エンジェルさん 01
「エンジェルさんエンジェルさんおこしください」
とっくに成人した男が、一人部屋の中で独り言をぶつぶつと呟いている状況と言うのは異質じゃあないか。と、自分でも思ってみた。
「エンジェルさん……なんで出てこねえんだよ!!」
「何の用事だ」
「うごああああああああ?!」
「何の用事だ」
「うごああああああああ?!」
男か女か分からないような声が聞こえた。もう一度確認しよう。この部屋には俺一人しかいない。まあ一人暮らしだから当然だ。
「……だ、誰だよちくしょう!! 名を名乗れえええええ!!」
謎の声に何の用事だと聞かれたが、名を名乗らん奴にいう必要はない!!
「お前がさっき呼んだんだろうが」
俺が呼んだ? 俺が呼んだのはエンジェルさ……。
「もしかして……エンジェルさん?」
「そうだ」
「そうだ」
自称エンジェルさんが現れた。いや、現れてない。声が聞こえる。
「で、何でこっくりさん、とかではなく俺を呼んだんだ? 普通は恋愛の話で呼ばれるはずだが」
状況が理解できんが無意識に正座してしまっていた。
「……かわいい女の子をちょっと期待してた。反省はしていない」
「そんな理由だったのか。よし、そこになおれ」
「そんな理由だったのか。よし、そこになおれ」
こりゃあまずい。エンジェルさんは怒らせるとこっくりさんより厄介だと聞いたぞ。
「ひ、一つだけ教えてくれ! 俺の、妹のことなんだ!」
「……話せ」
「実は……結構前から姿が見えないんだ。警察は家出だろうと言ってるし……でも家出なんかするような奴じゃないんだ」
「……話せ」
「実は……結構前から姿が見えないんだ。警察は家出だろうと言ってるし……でも家出なんかするような奴じゃないんだ」
中学生とはいえまだ子供だ。そんなに長い間ひとりで暮らせるとは思えない。
「……じゃあそのペンを握れ。やってやる」
俺は言われたとおりにペンを握った。
「お前の質問は、何だ」
「……妹の居場所を……教えてくれ」
「……妹の居場所を……教えてくれ」
その途端、ペンが勝手に動き出す。
『ユ メ ノ ク ニ』
「夢の、国……?」
「コイツは厄介だな」
「コイツは厄介だな」
自称エンジェルさんは意味深なことを言う。
確かに『夢の国に子供が攫われる』と言う都市伝説を聞いたことがある。
「まさか……」
「そうだ、お前の妹は夢の国に取り込まれている可能性が高い」
「そんなことが……」
「あるんだよ」
「そうだ、お前の妹は夢の国に取り込まれている可能性が高い」
「そんなことが……」
「あるんだよ」
あるはすがない、と言おうとして遮られた。
「最近ニュースとかでもやってるだろ? 謎の変死体やら何やら。アレも、都市伝説の仕業だ」
「い、妹は助かるのか?!」
「わからない。夢の国は詳しいことが良く分からないんだ」
「助ける方法はねえのか?!」
「い、妹は助かるのか?!」
「わからない。夢の国は詳しいことが良く分からないんだ」
「助ける方法はねえのか?!」
あの都市伝説の結末は、『攫われた子供は臓器を抜かれる』と言うものだった気がする。そんなこと、考えたくない。
「……他の奴らに倒されるのを待つか、それとも自分で倒すか、だな」
「他の、奴ら? 自分で倒す? 都市伝説相手に戦うのか?」
「そうだ」
「どうやってだよ……」
「他の、奴ら? 自分で倒す? 都市伝説相手に戦うのか?」
「そうだ」
「どうやってだよ……」
ありえない。都市伝説を倒す? 第一どうやって戦うんだ。
「契約するんだ」
「契約?」
「都市伝説と手を結ぶんだ。それで都市伝説から力を借りる。実際に戦っている奴もいるしな」
「いるのかよ……嘘だろ……」
「契約?」
「都市伝説と手を結ぶんだ。それで都市伝説から力を借りる。実際に戦っている奴もいるしな」
「いるのかよ……嘘だろ……」
今、世界が広がった気がする。……というよりもこの自称『エンジェルさん』と話している時点で随分日常とは離れてしまっている気もするが。
「と、いうかそれで本当に助けられるのか?」
「助けられるかもしれない、助けられないかもしれない」
「……俺にも、出来ることはあるか……?」
「ま、心がけ次第だな」
「助けられるかもしれない、助けられないかもしれない」
「……俺にも、出来ることはあるか……?」
「ま、心がけ次第だな」
心がけ……っておい。……やるしかないのか? これ。
「……契約、ってどうやるんだ?」
「やる気になったのか? なら、そのペンで『契約完了』と書け」
「やる気になったのか? なら、そのペンで『契約完了』と書け」
さっき使っていた赤ペンが目に入る。
「わかった……コレでいいか?」
「よし、契約完了だ」
「よし、契約完了だ」
そういった瞬間どこからか煙が舞い上がる。そこに人型が現れ……。
「こうなるのも久しぶりだな……」
「おっさんじゃねぇか!!!」
「おっさんじゃねぇか!!!」
煙の中からおっさんが現れた。
「おっさんで悪いか」
「エンジェルさんっつったらロリショタか可愛い女の子だろ!」
「エンジェルさんっつったらロリショタか可愛い女の子だろ!」
というかこんなおっさんが『エンジェルさん』なんて名前だとは思いたくない。
「仕方がないだろ、気がついたらこうなってたんだよ」
そういっておっさんがむくれる。正直言って可愛くない。というかちょっと気持ち悪い。
「気色悪いからやめろ」
少し傷ついたらしい。顔が暗くなった。
「……とにかく、これから色々な都市伝説に襲われるから気をつけろ」
「は? 襲われる? 何だよそれ。嘘だろ」
「は? 襲われる? 何だよそれ。嘘だろ」
俺、一般人。昔の部活、帰宅部。運動、無理。
「本当だ。人間に害を出す都市伝説から見たら邪魔者だからな」
「聞いてねえよちくしょう……」
「言ってないからな。……まあ、俺がいるし大丈夫だろう」
「……強いのか?」
「聞いてねえよちくしょう……」
「言ってないからな。……まあ、俺がいるし大丈夫だろう」
「……強いのか?」
確かにこのおっさんは貧弱な体ではなさそうだが、武器を使ったりするような都市伝説と戦えるとは思えない。
「いや。花子さんにも勝てる気がしない」
予想以上に弱そうだ。……いや、花子さんが強いのか?
「お前弱いな。そんなんで守れるのか?」
「俺の能力で危険に近づく前に教えてやるから安心しろ」
「それほど安心できねえんだが……」
「俺の能力で危険に近づく前に教えてやるから安心しろ」
「それほど安心できねえんだが……」
けど、すでに俺は巻き込まれてしまった。何より、妹を助けなければならない。
「よろしくな」
俺は手を差し出す。
「おう」
自称エンジェルさんと握手をする。でもどうせならかわいい女の子が良かった。
と、言うわけで今は情報屋をやっている。客は……たまに来る。契約者とか。
「おっさん、次の仕事はどこでやればいい?」
「俺をおっさん呼ばわりするな。……ちょっと待ってろ」
「俺をおっさん呼ばわりするな。……ちょっと待ってろ」
そういっておっさんの姿が消える。正確にはペンの中に宿っているらしいが。
「よし、じゃあ行くぞー。都市伝説の情報を求めている人はどこにいますか?」
『ミ ナ ミ チ ク』
「南地区? ……ああ、確かわりと古い高校があるところだったか?」
頭の中で町の地図を思い浮かべる。そういえば、この町には学校が沢山あった。
「確かそうだな。最近は事件が多いとか何とか」
「ふーん」
「ふーん」
学校に通っていたことなんか遠い昔の記憶だ。と言うか妹のことを思い出すから学校に近づきたくない。
「ま、客がいるなら俺は行くけどね」
「当然だ。それが今のお前の仕事だろ」
「当然だ。それが今のお前の仕事だろ」
情報を集めて提供する。そして他の契約者が都市伝説を倒す手助けをする。それが俺の仕事。ついでに夢の国を倒してもらえたらうれしいなあ、と他力本願なことを考えてる。
「物思いに耽っている時間があったら客を捕まえに行け」
「はいはい」
「はいはい」
他の契約者がかわいい女の子と一緒だと悔しくなるけど、妹を助けるため俺は頑張ってます。