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竜はそう時間を開ける事無く現れた。宏也の注文通り、人を四人乗せるくらいならば十分出来そうな竜、それを見て舞は、
「でっか!? ……つか、よく目立たずに飛んできたよな!?」
「なぁに、関係ない連中にゃ姿見えなくなってるからな。俺達も、こいつに乗れば、他者に気づかれずに飛んでいける」
「まあそうだろうな」
隠蔽技術無しでこんなものを持ちだしてくるほど宏也も自失してはいまい。
「どらごんさんなの!」
心持ちはしゃぐリカちゃんにTさんは笑いかけ、
「今回はアレに乗ってドライブだ」
言うと舞は「おおっ」と感嘆し、
「竜をタクシー代わりかよ、生きててよかったぁ」
妙な感動の仕方をしていた。Tさんはそれに呆れると舞とリカちゃんを促す。
「さあ、乗ろうか」
軽い地響きを立てて腰を下ろした竜はそれでも見上げるような巨体だ。舞や恵が登るには苦労するだろうと思っていると、
「へ?」
そんな気の抜けた声と共に舞の身体が宙に浮いた。
「む」
Tさん自身の身体も持ちあげられている。持ちあげているものの正体は、
「髪か」
宏也の操る髪だった。そのまま勢いよく竜の背へと押し上げられたTさんは髪の持ち主である宏也へと渋い顔で苦言を呈する。
「できれば、一言合図くらいはほしかったものだが」
「悪いな。急ぐもんで」
宏也は悪びれた様子もなく目を回しかけている恵を揺さぶった。次いで竜の背を、合図なのか軽く叩く。竜はそれに応えるように大きく翼を広げ、空へと羽ばたいた。
「スピード出させるからな。気をつけろよ」
「お、おうっ!? リカちゃん、鞄の中入ってろ!」
「はいなの~」
言った傍から突然飛ぶか。焦り故か彼の人格故か……。
揺れる竜の背の上で、こちらに寄りかかってきた舞を抱きとめてやりながらTさんは宏也に先程の問いを再び投げかける。
「……髪の伸びる黒服さん、まずは、「不死身の狂人」とやらについて、聞いてもいいだろうか」
「あぁ、もちろん」
強風の中、しかし何らかの術が働いているのか不思議と互いの言葉は聞こえている。
宏也はやや早口に、Tさんの問いかけに答え始めた。
「H№1、ハンニバル・ヘースティングス。契約ってか、飲み込まれた都市伝説は不明。ただ、上半身を吹き飛ばされても即、再生する再生力を持っている上、達人クラスの剣の腕前だ」
「再生……だから「不死身」か」
「その通り。ついでに言うと、「最強の目」なんてもんをもっていやがる」
「「最強の目」?」
「そうさ。通常見えないものを当たり前のように見てきやがるし、動体視力も軽く人間の限界以上。複数の「目」に関する都市伝説が総合されたもんだと思うが」
目……。
Tさんは以前出会った銀髪の占い師を思い出す。
あれよりもよく視える目を持っているのなら俺の≪ケサランパサラン≫も読み取られるだろうか……。
だとしたら≪ケサランパサラン≫によるハンニバルの能力解析は絶望的だろう。元が視る能力持ちでもない上に相手は視る事に対して一日の長がある。
……不死身の正体は簡単には視せてはくれまい。
「……厄介だな」
「あぁ、まったくだ……立場上はH№研究陣の、実質トップ……非人道な実験を、率先して行っていた野郎だ」
それ故の、狂人。
辰也も宏也もその実験の被害者という事になる。
「……俺よりも、辰也の方が、連中への恨みは深いだろうよ。俺はなんだかんだで人間やめた程度で、≪組織≫に確保された後は、あの連中にはいじられずにすんでたからな」 それ以降も辰也は実験を受け続けたのだろうな。
大した悪夢だと思い、その思考を振りはらう。
「他には?」
「そうだな……いつも、やけに立派な鞘に収めた剣を持ってるな。案外、あの剣が契約都市伝説なのかもしれない」
「剣……西洋剣か?」
「ああ、両刃の直刀、鞘の拵えも見た限りでは西洋の流れを汲むものだった」
もしその剣が契約都市伝説だとしたらその剣はどのような恩恵をハンニバルに与えているのだろうか。いくつかの候補を脳内で思案していると、顔をこちらの胸に押しつけて表情を見せようとしない舞が赤く染まった耳のまま胸元で口を開いた。
「……なぁ、黒服さん」
「うん?」
「辰也の兄ちゃん、モンスの天使の契約者を助けたんだって? その理由、わかるか?」
舞の問いかけに、宏也はやや難しそうな表情で答える。
「さぁな。俺も、詳しい事情はわからねぇ。ただ、≪組織≫にいた頃から、どうにも天地の事は気にしていたからな……」
「それは、≪爆発する携帯電話≫の契約者からも聞いたが……そうか、あなたも知らなかったか」
「悪ぃ。天地は俺よりも先に辰也と知り合いだったからな」
そう言ってなにやら難しい顔で思案しているような表情に横で様子を窺っていた恵が首を傾げるのに、
「あぁ、いや、何でもない」
と答える。
「モンスの天使の契約者……門条天地は、捨て駒にされたと推測される……辰也が天地を気にかけていたというのなら」
「あんたの推測が、多分当たりだ。辰也を刺激するのが狙いだろうよ」
Tさんの言葉に宏也はそう答えた。
わざわざ捨て駒同然に天地を辰也にぶつけてきたのは辰也を刺激する為と、挑発する為。……筋は通る。実際に彼は今こうして先走っている。
「門条天地は……H№に実験体として使われていた、門条晴海の子供なのだろうか?」
「おぉっと、その情報ももってたか……あぁ、そいつは確定さ」
きっぱりと、その事実を認めた。
「……門条晴海の子供、だからこそ。天地は、普通の人間とは、若干違う点がある……ただ、ハンニバルからしてみれば、期待とは程遠いもんだったんだろ。だから、捨て駒にされたんだ」
「……ひでぇ」
舞の呻くような声にTさんは静かに頷いた。
……確かに、非道としか言いようがない。
碌な者が居ないというH№の研究者達の長、ハンニバルはそういう男なのだろう。Tさんは胸にわだかまる嫌悪を吐き捨てる。
「Tさん。あんたにゃ、辰也と恵を護ってほしいが……あんたらも、無茶するなよ。やばいと思ったら、とっとと逃げてくれ」
「……ああ」
状況如何ではそうさせてもらおう。
返事を返しきる直前、竜が嘶き旋回しながら地面へと降りて立っていく。
目的地に、たどり着いたようだった。
「でっか!? ……つか、よく目立たずに飛んできたよな!?」
「なぁに、関係ない連中にゃ姿見えなくなってるからな。俺達も、こいつに乗れば、他者に気づかれずに飛んでいける」
「まあそうだろうな」
隠蔽技術無しでこんなものを持ちだしてくるほど宏也も自失してはいまい。
「どらごんさんなの!」
心持ちはしゃぐリカちゃんにTさんは笑いかけ、
「今回はアレに乗ってドライブだ」
言うと舞は「おおっ」と感嘆し、
「竜をタクシー代わりかよ、生きててよかったぁ」
妙な感動の仕方をしていた。Tさんはそれに呆れると舞とリカちゃんを促す。
「さあ、乗ろうか」
軽い地響きを立てて腰を下ろした竜はそれでも見上げるような巨体だ。舞や恵が登るには苦労するだろうと思っていると、
「へ?」
そんな気の抜けた声と共に舞の身体が宙に浮いた。
「む」
Tさん自身の身体も持ちあげられている。持ちあげているものの正体は、
「髪か」
宏也の操る髪だった。そのまま勢いよく竜の背へと押し上げられたTさんは髪の持ち主である宏也へと渋い顔で苦言を呈する。
「できれば、一言合図くらいはほしかったものだが」
「悪いな。急ぐもんで」
宏也は悪びれた様子もなく目を回しかけている恵を揺さぶった。次いで竜の背を、合図なのか軽く叩く。竜はそれに応えるように大きく翼を広げ、空へと羽ばたいた。
「スピード出させるからな。気をつけろよ」
「お、おうっ!? リカちゃん、鞄の中入ってろ!」
「はいなの~」
言った傍から突然飛ぶか。焦り故か彼の人格故か……。
揺れる竜の背の上で、こちらに寄りかかってきた舞を抱きとめてやりながらTさんは宏也に先程の問いを再び投げかける。
「……髪の伸びる黒服さん、まずは、「不死身の狂人」とやらについて、聞いてもいいだろうか」
「あぁ、もちろん」
強風の中、しかし何らかの術が働いているのか不思議と互いの言葉は聞こえている。
宏也はやや早口に、Tさんの問いかけに答え始めた。
「H№1、ハンニバル・ヘースティングス。契約ってか、飲み込まれた都市伝説は不明。ただ、上半身を吹き飛ばされても即、再生する再生力を持っている上、達人クラスの剣の腕前だ」
「再生……だから「不死身」か」
「その通り。ついでに言うと、「最強の目」なんてもんをもっていやがる」
「「最強の目」?」
「そうさ。通常見えないものを当たり前のように見てきやがるし、動体視力も軽く人間の限界以上。複数の「目」に関する都市伝説が総合されたもんだと思うが」
目……。
Tさんは以前出会った銀髪の占い師を思い出す。
あれよりもよく視える目を持っているのなら俺の≪ケサランパサラン≫も読み取られるだろうか……。
だとしたら≪ケサランパサラン≫によるハンニバルの能力解析は絶望的だろう。元が視る能力持ちでもない上に相手は視る事に対して一日の長がある。
……不死身の正体は簡単には視せてはくれまい。
「……厄介だな」
「あぁ、まったくだ……立場上はH№研究陣の、実質トップ……非人道な実験を、率先して行っていた野郎だ」
それ故の、狂人。
辰也も宏也もその実験の被害者という事になる。
「……俺よりも、辰也の方が、連中への恨みは深いだろうよ。俺はなんだかんだで人間やめた程度で、≪組織≫に確保された後は、あの連中にはいじられずにすんでたからな」 それ以降も辰也は実験を受け続けたのだろうな。
大した悪夢だと思い、その思考を振りはらう。
「他には?」
「そうだな……いつも、やけに立派な鞘に収めた剣を持ってるな。案外、あの剣が契約都市伝説なのかもしれない」
「剣……西洋剣か?」
「ああ、両刃の直刀、鞘の拵えも見た限りでは西洋の流れを汲むものだった」
もしその剣が契約都市伝説だとしたらその剣はどのような恩恵をハンニバルに与えているのだろうか。いくつかの候補を脳内で思案していると、顔をこちらの胸に押しつけて表情を見せようとしない舞が赤く染まった耳のまま胸元で口を開いた。
「……なぁ、黒服さん」
「うん?」
「辰也の兄ちゃん、モンスの天使の契約者を助けたんだって? その理由、わかるか?」
舞の問いかけに、宏也はやや難しそうな表情で答える。
「さぁな。俺も、詳しい事情はわからねぇ。ただ、≪組織≫にいた頃から、どうにも天地の事は気にしていたからな……」
「それは、≪爆発する携帯電話≫の契約者からも聞いたが……そうか、あなたも知らなかったか」
「悪ぃ。天地は俺よりも先に辰也と知り合いだったからな」
そう言ってなにやら難しい顔で思案しているような表情に横で様子を窺っていた恵が首を傾げるのに、
「あぁ、いや、何でもない」
と答える。
「モンスの天使の契約者……門条天地は、捨て駒にされたと推測される……辰也が天地を気にかけていたというのなら」
「あんたの推測が、多分当たりだ。辰也を刺激するのが狙いだろうよ」
Tさんの言葉に宏也はそう答えた。
わざわざ捨て駒同然に天地を辰也にぶつけてきたのは辰也を刺激する為と、挑発する為。……筋は通る。実際に彼は今こうして先走っている。
「門条天地は……H№に実験体として使われていた、門条晴海の子供なのだろうか?」
「おぉっと、その情報ももってたか……あぁ、そいつは確定さ」
きっぱりと、その事実を認めた。
「……門条晴海の子供、だからこそ。天地は、普通の人間とは、若干違う点がある……ただ、ハンニバルからしてみれば、期待とは程遠いもんだったんだろ。だから、捨て駒にされたんだ」
「……ひでぇ」
舞の呻くような声にTさんは静かに頷いた。
……確かに、非道としか言いようがない。
碌な者が居ないというH№の研究者達の長、ハンニバルはそういう男なのだろう。Tさんは胸にわだかまる嫌悪を吐き捨てる。
「Tさん。あんたにゃ、辰也と恵を護ってほしいが……あんたらも、無茶するなよ。やばいと思ったら、とっとと逃げてくれ」
「……ああ」
状況如何ではそうさせてもらおう。
返事を返しきる直前、竜が嘶き旋回しながら地面へと降りて立っていく。
目的地に、たどり着いたようだった。