「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 怪奇チャンネル-二回線急

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日もとっぷり暮れた学校町を、二人は歩いていた。
二人は学校から、そんなに遠くない場所に家があったが。ぐるぐると歩き、巡りながら話を続けていた。
歩いていた方が、考えが纏まると言った冴と。知り合いに見つかるんじゃないかと、ビクビクしていた武の心境は全くのマ逆だ。
その上、さっきからムサシが、こちらに聞こえるように文句を言い続けている。
コイツは、悪口の百科事典かよ。

「ということは、つまり。武が主人格、もとい契約者で、都市伝説はムサシの方で。ムサシは、むちゃくちゃな性格と性能を持った都市伝説なのね」
冴の問いかけに、半ば投げやりに答える。
正直、ムサシの悪口で、頭がパンクしそうだ。
「でも、何で他の都市伝説に喧嘩売りにいくのよ?」
「知らない、ムサシに聞いて」
「記憶も、共有しないの?」
「知らない、ムサシに聞いて」
「…、アンタら、私を殺そうとしたのよ?」
「"お前は、違う"って言われたんでしょ。なら、違うんじゃない?」
冴が、突然、目の前にケータイを出してくる。
差し出されたケータイの画面を見ると、テレビに繋がっていた。
「私の契約している都市伝説は、“深夜のテレビ番組”。本人達は、“怪奇チャンネル”っていっている」
「…なんで、そんなこと教えてくるの?」
「フェアじゃないでしょ。私が、教えてないのは」
冴は、ケータイをスカートのポケットにしまうと、少し躊躇いがちに続けた。
「それと、私の家系は、元は霊媒師の家系でね。陰陽師とか、そんなのよ。つい最近までは、研究もしていたわ。父の代で潰れちゃいそうだけど…」
大きな目の、はっきりした睫が下を向く。
女の人のこういう表情は、苦手だ。
自分が、この人のために何か出来ることはないかと、模索してしまう。
偽善。
そう決めつけるのは、簡単だし。単なる偽善であるなら、どんなに楽だろうか。
武は、心のもっと深い、古い記憶の中で、同じような顔をして泣いていた母親を思いだした。
「…。僕に出来ること、何か」
そう、言いかけた時だった。
ぐらり。
二人の視界が歪み、ひね曲がる。
違う。空間が歪み、何処かと繋がっていく。
「掴まって!」
冴が伸ばした手を必死に掴み、武は狼狽した。
意識の浅いところで、ムサシが叫ぶ「代われ!武!」
武は、言われるままに意識を深く沈めた。







「ここ、どこ…?」
冴は、ひどい耳鳴りで瞑った目を、ゆっくりと開ける。
まず、感覚を刺激したのはむせ返りそうな薬品の臭いと、緑色の裸電球だった。
「女、手を離すなよ」
ぶっきらぼうな台詞に横を見れば、武だったハズの人物は先程とは比べようがない、人知を越えた存在に変わっていた。
金色の髪は逆立ち、燃えるような赤い瞳が一点を見つめていた。
冴は、その目線の先を追う。
「っ…!!」
気味の悪い光景に、思わず手を強く握る。
緑色のライトに照らされた床が、水面だと言うことに気がついてからは、地獄だった。
水面に浮く、物体。物体は、四肢が生え、頭が生えていた。
思わず、首まで胃の中のものが、せり上がってくるのを感じる。
水面に漂う白い固まりは、人体だった。
「フェイクだ。幻想だ。能力者だ。怖いなら、目を塞げ。もう、少し近くで見たい」
言葉では励ましてくれてはいるが、お構いなしに手を引くムサシに、冴は嫌みたっぷりに言葉をこぼす。
「アンタ、人の死んだの見て平気なの?」
ムサシは、一瞬冴の目を見ると、水面に目線を戻した。
「アレ、死んでいるのか?」
「…。死んでいるんじゃないの?」
「そういう尺度で、ものを見ていない。これは、この空間自体が、現実じゃない。今はな」
ムサシに引きずられるように、冴は水面に近づく。
「…最悪」
溶液で満たされたプールに、人の形をした何かが無数浮いたり、沈んだりしていた。
アレが、人の死んだ後だと考えたら、本当に戻してしまいそうだった。
隣に立つムサシが、一角を指さす。
「…、アレ。俺とお前だ」
「…え」
視線の先に、ぷかぷか漂う自分達の死体があった。
一気に背筋が凍り、頭の中が真っ白になった。

「一人余計なのがいるね」
背後から声がして、振り返る。
白衣に、ゴム手袋と、長い棒を持った男が立っていた。
さっきまで、誰も居なかったのに!

「良いか。献体は一つでも多い方がいいし。バイト代もあがるかもねー!!」
白衣の男は、ゲラゲラと笑い出す。
ムサシは、笑い声にかき消されないよう声を荒げる。
「これが仕事かよ!?都市伝説から、バイト代貰えてんのか!?」
白衣の笑い声がピタリと止む。
「…そんなこと。君に関係があるのかい?」
心の底で、武が制止してくる。わかってる。今のは、地雷だった。
これが、都市伝説だと。同じ都市伝説同士、びりびりと肌で感じている。
空間を歪める力。自分の陣地を形成している力。他人を引き込む力。そして、一つの未来を現出させる力。
このタイプの能力は、出入り口を確保しないと安定して倒すことが出来ないと、経験上わかっていた。
挑発して、相手を怒らせればこの空間に閉じこめられる可能性もある。
自分だけならまだしも、足手まといがいる。
ムサシは、口を噤んだ。
運良く、白衣はさっきより大きな笑い声で笑って済ませてくれた。
「いいよいいよー!!自分の死に顔見てビビらない人は、なかなかいないからねー!!君の顔がどんな形で、死後硬直するか楽しみだー!!」
「…。ということは、まだ俺たちは死んでないんだな?」
「でも、死んじゃうから意味ないよー!!ボクのバイトは、十九時からだからねー!!」
ムサシは、白衣の後ろに浮かんだ時計を見た。十九時まで、あと三十分。
不意に握られた手の力が緩むのを感じた。冴の生体反応が薄い。手は冷たく、唇は紫に変色していた。
冴は、糸の切れた人形のように、膝を折る。
「チッ。飲まれたか、女!まだ、お前は生きているぞ!!」
ムサシは、冴の肩を抱き揺すった。
「…、そういうの見せつけられるとやだなあ。えいっ」
白衣の男が、棒を鳴らすと、歪んだ世界を抜け、元の道路に戻っていた。





「佐竹山さん!佐竹山さん!起きて!」
肩を揺する黒髪の男子に、目の前がようやくクリアになっていく。
「よかった、目が覚めて」
「…。さっきの」
「さっきのは、もう平気です。正確には、平気じゃないけど。入り口の検討はついています」
「違うの、ムサシよ…」
冴は、軽く唇を噛んだ。
「何も、言わずに勝手に出ていって…」
ふらふらと立ち上がる少女の背を見て、武にある感情が芽生えた。
それは、武の意識下でちらりと見えた小さなものだった。
武がそれを認識する時間もなく、ムサシが呼びかけてくる。
「佐竹山さん…、僕いかなきゃ」
「え…」
「一人で帰れる?家の人呼んで、向かいに来てもらいなよ」
「待って、どこいくの!?」
「フラグ回避してくる、僕らに任せてよ」
武は、ガッツポーズをしながら、冴に背を向けた。
何故だろう、振り向くことは出来なかった。





武が、学校に着いたのが18:45分。
当直の先生に忘れ物をしましたと鍵を借りたのが18:50。
「ヤバいヤバい」
武とムサシの声が重なる。
図書室まで一気にかけあがり、扉を開ける。
「限界だ、代われ武!オレなら奴のテリトリーでも戦える!」
「佐竹山さんが、いただろう!」
「居る方が悪い!!」
「もっと安全で、効果的な、解決策があるんだって!!」
「消極的で、後退的な、解決策の間違いだろ!!」
言い合いをしてる間に、本棚から一冊の文庫を抜き出す。
大江健三郎の短編集。
「さっきの、これの"死者の奢り"に似ているんだ。さっきのが、都市伝説の"死体洗いのバイト"ならネタ元。エネルギーは、コレだ!」
「説明は後にしろ!あと三分しかない!」
「ムサシ、出て!!」
武の呼びかけに、ムサシは応じる。
ムサシの目を通してみるその本は、異様な空気を漂わせていた。
その空気が、一筋の道を大気中に作って、どこかへ繋げている。
この本が噂の大本なら、この道を断てば一時的に都市伝説にエネルギーが向かわなくなる。
「間違えてねぇだろうな!?ここでバットエンドは、ごめんこうむるぞ!!」
ムサシは、ポケットからカッターナイフを取り出し、刃を向けると、筋に一文字を切った。
音もなく四散する霊道を見て、時計を確認する。
図書室に入り浸っている武曰く、ここのの時計は、五分遅れていて、正確な時間はわからないという。
仕方なくケータイを確認すると、和風な待ち受けのすみでデジタル表記が19:01を指していた。
「はぁ…」
二人のため息が重なる。
一息ついた後、武は揚々と、ムサシに呼びかける。
「ネタもととの繋がりを切ったから、コレでもうフラグ回避出来たよね」
「一時的な解決じゃ、今回は無理だな」
図書室のガラスに反射するムサシの顔は、不満げに答える。
「あの都市伝説は、意外とレベル高かった。確実に、オレとアイツが死体となって、あのプールに浮かぶという呪詛を確立している。呪術者、もとい契約者を何とかしないと、解決とは言いがたい」
武の心情がこちらにも伝わってくる。
不安と絶望。そんなところだ。
ムサシは、出しっぱなしのカッターの刃を仕舞うと、武に呼びかけた。
「安心しろ。入り口は掴んでるんだ。次に、本と都市伝説が繋がったら、こっちから乗り込んでやっから。な」
ムサシは、笑いながら一つの記憶を心に留めた。
それは、白衣の「一人余計なのがいるね」という言葉。
オレと女と、どちらが"余計"だったのか。




二回線 終

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