●
俺は歩きながらでもなんでもとりあえず姉ちゃんに話を聞こうと思い……それよりもまず質問しなけりゃならないことがあった。
Tさんがあずかっている鞄を指さし、
「……ところで姉ちゃん。Tさんが預かってる鞄がさっきからごそごそ蠢いている件について説明求む」
さっきから鞄の中で何かが身動きする音がしていてメチャクチャ気になるんだが。
「……あ……中、ジャッカロープ……いる、から」
「なるほど。まぁ、角が生えた兎を表に出して連れ出す訳にも行かないか」
ジャッカロープって確か乳に回復系のパワーがある角のある兎だったっけかと中央高校でチラっとだけ見た兎のことを思い出す。更に鞄の中からなんかが擦れあうような音がガチャガチャ聞こえてるけど……。
「おかばんの中。でんわいっぱいなの」
リカちゃんが感じ取ったようだ。
ああ、なるほど。姉ちゃんの武器だもんなー……。
…………この中の携帯全部ふっ飛ばしたら凄い事になるんじゃねえか。
そんな事を思っているとTさんが姉ちゃんに話を促した。
「状況を、聞かせてもらってもかまわないだろうか?」
「……くけっ」
姉ちゃんが頷く。体力はあまりねえのか息は荒いままだ。
姉ちゃんは小さい声で状況を説明し始めた。
Tさんがあずかっている鞄を指さし、
「……ところで姉ちゃん。Tさんが預かってる鞄がさっきからごそごそ蠢いている件について説明求む」
さっきから鞄の中で何かが身動きする音がしていてメチャクチャ気になるんだが。
「……あ……中、ジャッカロープ……いる、から」
「なるほど。まぁ、角が生えた兎を表に出して連れ出す訳にも行かないか」
ジャッカロープって確か乳に回復系のパワーがある角のある兎だったっけかと中央高校でチラっとだけ見た兎のことを思い出す。更に鞄の中からなんかが擦れあうような音がガチャガチャ聞こえてるけど……。
「おかばんの中。でんわいっぱいなの」
リカちゃんが感じ取ったようだ。
ああ、なるほど。姉ちゃんの武器だもんなー……。
…………この中の携帯全部ふっ飛ばしたら凄い事になるんじゃねえか。
そんな事を思っているとTさんが姉ちゃんに話を促した。
「状況を、聞かせてもらってもかまわないだろうか?」
「……くけっ」
姉ちゃんが頷く。体力はあまりねえのか息は荒いままだ。
姉ちゃんは小さい声で状況を説明し始めた。
●
姉ちゃんの言葉はいきなり過激な発言から始まった。
「≪モンスの天使≫……契約者、の……門条天地……が、俺たちの住んでる教会……襲ってきた」
「え? 教会? 襲ってきた?」
「事件以降はどうやら町の廃教会を住処にしているようだな」
「へえ、そりゃ初耳だ」
誠の兄ちゃん以外とはあれ以来会ってないしなー。いつかまたあの≪マッドガッサー≫の素顔を撮りに強襲かけるのも悪くないな。
って、≪モンスの天使≫だぁ?
「Tさん、≪モンスの天使≫っつーとやっぱりあの中央高校ん時の?」
「ああ、門条天地という契約者の名前からして、間違いないな」
あの神々しさのかけらもない乱射天使の群れを思い出す。ひどい目に遭ったなぁ。
「あれ? Tさん契約者の名前知ってるんだ?」
「ああ、以前黒服さんに聞いてな」
「うわぁ、俺知らねーぞ」
「わたしもなの」
「すまないな」
責めるように言うとTさんは苦笑して返してきた。
まあそもそもこれから関わることも無い人だと思ってたしなぁ、訊かなかったから答えなかったって事かな。
「で? やっぱりあん時みたいにすぐに撤退したのか?」
「い、いや……」と姉ちゃんは首を振って、
「門条天地は……たぶん、た、辰也を狙って来てて……でもそれも仕組まれてたもの、で。門条天地、は捨て駒同然だったと……思う……門条天地は襲撃途中、で倒れて、命を落としかねなくて……それを辰也が助けた」
不安そうな表情になって、
「その後、辰也、どこかに行ってしまった……い、嫌な予感するんだ……辰也が居なくなってしまうみたいな…………そんな気がして」
襲撃途中で倒れる? 体調不良か? んでもって何より気になるのは、
「辰也の兄ちゃんが、その≪モンスの天使≫の契約者を助けたのか?」
「…………あぁ」
「やや、違和感を感じるな」
俺もそう思う。辰也の兄ちゃんは≪組織≫を随分と恨んでるみたいだった。それに≪モンスの天使≫の契約者が襲いに行ったってことならこれで二回目ってことになる。恨みもひとしおだろう。
そう思い、でも、いや、と思い直した。まぁ、と前置きして
「辰也の兄ちゃんも、元≪組織≫、なんだよな? だったら、前々から知り合いの可能性もあるよな」
いくら実験やらなんやらでひどい目に遭った≪組織≫の所属でも、知り合いならたとえ襲ってきた相手でも死にそうなら助けたくなるだろ。
姉ちゃんも頷いて、
「……多分、そう、だと思う…………何だか……心配、しているようにも、見えた……でも、辰也は、≪組織≫に居た頃の事、あまり話さないから……」
「襲われた理由も辰也が助けた理由も、≪モンスの天使≫の契約者、門条天地との人間関係なども不明か」
姉ちゃんはTさんの言葉に力なく頷いた。
「≪モンスの天使≫……契約者、の……門条天地……が、俺たちの住んでる教会……襲ってきた」
「え? 教会? 襲ってきた?」
「事件以降はどうやら町の廃教会を住処にしているようだな」
「へえ、そりゃ初耳だ」
誠の兄ちゃん以外とはあれ以来会ってないしなー。いつかまたあの≪マッドガッサー≫の素顔を撮りに強襲かけるのも悪くないな。
って、≪モンスの天使≫だぁ?
「Tさん、≪モンスの天使≫っつーとやっぱりあの中央高校ん時の?」
「ああ、門条天地という契約者の名前からして、間違いないな」
あの神々しさのかけらもない乱射天使の群れを思い出す。ひどい目に遭ったなぁ。
「あれ? Tさん契約者の名前知ってるんだ?」
「ああ、以前黒服さんに聞いてな」
「うわぁ、俺知らねーぞ」
「わたしもなの」
「すまないな」
責めるように言うとTさんは苦笑して返してきた。
まあそもそもこれから関わることも無い人だと思ってたしなぁ、訊かなかったから答えなかったって事かな。
「で? やっぱりあん時みたいにすぐに撤退したのか?」
「い、いや……」と姉ちゃんは首を振って、
「門条天地は……たぶん、た、辰也を狙って来てて……でもそれも仕組まれてたもの、で。門条天地、は捨て駒同然だったと……思う……門条天地は襲撃途中、で倒れて、命を落としかねなくて……それを辰也が助けた」
不安そうな表情になって、
「その後、辰也、どこかに行ってしまった……い、嫌な予感するんだ……辰也が居なくなってしまうみたいな…………そんな気がして」
襲撃途中で倒れる? 体調不良か? んでもって何より気になるのは、
「辰也の兄ちゃんが、その≪モンスの天使≫の契約者を助けたのか?」
「…………あぁ」
「やや、違和感を感じるな」
俺もそう思う。辰也の兄ちゃんは≪組織≫を随分と恨んでるみたいだった。それに≪モンスの天使≫の契約者が襲いに行ったってことならこれで二回目ってことになる。恨みもひとしおだろう。
そう思い、でも、いや、と思い直した。まぁ、と前置きして
「辰也の兄ちゃんも、元≪組織≫、なんだよな? だったら、前々から知り合いの可能性もあるよな」
いくら実験やらなんやらでひどい目に遭った≪組織≫の所属でも、知り合いならたとえ襲ってきた相手でも死にそうなら助けたくなるだろ。
姉ちゃんも頷いて、
「……多分、そう、だと思う…………何だか……心配、しているようにも、見えた……でも、辰也は、≪組織≫に居た頃の事、あまり話さないから……」
「襲われた理由も辰也が助けた理由も、≪モンスの天使≫の契約者、門条天地との人間関係なども不明か」
姉ちゃんはTさんの言葉に力なく頷いた。
●
≪組織≫に居た時の事を話さないのは辰也の配慮だろうとTさんは判断した。
実験体であった過去、語って面白いものでもないだろう。
そう思いながらより詳しく≪爆発する携帯電話≫の契約者の話を聞こうと質問を投げかける。
「辰也がどこかに行ってしまったという話だったが、連絡はとれないのか?」
たしか彼等には≪スーパーハカー≫がいた筈だと思いながら問いかけると、
「連絡、とれない……辰也の兄代わりの……宏也、あ、髪が伸びるあの人の事なんだが……彼なら知ってそうで」
「連絡が取れたのか?」
何度か顔を合わせた事のある宏也というらしい髪の伸びる黒服の姿を頭に浮かべ、以前会った彼が辰也の事を気にかけていた事を思い出す。
≪爆発する携帯電話≫の彼女は「いや……」と頭を振ると、
「でも、≪スーパーハカー≫に居場所を……調べてもらった」
「今向かっているのはそこか?」
「う、うん」
「どこなのー?」
「びょ、病院……≪組織≫の管轄の」
「≪組織≫管轄の病院か……」
「辰也も……向かっている、らしい」
「そうか」
あまり≪組織≫には関わる気は無い。しかし、病院の前までならば構わないかとTさんが思っていると、≪爆発する携帯電話≫の契約者が何か思い出したように小声で、
「……さっきの、蛇……」
「ん? あの馬鹿でかい毒蛇か?」
即座に応じた舞へと会釈し、≪爆発する携帯電話≫の契約者は続ける。
「辰也、から……少しだけ、聞いた事が、ある……≪組織≫に、毒を持った生物を巨大化させて……それを召喚して、操る能力を持つ者がいる、と」
「マジか! 誰?!」
「……H№2、と言う者、らしい……」
「……H№?」
「あー、≪組織≫の奴か~」
舞が嫌そうな顔をしている。それを横目に見ながらTさんも険しい顔をしていた。
H№……。
以前、宏也が会話中に匂わせていた事が頭に浮かぶ。
人体実験を好んだというH№9……髪の伸びる黒服さんはそれを殺したと言っていたな。
そして、
他のH№もロクなモノはいないという話だった……。
辰也はH№そのものをひどく恨んでいるという、そしておそらく、
髪の伸びる黒服さんも……。
彼らが血相を変えて動きだしたこのタイミングでH№の者がこの娘に手を出したのは偶然だろうか? おそらくは違うだろう。
辰也は動いている。恐らくはH№を標的として。
……復讐か。
Tさんは暮れなずむ空を見上げてため息を吐く。
やがて呼吸が整ったのか≪爆発する携帯電話≫の契約者が焦りをにじませた声を上げた。
「……病院…………急が、ないと……」
「だな。行こうぜ、Tさん」
「……ああ」
頷きながら不意に浮かんできた嫌な思考をまとめる。
門条晴海……。
以前関わった事件でその名を聞いた、H№の非人道的な実験に利用され、殺されたという女性。そして、誰かに捨て駒にされ、H№の元実験体である辰也を襲いに行ったという≪組織≫所属の契約者、門条天地。彼らが無関係と考えるのは楽観的にすぎるだろう。
――そして、
突然動き出したH№とそれに恨みを持つH№実験体の生き残り、辰也と宏也。
……嫌なラインが繋がっているな。
「え? なに?」
「いや、急ごうか」
周りを警戒し、駆けだす。
事態は思ったよりも深刻かもしれんなと、そう思いながら。
実験体であった過去、語って面白いものでもないだろう。
そう思いながらより詳しく≪爆発する携帯電話≫の契約者の話を聞こうと質問を投げかける。
「辰也がどこかに行ってしまったという話だったが、連絡はとれないのか?」
たしか彼等には≪スーパーハカー≫がいた筈だと思いながら問いかけると、
「連絡、とれない……辰也の兄代わりの……宏也、あ、髪が伸びるあの人の事なんだが……彼なら知ってそうで」
「連絡が取れたのか?」
何度か顔を合わせた事のある宏也というらしい髪の伸びる黒服の姿を頭に浮かべ、以前会った彼が辰也の事を気にかけていた事を思い出す。
≪爆発する携帯電話≫の彼女は「いや……」と頭を振ると、
「でも、≪スーパーハカー≫に居場所を……調べてもらった」
「今向かっているのはそこか?」
「う、うん」
「どこなのー?」
「びょ、病院……≪組織≫の管轄の」
「≪組織≫管轄の病院か……」
「辰也も……向かっている、らしい」
「そうか」
あまり≪組織≫には関わる気は無い。しかし、病院の前までならば構わないかとTさんが思っていると、≪爆発する携帯電話≫の契約者が何か思い出したように小声で、
「……さっきの、蛇……」
「ん? あの馬鹿でかい毒蛇か?」
即座に応じた舞へと会釈し、≪爆発する携帯電話≫の契約者は続ける。
「辰也、から……少しだけ、聞いた事が、ある……≪組織≫に、毒を持った生物を巨大化させて……それを召喚して、操る能力を持つ者がいる、と」
「マジか! 誰?!」
「……H№2、と言う者、らしい……」
「……H№?」
「あー、≪組織≫の奴か~」
舞が嫌そうな顔をしている。それを横目に見ながらTさんも険しい顔をしていた。
H№……。
以前、宏也が会話中に匂わせていた事が頭に浮かぶ。
人体実験を好んだというH№9……髪の伸びる黒服さんはそれを殺したと言っていたな。
そして、
他のH№もロクなモノはいないという話だった……。
辰也はH№そのものをひどく恨んでいるという、そしておそらく、
髪の伸びる黒服さんも……。
彼らが血相を変えて動きだしたこのタイミングでH№の者がこの娘に手を出したのは偶然だろうか? おそらくは違うだろう。
辰也は動いている。恐らくはH№を標的として。
……復讐か。
Tさんは暮れなずむ空を見上げてため息を吐く。
やがて呼吸が整ったのか≪爆発する携帯電話≫の契約者が焦りをにじませた声を上げた。
「……病院…………急が、ないと……」
「だな。行こうぜ、Tさん」
「……ああ」
頷きながら不意に浮かんできた嫌な思考をまとめる。
門条晴海……。
以前関わった事件でその名を聞いた、H№の非人道的な実験に利用され、殺されたという女性。そして、誰かに捨て駒にされ、H№の元実験体である辰也を襲いに行ったという≪組織≫所属の契約者、門条天地。彼らが無関係と考えるのは楽観的にすぎるだろう。
――そして、
突然動き出したH№とそれに恨みを持つH№実験体の生き残り、辰也と宏也。
……嫌なラインが繋がっているな。
「え? なに?」
「いや、急ごうか」
周りを警戒し、駆けだす。
事態は思ったよりも深刻かもしれんなと、そう思いながら。