連載 - 花子さんと契約した男の話-52c - 「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

「…そう言えば」
「何だ」

　花子さんが、演劇部の出し物に夢中になっている最中
　雨村が、何気なく尋ねてくる

「私、先輩の目を見たことないような気がします」
「……そうか」

　俺は、元々前髪は長めにしている
　目元は髪でほぼ完全に隠れているから、めったに人と目を合わせる事はない
　一応、こっちでは目を合わせているつもりだが、相手がこちらの目を見る事はほとんどない

　そもそも、こんな髪型のせいか
　目を合わせてこようとする相手すら、少ない
　一応、家族や花子さん、荒神先生や真樹は目を合わせてくれるし、他にも翼さんのようにちゃんと目を合わせてくれる人はいるから、あまり気にしてはいない

「……見てみたいんですが」
「そうか」

　だから
　何故、雨村がこんな事を聞いてくるのかすら、よくわからない

「見てもいいんですか？」
「…見られて困るものでもないが」
「実は、目を合わせたら石化するとか。その前髪をよけたらビームが出るとか…」
「………俺はメデューサかカトブレパスか。それともどこぞのアメコミの登場人物か………」

　盛大に突っ込むと演劇の邪魔になるから、俺は小さくため息をついて

「…勝手に見ればいいだろ」

　と、ただそれだけ告げた
　すると、雨村はなぜか若干わくわくした様子で、俺の前髪をあげてきた

　……視界が広がる
　雨村の顔が、予想外に近く見えた

　……一瞬
　雨村が、息を呑む

「……どうかしたのか？」
「あ、いえ……」
「………見たなら、さっさとおろしてくれ」

　視界が広すぎて、落ち着かない
　そろり、髪を下ろしてきた雨村
　いつもの視界に戻る

　いつもの
　黒い霧がかかったような、視界に

「……別に、面白いものでもないだろ」

　また、小さくため息をついて、雨村にそう言うと
　花子さんに、そろそろ行こうと声をかける為に、俺は雨村から離れた

　………龍一の、その目を見て
　その、高校生らしからぬ鋭さに、在処は一瞬、圧倒された

　そして、気付いてしまった
　その、鋭い目の、奥底に

　深い、深い
　あと一歩で、戻ることすらできなくなってしまいそうな

　絶望にも近い、諦めの感情が、存在していた
　その、事実に

to be … ?