三面鏡の少女 71
「先生は……悪く、ない」
悪くないのは判っている
だがそれをどう伝えれば良いのか
どういう言葉にすれば良いのか
それを伝える言葉が浮かばなかった
繰は必死で考える
考えて、考えて、考え抜いて
ものの数十秒であっさりオーバーヒートする
元来、繰は考えるのが苦手な人間であり
そして何より、考えるより先に手が出る人間である
ごづんという鈍い音と共に手に伝わる衝撃
気が付けばディランの頭を思い切り拳でぶん殴っていた
「い、痛いよ繰ちゃん」
「先生は悪くないっつってんでしょうが!?」
「殴られるぐらいは当然かもしれないけど……な、何か言ってる事とやってる事がちょっと違わないかな?」
「違ってないわよ! そもそもあんたが、自分が悪い自分が悪いってしつこいからでしょ!」
見事なまでの逆切れである
「ていうか、その理屈なら今回の件は補習なんか受ける羽目になった私の頭の悪さが原因じゃない!」
「そ、そんな事は無いよ?」
「んなわけないでしょ! 今回の補習が無ければ、先生は学校に行ってないし蜘蛛に憑かれたあの子とも遭遇してないし! 私を気遣わずに戦えたかもしれないし、他に助けてくれる人と一緒にいたかもしれない! 全部バカな私が悪いでしょ!」
「繰ちゃんはバカなんかじゃないよ、たまたま英語に興味が無かっただけで……補習だって逃げずに来てくれたんだし」
「あんたが、たまたま能力を制御するのが苦手だから悪くない、って言われたら納得する?」
「それは……」
「あんたが何て言おうと私はバカよ。そして今回の一件は私のせい」
「でもそれは、補習を受けて不得手な面を直そうとした結果だし」
「じゃあ、あんたも補習」
「……え?」
「あんた、私が補習受けるの決まった時に言ったわよね? 苦手だからって避けてばっかりいたら苦手なままだって。だったらあんたもばんばん能力使って制御できるよう訓練しなさい。私が付き合ってあげるから」
「僕の能力は、そういう訓練をするのには向いてないというか……」
「じゃあ何? あの言葉は補習を受けさせるための方便? 私を騙したの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「じゃあ決まり。大体ね、暴発してあの程度ならちゃんとやる気になればどうにかなるわよ」
「あの程度って……繰ちゃん、僕の能力ちゃんと判ってる?」
「なんか熱っぽくなって身体がむずむずする程度でしょ? 死にゃしないんならどうにでもなるわよ」
判ってない
ディランは即座にそう理解できた
「何よ、判ってないって言うのならちゃんと説明しなさいよ」
「説明って言われても……その……繰ちゃんは、好きな男の人とかいる?」
「……へ? な、何よ突然」
「好きな男の人ができたら、自然と判る事だと思うんだ。だから、僕が教えるのは、その、違うんじゃないかなって」
何かこう、もの凄く微妙な沈黙が二人の間に満ちる
「……できたって、全然判んないわよ」
「え、今何か言った?」
「言ってないわよ! とにかく、夏休み終わるぐらいまでにはちょっとぐらいは制御できるようにするわよ!」
「いや、その、そんなに張り切られても……僕はまだやるって決めたわけじゃ」
ディランは助けを求めるように硝子箱に閉じ込められた菊花を見るが、小さく首を横に振るだけであった
悪くないのは判っている
だがそれをどう伝えれば良いのか
どういう言葉にすれば良いのか
それを伝える言葉が浮かばなかった
繰は必死で考える
考えて、考えて、考え抜いて
ものの数十秒であっさりオーバーヒートする
元来、繰は考えるのが苦手な人間であり
そして何より、考えるより先に手が出る人間である
ごづんという鈍い音と共に手に伝わる衝撃
気が付けばディランの頭を思い切り拳でぶん殴っていた
「い、痛いよ繰ちゃん」
「先生は悪くないっつってんでしょうが!?」
「殴られるぐらいは当然かもしれないけど……な、何か言ってる事とやってる事がちょっと違わないかな?」
「違ってないわよ! そもそもあんたが、自分が悪い自分が悪いってしつこいからでしょ!」
見事なまでの逆切れである
「ていうか、その理屈なら今回の件は補習なんか受ける羽目になった私の頭の悪さが原因じゃない!」
「そ、そんな事は無いよ?」
「んなわけないでしょ! 今回の補習が無ければ、先生は学校に行ってないし蜘蛛に憑かれたあの子とも遭遇してないし! 私を気遣わずに戦えたかもしれないし、他に助けてくれる人と一緒にいたかもしれない! 全部バカな私が悪いでしょ!」
「繰ちゃんはバカなんかじゃないよ、たまたま英語に興味が無かっただけで……補習だって逃げずに来てくれたんだし」
「あんたが、たまたま能力を制御するのが苦手だから悪くない、って言われたら納得する?」
「それは……」
「あんたが何て言おうと私はバカよ。そして今回の一件は私のせい」
「でもそれは、補習を受けて不得手な面を直そうとした結果だし」
「じゃあ、あんたも補習」
「……え?」
「あんた、私が補習受けるの決まった時に言ったわよね? 苦手だからって避けてばっかりいたら苦手なままだって。だったらあんたもばんばん能力使って制御できるよう訓練しなさい。私が付き合ってあげるから」
「僕の能力は、そういう訓練をするのには向いてないというか……」
「じゃあ何? あの言葉は補習を受けさせるための方便? 私を騙したの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「じゃあ決まり。大体ね、暴発してあの程度ならちゃんとやる気になればどうにかなるわよ」
「あの程度って……繰ちゃん、僕の能力ちゃんと判ってる?」
「なんか熱っぽくなって身体がむずむずする程度でしょ? 死にゃしないんならどうにでもなるわよ」
判ってない
ディランは即座にそう理解できた
「何よ、判ってないって言うのならちゃんと説明しなさいよ」
「説明って言われても……その……繰ちゃんは、好きな男の人とかいる?」
「……へ? な、何よ突然」
「好きな男の人ができたら、自然と判る事だと思うんだ。だから、僕が教えるのは、その、違うんじゃないかなって」
何かこう、もの凄く微妙な沈黙が二人の間に満ちる
「……できたって、全然判んないわよ」
「え、今何か言った?」
「言ってないわよ! とにかく、夏休み終わるぐらいまでにはちょっとぐらいは制御できるようにするわよ!」
「いや、その、そんなに張り切られても……僕はまだやるって決めたわけじゃ」
ディランは助けを求めるように硝子箱に閉じ込められた菊花を見るが、小さく首を横に振るだけであった