「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-Hさん報復記-03

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 ≪爆発する携帯電話≫の契約者の案内に任せて病院へと到着したTさん達は持っていた荷物を≪爆発する携帯電話≫の契約者へと渡して病院内へと送り、自分達は白亜の建物から身を隠すようにして日の沈もうとするなか、門の傍の林の中でひっそりと存在を忘れられたかのように佇んでいるベンチに座って飲み物を飲んでいた。
 ジュースの缶から口を離して舞が呟く。
「随分と焦ってたよな、姉ちゃん」
「ああ……」
 感想の形で舞の口から零れた言葉にTさんは頷く。病院内で無事に会えていればいいがと思っていると、
「あ、Tさん、屋上」
 そう言いながら舞が病院の建物の上方を指さした。
 Tさんが言われた方を見やると、病院の屋上から道路を挟んだ隣のビルへと飛び移っていく影がある。その影は、
「あれって辰也の兄ちゃんじゃね?」
 遠目に見えるその姿は確かに、
「辰也のようだな」
「あのお兄ちゃんげんきなの?」
「みたいだな、怪我とか病気じゃねえみたいだ――ってあんなにあの兄ちゃん動けたのか?」
「そのようだな」
「はぁー、前は階段の上からこっちくんなーって言ってただけだからなんか意外だ」
 口を半開きにして呆れている舞に苦笑してTさんはリカちゃんに声をかける。
「リカちゃん、≪爆発する携帯電話≫の契約者に連絡を」
「れんらくなの?」
 リカちゃんが首を傾げるのでん、と頷いて、
「先程の影は辰也一人分だった。彼に会いに行った≪爆発する携帯電話≫の契約者に事情を聞いた方がいいだろう」
 今回の件にH№が絡んでいるのなら尚更だ。
 そう心中で付け足す。リカちゃんは「わかったの」と答え、舞の携帯を媒介に使用して≪爆発する携帯電話≫の契約者へと通常の回線を介さない、相手が病院内で電源を切っていようとも繋がる方法で連絡をとり始めた。
 相手側が携帯を取り、スピーカーモードで連絡が繋がる。受話器の向こう側は少し騒がしいようで、人のざわめきが聞こえた。≪爆発する携帯電話≫の契約者から事情を聞こうとすると電話は途中で代わられた。相手は髪の伸びる黒服こと宏也で、話を総合するに、『悪いが、ちょいとそこで待っていてくれ』とのことだった。
 怪訝な顔で通話が終了するのを待っていた舞は携帯を畳みながら、
「なんだ? 兄辰也のちゃん、まさかの三行半か?」
「何故そんな言葉を知っているんだ」
 事態の掴めていない舞の発言に呆れて応答しながら、Tさんはきな臭くなってきたと思う。
 携帯の向こうの喧騒、病院にはあるまじきものだ。何かがあったのだろう。
 舞、それにリカちゃんにも今がどういう状態かを把握してもらわなければ危険だろうな……。
 事態を説明した方がいいと考え、Tさんは心の中で深いため息をついた。
「舞、リカちゃんも。今回の件だが……」


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 説明には存外時間がかかった。
 宏也と辰也はH№の実験体の二人だけの生き残りで、彼等は彼等を実験に使ったH№元研究者に対して復讐心がある事、そして今回の件にはそのH№の元研究者の生き残りが関わっているであろうこと、先の事件で名の上がったH№9は既に彼等の手で殺されていること、≪モンスの天使≫の契約者である門条天地はおそらくH№に実験体として扱われた末に殺された門条晴海――これも先の事件で首謀者、朝比奈秀雄が口走っていた女性――がおそらく母親であろうこと、状況を鑑みるに門条天地を捨て駒にしたのはH№の誰かであろうこと……。おおよそTさんが知り得る情報を全て伝えた。
 長々と説明を受けた二人は、
「そいつはまた……しんどいな」
「むずかしいの」
 片や眉根を寄せて、片や困惑した声音で呟いた。
「ああ、難しいな」
 Tさんは苦笑し、しかし表情を緊の一字に引き締める。
「だが事態はどうやら逼迫していて俺達はそれに関わりを持ち始めていると、そのように認識しておいてくれ」
「お、おう」
「はいなの」
 二人の挙手とほぼ同時、病院から幾人かの影が飛び出してきた。その中にはヘンリエッタとジェラルドと呼ばれていた男の姿もある。
「あれ? ヘンリエッタの嬢ちゃん?」
「どらごんのおじさんのときにいっしょにいた男の人もいるの」 
「あー、あのおっちゃん、なんつったけ……直後に遭ったヘンリーの兄ちゃんと≪ユニコーン≫がインパクト強すぎて…………そうだ! ジェラルドとか呼ばれてたおっちゃんだ!」
 思考の海から情報を拾え上げた事に舞は破顔し、
「なんだ? あの二人も病院にいんのか? 他にも何人かいるみたいだけど」
 二人の他にもいくらか居る人々は陰になってよく姿が見えない。様子を見ようと身を乗り出しかけ、ヘンリエッタの姿を見た舞が危うく隠れていることを無意味にしかねない程の大声を上げた。
「Tさん! ヘンリエッタの嬢ちゃん血まみれだぜ!?」
「落ち着け」
 言って彼女の姿をよく見る。細かい傷が見えるが舞にはこの薄暗い中それを確認する事は出来ないだろう。ただその衣服に付着している血は悪目立ちしている。Tさんはそれを凝視し、
「大丈夫、あれは返り血だ。ヘンリエッタ嬢自身に大した外傷は無い」
 言葉に舞は安堵の表情を浮かべる。しかし首を傾げ、
「返り血?」
「病院内でも何か起こったということだろう」
 そう、≪組織≫が管轄している病院内で、だ。
 嫌な予感が的中したことにTさんは内心舌打ちする。
「あ、かみのくろふくさんなの」
 リカちゃんが病院の昇降口を示した。そこでは宏也が≪爆発する携帯電話≫の契約者と他、見知らぬ少女と老人、それに少年を一人ずつ伴って現れたところだった。
 それと同時にエンジン音が病院の敷地外から聞こえ、
「うわ、高そうな外車だな」
 赤いポルシェが病院内に乗りいれられてきた。その中から現れたのは、
「≪マッドガッサー≫、それに彼の仲間の内の一人だな」
 マッドガッサーは≪爆発する携帯電話≫の契約者ではなく、宏也と共にいた見知らぬ少女を乗せて行き、更に共に居た老人と少年は小走りに病院の敷地から出て行った。
 宏也はそれらを見送ってため息をつくと、周囲を見回し始めた。自分達を探しているのだろうと察したTさんは手に持ったジュースの缶をゴミ箱へと放り投げる。その音でTさん達の居場所に気付いた宏也は≪爆発する携帯電話≫の契約者――恵と共に駆け寄って来ると開口一番、謝罪と感謝を告げた。
「よぉ、久しぶり……悪いな。お姫さんを助けてくれたんだって? 助かった」
 珍しく殊勝な……。
「たまたま見かけたらな…放っておく訳にもいかない」
 そう答えながらTさんは宏也を見据えた。
 病院から移動した辰也も、先程のお嬢さん達も、そして今の髪の伸びる黒服さんも……。
 せわしない。そう思い、
「あまり、状況は芳しくないんだな?」
 そう結論した。
「………最悪の状況、一歩手前、だな」
 苦々しい表情を浮かべて宏也は続ける。
「辰也の奴が、突っ走りやがった……悪いが、ちょいと、手伝ってくれるか?」
「手伝い?」
 首をかしげた舞とリカちゃんに「あぁ」と宏也は頷き、
「今回のラスボスは、「不死身の狂人」って呼ばれてるしゃれにならん相手でな? ……辰也と恵を、護ってほしい」
「…………」
 Tさんは思案するように無言。
 思うのはこの件の根幹に関わる事の危険性だ。
 不死身の狂人、碌な存在ではないな……。
 そんな存在と敵対しろとこの男は言っている。この件はいわば彼等の身内の問題だ。以前の事件のようにこちらから関わろうと思っていなくても巻き込まれる状況ではない。
 まあ、しかし――
 宏也の隣では≪爆発する携帯電話≫の契約者が心配そうに彼を見上げていて、自分の隣からも似たような気配を感じる。
 知らん仲でもないしな。
 手を貸そうと心を決め、心中で苦笑と共に軽く息をつき、Tさんは宏也に訊ねた。
「あなたはどうする気だ」
「俺自身の身は、俺自身で護れるさ……ただ、それ以外を護る余裕が、ないんだよ。今回は」
 珍しく弱さを見せられている。そう思い、事態の深刻さを慮る。
「えーと……とりあえず、まずは辰也兄ちゃんを追いかけるんだよな?」
「あぁ。足はあるからな。行き先も予測はついてるし、何とかなる」
「あし?」
 首をかしげたリカちゃんに宏也は笑って頷き、携帯を取り出した。話されたのは異国の言語で、
『……よぉ、ローゼンクロイツの旦那。ちょいと緊急事態でな。移動用の竜、一匹貸してくれや。最低四人は乗れる奴………もちろん、一般人には姿見えないようにな?』
 ≪薔薇十字≫か。
 彼と協力関係にあるのだろう組織の名を思い、ついでに電話の内容を考える。結論として、
 ……舞が喜ぶな。
 これから行われるのはおそらく竜に乗っての移動だ。どこか少年のような性格をしている舞は喜ぶ事だろう。
「不死身で狂人かー、またキャッチーな二つ名だな」
「おあいてするの、たいへんそうなの」
「そもそも倒せんのか?」
 当の舞は電話の内容を聞きとれずにそちらの方が気になったようだ。
 声に不安げな色が含まれているのを感じ、Tさんは舞の頭に手を触れ、笑んでやった。
「不死身で狂人なら倒せるさ」
 以前そのような存在を倒したのだから間違いない。
 かつて王として≪夢の国≫を狂わせていた老人を思い出しながらそう確信を込めて言い、
「いろいろと知る必要はあるがな」
 そう言葉を継いで宏也へと顔を向ける。
「出来るだけ関連する情報をくれ。気を付けるべき事も、全てだ」



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