「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 花子さんと契約した男の話-52d

最終更新:

guest01

- view
だれでも歓迎! 編集
 ……諦める事を選んだ、と
 そうか、そう見えるのか、と何か納得した

「………本当に、何もかも諦める事ができたら、どれだけ楽だろうな」

 雨村の言葉に
 俺はただ、そう答える事しかできなかった


 本当に、何もかも
 今、俺が抱えている、この全て
 全てを、諦める事が、できたなら
 果たして、どれだけ、楽だろうか?



 それは、短くて
 冷たいようでいて、そうでない
 諦めきっているようで、どこか、諦めて切れていない
 ……そんな、返答だった

 さっさと歩き出してしまう龍一
 在処がその後姿を見送るように歩いていると…くいくい、と
 花子さんに、制服の裾を引っ張られた

「…花子さん?」
「あのね」

 じ、と
 花子さんが、在処を見上げる
 ちょっと、困っているような、そんな顔

「けーやくしゃは、ね。まだ、全部は諦めてないよ」

 花子さんは、知っている
 龍一が小学生だった頃、契約した花子さん
 それから、ずっとずっと彼のそばに居たから

 龍一の絶望を知っている
 龍一が、何を諦めてしまったのかを、知っている

「いくつかは諦めちゃったかもしれないけど、まだ、全部じゃないの。全部諦めちゃってたら………きっと、けーやくしゃは、もう、ここにはいないの」

 ここにはいない、の意味が
 在処には、どの意味なのか、はっきりとはわからなかった

 この世にいない、と言う意味なのか
 それとも、単に、この学校にいない、という意味なのか
 ……どちらとも、とれそうだったから

「…花子さん」
「み?」
「……先輩は。そんな、意志の弱い人には見えないんです」

 それは、この学校に通うようになって
 龍一と関わるようになって、在処が感じた感想
 投げやりなようでいて、しかし、どこか、芯が通っていて
 …どこか、絶対的な信念の元、動いているようにも見えて
 あそこまでの、深い諦めと絶望に
 そう簡単に、取り付かれるようには、見えなかった
 ……だから

「………何が。先輩を、あそこまで、諦めさせてしまったんですか?」

 何が
 あの深い、後一歩で戻れなくなってしまうほどの諦めを抱かせたのか
 …在処には、予測すら、できなかった

「…えっとね」

 花子さんは、前方を歩いていく龍一の後姿を見ながら
 少し、悲しそうに、答える

「……けーやくしゃはね、一回、「失敗」しちゃったの」
「………失敗?」
「うん……助ける事はできたけど。一杯一杯、怖がらせちゃったの。その子は、けーやくしゃを見て、一杯泣いて…お化けって、言って。人殺し、って言ったの」

 それは
 龍一が、花子さんと契約して、1年ほどたった頃だったろうか
 小学校を、卒業する直前の事
 その頃から、ほんの少しの諦めが生まれ始めていた龍一の心に
 致命的な打撃を与えた、出来事だった

「その子は、その時の事を覚えてないの。怖くて怖くて、怖すぎて。覚えていたら、壊れちゃうから、忘れちゃった。でも、けーやくしゃは、全部覚えてるの。けーやくしゃも、一杯一杯辛いのに、全部覚えてるの」

 いっそ、それを忘れる事ができたなら
 その出来事から逃げる事ができたなら、どれだけ楽だろうか?
 いっそ、その出来事をキッカケに
 完全に諦める事ができたなら、どれだけ楽だろうか?

「……本当に、全部諦めちゃうか。それとも、今、諦めちゃってるのを、もう諦めないようにするのか。これから、けーやくしゃがどうなるかは…………わかんない。でも、私はけーやくしゃとけーやくしてるから、けーやくしゃが全部諦めても、諦めなくなっても、傍に居るの」

 それは、花子さんなりの、けじめ
 自分が、龍一と契約した
 それもまた、龍一が「諦め」を抱くキッカケとなった出来事に、彼が遭遇する要因の一つとなったから
 ……龍一が死ぬ、その瞬間まで
 彼の契約都市伝説として、傍らで彼を支え続ける
 花子さんの、それが、けじめ

「…おねーちゃんも、できれば、けーやくしゃを嫌いにならないでね」

 どこか、懇願するように
 花子さんは、在処を見上げ続ける

「けーやくしゃも、本当は、一杯お友達が欲しいの………でも、お家の事、考えて。自分にはそんなのいない方がいいって考えてて、ちょっとしかいないの」

 本当は、そんな事を、気にしなくてもいいだろうに
 万が一の時、カタギの人間に迷惑かけないように、巻き込まないように、と
 彼は、必要以上に他者に関わろうとしない 
 それこそ、在処や真樹のように、強引に踏み込まなければ、その距離は永遠に縮まる事はないのだ

「……だから……………できれば、おねーちゃんは……けーやくしゃを、嫌いにならないでね」

 花子さんの、その言葉に 
 在処は、どう答えたらいいのか、わからず…答える事が、できない

 顔を、あげる
 気付けば、龍一が立ち止まって、在処と花子さんを見ていた

「……人、多いから、離れていたらはぐれるぞ」
「み!」

 てちてちてち、と花子さんが龍一の元に駆けていく
 …在処も、少し早足で、彼のそばに駆け寄った

 龍一は、いつもと変わらない様子だ
 在処のあの言葉を、受けた後でも
 ……変わらない、接し方

 何を考えているのか
 本当は、怒っているのではないか
 …在処には、わからない

 ただ
 変わらぬ、いつもと変わらぬ、その接し方は
 傍にいて、酷く、居心地良く感じられてしまったのだった





to be … ?




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー