「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - プレダトリー・カウアード-12

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uranaishi

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プレダトリー・カウアード 日常編 12



 ――――力。
 それは人を傷つけるものだ。
 たった一つ。それだけが意義。
 それは例え「守る」力と呼ばれるものであっても変わらない。
 守る力の本質は、とどのつまり「拒絶」である。
 己と、そして守るべき対象以外を排するもの。それこそが守る力。
 では、僕は。
 その「力」を己がために喰い破る、僕は。

 ――――果たして人を、守れるのだろうか。

                    Predatory Coward
*****************************************

 ――――緊張するなぁ。

 僕は石の彫像と化していた。
 まだ春の兆しすら見せない冬の朝八時過ぎ。
 「患者」ではなく「学生」こそが生業である僕は、退院後、義務を果たすべくきちんと学校へと登校した。
 下駄箱で靴を上履きへと履き替え、やや汚い廊下を歩き階段を上る。
 そう、そこまではうまくいった。
 ついでに言えば、教室の前まで辿りつく所までは、身に染み付いた長年の習慣がほとんど無意識の内にやってくれたのだ。

 けれど、ここからは違う。
 ドアへとかけた手が汗ばむ。後はそれを左へスライドさせるだけだというのに、その手が動かない。
 不可解な行動をする僕を、すれ違う生徒は怪訝そうな顔をして通り過ぎていく。
 一人、また一人。
 その中にも、町中で見かけてきた「青い光」の持ち主がちらほらと見える。 
 ――――僕は今、『接続』していた。

 驚いた。家を出てから学校へ来るまで、そして校舎の中に入ってからも、僕は幾つもの青い輝きを、マナをその目で捉えていた。
 確かに、ちょっとくらいはいるんじゃないかと思っていた。
 ちょっとくらいなら、都市伝説とも会うんじゃないかと、思っていた。
 ……けれど、道行く人、会う人の大半が都市伝説か契約者だっていうのは、一体どういう事なんだろう。

 そして今、それが僕の手を、足を止めている。
 教室の廊下側の壁というものは、主として二つの要素で構成されている。
 一つ。コルクボートつきの白い壁。
 一つ。壁上部に取り付けられた謎の小窓。
 問題は後者、用途のよく分からない、教室と廊下を繋ぐ小窓である。
 その窓、通常ならば教室の天井くらいしか描かないはずの窓に、青が映えていた。
 マナの光。都市伝説、或いは契約者の持つ、蒼の煌き。
 爆ぜては消えるそれらは、彼らマナの木漏れ火である。
 もっとオーラのように身体の周囲を取り囲むものかと思っていたけれど、どうやらそれは違うらしい。
 あの吸血鬼のように身体全体を覆うのは、「本気」即ち戦闘時くらいなもので、通常時にはただの火の粉のようにしか見えないんだとか。

≪――――主よ、どうした。扉は在る。開かれんと欲するものがそこに在る。何を躊躇うことやある?≫
(……ねぇ、対抗都市伝説)
≪何だ、我が主。身体に異常か? マナが不足しているか? ならば喰らうがいい。幸いこの町は都市伝説に満ち満ちている≫
(いや、そうじゃなくて。あのさ、『目』の『接続』だけ切るのって、駄目?)
≪不可能ではない。しかし推奨もしない。主よ、我が主よ、『目』を持たず、マナの輝きを『見ず』に、主は如何に生を貫く?≫

 対抗都市伝説の言い分はもっともだ。
 今の僕は、マナを吸収しなければ消滅する僕は、なりふりなど構っているべきではない。
 知っている。分かっている。
 ……けれど、僕の身体は動かない。
 小窓からは、依然として青い火の粉が舞っては散っている。
 この中には、僕のクラスメイトがいる。
 この中には、都市伝説の契約者がいる。
 ……怖かった。
 もし仮に、「マナ」の持ち主が僕の友達だったとして
 「マナ」を、都市伝説の契約者である証を見た時
 僕の中の「友達」という存在が変わってしまうことが
 「友達」から「獲物」へと変わってしまうことが……怖かった。

 ――――けれど、世界は僕の優柔になど、ただ一つの慈悲も見せてはくれない。

「………………あ」

 ドアが、スライドする。左へ、少しずつ、少しずつ。
 隙間から細い光が漏れた。
 僕ではない。動作の主はドアの向こう、教室の中だ。
 道が開ける。廊下と教室、二つの空間が繋がる。
 四角く切り取られたその先に、影。
 青が踊る。
 藍の衣をその身に纏い、影が、一人の生徒が、口を開く。

「――どうかしたのか、狩谷。教室の前で固まって」
「五十嵐、君…………」

 禿げた頭を横に傾け、蒼の火の粉をその身から漏らし
 ……僕の友人が、そこに立っていた。


【Continued...】




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