三面鏡の少女 72
ベッドを勧めるディランと、家主を差し置いて安穏とベッドで寝られるかという繰の変な意地が平行線を辿り
なんだかんだで二人とも夜型生活という事が判明して、二人並んでだらだらとテレビなど見ながら合間に英語の復習などもしていたのだが
既に夜半を回り、テレビは詰まらない深夜の通販番組を垂れ流していた頃
「繰ちゃん、髪の毛」
特にやる事もなくぼんやりとしていた繰の髪の毛に目をやったディランが、何とはなしに呟いた
「そういえば、ちゃんと洗った?」
「え? ああ、うん。まだちょっとべたついてるけど別に平気よ」
学校から逃げる際に軽く水洗いしただけだったせいか、まだどこかべたついた感じが残っており
傍目から見ても変な癖がついているのは明白だった
「変な癖が残ったら大変だし、肌にも良くないかもしれないよ。お風呂使って良いから」
これが一般的な男性の言葉なら、そして繰の感性が一般的な女性なら
なんだかんだで期待なり疑念なりが見え隠れするものなのだが
「そうね、どうせ暇だし」
繰は、ディランに対しては全くと言っていいほど危険性を感じていない
それどころか、自分が傍にいてやらないといけない気すらしているのだ
世間がそういった感情と関係をどう判断するかはさておいて
「部屋の造り、うちの部屋に似てるわね」
バスルーム前の脱衣所で、素肌の上に着ていたジャージを脱ぎながら呟く繰
似てるも何も同じマンションで、しかも隣の部屋だという事は全く知らされていない
「洗濯機もうちの同じメーカーだわ……無駄に良いの使ってるわね、生活感無いくせに」
なんだか普通に自宅で風呂に入るような錯覚に陥りつつ、脱いだジャージをぽいぽいと洗濯機に放り込んで適量の洗剤を入れてスイッチを入れる
そして洗濯機の動作を確認してから、ぺたりとバスルームに踏み込んだ瞬間
「洗ってどうすんのよ私っ!?」
思い切りの良い自分のボケに、自分で大声で突っ込みを入れる
「ど、どうしたの繰ちゃん!?」
「何でもないからこっち来んなっ!?」
リビングで即座に反応しかけたディランの気配を察して、即刻押し留めるべく釘を刺す
「あ、いや、中までは来ないで話は聞いて! くれぐれも脱衣所まで踏み込まずに!」
「う、うん、どうしたの?」
律儀に脱衣所の前で止まり、扉は開けずに程々の声量で訊ねてくるディラン
それでもバスルームの擦りガラスに身を隠しながら、繰は頬を染めて呟いた
「き……着るもの……何か貸して」
なんだかんだで二人とも夜型生活という事が判明して、二人並んでだらだらとテレビなど見ながら合間に英語の復習などもしていたのだが
既に夜半を回り、テレビは詰まらない深夜の通販番組を垂れ流していた頃
「繰ちゃん、髪の毛」
特にやる事もなくぼんやりとしていた繰の髪の毛に目をやったディランが、何とはなしに呟いた
「そういえば、ちゃんと洗った?」
「え? ああ、うん。まだちょっとべたついてるけど別に平気よ」
学校から逃げる際に軽く水洗いしただけだったせいか、まだどこかべたついた感じが残っており
傍目から見ても変な癖がついているのは明白だった
「変な癖が残ったら大変だし、肌にも良くないかもしれないよ。お風呂使って良いから」
これが一般的な男性の言葉なら、そして繰の感性が一般的な女性なら
なんだかんだで期待なり疑念なりが見え隠れするものなのだが
「そうね、どうせ暇だし」
繰は、ディランに対しては全くと言っていいほど危険性を感じていない
それどころか、自分が傍にいてやらないといけない気すらしているのだ
世間がそういった感情と関係をどう判断するかはさておいて
「部屋の造り、うちの部屋に似てるわね」
バスルーム前の脱衣所で、素肌の上に着ていたジャージを脱ぎながら呟く繰
似てるも何も同じマンションで、しかも隣の部屋だという事は全く知らされていない
「洗濯機もうちの同じメーカーだわ……無駄に良いの使ってるわね、生活感無いくせに」
なんだか普通に自宅で風呂に入るような錯覚に陥りつつ、脱いだジャージをぽいぽいと洗濯機に放り込んで適量の洗剤を入れてスイッチを入れる
そして洗濯機の動作を確認してから、ぺたりとバスルームに踏み込んだ瞬間
「洗ってどうすんのよ私っ!?」
思い切りの良い自分のボケに、自分で大声で突っ込みを入れる
「ど、どうしたの繰ちゃん!?」
「何でもないからこっち来んなっ!?」
リビングで即座に反応しかけたディランの気配を察して、即刻押し留めるべく釘を刺す
「あ、いや、中までは来ないで話は聞いて! くれぐれも脱衣所まで踏み込まずに!」
「う、うん、どうしたの?」
律儀に脱衣所の前で止まり、扉は開けずに程々の声量で訊ねてくるディラン
それでもバスルームの擦りガラスに身を隠しながら、繰は頬を染めて呟いた
「き……着るもの……何か貸して」
―――
上気した湯上り肌を伝い雫となって滴り落ちる湯を、ふんわりとしたバスタオルがもふもふと拭い去っていく
今のところは脱衣所にディランが入ってきた様子も無く衣類は見当たらない
仕方なく、とりあえずはバスタオルを巻いて脱衣所からそっと顔を出す
「せ、先生?」
「あ、繰ちゃん? ちょっと待ってて、できるだけ普通のを探してるから」
「普通のって……あんた、普段何着てるのよ」
訝しげに疑問符を浮かべながら、どうしたものかと思案していると
それまで飽きずに菊花と戯れていたダミアが、すんと鼻を鳴らして顔を向けてくる
その視線の先には、ひらひらと揺れる繰が身体に巻いたバスタオルの端
なーと小さく鳴いて、気軽な足取りで近寄ってくるダミアに、繰はどうしたのかと笑顔を向けた
「ん、どうしたの?」
「にゃ」
揺れていたバスタオルの端をたしっとダミアの前足が叩き、その爪が引っ掛かる
「へ?」
「にゃっ!?」
引っ掛かった爪が外れずに、ダミアの体重がバスタオルに掛かる
軽く巻かれていただけのバスタオルはあっさりと引き落とされ、バランスを崩して転がるダミアの身体に巻き取られるように引き剥がされる
「ちょっ、こら!? 何してんのよ!」
ディランがこちらを見ていないため、バスタオル巻きになって転がるダミアを助けようと、裸のまま絡まったバスタオルと格闘を始める繰
「動かないで、ほら爪が引っ掛かってるんだから……よし、大人しくしててね」
毛だらけになったバスタオルを解きながら、ようやく助け出されたダミア
バスタオルが濡れていたせいで、やや毛並がしっとりしてしまった
「よーし、大丈夫だった? 痛いところとか無い?」
んなーと暢気な声で鳴くダミアに、繰は笑顔を向け
「繰ちゃん、遅くなってごめんね」
ひょいと顔を出したディランと、笑顔のまま目が合う
ほのかに湯気の上がる湯上り肌のまま、びしりと空気が凍り付き
暢気に欠伸をしながら何事も無かったかのようにダミアがその場を離れ
悲鳴が上がるまでの時間はおおよそ30秒程も掛かったのであった
今のところは脱衣所にディランが入ってきた様子も無く衣類は見当たらない
仕方なく、とりあえずはバスタオルを巻いて脱衣所からそっと顔を出す
「せ、先生?」
「あ、繰ちゃん? ちょっと待ってて、できるだけ普通のを探してるから」
「普通のって……あんた、普段何着てるのよ」
訝しげに疑問符を浮かべながら、どうしたものかと思案していると
それまで飽きずに菊花と戯れていたダミアが、すんと鼻を鳴らして顔を向けてくる
その視線の先には、ひらひらと揺れる繰が身体に巻いたバスタオルの端
なーと小さく鳴いて、気軽な足取りで近寄ってくるダミアに、繰はどうしたのかと笑顔を向けた
「ん、どうしたの?」
「にゃ」
揺れていたバスタオルの端をたしっとダミアの前足が叩き、その爪が引っ掛かる
「へ?」
「にゃっ!?」
引っ掛かった爪が外れずに、ダミアの体重がバスタオルに掛かる
軽く巻かれていただけのバスタオルはあっさりと引き落とされ、バランスを崩して転がるダミアの身体に巻き取られるように引き剥がされる
「ちょっ、こら!? 何してんのよ!」
ディランがこちらを見ていないため、バスタオル巻きになって転がるダミアを助けようと、裸のまま絡まったバスタオルと格闘を始める繰
「動かないで、ほら爪が引っ掛かってるんだから……よし、大人しくしててね」
毛だらけになったバスタオルを解きながら、ようやく助け出されたダミア
バスタオルが濡れていたせいで、やや毛並がしっとりしてしまった
「よーし、大丈夫だった? 痛いところとか無い?」
んなーと暢気な声で鳴くダミアに、繰は笑顔を向け
「繰ちゃん、遅くなってごめんね」
ひょいと顔を出したディランと、笑顔のまま目が合う
ほのかに湯気の上がる湯上り肌のまま、びしりと空気が凍り付き
暢気に欠伸をしながら何事も無かったかのようにダミアがその場を離れ
悲鳴が上がるまでの時間はおおよそ30秒程も掛かったのであった
ちなみに悲鳴は、何をする暇も無くぶん殴られたディランのものであると補足しておく