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連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-63

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


VIII 真理の支配者の娘・バランスの保持/見守る事



目覚めると独り、廊下に倒れていた

ずぶ濡れのまま、体は冷え切っている

脳の芯に疲れが残ったままの状態でぼんやりと考え、立ち上がる

「……過去を……変えてしまったのかな」

振り向くと、そこには扉

そして───

        VIII

 真理の支配者の娘・バランスの保持者

        見守る事

───と刻まれている

「見守る事……か……」

初見では、びくともしない様に思えた扉だったが
今では当然の様に開くことが出来る様になっていた
開くと、隙間から光が漏れ出てくる

「それでも、進むしか……ないんだ……」

あふれ出てくる光の中へと踏み込み───

*



池、そしてボート

公園だった

かつて溺れ、助けられた場所
かつて追い詰められ、助けられた場所

今回の時間軸はいつになるのだろうか

逢魔ヶ刻にはまだ早いが、静まり返った公園の気配は
夜への階段を上り始めている事を知らせてくれる

ぽつりぽつりと、雫が頬を濡らしていく
ずぶ濡れの服と髪が乾く間もなく再び雨に打たれ
次第に激しくなる雨音の中、立ち尽くす

「お~い、君~!ここなら濡れないで済むぞ~!!」

声に振り返ると、大きな木の下に学生がいた
確かに雨宿りが出来そうな枝振りに見える

「ありがとうございます……」

急ぎ足で木陰へと潜り込み、言葉少なに礼を言って視線をそらした
顔を見た瞬間に分かったからだ
学生時代のマスターであると

「夕立だろうからすぐに止むだろう」
「そうですね……」
「……随分濡れているな……そうだ……これで拭くといい」

鞄をあさり、ハンドタオルを出すと、押し付けられる

「あ……いや……」
「使ってない綺麗なやつだから、大丈夫だ」
「……」
「夏っていっても、ずぶ濡れだと風邪をひくぞ……君も馬鹿とは思われたくないだろ?」
「……ありがとうございます」

聞こえるのは雨音のみ
うるさいはずの雨音もどこか遠くの出来事の様に感じる
二人だけの閉鎖された世界
静かな時が流れていく

「少し前になんだけどね」
「はい?」
「ごめん、急に話しかけて……雨が止むまでの間の暇つぶしに話でもしようかと」
「うん……良いですよ」
「少し前に、そこの池で子供が溺れてね……助かったはずなんだけど……」
「そうですか……」
「その後どうなったのか気になっていてね……時々ここに来てしまうんだよ」
「お兄さんが、その子を助けたんですか?」
「え?……ああ、まぁ……一人でやった事じゃないんだけどね」
「じゃあ、黒い服のおじいさんと一緒に?」
「そう……って、アレ?……どうして知っているんだい?」
「その子……ボク……の、弟なんです」

自分が溺れた本人だとは言えない
言ったところで、理解してもらえないだろう

「ああ!そうだったのか!……じゃあ、無事に?」
「おかげ様で、元気に毎日を楽しく過ごしています」
「そうか……良かった……」
「助けてくれて、ありがとうございました」
「いや、そんな……お礼とかいいよ……うん、本当に良かった……」
「弟はまだ小さくて、バカだから……助けられたという事を理解していません」
「小さい子だったからね」
「でも将来、この事を思い出した時はきっと……凄く感謝すると思うんです」
「君の言葉だけで十分過ぎる報酬だよ」
「そんな事はないです……足りないと思うんです」

ここは過去の世界だ
未来から来た自分は、やれるだけの事をやるべきだと
そう思う
そうでなければ、受けた恩を返しきれない
自分の受けた恩は、もっと大きなものだ

「あの……」
「何だい?」
「……もし……もし仮にお兄さんがこの先、結婚して子供が出来て……」
「結婚?……子供?……ちょっと、想像できないな……」
「でも、お兄さん、良い人そうだし結婚できると思います」
「そう?……まぁ、そうだと良いけど……10数年後には結婚していてもおかしくはないか」
「十分に有り得るし、子供も生まれると思います」
「子供……ねえ……」
「そしたら、子供が海で溺れる事が、潮に流されてしまう事があるかもしれない……」
「君……いや、続けて……」
「助けてあげて、絶対に」
「分かった……助けるよ」
「絶対に目を離さないであげて欲しいんです」
「気を付ける」
「他の子が溺れそうだったとしても、自分の子を助けてあげて下さい」
「……」
「お兄さんは……気になる事があると、他の事を忘れちゃいそうですよね……」
「よく言われる……それにしても、う~ん……難しい事だね、助けるという事は……」
「……変わらない……本当に」

シングルタスクなところも、優しいところも
マスターのこういう所は昔からだったのだと知った

「え?……何が変わらないって?」
「何でもないですよ……兎に角、この事を忘れないで下さいね」
「分かったよ、忘れない様に努力する」
「約束ですよ?」
「約束だ……20年でも30年でも忘れない」

いきなりの話だったとは思う
気持ちの悪い子だと思われたかもしれない
でもそれで良い
印象に残ってくれないと意味がない
マスターがこの事を忘れないでいてくれる事に全てを賭ける

「ん……雨……止んだみたいだね」
「そうですね、じゃあ、タオル、ありがとうございました」
「いや、こっちこそ面白い想像ができたよ……ありがとう」
「うん……それじゃ、さよなら」
「さよなら、弟くんによろしくね」
「うん、お兄さん、本当にありがとう」
「またね」

軽く手を振り、別れの挨拶を交わす
これが巧くいけば……自分はきっと……だが……

「さよなら……マスター」

小さくなっていく背中を見送りながら
諦めにも似た感情が、胸の中で渦巻いている

さよなら、マスター

瞳を閉じ、もう一度心の中でつぶやいた───



*


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