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連載 - プレダトリー・カウアード-13

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uranaishi

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プレダトリー・カウアード 日常編 13


 青の火の粉が眼前で揺れる。
 瞬きと共に輝き消えるそれは、幻想的でありながらどこか歪な影を残していた。

「――――狩谷?」

 歪さの根本は、僕の心。
 心配そうに僕の名を再度呼んだ彼に対する、僕の心の疚しさ。
 疚しさ故に、僕は『目』の『接続』を絶った。
 これ以上見ていたくない。友達から漏れる青の輝きは、これ以上。

「あ、うん、何でもないよ。おはよう、五十嵐君」

 痛みに伴う笑顔を引き出し、僕はクラスメイトに――僕の友達に、挨拶をした。

 五十嵐 輝樹(イガラシ テルキ)君は、僕の友達だ。
 全体的に少しだけ丸い身体と、禿げた頭がお寺のお坊さんを連想させる、老け顔の同級生。
 その頭と「輝」樹という名前から、クラスでは「てっちゃん」或いは「禿坊主」が彼へのあだ名になっている。
 ここで言うところの「あだ名」とは蔑称ではなく、純粋に親愛の情を込めての愛称だ。
 一人称「俺」の五十嵐君は、その柔和な風体と、寡黙ながらも同級生同士の交流を蔑ろにしない性格が相まって、「近すぎないけど遠くもない同級生」というある意味最高のポジションをクラス内で獲得している。
 そんな彼と僕はクラスメイトではなく「友達」という間柄にあるのは、ただ中学校も同じだったというしょうもない理由である。
 僕の姉を見ても、全く引かなかった人。
 僕が「友達」といえる、数少ない人たちの一人だ。

*****************************************

 五十嵐君と共に、教室の中へと入る。
 一瞬、ほんの一瞬だけど、クラスの大半の視線が僕の方へと向いた。
 理由は明々白々。
 白昼堂々起きた「大量殺人」事件ついては、日々報道と推測が飛び交っていた。

 放送が起きた当初は「ガス中毒」を表に掲げていた警察だったが、マスコミ関係報道陣からの総袋叩きにあって名称を変更。
 「複数犯による計画的犯行の線が濃厚」と最近ではお偉いさんが会見で言っている。
 的外れもいい所であるが、一体どこの誰が「吸血鬼」の犯行だなんて予想できるだろうか。
 いや、現場に残された「血の一滴も残っていない死体」というフレーズから「現代に蘇った吸血鬼!?」云々のタイトルが最近新聞を賑わわせているが、結局の所信じている人間なんて一握りだろう。

 そして、今、僕の立場は「『大量殺人』から生き残った少年」である。
 幸い未成年保護法だかなんだかの法律だか倫理規約だかと、診療所の加護によってマスコミに追われる毎日や、実名報道がされるような事は無い。
 けれどそれでもこの狭い町、誰が「誰」なのかなんて、事件の起きた翌日には知られている。
 とどのつまり、僕は格好の「餌」であり、「肴」なのである。

 ……けれど、クラスの視線は僕をただ「見た」だけで、すぐに各々の興の赴くがままの話題へと戻っていった。
 耳に挟んだ話題は新しいスィーツがどうのあのグラドルがどうのと「殺人」のさの字も出てこない。
 どういう事なのかと五十嵐君に視線を送って見るが、返ってきたのは苦笑だけだった。
 首を傾げながら、僕は自分の席、窓側から二つ目の列の最後尾、という個人的には結構気に入っている特等席へと腰をかける。
 五十嵐君は僕の前、最後尾から二番目の席だ。

「おはようございます、狩谷君」

 僕の隣、未だ座ったことの無い窓側の最後尾、冬の最上位特等席座ったクラスメイトが、僕に声をかけてくれる。
 毎朝一番にこの学校を訪れては花瓶の水替え、黒板掃除、及び消しのクリーニングやその他諸々の雑事を率先してをやってくれる、通称「日直さん」。
 やはりこの席に座るためには、彼くらいの徳がなければならないのだろうか。

「………………おはよう」

 「日直さん」の席の前、五十嵐君の窓側の隣に座っている女の子からも、一応の小さな声での挨拶。
 名前はアリス。金髪蒼眼が朝日に眩しいバリバリの外人さん。
 140cmも無い、見ようによっては、というよりもどう見ても小学生にしか見えない彼女は、これでも一応十四歳である。
 海外のよくわからない制度を利用して、本当は中学校に通わなければいけない所を、今の高校通いへと捻じ曲げている凄い人。
 そしてクラス中が認める「日直さん」の彼女でもある。

「おはよう。日直さん、アリスちゃん」

 「同級生以上友達未満」な彼らとは、学校での世間話はするが一緒に外出した事はほとんどない。
 放課後になると二人揃ってどこかへ消えてしまうのだ。
 毎日毎日どこへ行くのかとやっかみ混じりで聞いた奴が以前にいたけれど、「デートですよ」と真顔で答えられて、彼女いない暦=年齢の彼は泣きながら教室を出て行った。

 そんな彼らも、僕へは何も聞いてこない。
 事件の真相も、実情も、何も。
 ただ彼らと五十嵐君の四人で、僕らは先生が来るまでの間他愛の無い世間話に興じていた。

*****************************************

 ――――その「何も聞かれない」謎も、HRが始まるとすぐに解ける事になる。

「うーい、お前らおはよぉー。今日は全員揃ってて、先生嬉しいぞぉー」

 よれよれの茶のスーツを着て、教壇に上る担任。
 その口調は至ってフランクで、どんな相手に対しても、ですます以外に敬語を使ってるところを見たことが無い。
 男盛りの二十台も半ばを過ぎ、未だに恋人の一人も見たいのは、その奇抜な性格故か。

「先生、佐藤君が今日は休んでますが」
「…………佐藤? あーあー…………佐藤?」

 この先生佐藤君忘れてるよ……。
 確かにちょっとファンキーな繁華街で徘徊してるような駄目な未成年の代表格みたいな人だったけど、自分の生徒なのに。

「先生の頭の情報網に佐藤君が引っかからないからパスねー。全員揃ってるって事で出欠は取らないから、うん」

 駄目だこの先生。

「それでー、先生ちょっと君らに大切ーなお話がありまーす」

 壇上から、担任がクラス全体を見渡す。
 その目は心なしか、僕の辺りを中心に見ているような気がした。
 「事件」に関しては先生陣にも話が言っているだろう。
 想像すればこれから話されるだろう内容が浮び、けれど少しだけ現実は想像と異なっていた。

「今日ー、狩谷君が出席したわけだけどー、お前らあんまりしつこく絡むなよぉー。お前らの好奇心のためにー? 一人の少年が心を痛めるなんてー? あっちゃいけないわけよー」

 伸び伸びの口調で担任が話す。
 その口調と目が肉食動物のような輝きを湛えているのは、担任が微妙に興奮したときの合図だ。

「まーあー? ちょっと心配するくらいなら構わないけどー? どこぞのクラスの佐藤的な誰かみたいにー? マスコミに対してオトモダチのあること無い事言っちゃうような子はー? んふふふふー」

 …………ちょっと待て。
 佐藤君いない原因担任の先生なのか。
 隣の席の「日直さん」を見やると、朝の五十嵐君と同じような苦笑を返された。
 ……なるほど。道理で誰も僕に話しかけてこないわけだ。
 ちょっとだけほっとすると同時、犠牲になった佐藤君に若干の哀悼を込める。
 自業自得かもしれないが、少なくとも行為に見合った罰が与えられた雰囲気ではない。

 ……これで「謎」は解決し、けれど新たな悩みの種が僕の頭を撃ち抜く事になる。
 その「悩み」は五十嵐君のことではない。
 それはまだ、これから時間をかけてゆっくり消化すべきものだ。
 そう。ゆっくりでいいのなら、僕にはまだ余裕があった。
 あったはずなのに……「ソレ」は唐突に、やってきた。

「でー? その狩谷君でちょっと先生、もう一つ伝えなきゃいけないことがあるわけよー」

 若干伸びの落ち着いた口調で、担任が続ける。
 視線の先は未だに僕だ。
 けれど、「事件」以外で僕に関するような話題なんて、果たして何があっただろうか?

「しばらく、狩谷君が心配だって事でー。狩谷君の『保護者』の方が授業参観することになりましたー」
「………………へ?」

 ――――保護者?
 父さんと母さんは死んだ。
 僕の叔父叔母たちは事件後早々に「面倒見るのは無理だから、頼らないでね☆」的な手紙をこぞって寄越してくれたお陰で、まさか「保護者」を名乗るなんてありえない事が分かる。
 つまり、僕の保護者なんていないはずだ。
 いちゃいけないはずだ。
 だから…………こんな嫌な予感なんて、嘘に決まってる…………っ!

「今日から毎日ー、先生の補助? 的な感じでも役立ってくれるそうだから、皆仲良くしろよぉー。どうぞー」

 ガラガラと、教室の扉が開く。
 黒い長髪を靡かせて、颯爽と教室の中へと入ってくる、一人の女の人。
 こんな所で、唯一の安全地帯だと思っていた所で、会うとは思っても見なかった、僕のよく知っている人。

「狩谷瑞樹さん。狩谷君のお姉ちゃんだぞぉー」

 ――――姉ちゃんが、そこにいた。

【Continued...】





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