喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
I 力の賢者/行為とコミュニケーション
気が付くと独り、廊下に倒れていた
広く、長い廊下だった
一直線に奥へと続くその廊下は、果てが無いかの様に見える
「……死ぬかと思った……扉をくぐるのが……転送のキーではないってことか……」
鼓動は速く、ビルから落下する恐怖感がまだ残ったままだ
体に異常がない事を確認、呼吸を整える
体に異常がない事を確認、呼吸を整える
振り向くと、予想通り扉があった
そして───
I
力の賢者
行為とコミュニケーション
───と刻まれている
「力の賢者?……確か1は……トートでは魔導師……」
ある予感が心を満たし、期待と不安が綯い交ぜになる
扉を押し開くと、隙間から光が漏れ出て……
その眩しい光の中へと身を滑り込ませると、視界が一気に開けた───
その眩しい光の中へと身を滑り込ませると、視界が一気に開けた───
*
まず見えたのは、至近の地面
舗装されていない、土がむき出しの地面
背中には、強い衝撃の残滓
舗装されていない、土がむき出しの地面
背中には、強い衝撃の残滓
濡れた地面を転がっていくのを感じながらも考える
おそらく、何者かによって突き飛ばされたのだろう
手のひらや膝に擦り傷を生成しつつ体勢を必死に整える
おそらく、何者かによって突き飛ばされたのだろう
手のひらや膝に擦り傷を生成しつつ体勢を必死に整える
何とか顔を上げると
降り注ぐ雨の中、男が背を向けて立っていた
降り注ぐ雨の中、男が背を向けて立っていた
「クソッ!……なんで……子供がッ!!」
男の声からは、怒りや苛立ちというよりは、焦りが感じられた
辺りを見回すと、ゴミ捨て場の様に
家電やプラスチックの製品が山と積まれている
廃棄物の処理場なのかもしれない
辺りを見回すと、ゴミ捨て場の様に
家電やプラスチックの製品が山と積まれている
廃棄物の処理場なのかもしれない
「あの……」
「ん……お前……大丈夫か?……その……突き飛ばして、悪い」
「一応は、大丈夫だけど……何で?」
「ん……お前……大丈夫か?……その……突き飛ばして、悪い」
「一応は、大丈夫だけど……何で?」
ただでさえモゴモゴと聞き取り難い話し声を
雨音がより聞き取り辛くしているが、何とか聞き取る
雨音がより聞き取り辛くしているが、何とか聞き取る
「……それは……こっちが、聞きたい……」
「ボクは、いつの間にかここにいて……どういう状況なのか分からなくて」
「ひきこさん……分からねぇ……かな?」
「ひきこさん?!都市伝説の?!」
「知ってたか……そいつと……」
「ボクは、いつの間にかここにいて……どういう状況なのか分からなくて」
「ひきこさん……分からねぇ……かな?」
「ひきこさん?!都市伝説の?!」
「知ってたか……そいつと……」
背を向けたままの男の脇から、ゆらりと横に移動する影が見えた
白いぼろぼろの服を着た、髪の長い……女性に見える
棒の様に細い手足、裂けた様に歪んだ目と口
普段、相手の見た目だけで恐怖を感じることはないが
その目と視線がぶつかった時、胃の底から込み上げる様な言い知れぬ恐怖を感じた
白いぼろぼろの服を着た、髪の長い……女性に見える
棒の様に細い手足、裂けた様に歪んだ目と口
普段、相手の見た目だけで恐怖を感じることはないが
その目と視線がぶつかった時、胃の底から込み上げる様な言い知れぬ恐怖を感じた
ひきこさんの顔に浮かぶ、残忍な笑み
見つけたとでも言う様に、悦びを表現するかの様に、嗤う
見つけたとでも言う様に、悦びを表現するかの様に、嗤う
「今……バトル中……」
ひきこさんが狙うのは子供だ
今、間違いなく
標的は自分に移っている
今、間違いなく
標的は自分に移っている
「子供のいない……追い詰めた……が……」
突然現れた自分を、ひきこさんの手から
この男が助けてくれたという事なのだろう
この男が助けてくれたという事なのだろう
降り続ける雨の中、男は言葉を漏らす
「大地よ……その重き、手で……我が、敵を潰せ」
ひきこさんがベシャっと蛙の様に潰れ、呻きが聞こえた
「魔法?!……じゃあ、やっぱり」
だが、その魔法も僅かな時間を稼いだだけで、ひきこさんは立ち上がり
男には目もくれず、確実にこちらへと脚を運ぶ
男には目もくれず、確実にこちらへと脚を運ぶ
「クソッ!……お前、逃げろ……」
振り向いた男の顔は、焦りを隠せないでいて……
頬のこけた……あの、魔術師の顔
頬のこけた……あの、魔術師の顔
「どうして、ボクを助けて……」
まだ、ゲーム脳に支配される前の魔術師なのだろうか
自分の知っている魔術師と比べ、詠唱はたどたどしい
おそらく、魔法使いになったばかりの頃
こちらの驚きに反応する余裕もなく、魔術師は風の魔法で牽制し
自分の知っている魔術師と比べ、詠唱はたどたどしい
おそらく、魔法使いになったばかりの頃
こちらの驚きに反応する余裕もなく、魔術師は風の魔法で牽制し
「もう止めを……刺すしかないのか……」
言いながらも、距離と時間を稼ぐ
良く見てみれば、彼の服は所々が裂け、ジーンズの右足は膝下から無くなっていた
右足を掴まれ、引き摺られたのだろう
ひきこさんに掴まれれば、簡単には離してはくれないという
ならば、掴まれた足を切断して離脱、そして再生の魔法を使用したということが想像できる
再生できるとしても、切断の痛みは変わらずある
肉体よりも先に、精神がガリガリと削られていくイメージが浮かんだ
良く見てみれば、彼の服は所々が裂け、ジーンズの右足は膝下から無くなっていた
右足を掴まれ、引き摺られたのだろう
ひきこさんに掴まれれば、簡単には離してはくれないという
ならば、掴まれた足を切断して離脱、そして再生の魔法を使用したということが想像できる
再生できるとしても、切断の痛みは変わらずある
肉体よりも先に、精神がガリガリと削られていくイメージが浮かんだ
「いくら……酷い扱いを受けて……来たからといって……」
魔術師の言葉には耳も貸さず、ひきこさんは標的を目前にして舌なめずりをする
引き摺るという快楽を想像し、ただそれだけを求める都市伝説
引き摺るという快楽を想像し、ただそれだけを求める都市伝説
「他人を傷つける……理由には……ならない……だろうが……」
理解しあえない、狂った存在
いや、狂ってなどいない
彼女は都市伝説として正しいのだ
そう行動すると語られている、純粋な都市伝説
くつくつと嗤う都市伝説に、体が恐怖で凍りつく
頭は冷静に思考し続けてくれるが、どうしても膝が立たない
いや、狂ってなどいない
彼女は都市伝説として正しいのだ
そう行動すると語られている、純粋な都市伝説
くつくつと嗤う都市伝説に、体が恐怖で凍りつく
頭は冷静に思考し続けてくれるが、どうしても膝が立たない
「小さき炎の、精霊よ……この者に、宿りて……その心を燃やせ」
すうっと楽になるのを感じ、震えが止まる
魔法の力が、凍えた心に火をともす
魔法の力が、凍えた心に火をともす
「ありがとう……ボク、何も出来なくて……」
役にも立てず、ただの足手纏いでしかない自分
もっと強くいられると思っていたのに……刀がなければ何も出来ない子供だ
情けなくて、悔しかった
もっと強くいられると思っていたのに……刀がなければ何も出来ない子供だ
情けなくて、悔しかった
「怖いのは……俺も、一緒……気にすることは……ない……その為の魔法」
真面目で、口下手で、優しい一言を言うにも精一杯の勇気が必要な男
かつて、自分の知った彼の記憶は、都合よく歪曲されたものではなく、真実
かつて、自分の知った彼の記憶は、都合よく歪曲されたものではなく、真実
そして、自分がここにいなければ、間違いなく彼が勝っていたはずの過去だ
「ボクは……逃げれば良いんだよね……全力で、ここから離れれば良いんだ」
「ん……それでいい……あいつは、俺が……必ず、ここで止めてやる」
「ん……それでいい……あいつは、俺が……必ず、ここで止めてやる」
魔術師の言葉に頷き、立ち上がる
風の魔法に切り刻まれながらも、ひきこさんはジリジリと距離を詰め始めていた
風の魔法に切り刻まれながらも、ひきこさんはジリジリと距離を詰め始めていた
「魔術師さん、ありがとう」
「……行け」
「貴方は正しかった……正しかったとボクは思う」
「ん……そうか……俺は……正しい事を、しているんだよな」
「だから、自分を見失わないで……」
「大丈夫だ……俺は、正しいんだろ?」
「うん!」
「……行け」
「貴方は正しかった……正しかったとボクは思う」
「ん……そうか……俺は……正しい事を、しているんだよな」
「だから、自分を見失わないで……」
「大丈夫だ……俺は、正しいんだろ?」
「うん!」
ハッキリと言い残し、走り出す
振り向かず、ただひたすらに、廃棄物の山の中を駆け抜け
真夏の生温い雨の中を走り続けた
赤血球から酸素が失われていき、体中に乳酸が溜まる
何度もつまづき、転びながらも走る
瓦礫の山を乗り越え、転がり落ち
体中に痛みを覚える
限界まで、もがく様に体を動かし進む
遠くに見える市街を目指して、前へと
走っているとは言えない様な速度で歩を進め
ついには倒れた
振り向かず、ただひたすらに、廃棄物の山の中を駆け抜け
真夏の生温い雨の中を走り続けた
赤血球から酸素が失われていき、体中に乳酸が溜まる
何度もつまづき、転びながらも走る
瓦礫の山を乗り越え、転がり落ち
体中に痛みを覚える
限界まで、もがく様に体を動かし進む
遠くに見える市街を目指して、前へと
走っているとは言えない様な速度で歩を進め
ついには倒れた
*
荒い息を吐きながら、何とか仰向けになり体を起こし、瓦礫の山の裾野に座る
ガラガラと崩れ落ちるゴミ
息を整えながら、辺りを見回す
ひきこさんは追って来ていない
ガラガラと崩れ落ちるゴミ
息を整えながら、辺りを見回す
ひきこさんは追って来ていない
ふ、と視線が止まる
ゴミの中に懐かしい物があったからだ
ゴミの中に懐かしい物があったからだ
白をベースとして、あずき色が配色されたプラスチックの製品
この色合いだけで、懐かしさが込み上げてくる
旧式のゲームハード
ゴミの山の中からでも、知っている者であれば、不思議と目が惹き付けられるであろう物
疲れを忘れ、思わず手を伸ばして───ハッとする
この色合いだけで、懐かしさが込み上げてくる
旧式のゲームハード
ゴミの山の中からでも、知っている者であれば、不思議と目が惹き付けられるであろう物
疲れを忘れ、思わず手を伸ばして───ハッとする
「まさか……これが……」
さっきまで一緒にいた魔術師の顔が脳裏をよぎる
先程までは、支配されてはいなかった
ならば、この帰りに接触する可能性が高い
先程までは、支配されてはいなかった
ならば、この帰りに接触する可能性が高い
見つめていると、触りたくなる様な魅力があった
それには間違いなく、何かが宿っている
それには間違いなく、何かが宿っている
「……ゲーム脳」
あの悪夢へと続く禍根
「ごめん……」
気力を振り絞り、近くにあったブラウン管のテレビを抱え
勢いを付けて、投げ落とす
プラスチックが砕け散り、雨の中にくぐもった音を響かせる
勢いを付けて、投げ落とす
プラスチックが砕け散り、雨の中にくぐもった音を響かせる
「怨んでくれて構わない」
テレビを抱え上げ、何度も叩き付ける
何度も、何度も、何度も……
粉々になり、原型が何であったのか判らない程に叩き潰す
どこかに埋めるだけでは不安が残ってしまう
破壊しなくてはいけない
何度も、何度も、何度も……
粉々になり、原型が何であったのか判らない程に叩き潰す
どこかに埋めるだけでは不安が残ってしまう
破壊しなくてはいけない
「……ごめん、ボクの我侭のせいで……ごめん」
いずれ、人間や都市伝説たちに害をなす存在となるが
今はまだ、何もしていないのだ
にもかかわらず、自分はこのゲーム脳を破壊している
今はまだ、何もしていないのだ
にもかかわらず、自分はこのゲーム脳を破壊している
こんなやり方しか出来ない自分を責める
全ては自分の我侭なのだ
全ては自分の我侭なのだ
降り続ける雨の中
精神と肉体の疲労が極限まで高まり、意識を失った───
精神と肉体の疲労が極限まで高まり、意識を失った───