小ネタその13 やっぱり馬鹿は死ななきゃ治らない
駅の一角にある寂れた公衆トイレ
その一室で、一人の女子高生が恐怖に顔を引きつらせて震えていた
「青い紙ではなく赤い紙を欲しいんだね? それじゃあお前は血塗れで死ぬんだ!」
鎌を持った人間の形をした何かが、トイレの個室の扉と天井の隙間から個室の中に入り込もうとしている
「ひっ……嫌……こ、来ないで……」
「けけけけけけけ、ダメだねぇ。答えちまったからにはもう逃れる事はできな」
「何をしとるか貴様ーっ!?」
「いべぶっ!?」
個室の扉と天井の隙間から中に入り込もうとしていた『赤紙青紙』
その足を個室の外から思い切り引っ張られ、支えを失った身体が思い切り床に叩き付けられる
「な、何だ貴様は!?」
「それはこっちの台詞じゃー!? 女子トイレという禁断の聖地に侵入するだけならいざ知らず、使用中の個室にまでアタックを仕掛けるなどという羨ましい真似を見過ごせるかっ!」
『馬鹿は死ななきゃ治らない』の契約者、葉霞南八は『赤紙青紙』にびしりと指を突きつけ叫ぶ
「女子トイレや女子更衣室の前を通る度に悶々としてきた俺の気持ちが解るか!? 貴様のような奴は天が許しても俺が許さん!」
「いやちょっと待て、俺がどういう存在か解ってて言ってるのか?」
「お前が何者かなんぞ知るかーっ!? 待ってて下さい可愛い声のお嬢さん! この痴漢はすぐに警察にでも突き出してやりますんで!」
扉の向こうで姿が見えていないはずの相手に、輝く笑顔でポーズを決め
その一室で、一人の女子高生が恐怖に顔を引きつらせて震えていた
「青い紙ではなく赤い紙を欲しいんだね? それじゃあお前は血塗れで死ぬんだ!」
鎌を持った人間の形をした何かが、トイレの個室の扉と天井の隙間から個室の中に入り込もうとしている
「ひっ……嫌……こ、来ないで……」
「けけけけけけけ、ダメだねぇ。答えちまったからにはもう逃れる事はできな」
「何をしとるか貴様ーっ!?」
「いべぶっ!?」
個室の扉と天井の隙間から中に入り込もうとしていた『赤紙青紙』
その足を個室の外から思い切り引っ張られ、支えを失った身体が思い切り床に叩き付けられる
「な、何だ貴様は!?」
「それはこっちの台詞じゃー!? 女子トイレという禁断の聖地に侵入するだけならいざ知らず、使用中の個室にまでアタックを仕掛けるなどという羨ましい真似を見過ごせるかっ!」
『馬鹿は死ななきゃ治らない』の契約者、葉霞南八は『赤紙青紙』にびしりと指を突きつけ叫ぶ
「女子トイレや女子更衣室の前を通る度に悶々としてきた俺の気持ちが解るか!? 貴様のような奴は天が許しても俺が許さん!」
「いやちょっと待て、俺がどういう存在か解ってて言ってるのか?」
「お前が何者かなんぞ知るかーっ!? 待ってて下さい可愛い声のお嬢さん! この痴漢はすぐに警察にでも突き出してやりますんで!」
扉の向こうで姿が見えていないはずの相手に、輝く笑顔でポーズを決め
ざくり
その側頭部に思い切り鎌が突き刺さった
「のお゛――――――っ!? なんか! なんか刺さった!? 痛ぇ、すっげぇ痛ぇ――――――っ!?」
「ちょっと待て!? 今の死ぬだろ!? 普通死ぬだろ!」
「死ぬような事をやらかしたのか貴様っ!?」
「死ぬような事をしてんだから死ねよ!?」
なんかもう半泣きで南八の身体にざくざくと鎌を突き立てる『赤紙青紙』
「ごふっ!? がはっ!? ぐえっ!? ……っていい加減にせんかー!? 痛いわ服がボロボロになるわ血は出るわ大変だろうがっ!?」
「いやもう死ねよ!? というかどうやったらお前死ぬんだよ!? 殺す都市伝説としての立場無いだろもう!? 畜生、次に出会ったら絶対殺してやるからな、覚えてやがれ!?」
そう捨て台詞を残して、空気に溶けるように消えていく『赤紙青紙』
「うわ、消えた!? なんだったんだあいつ……」
不思議そうに首を傾げていると、一つだけ閉じていた個室のドアが恐る恐るといった感じでゆっくりと開く
「あ、あの……大丈夫、ですか?」
「大丈夫ですともお嬢さん!」
女性の声を感知するや否や、びしりと元気そうに立ち上がりポーズを決める南八
その血塗れの笑顔に、少女は即座に卒倒し
「何か騒ぎが起きているという通報があったんですが……」
丁度タイミング良く、いや悪く、駅職員と警察官が踏み込んできた事により、南八はあっさりと御用となった
「のお゛――――――っ!? なんか! なんか刺さった!? 痛ぇ、すっげぇ痛ぇ――――――っ!?」
「ちょっと待て!? 今の死ぬだろ!? 普通死ぬだろ!」
「死ぬような事をやらかしたのか貴様っ!?」
「死ぬような事をしてんだから死ねよ!?」
なんかもう半泣きで南八の身体にざくざくと鎌を突き立てる『赤紙青紙』
「ごふっ!? がはっ!? ぐえっ!? ……っていい加減にせんかー!? 痛いわ服がボロボロになるわ血は出るわ大変だろうがっ!?」
「いやもう死ねよ!? というかどうやったらお前死ぬんだよ!? 殺す都市伝説としての立場無いだろもう!? 畜生、次に出会ったら絶対殺してやるからな、覚えてやがれ!?」
そう捨て台詞を残して、空気に溶けるように消えていく『赤紙青紙』
「うわ、消えた!? なんだったんだあいつ……」
不思議そうに首を傾げていると、一つだけ閉じていた個室のドアが恐る恐るといった感じでゆっくりと開く
「あ、あの……大丈夫、ですか?」
「大丈夫ですともお嬢さん!」
女性の声を感知するや否や、びしりと元気そうに立ち上がりポーズを決める南八
その血塗れの笑顔に、少女は即座に卒倒し
「何か騒ぎが起きているという通報があったんですが……」
丁度タイミング良く、いや悪く、駅職員と警察官が踏み込んできた事により、南八はあっさりと御用となった
―――
「不審者ってなんじゃー!? 女の子を庇って怪我までしたのにこの扱いかー! 弁護士を呼べーっ!!!」
「冤罪はともかくとしてお前の存在は不審者はそのまんまだろうがっ!? 弁護士が必要な状況じゃないから大人しくしてろっ!」
扉の向こうから聞こえてきた会話に、最上椿は応対にでた警察官にこう伝えた
「できれば無期懲役か死刑になるようお願いします」
「いやいや、痴漢か婦女暴行の未遂って感じで確保されちゃいましたけど、実際は逆でして」
「逆……なるほど。一度ガチホモにでも掘られればいいんです、あいつは。何で未遂で確保しちゃったんですか」
「いや、最近はホモの痴漢騒動はめっきり収まってますんで……ていうかそういう意味じゃなくてですね。不審者に襲われてた女の子を助けたんですよ、彼」
人の良さそうな顔をした年配の警察官は、頭を掻きながら苦笑を浮かべる
「何かの間違いです。逃げた痴漢と獲物の奪い合いにでもなったんです」
「いやいや、被害者の女の子の証言ですからね?」
「急な事態に錯乱しているんでしょう。冷静になればきっとあの馬鹿を真犯人だと理解してくれるに違いありません」
「どこまで彼を犯罪者にしたいんですか」
そんな会話をしている間も、取り調べ室からは馬鹿丸出しな声が響き渡っている
「国家権力の横暴には俺は屈せんぞー! 俺に話を聞かせたければ美人の婦警さんを連れてこーい!」
「やかましい! 身元引受人はとっくに来てるんだ! さっさと帰れ馬鹿野郎!」
「不当逮捕までされて警察署までしょっ引かれたんだ! 美人の婦警さんの一人も拝まんで帰れるかー!?」
「今は婦人警察官じゃなくて女性警察官だよそもそも!?」
「婦警という呼び方には漢の浪漫が詰まっとるんじゃー! お堅いながらもセクシャルな雰囲気を漂わせる素敵ワードを訂正させるとは、言葉狩りまでしようというのか!? 言論の自由を守らせろー!」
「本気で逮捕されたいかお前は!?」
「やれるもんならやってみろ国家権力の犬め!? 釈放の暁にはマスコミにある事ない事喋りまくったるわい!」
扉の前で椿は、これ以上ない程の極上の作り笑いを、案内してくれた警察官に向ける
「アレを合法的に幽閉、できれば抹殺する方法は無いんでしょうか」
「日本は一応、まがりなりにも法治国家だからねぇ。本当に何かやらかすまではどうもね」
がちゃりと扉を開けて、警察官は室内でエキサイトしている二人に声を掛ける
「お迎えの人をあんまり待たせるもんじゃないよ?」
「いかーん! 国家権力の不当な強権行使に対する謝罪と賠償を認めるまで俺は帰らんぞー!」
取調室の机の上で天井に向かって吠えている同僚の姿を見て、椿のこめかみにびきりと青筋が浮かぶ
「……こっちも仕事の合間を縫って迎えに来てるんだ。警察に迷惑掛けてないでとっとと帰るぞ」
「その声は最上さん!? 俺のためにわざわざこんなむさ苦しいところに来てくれたんですか!」
「ああ、お前のせいでわざわざ仕事を中断して来る羽目になった」
ぎちぎちと何かが軋むような雰囲気を漂わせ、椿は押し殺した声を喉から絞り出す
「しかし俺には国家権力の言論弾圧と戦うという崇高な使命が!」
「そんなもんティッシュに包んでゴミ箱にでも捨てとけ。年度末でどんだけ忙しいと思ってる」
「む……最上さんがそこまで言うんなら。だがそれならせめて……その胸で俺の悲しみを癒して下さい!」
ここが警察署である事と、それ故に攻撃衝動を抑え込もうと気を張っていた事が、状況対応を僅かに遅れさせた
「冤罪はともかくとしてお前の存在は不審者はそのまんまだろうがっ!? 弁護士が必要な状況じゃないから大人しくしてろっ!」
扉の向こうから聞こえてきた会話に、最上椿は応対にでた警察官にこう伝えた
「できれば無期懲役か死刑になるようお願いします」
「いやいや、痴漢か婦女暴行の未遂って感じで確保されちゃいましたけど、実際は逆でして」
「逆……なるほど。一度ガチホモにでも掘られればいいんです、あいつは。何で未遂で確保しちゃったんですか」
「いや、最近はホモの痴漢騒動はめっきり収まってますんで……ていうかそういう意味じゃなくてですね。不審者に襲われてた女の子を助けたんですよ、彼」
人の良さそうな顔をした年配の警察官は、頭を掻きながら苦笑を浮かべる
「何かの間違いです。逃げた痴漢と獲物の奪い合いにでもなったんです」
「いやいや、被害者の女の子の証言ですからね?」
「急な事態に錯乱しているんでしょう。冷静になればきっとあの馬鹿を真犯人だと理解してくれるに違いありません」
「どこまで彼を犯罪者にしたいんですか」
そんな会話をしている間も、取り調べ室からは馬鹿丸出しな声が響き渡っている
「国家権力の横暴には俺は屈せんぞー! 俺に話を聞かせたければ美人の婦警さんを連れてこーい!」
「やかましい! 身元引受人はとっくに来てるんだ! さっさと帰れ馬鹿野郎!」
「不当逮捕までされて警察署までしょっ引かれたんだ! 美人の婦警さんの一人も拝まんで帰れるかー!?」
「今は婦人警察官じゃなくて女性警察官だよそもそも!?」
「婦警という呼び方には漢の浪漫が詰まっとるんじゃー! お堅いながらもセクシャルな雰囲気を漂わせる素敵ワードを訂正させるとは、言葉狩りまでしようというのか!? 言論の自由を守らせろー!」
「本気で逮捕されたいかお前は!?」
「やれるもんならやってみろ国家権力の犬め!? 釈放の暁にはマスコミにある事ない事喋りまくったるわい!」
扉の前で椿は、これ以上ない程の極上の作り笑いを、案内してくれた警察官に向ける
「アレを合法的に幽閉、できれば抹殺する方法は無いんでしょうか」
「日本は一応、まがりなりにも法治国家だからねぇ。本当に何かやらかすまではどうもね」
がちゃりと扉を開けて、警察官は室内でエキサイトしている二人に声を掛ける
「お迎えの人をあんまり待たせるもんじゃないよ?」
「いかーん! 国家権力の不当な強権行使に対する謝罪と賠償を認めるまで俺は帰らんぞー!」
取調室の机の上で天井に向かって吠えている同僚の姿を見て、椿のこめかみにびきりと青筋が浮かぶ
「……こっちも仕事の合間を縫って迎えに来てるんだ。警察に迷惑掛けてないでとっとと帰るぞ」
「その声は最上さん!? 俺のためにわざわざこんなむさ苦しいところに来てくれたんですか!」
「ああ、お前のせいでわざわざ仕事を中断して来る羽目になった」
ぎちぎちと何かが軋むような雰囲気を漂わせ、椿は押し殺した声を喉から絞り出す
「しかし俺には国家権力の言論弾圧と戦うという崇高な使命が!」
「そんなもんティッシュに包んでゴミ箱にでも捨てとけ。年度末でどんだけ忙しいと思ってる」
「む……最上さんがそこまで言うんなら。だがそれならせめて……その胸で俺の悲しみを癒して下さい!」
ここが警察署である事と、それ故に攻撃衝動を抑え込もうと気を張っていた事が、状況対応を僅かに遅れさせた
ぽふん
僅かな衝撃に数歩後退り、壁に背中を預ける形になった
その胸には南八の顔が埋められており、更に両手はしっかりと背中に回されている
「俺はこのまま死んでもいい――――――っ!!!!!」
ぐりぐりと頬擦りをしているその頭に、そっと両手が添えられて
万力のような力で み し り と固定する
「のぐぉっ!? 最上さんなんか凄ぇ痛いんですが!?」
「大丈夫だ、もっと痛くするから」
ヒールの高い靴をぽいぽいと脱ぎ捨てて、足の裏でしっかりと床の感触を確認する
「このまま死んでもいいと言ったな?」
後頭部を押さえ付け、頭をがっちりと胸に挟み込んだ状態で、その顎に思い切り膝が抉り込まれた
形容し難いもの凄い音を立てて、南八の身体からだらりと力が抜ける
白目を剥いてぐったりとしている南八の襟首を掴み、椿はぺこりと頭を下げた
「お騒がせしました。それでは私達はこれで」
ずるずると男を引き摺って歩いていく椿の後姿を見送った後、残された二人の警察官のうち取り調べを担当していた男がぼそりと呟いた
「傷害の現行犯、だったんですかね」
「正当防衛でいいんじゃないかい?」
「というかあの有様で出て行ったら途中で誰か止めませんかね」
「どうだろうねぇ、最近は皆慣れてきてるし」
「慣れていいもんなんですかね」
「妥協ってのは大事だよ。この町じゃあ特にそうかもしれんなぁ」
その胸には南八の顔が埋められており、更に両手はしっかりと背中に回されている
「俺はこのまま死んでもいい――――――っ!!!!!」
ぐりぐりと頬擦りをしているその頭に、そっと両手が添えられて
万力のような力で み し り と固定する
「のぐぉっ!? 最上さんなんか凄ぇ痛いんですが!?」
「大丈夫だ、もっと痛くするから」
ヒールの高い靴をぽいぽいと脱ぎ捨てて、足の裏でしっかりと床の感触を確認する
「このまま死んでもいいと言ったな?」
後頭部を押さえ付け、頭をがっちりと胸に挟み込んだ状態で、その顎に思い切り膝が抉り込まれた
形容し難いもの凄い音を立てて、南八の身体からだらりと力が抜ける
白目を剥いてぐったりとしている南八の襟首を掴み、椿はぺこりと頭を下げた
「お騒がせしました。それでは私達はこれで」
ずるずると男を引き摺って歩いていく椿の後姿を見送った後、残された二人の警察官のうち取り調べを担当していた男がぼそりと呟いた
「傷害の現行犯、だったんですかね」
「正当防衛でいいんじゃないかい?」
「というかあの有様で出て行ったら途中で誰か止めませんかね」
「どうだろうねぇ、最近は皆慣れてきてるし」
「慣れていいもんなんですかね」
「妥協ってのは大事だよ。この町じゃあ特にそうかもしれんなぁ」