といった頃合
買い物帰りの主婦や学校帰りの学生達が行き交う中、カンカンと警報を鳴らす踏み切りが開くのをぼんやりと待っていた
橙に染まる視界で伸びる影
ガタンゴトンと音を立てて電車が通り過ぎた、その時
『それ』は唐突に現れた
大より三つか四つは年下であろう少女が、遮断機と線路を挟んだ向こう側に這いつくばっていた
手は何かを探るようにせわしなく蠢き、地面を舐めるかのように顔を近づけていた
耳障りだった警報がぴたりと止み、遮断機がすぅと上がっていく
周囲にはいつの間にか人影は無く、そこにいるのは大と這いつくばる少女だけ
大は線路を渡ると、その少女に声を掛ける
「見つからないの」
否――声を掛けようとしたその時に、少女が先に声を発した
「この辺に落としたはずなのに、見つからないの」
その間も少女の手はせわしなく動き回り、ざりざりと音を立てて地面を撫で回していた
「何を落としたんだ? 交番とかには行ってみたかい?」
少女のそばで足を止め、声を掛けた大
その声に、少女の手がぴたりと止まる
「警察には届いてないの。私が落としたものを全部綺麗に集めてくれたはずなのに、それだけ見つけられなかったの」
そして少女は顔を上げる
その顔には、眼球が無かった
ただ二つ、丸く暗い穴がぽっかりと開いて、赤黒い血が周辺にこびりついていた
「ねえ、お兄さんは二つ持ってるから、一つ頂戴」
即座に腕の力だけで跳ね起きた少女が、地面に擦り付けられてぼろぼろになった指先を大の眼球目掛けて突き出してくる
とっさに避けたもののその指先は頬を掠め、それだけで皮膚が裂け血が滲む
「ドッキリとかにしては手が込んでるし、今のテレビは素人相手はやらないよな」
ちりちりとした痛みが走る頬の血を拭い、大は船長の言葉を思い出す

《お前の手に負えないようなもんに出会っちまったら、その紙さえ持ってりゃ俺が助けてやる》

「ちょっと早くないですかね、船長」
手をついて四足の獣のように動き回る少女を相手に、辛うじて逃げ回る事ができていたが
眼球の無い少女は闇雲に攻めているように見えながらも、大を線路側に追い詰めていく
「抉るよりも、ばらばらにしてから拾う方が楽かなぁ。でもそれだと見つからなくなっちゃうんだよね」
その言葉に呼応するかのように、カンカンと警報が鳴り始め遮断機が降りて退路を断つ
「お兄さんの目ぇ……頂戴」
左右にしか逃げ道が無い状態で、機敏に動き回る少女の攻撃を避けるのは難しい
かといって後ろには逃げられず、このまま襲われれば線路に転がり込む事になる
「助けてくれるって話だけど、どうやってなんだろうな」
首から下げたお守りを握り、苦笑を浮かべる大

《なぁに、ちょいと念じるだけでいい。助けてくれってな》

海の男の野太い声が聞こえたような気がして
大は握り締めたお守りに念じた
助けてくれ、と
「よぉし、その願い聞き遂げた! 仮契約ってぇ形でな!」
今度ははっきりと、その声は聞こえた
それは空から
中空に浮かぶ巨大なそれは、見間違えるはずもない
三年間生活を共にし、つい先日別れたばかりの船長のマグロ漁船の船底だった
「こんなこったろうと思って契約書を渡しといて良かったぜ!」
「うわっ!?」
船の舳先に立った船長が叫ぶが早いか、甲板から放たれた投げ網が大を包んで一気に引っ張り上げてしまう
それと同時に落下した船体が地面に触れると、途端にアスファルトが水面のように大きくたわみ飛沫を上げる
「え、なに、これ」
地面が身も凍るような海水へと変貌し、慌てふためく眼球の無い少女に向かって放たれたのは、鋭い針があちこちについた頑丈な延縄だった
それはあっという間に少女の身体を絡め取り、針を身体に食い込ませ、その動きをあっさりと封じてしまう
「よっしゃあ! 揚げろぉ!」
船長の号令で、延縄はあっという間にウインチで巻き上げられ、身動きの取れなくなった少女が甲板に打ち上げられる
「危ねぇとこだったなぁ。しかしまあ、昨日の今日でこんな目に遭うたぁ、流石は学校町ってとこか」
「……船長、何なんですかこれ。心霊現象とかそういうの、初体験なんですが」
「心霊ってーかなぁ、『都市伝説』ってやつなんだが。かく言う俺もそういう存在だ。ちょっとした切っ掛けで触れっちまうと出会いやすくなっちまうもんでな」
ぼりぼりと頭を掻きながら、船長は唸る
「大概は何かしら縁や波長の合う都市伝説と契約して、身を守る術を手に入れるんだが。お前の場合は先に遭ったのがあの黒いのか、俺かじゃねぇか」
「黒いのって……元締めも都市伝説なんですか」
「俺らみたいなアルバイトの都市伝説を紹介するブローカーよ。今じゃすっかり金貸しが本業みたいだがね」
「初めて聞きましたよ、そんな事」
「あれぐらい人間社会に馴染んでると、話さなきゃわからんだろ。都市伝説だと知らせなきゃ『縁』にならんと考えてたのかもしれん。ともあれこれからは、何か都市伝説と契約して身を守れるようにしなきゃいかん」
「船長じゃダメなんですか?」
「俺らは基本的に漁に出てるしな、地上での活動も制限される。今回は仮契約って形で無理矢理来たが、これから共に生活してしっかり守ってやるってぇなるとそうもいかん。黒いのに適当なのを紹介して貰えりゃいいんだがなぁ」
難しい顔をして唸る船長に、大はふと思いついたように声を掛ける
「この娘も都市伝説なんですよね?」
延縄に絡め取られ動けなくなっている眼球の無い少女を指差す大に、船長は更に難しい顔をして唸る
「人を襲うような都市伝説はなぁ……こういうのは契約にゃあ向かねぇんだよ」
「契約できないような都市伝説ってどうするんですか?」
「んん? そりゃまあ……アレだ、殺すっつーか消すっつーか、まあそういう風に処分するわな」
「そうですか」
大は身体に食い込んだ針と縄をどうにか振り解こうともがいている少女に近付き、屈み込んで顔を覗き込む
「俺と契約しない?」
「おいおい、俺の話を聞いてたのか?」
「聞いてましたけど。殺したりするのは可哀想じゃないですか」
「可哀想とか言ってたらきりが無ぇぜ? そんな奴はこの町にゃあゴロゴロいるんだからな」
「そうは言っても、俺も身を守らなきゃいけないわけですし。最初に出会ったのもなにかの縁じゃないですか」
まるで人に慣れていない野良犬を拾うぐらいのノリで話す大
「しゃあねぇなぁ……おい嬢ちゃん、話は聞いてたか? この物好きがお前と契約したいとよ」
頑丈な延縄をどうにかしようと、暴れながらがりがりと歯を立てていた少女の動きがぴたりと止まる
「けいや、く?」
「そうだ。この兄ちゃんと一緒に生きて、守っていく契約だ。踏み切りの前にへばり付いていたり、通りすがりの人間の目ん玉抉ったりはもう出来ないが、忘れられて消えっちまう心配だけはもう無くなる」
少女は眼球の無い空っぽの眼窩を、大と船長に交互に向ける
「普通は口約束でいけるんだがな。こいつみたいに自我がはっきりしてない奴や、意思が存在しない現象系の都市伝説相手にゃあ契約書がいる。ほれ、あの紙だ」
船長に促され、お守り袋から折り畳まれたくしゃくしゃの紙を取り出す
「俺と一緒に来てくれるか?」
しばらくの間、ぼんやりと契約書を見詰めていた少女が、こくりと頷き
「契約成立か。ちょいとまあ心配なところはあるが、お前なら大丈夫だろ。それじゃあ俺は海に戻る、判らん事があったら後は黒いのに聞きな」
身体にがっちりと食い込んでいたはずの鋭い針がばらばらと離れ、延縄は少女を解放する
船はそのまま地面に沈み込んでいき、大と少女を地面に残すとそのまま何処かへと消え去ってしまった
町は何事も無かったかのようにざわめきを取り戻し、行き交う人々は二人を別段気にした様子もなく通り過ぎていく
傍らに佇む少女は眼球の無い顔で、じっと大を見上げている
「名前とかあるの?」
「まぐろ」
電車に轢かれてバラバラになった存在という事と、マグロ漁船の延縄で水揚げされた事でそういう名前になったらしい
「そうか、これからよろしくな、まぐろ」
「ん」
ところで彼女の存在は普通に誰にでも見えているのだろうか
そうだとしたら、サングラスの一つでも買ってあげるべきなのだろうか
元締めに相談すれば義眼ぐらいは調達してくれるかもしれない
とりあえず何からしたものかと考えながら、大は夕暮れの道を歩いて行った


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